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5.天体観測(前編)
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彼女──春名は祐輔を引っ張って、駐輪場へ急いだ。
「帰りは漕いでね」
「えっ」
春名は、また自転車に乗るつもりらしかった。しかも今度はこちらが運転だ。……正直女の子に漕がせるのも胸が痛む。
(でもあんまりだよ……)
しかし、大人しく祐輔は従うことにした。
気が短そうな女に、ヒステリーを起こされても面倒くさい。
カバンを前カゴに入れ、祐輔はサドルに跨った。
彼女は荷台に横乗りをした。
「ちゃんと乗ってください」
「跨ぐなんてイヤ」
「むちゃくちゃですね……。だいたい二人乗り自体が違反なのに……」
うるさいなあ、としぶしぶ彼女は荷台に跨った。
今日はスカートではなく、パンツスタイルだったので、できないこともなかったようだ。
それから早くアパートに帰ろう、と祐輔は必死で自転車を漕いだ。
春名は祐輔の腰に手を添え、大人しく乗っていた。
が、突然、
「ギャア!」
……春名は祐輔の腰をつついて、祐輔の運転をふらつかせた。
「危ないじゃないですか! 振り落とされたいんですか!」
激怒する祐輔に、
「そんなに怒ることないじゃない。こそぐっただけなのに……」
「それが危ないんだって! 降ろしますよ! 歩いて帰ってください!」
おーこわこわ、と彼女は舌を出した。
なんでこんな女を乗せて走らなきゃいけないんだ、と祐輔は心の中で溜息をついた。
やっと自分のアパートの近くまで来た。
息が荒いし、身体も熱い。普段運動をしないせいで、体力の消耗は激しい。
と思ったら、春名はいけしゃあしゃあと言った。
「まっすぐ行って。んで右に曲がって」
「はあ?」
「さっさと行ってよ!」
言われるがまま祐輔は自転車を走らせた。
(昨日も今日も女難の日か?)
泣きたい気分だった。
アパートが立ち並ぶ場所にたどり着いた。
祐輔のアパートと同じく、大学の近くの学生アパートのようだ。
(もしかして同じ大学……?)
「ちょっとここで待ってて」
春名は自転車を降りると、道の奥に走って行った。
このアパートのどこかが彼女のアパートらしい。
五分くらいたって、彼女が戻ってきた。
手に、祐輔の望遠鏡を抱えていた。
「逃げるかと思ってたけど、ちゃんと待ってたね」
(あっ、そういえば帰ろうと思えば帰れたんだ……)
祐輔は自分は馬鹿正直だと思った。
「はいこれ。返すわ」
「え?」
「あんたの望遠鏡。大事なもんなんでしょ」
「本当ですか? でも、僕は、服を弁償できない、ですよ」
「……いいよ、別にもう」
ぷいっ、と彼女は顔を背けた。
「そのかわり奢って」
先ほど聞いた台詞をまた彼女は言った。
「奢ってって……さっきも……」
「冗談よ」
祐輔は困惑した顔になった。
この人のことを全然理解できない。
理解しようとも思わないけど。
「その代わり、ひとつ頼みを聞いてよ」
「あ、はい。僕ができる範囲内なら……ですけど」
祐輔はおずおずと頷いた。
「星、見せてよ。その望遠鏡でさ」
彼女の口から、予想外の言葉が出た。
「見られるんでしょ?」
祐輔は、目を見開いたまま立ち尽くした。
夜、八時半。
夕方春名を降ろした場所に、祐輔は自転車でやってきた。
背中に望遠鏡を背負って。
祐輔の望遠鏡のケースには、肩下げベルトがついている。
背負うと、まるで、昔の侍が矢を納めていた筒みたいだ。
そう言ったのは……春名なのだが。
前カゴにペットボトルのお茶を二本入れ、望遠鏡を背負った春名を後ろに乗せ、祐輔は自転車を走らせた。
「車じゃないのお?」
「すみませんね、僕は貧乏大学生なんで車なんて持ってません」
「ふーん」
「不満なんですか」
「べっつにー」
祐輔の大学の学生の多くは、車を持っている。
田舎の大学だから、交通手段に車がないと不便だからだろう。だが、祐輔の家は裕福じゃないし、奨学金をもらってるくらいなのだし、買えるはずもない。
免許はあるけど、車はない。
祐輔には仕方のないこと。
春名の周りは車を所有する学生ばかりなのだろう。
「は……春名さんは車持ってらっしゃるんですか?」
「ないよ」
「そうですか」
「必要ないしー。持ってる男、掴まえたらいいし」
「……さようですか」
祐輔は二の句が次げない。
そんなことよく言えたもんだ。
(まあ自分には関係ないけど)
「春名さんって……彼氏はいないんですか」
「どっちだと思う?」
「まあ、車の話からするといると思いますけど」
「……ふふっ、内緒」
「そうですか」
「知りたい?」
「別に。僕にはどうでもいいですけど」
春名に腰を抓られ、祐輔は顔をしかめた。
自転車に乗りながら、そんな会話を続けた。
「帰りは漕いでね」
「えっ」
春名は、また自転車に乗るつもりらしかった。しかも今度はこちらが運転だ。……正直女の子に漕がせるのも胸が痛む。
(でもあんまりだよ……)
しかし、大人しく祐輔は従うことにした。
気が短そうな女に、ヒステリーを起こされても面倒くさい。
カバンを前カゴに入れ、祐輔はサドルに跨った。
彼女は荷台に横乗りをした。
「ちゃんと乗ってください」
「跨ぐなんてイヤ」
「むちゃくちゃですね……。だいたい二人乗り自体が違反なのに……」
うるさいなあ、としぶしぶ彼女は荷台に跨った。
今日はスカートではなく、パンツスタイルだったので、できないこともなかったようだ。
それから早くアパートに帰ろう、と祐輔は必死で自転車を漕いだ。
春名は祐輔の腰に手を添え、大人しく乗っていた。
が、突然、
「ギャア!」
……春名は祐輔の腰をつついて、祐輔の運転をふらつかせた。
「危ないじゃないですか! 振り落とされたいんですか!」
激怒する祐輔に、
「そんなに怒ることないじゃない。こそぐっただけなのに……」
「それが危ないんだって! 降ろしますよ! 歩いて帰ってください!」
おーこわこわ、と彼女は舌を出した。
なんでこんな女を乗せて走らなきゃいけないんだ、と祐輔は心の中で溜息をついた。
やっと自分のアパートの近くまで来た。
息が荒いし、身体も熱い。普段運動をしないせいで、体力の消耗は激しい。
と思ったら、春名はいけしゃあしゃあと言った。
「まっすぐ行って。んで右に曲がって」
「はあ?」
「さっさと行ってよ!」
言われるがまま祐輔は自転車を走らせた。
(昨日も今日も女難の日か?)
泣きたい気分だった。
アパートが立ち並ぶ場所にたどり着いた。
祐輔のアパートと同じく、大学の近くの学生アパートのようだ。
(もしかして同じ大学……?)
「ちょっとここで待ってて」
春名は自転車を降りると、道の奥に走って行った。
このアパートのどこかが彼女のアパートらしい。
五分くらいたって、彼女が戻ってきた。
手に、祐輔の望遠鏡を抱えていた。
「逃げるかと思ってたけど、ちゃんと待ってたね」
(あっ、そういえば帰ろうと思えば帰れたんだ……)
祐輔は自分は馬鹿正直だと思った。
「はいこれ。返すわ」
「え?」
「あんたの望遠鏡。大事なもんなんでしょ」
「本当ですか? でも、僕は、服を弁償できない、ですよ」
「……いいよ、別にもう」
ぷいっ、と彼女は顔を背けた。
「そのかわり奢って」
先ほど聞いた台詞をまた彼女は言った。
「奢ってって……さっきも……」
「冗談よ」
祐輔は困惑した顔になった。
この人のことを全然理解できない。
理解しようとも思わないけど。
「その代わり、ひとつ頼みを聞いてよ」
「あ、はい。僕ができる範囲内なら……ですけど」
祐輔はおずおずと頷いた。
「星、見せてよ。その望遠鏡でさ」
彼女の口から、予想外の言葉が出た。
「見られるんでしょ?」
祐輔は、目を見開いたまま立ち尽くした。
夜、八時半。
夕方春名を降ろした場所に、祐輔は自転車でやってきた。
背中に望遠鏡を背負って。
祐輔の望遠鏡のケースには、肩下げベルトがついている。
背負うと、まるで、昔の侍が矢を納めていた筒みたいだ。
そう言ったのは……春名なのだが。
前カゴにペットボトルのお茶を二本入れ、望遠鏡を背負った春名を後ろに乗せ、祐輔は自転車を走らせた。
「車じゃないのお?」
「すみませんね、僕は貧乏大学生なんで車なんて持ってません」
「ふーん」
「不満なんですか」
「べっつにー」
祐輔の大学の学生の多くは、車を持っている。
田舎の大学だから、交通手段に車がないと不便だからだろう。だが、祐輔の家は裕福じゃないし、奨学金をもらってるくらいなのだし、買えるはずもない。
免許はあるけど、車はない。
祐輔には仕方のないこと。
春名の周りは車を所有する学生ばかりなのだろう。
「は……春名さんは車持ってらっしゃるんですか?」
「ないよ」
「そうですか」
「必要ないしー。持ってる男、掴まえたらいいし」
「……さようですか」
祐輔は二の句が次げない。
そんなことよく言えたもんだ。
(まあ自分には関係ないけど)
「春名さんって……彼氏はいないんですか」
「どっちだと思う?」
「まあ、車の話からするといると思いますけど」
「……ふふっ、内緒」
「そうですか」
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自転車に乗りながら、そんな会話を続けた。
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