星恋月夜(ほしこいづくよ)

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3.修理

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 彼女は祐輔を乗せ、ひたすら自転車をこぎ続けた。
 どこに行くんだという祐輔の質問には答えてくれそうになかった。リュックを背負った男子一人を乗せて、よく走れるなと感心した。最初はふらふらしていたが、安定して走るようになった。
(でもさ、二人乗りは交通違反だけど)
 自転車は、ようやくたどり着いた。
 自転車を止め、彼女は祐輔を引っ張り、ショッピングセンターの中へ入っていった。
 はぁはぁ、と息を切らせた彼女は少し苦しそうだった。
「あのー、ちょっと休んだらどうですか?」
「いいから、来て」
 彼女が引っ張っていった先は、眼鏡屋だった。
「あんた、昨日の壊れた眼鏡持ってる?」
「あ、はい、今日修理に行くつもりだったから……」
「その眼鏡、出して」
 彼女は右手を出し、壊れた眼鏡を寄越せと指示した。
「いらっしゃいませ」
 眼鏡をかけた男性店員が挨拶をする。
「こんにちは。眼鏡の修理、お願いしたいんですけど」
 彼女は祐輔から受け取った眼鏡を店員に渡した。
 店員は眼鏡を見て、うんうんと頷く。
「すぐに直りそうですか?」
「そうですねえ……」
 店員は壊れた眼鏡を透かすように、上向きにして眺めた。
「レンズは割れてないようですので、フレームだけの修理ですね……。一応、レンズは傷など調べてみましょう。フレームはパッキリ折れてますが……同じフレームの在庫があればすぐにお直しできますよ」
「ほんとですか!」
 彼女は祐輔のほうを振り返り、
「だって!」
 と笑ってみせた。
 何が何だかわけがわからなうちに物事が運んでいるかのようで、でも、彼女が眼鏡屋まで連れて来てくれて、しかも眼鏡が早い内に直るかもしれないということは理解ができた。
 取り合えず、眼鏡がすぐに直るならいい。
「こちらでお買い求めになられてはないですね? 姉妹店でお買い求めですか?」
 店員は彼女にではなく、祐輔に向かって言う。
「えと……こちらで購入してたわけではないです」
 これは高校生の時に買い換えた眼鏡だったはず。
「大変申し訳ないのですが、もしかしたら……一日お時間をいただくかもしれません。確認してみますので、しばらくお待ちいただけますか?」
 今度は彼女に向かって店員は言った。
「はい、いいですよ。どれくらい時間かかりますか?」
「そうですね……確認だけならすぐですので、少々お待ち下さい」
「はい、わかりました」
 彼女は祐輔のほうへ歩み寄り、
「そういうことだって。もし今日直らなくっても大丈夫?」
「えっ、あっ、んー……はい、明日バイトがあるから、それまでに直ればありがたいんですけど」
「何のバイト?」
「家庭教師」
「ふーん。じゃあ困るね」
「……」
 困るね、って誰のせいだよ、と祐輔は心の中で思った。
 とても口には出せない。
 男性店員は、別の店員に指示をして在庫の確認をさせている様子だった。
 この店にはなかったらしく、別の店舗に電話をかけているようで、しばらくすると、二人は呼ばれた。
「当店にはこのタイプのフレームがないのですが、本店のほうにはありましたので、今日中にはお直しができるかと思います」
「本当ですか! 助かります」
 彼女は言った。
 その後ろで、祐輔はほっとしていた。
「ただ、新しいものを作るほうが早くて、お安く済むかもしれません」
「えっ」
 祐輔は目を丸くさせた。
 最近は早くて安い眼鏡もあるが、この店も例外ではないようだ。もちろんいい眼鏡も取り揃えてはいる。
「今日は直しでお願いします。応急措置でもいいです。次回はこちらで作りますので」
 予算が無い、とは言えなかったが、やんわり濁した。余裕が出来たら、もう一つくらいは予備を作っておこうと考えた。
「承知しました。ですと、お直しの完了は、午後七時くらいになりそうですが、よろしいですか」
「いいよね?」
 彼女に言われ、祐輔はうなずいた。
 その顔に脅されているような気がして、肯定しかできなかった。
 現在午後四時半……超特急で直してもらえるらしい。
 今日中に直してもらえるなら、もうなんでもいい。
「仕上がりましたら、どういたしましょうか? お電話いたしますが」
「あ、じゃあ、電話お願いします。わたしの携帯電話に」
 彼女は伝票に、名前と電話番号を書き、頭を下げて店を後にした。祐輔は自分で書こうとしたが、なぜか彼女が書いた。黙って彼女を見ていることにした。
 祐輔も同じように頭を下げて、彼女についていった。
「一旦帰る? どうする?」
「あ、うーん……そっちはどうするんですか?」
「そうねぇ、わたしはね……。帰るとなったら足が要るしね、あんたと一緒に帰るわ。だからあんたに任せる」
 正直、祐輔は「えーっ、勘弁してよ」と思った。
 わたしはこれで帰る、とか言ってくれたらいいのに……。
 やっぱり電話番号、自分のを書けばよかったな、と思ったがもう遅い。
「僕の電話番号にかけてもらうようにしてきますよ? そしたらそっちは帰れるだろうし」
「ハア? いいわよ、面倒くさい。足がないって言ったでしょ。自転車はあんたのなんだし」
(ん? また自転車で一緒に帰るってことか?)
 そんな祐輔の怯えとは裏腹に、彼女は祐輔の袖を引っ張った。
「ね、時間まだまだあるし、ぶらぶらしようよ。ちょっとついてきてほしいとこあるんだけど」
「へっ……?」
 斯くして、祐輔は彼女の付き人にされてしまった……。
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