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2.待ち伏せ
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翌日、眼鏡のないまま祐輔は大学の授業を受けた。
サークルには所属してはいるが、今日は参加はしていない。
眼鏡も望遠鏡もない祐輔には、かなり辛い時間だった。予備の眼鏡がどこかにあったはずだが、最近はずっと同じ眼鏡で過ごしていたし、探すにも眼鏡なし状態ではよく見えないので少し手間暇がかかる。
運良く昨日と今日は、家庭教師のバイトもないし、学校を終えてから眼鏡の修理に行こうと考えていた。
すぐに直る、わけはないか……と祐輔は、またしてもため息をつく。
望遠鏡を持っていったのが、どこの誰だかわからない相手では、祐輔は怒りや悲しみのぶつけようがなかった。
あの後、警察や消防から連絡もないし、今のところ、あの女の子自身が事故を親告したような様子はない。野次馬の誰かが事故だと通報した様子もなさそうだ。あの女の子は、自分の怪我ではなく「スカート」を気にしていたようだ。スカートが破れるくらいには、脚に怪我をしていたのかもしれない。自転車と激しくぶつかる衝撃を感じた祐輔は、今更、まずは相手のことを心配すべきだったなと反省した。
(でも、相手はイヤな女だったしな!)
──視力がかなり悪い祐輔は、車通りが多いところでは、自転車に乗るのも恐ろしいので、とぼとぼと自転車を押しながら家路を辿っていた。自転車は傷がついたようだが、壊れた様子はなかった。自転車を使わなければいいのだろうが、カバンを乗せるにはやはり自転車のカゴは欲しかった。
背中に背負ってもいいけど……勉強道具は嵩張ると少々重い。
アパートまで辿り着き、自転車を止め、自分の部屋に入ろうと歩くと。
(え!?)
──いた。
いたのだ。
あの女が!
ハッキリとは見えなかったが、祐輔は確信した。
顔はよく覚えてないのだが、その雰囲気と恰好は、祐輔には「間違いない」と思わせた。
アパートの一階にある祐輔の部屋の前辺りに腰を下ろしていた彼女は、慌てて立ち上がり、こちらをギロリと見た。
(なななな、なんで、僕の部屋を知ってるんだ……)
と思った祐輔だが、それを口にするより先に、彼女が歩み寄ってきた。
「あんた」
いきなり「あんた」呼ばわりか、と祐輔は思ったが、言ったところで切り返されるので口にはしなかった。
「あんたのせいで、スカートが破れた。弁償して」
と怒鳴りつけて来た。
昨日と同じことを、また言われ、祐輔は面食らった。
「でなきゃ、望遠鏡は返さない」
彼女は、勝ち誇ったように言った。
(返さない?)
そんなことを言われても祐輔は正直余分なお金もなく、だからって、そのいくらするかわからないような、価値があるのか無いのかわからないスカート一枚を弁償もする気はないし、寧ろ自分の眼鏡を修理する金もギリギリしか持ち合わせていないのだ。
祐輔は、仕方ないな、と即座に望遠鏡を手放す決意をした。
眼鏡はすぐにないと自分の生活に支障があるが、望遠鏡は……またお金を貯めて買うことにしよう。しばらくは、学校の備品やサークルの備品を使うしかない。
祐輔は観念して言った。
「いいですよ、その望遠鏡売ってお金にすればいい。気が済んだなら、もう行ってくれますか?」
三年前の古い望遠鏡だから、お金になるかどうかもわからないけれど。
祐輔は彼女を無視し、鍵を取り出して部屋に入ろうとした。
思わぬ祐輔の言葉に意表をつかれたのか、彼女はアパートの階段の下にある駐輪場に行き、祐輔の自転車を奪い取った。鍵を掛けているのだから動くはずはないのだが。
「自転車、ぶっ壊してやる」
「ちょっと待ってくださいよ! 突然飛び出してきたのは、そっちのほうなのに、なんで僕が弁償しなきゃいけないんです? 僕だって、眼鏡は壊れて、その修理するお金もないし、一番大切な望遠鏡まで、今度は自転車まで奪い取ってどうしようっていうんですか?」
鍵を開ける手を止め、駐輪場に駆け寄る祐輔だったが、眼鏡がないため、視界がぼやけて、階段に頭をぶつけそうになった。
「あぶなっ……」
やはり眼鏡がないと不便だと痛感した。
こんな面倒な相手は早く追い払って、眼鏡の修理に行きたい。祐輔は苛立っていた。
「……自転車の鍵は?」
「え?」
問い返す祐輔に、彼女は行った。
「自転車の鍵! 早くちょうだい! あんたも、早く後ろに乗って!」
祐輔はその勢いのままに、自転車の鍵を渡した。
彼女は自転車の鍵を奪ったあと、開錠してサドルに跨り、祐輔に後ろに乗るよう言った。
「早く乗ってったら!」
気が短い性格なのか、彼女は牙を剥くように言い放った。
祐輔は言われるがまま荷台に跨った。
彼女は祐輔を後ろに乗せ、ふらふらしながら自転車をこいだ。
「どこに行くんですか」
「黙って乗ってて!」
はあ、と祐輔は曖昧な返事をするだけだった。
振り落とされないよう、ちょんとサドルを掴むくらいしかできなかった。
(テキスト重い……)
サークルには所属してはいるが、今日は参加はしていない。
眼鏡も望遠鏡もない祐輔には、かなり辛い時間だった。予備の眼鏡がどこかにあったはずだが、最近はずっと同じ眼鏡で過ごしていたし、探すにも眼鏡なし状態ではよく見えないので少し手間暇がかかる。
運良く昨日と今日は、家庭教師のバイトもないし、学校を終えてから眼鏡の修理に行こうと考えていた。
すぐに直る、わけはないか……と祐輔は、またしてもため息をつく。
望遠鏡を持っていったのが、どこの誰だかわからない相手では、祐輔は怒りや悲しみのぶつけようがなかった。
あの後、警察や消防から連絡もないし、今のところ、あの女の子自身が事故を親告したような様子はない。野次馬の誰かが事故だと通報した様子もなさそうだ。あの女の子は、自分の怪我ではなく「スカート」を気にしていたようだ。スカートが破れるくらいには、脚に怪我をしていたのかもしれない。自転車と激しくぶつかる衝撃を感じた祐輔は、今更、まずは相手のことを心配すべきだったなと反省した。
(でも、相手はイヤな女だったしな!)
──視力がかなり悪い祐輔は、車通りが多いところでは、自転車に乗るのも恐ろしいので、とぼとぼと自転車を押しながら家路を辿っていた。自転車は傷がついたようだが、壊れた様子はなかった。自転車を使わなければいいのだろうが、カバンを乗せるにはやはり自転車のカゴは欲しかった。
背中に背負ってもいいけど……勉強道具は嵩張ると少々重い。
アパートまで辿り着き、自転車を止め、自分の部屋に入ろうと歩くと。
(え!?)
──いた。
いたのだ。
あの女が!
ハッキリとは見えなかったが、祐輔は確信した。
顔はよく覚えてないのだが、その雰囲気と恰好は、祐輔には「間違いない」と思わせた。
アパートの一階にある祐輔の部屋の前辺りに腰を下ろしていた彼女は、慌てて立ち上がり、こちらをギロリと見た。
(なななな、なんで、僕の部屋を知ってるんだ……)
と思った祐輔だが、それを口にするより先に、彼女が歩み寄ってきた。
「あんた」
いきなり「あんた」呼ばわりか、と祐輔は思ったが、言ったところで切り返されるので口にはしなかった。
「あんたのせいで、スカートが破れた。弁償して」
と怒鳴りつけて来た。
昨日と同じことを、また言われ、祐輔は面食らった。
「でなきゃ、望遠鏡は返さない」
彼女は、勝ち誇ったように言った。
(返さない?)
そんなことを言われても祐輔は正直余分なお金もなく、だからって、そのいくらするかわからないような、価値があるのか無いのかわからないスカート一枚を弁償もする気はないし、寧ろ自分の眼鏡を修理する金もギリギリしか持ち合わせていないのだ。
祐輔は、仕方ないな、と即座に望遠鏡を手放す決意をした。
眼鏡はすぐにないと自分の生活に支障があるが、望遠鏡は……またお金を貯めて買うことにしよう。しばらくは、学校の備品やサークルの備品を使うしかない。
祐輔は観念して言った。
「いいですよ、その望遠鏡売ってお金にすればいい。気が済んだなら、もう行ってくれますか?」
三年前の古い望遠鏡だから、お金になるかどうかもわからないけれど。
祐輔は彼女を無視し、鍵を取り出して部屋に入ろうとした。
思わぬ祐輔の言葉に意表をつかれたのか、彼女はアパートの階段の下にある駐輪場に行き、祐輔の自転車を奪い取った。鍵を掛けているのだから動くはずはないのだが。
「自転車、ぶっ壊してやる」
「ちょっと待ってくださいよ! 突然飛び出してきたのは、そっちのほうなのに、なんで僕が弁償しなきゃいけないんです? 僕だって、眼鏡は壊れて、その修理するお金もないし、一番大切な望遠鏡まで、今度は自転車まで奪い取ってどうしようっていうんですか?」
鍵を開ける手を止め、駐輪場に駆け寄る祐輔だったが、眼鏡がないため、視界がぼやけて、階段に頭をぶつけそうになった。
「あぶなっ……」
やはり眼鏡がないと不便だと痛感した。
こんな面倒な相手は早く追い払って、眼鏡の修理に行きたい。祐輔は苛立っていた。
「……自転車の鍵は?」
「え?」
問い返す祐輔に、彼女は行った。
「自転車の鍵! 早くちょうだい! あんたも、早く後ろに乗って!」
祐輔はその勢いのままに、自転車の鍵を渡した。
彼女は自転車の鍵を奪ったあと、開錠してサドルに跨り、祐輔に後ろに乗るよう言った。
「早く乗ってったら!」
気が短い性格なのか、彼女は牙を剥くように言い放った。
祐輔は言われるがまま荷台に跨った。
彼女は祐輔を後ろに乗せ、ふらふらしながら自転車をこいだ。
「どこに行くんですか」
「黙って乗ってて!」
はあ、と祐輔は曖昧な返事をするだけだった。
振り落とされないよう、ちょんとサドルを掴むくらいしかできなかった。
(テキスト重い……)
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