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39.提案
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山岡夫妻に子供が誕生した。
その報告を受けたのは、創平と真緒が、クリスマスイルミネーションを見に行っている時だった。
去年も二人で出かけた、同じイベントだ。
去年は片想いだったが、今年は違う。
そしてクリスマスイブの夜に子供が生まれたと山岡からメッセージが届いたのだ。
二人で帰路につきながら、話をする。イベント会場から駐車場に向かって歩いている時の出来事だ。
「山岡、子供、無事に生まれたって」
『よかった! 嬉しいですね!』
「女の子だって」
性別はわかっているとは言っていたが、間違いなかったらしい。
年末頃とは聞いていたが、予定日より何日か早かったようで、クリスマスイブの日に誕生したということだった。
『何か、お祝い贈りたいですね』
「俺もそう思ったところ。一緒に贈るか?」
『はい、そうしましょう! 何がいいでしょうか』
「うーん、そうだな……ここはストレートに本人に訊いてみるか? いろんな人が祝うだろうし、欲しいものとか必要なもののほうがいいだろうしな。落ち着いたら、訊いてみよう。生まれたばっかで、今奥さんも体力的にも精神的にもしんどいだろうし」
きっと山岡も、彼の妻も他人に構っている余裕はないだろう。
二人は頷き、新しい命の誕生を祝福した。
(子供、か……)
ちらりと隣の真緒を見る。
(いつか、俺も結婚して、子供をもうけるのかな……)
真緒を付き合うまではあまり考えたことはなかった。付き合う女との将来を考えられなかったというのもある。真緒とも、初めはそこまで先を見据えていなかった。この子を最後にしたいという気持ちはあったものの、自分の性格や性分からでは考えていいものかとも思っていたのだ。
元々真緒と将来のことを話したことはなかったが、五月の大型連休に実家に真緒を連れて行き、母親に酷いことを言われてしまって以降、一切言うことはなかった。
あの時、生まれてくる子供のことを言われ、現実味を帯びたのは事実だ。
付き合う以上、将来のことも考える日が来る、と。
「真緒」
「ぁぃ」
真緒が彼女の声で返事をした。
「前、父親がアパートに来てさ」
『そうなんですか』
「あー、えっと、九月くらいに、真緒と会わなかった時期があったろ? その時に」
真緒を連れてきて一緒に食事をしよう、と言われたことと話した。
「別れたって言ったら、結構残念そうな顔してた」
『…………』
「父さんは、真緒を連れてきたことにびっくりしたらしいよ」
初めて連れてきたし、もちろん障碍がある女性と付き合っていることにも人並みに驚いたが、真緒が美人であることにも驚いたらしい、ということを伝えると、彼女は謙遜するように首を振った。
「俺がこんな美人と付き合ってるなんて、青天の霹靂だとでも思ったんだろうな。失礼だよな」
『…………』
「別れたって言ってそのあとは会ってないから、また真緒とこうやって一緒にいるって聞いたらどう思うかな」
『どう、でしょうか』
真緒の表情は暗くなっているようだ。暗がりでも想像はつく。
「言っとくけど父親は、反対してないよ。……母親も、反対はしてはないみたい。けど、見栄っ張りだからさ……正直な所」
どういう反応するかわからない、と創平は言った。
「年末に帰るって言ったら、それまでに帰って来いって言われたのに、結局帰らなくってさ……。父親になんか言われそうだなって思って、気まずい」
一応実家に帰ってくるわ、と嫌そうに吐き出した。
「その時に言うつもり」
『何をですか?』
「別れてない、真緒と付き合ってる、結婚するつもりって」
真緒は驚いた表情になり、隣の創平を見上げた。
歩いていた二人だが、創平は立ち止まった。真緒も同じように立ち止まる。
「俺、真緒と結婚するつもりだから。何を言われてもそのつもりだから。まだ、もうちょっと……二人で恋人の期間を楽しみたい気持ちもあるし、時期はもうちょっと考えさせてほしいなとは思うけど。俺来年三十だし、真面目に考えてるから」
『……ありがとうございます』
「あ、これプロポーズじゃないからな。プロポーズはちゃんとするから」
『……はい』
真緒は嬉しいと言い、笑みを浮かべた。
「もし万が一子供が出来たりすれば、結婚は早めようとは思うけど、今のところ、ちゃんと避妊してるつもりだから、大丈夫とは思うけど……。一応、そういうことも考えながら、な」
遊びでセックスしてるわけじゃないから、ということを念押しした。
「真緒が……子供欲しくないっていうなら、結婚しても避妊するし」
『…………』
そこまでは考えすぎかな、という気もしたが、真緒と将来のことを話し合ったことがないので、自分の勝手な意見を述べてしまった。
「あ、結婚自体したくないって言うなら、それでもいいけど……。とにかく! 真緒の気持ちとか、聞いたことなかったから、これから具体的に話は聞きたい」
『わかりました』
「それで」
『はい』
「あくまでも俺の意見だけど、真緒と同棲するのはどうかと思って」
突然の提案に、真緒は目をパチパチさせた。
その報告を受けたのは、創平と真緒が、クリスマスイルミネーションを見に行っている時だった。
去年も二人で出かけた、同じイベントだ。
去年は片想いだったが、今年は違う。
そしてクリスマスイブの夜に子供が生まれたと山岡からメッセージが届いたのだ。
二人で帰路につきながら、話をする。イベント会場から駐車場に向かって歩いている時の出来事だ。
「山岡、子供、無事に生まれたって」
『よかった! 嬉しいですね!』
「女の子だって」
性別はわかっているとは言っていたが、間違いなかったらしい。
年末頃とは聞いていたが、予定日より何日か早かったようで、クリスマスイブの日に誕生したということだった。
『何か、お祝い贈りたいですね』
「俺もそう思ったところ。一緒に贈るか?」
『はい、そうしましょう! 何がいいでしょうか』
「うーん、そうだな……ここはストレートに本人に訊いてみるか? いろんな人が祝うだろうし、欲しいものとか必要なもののほうがいいだろうしな。落ち着いたら、訊いてみよう。生まれたばっかで、今奥さんも体力的にも精神的にもしんどいだろうし」
きっと山岡も、彼の妻も他人に構っている余裕はないだろう。
二人は頷き、新しい命の誕生を祝福した。
(子供、か……)
ちらりと隣の真緒を見る。
(いつか、俺も結婚して、子供をもうけるのかな……)
真緒を付き合うまではあまり考えたことはなかった。付き合う女との将来を考えられなかったというのもある。真緒とも、初めはそこまで先を見据えていなかった。この子を最後にしたいという気持ちはあったものの、自分の性格や性分からでは考えていいものかとも思っていたのだ。
元々真緒と将来のことを話したことはなかったが、五月の大型連休に実家に真緒を連れて行き、母親に酷いことを言われてしまって以降、一切言うことはなかった。
あの時、生まれてくる子供のことを言われ、現実味を帯びたのは事実だ。
付き合う以上、将来のことも考える日が来る、と。
「真緒」
「ぁぃ」
真緒が彼女の声で返事をした。
「前、父親がアパートに来てさ」
『そうなんですか』
「あー、えっと、九月くらいに、真緒と会わなかった時期があったろ? その時に」
真緒を連れてきて一緒に食事をしよう、と言われたことと話した。
「別れたって言ったら、結構残念そうな顔してた」
『…………』
「父さんは、真緒を連れてきたことにびっくりしたらしいよ」
初めて連れてきたし、もちろん障碍がある女性と付き合っていることにも人並みに驚いたが、真緒が美人であることにも驚いたらしい、ということを伝えると、彼女は謙遜するように首を振った。
「俺がこんな美人と付き合ってるなんて、青天の霹靂だとでも思ったんだろうな。失礼だよな」
『…………』
「別れたって言ってそのあとは会ってないから、また真緒とこうやって一緒にいるって聞いたらどう思うかな」
『どう、でしょうか』
真緒の表情は暗くなっているようだ。暗がりでも想像はつく。
「言っとくけど父親は、反対してないよ。……母親も、反対はしてはないみたい。けど、見栄っ張りだからさ……正直な所」
どういう反応するかわからない、と創平は言った。
「年末に帰るって言ったら、それまでに帰って来いって言われたのに、結局帰らなくってさ……。父親になんか言われそうだなって思って、気まずい」
一応実家に帰ってくるわ、と嫌そうに吐き出した。
「その時に言うつもり」
『何をですか?』
「別れてない、真緒と付き合ってる、結婚するつもりって」
真緒は驚いた表情になり、隣の創平を見上げた。
歩いていた二人だが、創平は立ち止まった。真緒も同じように立ち止まる。
「俺、真緒と結婚するつもりだから。何を言われてもそのつもりだから。まだ、もうちょっと……二人で恋人の期間を楽しみたい気持ちもあるし、時期はもうちょっと考えさせてほしいなとは思うけど。俺来年三十だし、真面目に考えてるから」
『……ありがとうございます』
「あ、これプロポーズじゃないからな。プロポーズはちゃんとするから」
『……はい』
真緒は嬉しいと言い、笑みを浮かべた。
「もし万が一子供が出来たりすれば、結婚は早めようとは思うけど、今のところ、ちゃんと避妊してるつもりだから、大丈夫とは思うけど……。一応、そういうことも考えながら、な」
遊びでセックスしてるわけじゃないから、ということを念押しした。
「真緒が……子供欲しくないっていうなら、結婚しても避妊するし」
『…………』
そこまでは考えすぎかな、という気もしたが、真緒と将来のことを話し合ったことがないので、自分の勝手な意見を述べてしまった。
「あ、結婚自体したくないって言うなら、それでもいいけど……。とにかく! 真緒の気持ちとか、聞いたことなかったから、これから具体的に話は聞きたい」
『わかりました』
「それで」
『はい』
「あくまでも俺の意見だけど、真緒と同棲するのはどうかと思って」
突然の提案に、真緒は目をパチパチさせた。
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