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36.充電
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《現場から早く戻るから、倉庫で待ってて》
朝会えなかったので、真緒にはメッセージを送っておいた。
現場から早く戻ることが出来たので、真緒に会いに倉庫に向かった創平だ。
真緒のパソコンはログオフ画面になっているので、まだ退勤してはいない。きっと倉庫で待ってくれているはずだ。
山岡に見られないように、倉庫に急いだ。
倉庫の中は空気が冷たい。
倉庫内に電気は点いていなかった。
(真緒、いないのか?)
「倉橋さん、いるか?」
他の誰かがいるかもしれない、と敢えてそう呼んだ。
ブブッと創平のスマホが鳴った。
見ると、真緒が《います》と答えるものだった。
どこだろうか、と創平は奥まで進む。
いつだったか、真緒を抱こうとした、棚と棚の列を、順に覗き込む。
「あ、いた」
『お疲れ様です』
「うん、お疲れ」
薄暗い倉庫の中で、二人は向き合った。
「あの、昨日はごめん。メッセージも送ったけど、やっぱり直接謝りたかったから」
真緒は首を振った。
『気にしていませんよ』
暗くて真緒の手の動きがはっきりとは見えなかったが、目が慣れるとわかるようになってきた。
「体調は? 大丈夫か?」
『今日は大丈夫です』
「そっか、よかった」
初期のほうが重いだけでピークは過ぎた、と真緒は伝えてきた。
「俺、女の子の事情、全然わかってなくて。マジでごめん。もっと理解する努力、するから。しんどい時は遠慮無く言ってほしい。あ、でも、言ってくれたのに、昨日は俺が最低だった。デリカシーなかった、ほんとに申し訳ない」
創平は頭を下げた。
「身体目当てじゃ決してないから」
これまでも女性の事情を考えたことなど一度もなかった。付き合ってきた女達は、創平を自分勝手だと言っていたことが身に沁みてわかる。
真緒が手を伸ばし、頭を上げるようにと腕を軽く叩いた。
『気にしないでください』
「気にするって……真緒に嫌われたくないから必死だよ、俺は」
くすくす、と真緒は笑った。
『わたしも、松浦さんに嫌われたくなくて、我慢しちゃいました。ちゃんと最初から言えばよかったです』
二人は見つめ合い、どちらからともなく笑った。
「な、ちょっと、抱きしめていい?」
『え?』
「真緒が不足してる。これまで、週末に充電してたから、電池切れで……。次の週末まで持ちそうにないから、ちょっと抱きしめるだけ、やらしいことはしないから。ちょっとだけ……させてほしい」
驚いた顔をした真緒だが、優しく頷いてくれた。
否や創平は真緒の細い身体を抱きしめる。
「裸じゃなくても、真緒を抱きしめたい。触れたい」
わたしも、と真緒が言ったような気がした。
真緒の身体を離して、見下ろした。
彼女が両手を伸ばし、創平の頬を挟む。
「ん?」
ぐいと引き寄せられ、真緒が背伸びをしたかと思うと、唇が触れた。
「!」
真緒が初めて自分からくれたキスだった。
すぐに離れ、照れた顔を見せている。
(不意打ち……)
思わず自分も照れてしまった。
照れずにはいられない。
「俺も」
真緒の腰を抱き寄せ、キスをした。
「……ん……」
会社でこんなことしてる場合じゃないけど、と思うが、見逃してもらおう、そう勝手に考えた。
(キスくらいなら、いいよな?)
真緒の首筋に顔を埋め、真緒の匂いを堪能する。
これくらいは許してくれ、と唇を這わせた。
正直なところ、身体が熱くなり始めているが、欲望のままに彼女をここで抱くわけにはいかない。
「セックスだけのためだけじゃない、でも真緒が欲しくてたまらくなる」
我慢我慢、と心を落ち着けた。
『週末、たくさん、してくださいね』
「えっ」
彼女の手話は概ね理解できたが、解釈を間違えたかと思った。
(間違って、ないよな?)
真緒の身体をもう一度抱きしめ、充電を完了させた。
……それからは、倉庫で密会のように、会うことが増える二人だった。
「明日は会える?」
『はい』
金曜日の夕方、倉庫で密会をする二人だった。
「じゃあ……早く来られる?」
『どれくらいの時間ですか?』
「真緒が来られるなら何時でも。朝の七時でも八時でもいいよ」
そう言うと真緒は驚いた顔をした。
『松浦さんが寝ている時間じゃないですか? 休みの日はゆっくり起きられるのではないのですか?』
うんそうなんだけど、と創平は頭をかいた。
「朝起きた時に……真緒がいたらいいなー……なんて思っただけで……」
『えっ』
「いや、無理ならいい。ちょっと願望を言っただけ」
忘れて、と創平は掌で顔を隠して言った。
だが真緒は、いいですよと頷いた。
顔を隠す創平の手を突いて、
『行きますね』
と笑ってくれた。
まだ鍵を一度も使ったことがないから、と彼女は言う。
「あ、そっか……」
『寝てらっしゃるのに入って大丈夫ですか?』
「うん、もちろん」
(やった……)
「けど、無理してまで早く来ることはないから。いつもみたいに、昼前とかでもいいし。いつもどおりなら、連絡くれたらいいよ。迎えに行けそうなら行きたいし」
『はい』
明日もまた会える、という嬉しさを隠しきれず創平は真緒を見たのだった。
朝会えなかったので、真緒にはメッセージを送っておいた。
現場から早く戻ることが出来たので、真緒に会いに倉庫に向かった創平だ。
真緒のパソコンはログオフ画面になっているので、まだ退勤してはいない。きっと倉庫で待ってくれているはずだ。
山岡に見られないように、倉庫に急いだ。
倉庫の中は空気が冷たい。
倉庫内に電気は点いていなかった。
(真緒、いないのか?)
「倉橋さん、いるか?」
他の誰かがいるかもしれない、と敢えてそう呼んだ。
ブブッと創平のスマホが鳴った。
見ると、真緒が《います》と答えるものだった。
どこだろうか、と創平は奥まで進む。
いつだったか、真緒を抱こうとした、棚と棚の列を、順に覗き込む。
「あ、いた」
『お疲れ様です』
「うん、お疲れ」
薄暗い倉庫の中で、二人は向き合った。
「あの、昨日はごめん。メッセージも送ったけど、やっぱり直接謝りたかったから」
真緒は首を振った。
『気にしていませんよ』
暗くて真緒の手の動きがはっきりとは見えなかったが、目が慣れるとわかるようになってきた。
「体調は? 大丈夫か?」
『今日は大丈夫です』
「そっか、よかった」
初期のほうが重いだけでピークは過ぎた、と真緒は伝えてきた。
「俺、女の子の事情、全然わかってなくて。マジでごめん。もっと理解する努力、するから。しんどい時は遠慮無く言ってほしい。あ、でも、言ってくれたのに、昨日は俺が最低だった。デリカシーなかった、ほんとに申し訳ない」
創平は頭を下げた。
「身体目当てじゃ決してないから」
これまでも女性の事情を考えたことなど一度もなかった。付き合ってきた女達は、創平を自分勝手だと言っていたことが身に沁みてわかる。
真緒が手を伸ばし、頭を上げるようにと腕を軽く叩いた。
『気にしないでください』
「気にするって……真緒に嫌われたくないから必死だよ、俺は」
くすくす、と真緒は笑った。
『わたしも、松浦さんに嫌われたくなくて、我慢しちゃいました。ちゃんと最初から言えばよかったです』
二人は見つめ合い、どちらからともなく笑った。
「な、ちょっと、抱きしめていい?」
『え?』
「真緒が不足してる。これまで、週末に充電してたから、電池切れで……。次の週末まで持ちそうにないから、ちょっと抱きしめるだけ、やらしいことはしないから。ちょっとだけ……させてほしい」
驚いた顔をした真緒だが、優しく頷いてくれた。
否や創平は真緒の細い身体を抱きしめる。
「裸じゃなくても、真緒を抱きしめたい。触れたい」
わたしも、と真緒が言ったような気がした。
真緒の身体を離して、見下ろした。
彼女が両手を伸ばし、創平の頬を挟む。
「ん?」
ぐいと引き寄せられ、真緒が背伸びをしたかと思うと、唇が触れた。
「!」
真緒が初めて自分からくれたキスだった。
すぐに離れ、照れた顔を見せている。
(不意打ち……)
思わず自分も照れてしまった。
照れずにはいられない。
「俺も」
真緒の腰を抱き寄せ、キスをした。
「……ん……」
会社でこんなことしてる場合じゃないけど、と思うが、見逃してもらおう、そう勝手に考えた。
(キスくらいなら、いいよな?)
真緒の首筋に顔を埋め、真緒の匂いを堪能する。
これくらいは許してくれ、と唇を這わせた。
正直なところ、身体が熱くなり始めているが、欲望のままに彼女をここで抱くわけにはいかない。
「セックスだけのためだけじゃない、でも真緒が欲しくてたまらくなる」
我慢我慢、と心を落ち着けた。
『週末、たくさん、してくださいね』
「えっ」
彼女の手話は概ね理解できたが、解釈を間違えたかと思った。
(間違って、ないよな?)
真緒の身体をもう一度抱きしめ、充電を完了させた。
……それからは、倉庫で密会のように、会うことが増える二人だった。
「明日は会える?」
『はい』
金曜日の夕方、倉庫で密会をする二人だった。
「じゃあ……早く来られる?」
『どれくらいの時間ですか?』
「真緒が来られるなら何時でも。朝の七時でも八時でもいいよ」
そう言うと真緒は驚いた顔をした。
『松浦さんが寝ている時間じゃないですか? 休みの日はゆっくり起きられるのではないのですか?』
うんそうなんだけど、と創平は頭をかいた。
「朝起きた時に……真緒がいたらいいなー……なんて思っただけで……」
『えっ』
「いや、無理ならいい。ちょっと願望を言っただけ」
忘れて、と創平は掌で顔を隠して言った。
だが真緒は、いいですよと頷いた。
顔を隠す創平の手を突いて、
『行きますね』
と笑ってくれた。
まだ鍵を一度も使ったことがないから、と彼女は言う。
「あ、そっか……」
『寝てらっしゃるのに入って大丈夫ですか?』
「うん、もちろん」
(やった……)
「けど、無理してまで早く来ることはないから。いつもみたいに、昼前とかでもいいし。いつもどおりなら、連絡くれたらいいよ。迎えに行けそうなら行きたいし」
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明日もまた会える、という嬉しさを隠しきれず創平は真緒を見たのだった。
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