7 / 25
6.アパート(前編)
しおりを挟む
春名が望遠鏡を背負い、祐輔は自転車を必死にこぐ。
「大事なものなんでしょ」
前篭に入れていたが、春名が背負ってくれた。
風を受けながら、二人は家路を走った。
「こんなふうに二人乗りするのも素敵かもねー。いいなあ、こんなことしたことないよ。青春だわー」
春名は言う。
「相手が僕ですみませんね。今度は彼氏としてくださいよ」
「車は持ってても自転車持ってない」
「そうですか」
やっぱり彼氏がいるんだな、と祐輔は思った。
送りますよ、という祐輔だったが、春名は意外なことを口にした。
「おなかすいたよー。ね、鈴木君ち連れてってよ」
「エーッ」
この人は何を言うんだ、と祐輔は困惑した。
もう夜も遅い時間だ。
仮にも僕は一応男ですよ、何を言ってんだか……、とこっそり溜息をついた。
(あぁそうだ、このヒトにとっては、僕は男ではないんでしたー……)
春名は祐輔の部屋へ連れていけ、とせがんでくる。
「あのう、春名さん、一応、僕は男なんですけど」
「知ってるよ」
「恐ろしい発言しないで下さいよ」
「だって鈴木君は、変な雰囲気ゼロだし。さっきも言ったでしょ、警戒するほどの……」
「もういいです。その先は言わなくて結構です」
「とにかくおなかすいた。奢ってよー。昨日は奢ってあげようと思ったの食いっぱぐれたんだから」
ショッピングセンターでのことを言っているらしい。
はいはい、と祐輔はしぶしぶうなずいた。
断っても、強い口調の春名には勝てそうにないと感じた……。
「ところで春名さん」
「ん?」
「春名さんってストーカー並ですね」
「なにが?」
「なんで僕のアパートがわかったんですか? そんな執念深い人、初めてですよ」
苦笑しながら言うと、春名は祐輔の腰の肉をつまんだ。
鈍い悲鳴をあげると、自転車はふらふらとした。
「また! やめてくださいよ!! 振り落とされたいんですか!」
「馬鹿なこというからでしょ、わたしを振り落としたら望遠鏡も道連れよ」
「……ひどい。それに僕は間違ったこと言ってないと思いますけど」
「ストーカーじゃないよ、わたしは透視ができるの」
「つまらない冗談もやめてください。……まあいいですけど」
意外にスッキリと片付いているらしい祐輔の部屋に、春名は驚いた様子だった。
「へえー、もっと汚いイメージがあったけど」
昨日今日初対面の僕にどんなイメージ持ってるんですか、と祐輔は呆れた。
「ちょっと待ってて下さいね」
祐輔は、冷蔵庫からお茶を取り出し、グラスに注いで春名に差し出した。
「ありがと」
「昨日の残りのゴハンくらいしかありませんよ」
「なになに?」
「カレーです」
「カレー大好き! 食べたい!」
春名の目がキラキラと輝く。
まるで子供のようだ。
「じゃ、温めますから、楽にしてて下さい」
祐輔が言う前に、もう春名は充分楽にしている様子だったが。
「女の子は遅い時間は食べないんだと思ってましたけど」
「一応女の子って思ってくれてるんだ」
「…………」
昨日までの自分ならカチンと来ていただろうけれど、もう今日は慣れてしまった。
本棚にきちんと並べたられた本たち。
春名はそれを眺め、
「天文関係の本ばっかり。やばい本とかないんだ」
感心したような言い方だった。
「……荒探しですか」
「ほんとに星が好きなんだー」
今度はテレビの下のDVDに手をやる。
「何のDVD?」
「天文関連の番組の録画ですよ」
「なーんだ」
つまらなさそうに応える春名だ。
彼女が期待していた答えとは違ったらしい。
「ん? アルバムかな」
と、春名は本棚のなかから、分厚いそれを取り出した。
「あっ!」
ちょっと待って下さいよ、と大声をあげて祐輔が飛んできた。勝手にいろいろ触れすぎる、本やDVDくらいならいいが……しかし興味がなのかそれと手に取ることはなかったのだが、アルバムには興味を持ったようだ。
取り返そうとした祐輔に、春名が奪われないようにとアルバムを掲げようとしたが、あまりの重さによろめいた。
「おっと」
祐輔はアルバムを掴み、よろける春名を支えた。
「もう……、やめて下さいよ。一度断りを入れてください、お願いですから」
「そんなに必死に奪わなくていいじゃないのよぉ、弱そうに見えて怖いなぁ……」
ぶつぶつとつぶやいた。
「弱そうって……」
初対面から暴言を放たれっぱなしな気がしてならない祐輔だ。
「……そんなに見たいならどうぞ」
「もういいよ別に。どうせたいしたもんじゃないでしょ。早くカレーちょうだいよ」
「なっ……」
ほんっとに我侭な人だなあ、と祐輔は呆れてものが言えなかった。
(この人の彼氏はどんだけ我慢強いんだろう?)
祐輔はアルバムを卓袱台の上に置いた。
春名に座布団を勧め、待つように再度告げた。
膨れ面の春名はアルバムはもう見ないと突っぱねたが、カレーを温める祐輔の後姿を見て、やはり扉を開いたらしかった。
学校のアルバムではなく、祐輔自身の子供の頃から写真のアルバム。ある程度の年齢までの写真が収められている。
「ふうん……」
生まれたばかりの写真、七五三の写真、小学校の入学式の写真……何かの行事ごとに祐輔の笑った顔がある。
「妹さんかな……」
春名の想像どおり、妹と写った写真、友達と写った写真、アルバムをめくると、今からは想像できない祐輔の姿があった。
「こんなに可愛かったんだぁ……今はチョーダサいけど」
「一言多いですよ」
中学生頃の写真からは祐輔は眼鏡をかけていた。
部活動中、望遠鏡の前で笑いもせずに直立不動で立っている祐輔の写真を見たようで、何やら言っていた。
春名はおかしくてたまらなかったのか、
「なに、無愛想だなあ、笑えっちゅーの」
一人でけらけら笑いながらアルバムをめくっている。
その様子を見て、祐輔は小さく嘆息した。
そのうち、いい香りが漂いはじめ、祐輔はカレーを皿に盛った。
「温まりましたよ」
よそったカレーが運ばれてくると、春名は再び目を輝かせた。
「わっ、美味しそう!! ちょっと黒いね、なんか辛そう!」
「春名さんは辛いのはダメですか?」
「大丈夫! 辛いの好きよ」
「僕は味音痴だから、辛すぎるかもしれないけど」
「うんうん平気平気! ちょっと待ってね、もうちょっとだけみたい」
「なんだ、結局がっつり見てるじゃないですか」
祐輔は苦笑するが、春名の耳には入っていないらしい。
お茶もスプーンも、祐輔が全て揃えて、祐輔も自分の用意ができてしまった。しかし春名はまだアルバムを眺めている。
「春名さん、先に食べちゃいましょう。アルバムはあとで見て下さい。お腹すいてるんでしょう?」
「そうね、そうだったね」
春名は名残惜しそうにアルバムを閉じた。
「こっちにアルバム持ってきたのね」
「うん、なんとなくですけどね。たまにみると懐かしいかなーと思って。でも実家に置いてきたらよかったかなあって気もしています。結構重いですからね。まあ持って来てしまったものはもういいですけど」
「…………」
いただきまーす、と二人は手を合わせた。
祐輔は、カレーを口に運ぶ春名の手を見つめた。
果たして味は……、と彼女の顔色を伺う。
どうせまた嫌みを言うのに決まっている。
「……うんまっ。なんか懐かしい味がするぅ!」
辛さと懐かしさが混じってる、と春名は笑った。
文句は言われなかった。
よかった、と祐輔はホッとする。そして自分も空腹を満たすように、口に運んだ。
我侭な春名のことだから、何かいちゃもんをつけるかな、と思った祐輔だった。
文句は言わず、美味しい美味しいと春名は口にする。
「大事なものなんでしょ」
前篭に入れていたが、春名が背負ってくれた。
風を受けながら、二人は家路を走った。
「こんなふうに二人乗りするのも素敵かもねー。いいなあ、こんなことしたことないよ。青春だわー」
春名は言う。
「相手が僕ですみませんね。今度は彼氏としてくださいよ」
「車は持ってても自転車持ってない」
「そうですか」
やっぱり彼氏がいるんだな、と祐輔は思った。
送りますよ、という祐輔だったが、春名は意外なことを口にした。
「おなかすいたよー。ね、鈴木君ち連れてってよ」
「エーッ」
この人は何を言うんだ、と祐輔は困惑した。
もう夜も遅い時間だ。
仮にも僕は一応男ですよ、何を言ってんだか……、とこっそり溜息をついた。
(あぁそうだ、このヒトにとっては、僕は男ではないんでしたー……)
春名は祐輔の部屋へ連れていけ、とせがんでくる。
「あのう、春名さん、一応、僕は男なんですけど」
「知ってるよ」
「恐ろしい発言しないで下さいよ」
「だって鈴木君は、変な雰囲気ゼロだし。さっきも言ったでしょ、警戒するほどの……」
「もういいです。その先は言わなくて結構です」
「とにかくおなかすいた。奢ってよー。昨日は奢ってあげようと思ったの食いっぱぐれたんだから」
ショッピングセンターでのことを言っているらしい。
はいはい、と祐輔はしぶしぶうなずいた。
断っても、強い口調の春名には勝てそうにないと感じた……。
「ところで春名さん」
「ん?」
「春名さんってストーカー並ですね」
「なにが?」
「なんで僕のアパートがわかったんですか? そんな執念深い人、初めてですよ」
苦笑しながら言うと、春名は祐輔の腰の肉をつまんだ。
鈍い悲鳴をあげると、自転車はふらふらとした。
「また! やめてくださいよ!! 振り落とされたいんですか!」
「馬鹿なこというからでしょ、わたしを振り落としたら望遠鏡も道連れよ」
「……ひどい。それに僕は間違ったこと言ってないと思いますけど」
「ストーカーじゃないよ、わたしは透視ができるの」
「つまらない冗談もやめてください。……まあいいですけど」
意外にスッキリと片付いているらしい祐輔の部屋に、春名は驚いた様子だった。
「へえー、もっと汚いイメージがあったけど」
昨日今日初対面の僕にどんなイメージ持ってるんですか、と祐輔は呆れた。
「ちょっと待ってて下さいね」
祐輔は、冷蔵庫からお茶を取り出し、グラスに注いで春名に差し出した。
「ありがと」
「昨日の残りのゴハンくらいしかありませんよ」
「なになに?」
「カレーです」
「カレー大好き! 食べたい!」
春名の目がキラキラと輝く。
まるで子供のようだ。
「じゃ、温めますから、楽にしてて下さい」
祐輔が言う前に、もう春名は充分楽にしている様子だったが。
「女の子は遅い時間は食べないんだと思ってましたけど」
「一応女の子って思ってくれてるんだ」
「…………」
昨日までの自分ならカチンと来ていただろうけれど、もう今日は慣れてしまった。
本棚にきちんと並べたられた本たち。
春名はそれを眺め、
「天文関係の本ばっかり。やばい本とかないんだ」
感心したような言い方だった。
「……荒探しですか」
「ほんとに星が好きなんだー」
今度はテレビの下のDVDに手をやる。
「何のDVD?」
「天文関連の番組の録画ですよ」
「なーんだ」
つまらなさそうに応える春名だ。
彼女が期待していた答えとは違ったらしい。
「ん? アルバムかな」
と、春名は本棚のなかから、分厚いそれを取り出した。
「あっ!」
ちょっと待って下さいよ、と大声をあげて祐輔が飛んできた。勝手にいろいろ触れすぎる、本やDVDくらいならいいが……しかし興味がなのかそれと手に取ることはなかったのだが、アルバムには興味を持ったようだ。
取り返そうとした祐輔に、春名が奪われないようにとアルバムを掲げようとしたが、あまりの重さによろめいた。
「おっと」
祐輔はアルバムを掴み、よろける春名を支えた。
「もう……、やめて下さいよ。一度断りを入れてください、お願いですから」
「そんなに必死に奪わなくていいじゃないのよぉ、弱そうに見えて怖いなぁ……」
ぶつぶつとつぶやいた。
「弱そうって……」
初対面から暴言を放たれっぱなしな気がしてならない祐輔だ。
「……そんなに見たいならどうぞ」
「もういいよ別に。どうせたいしたもんじゃないでしょ。早くカレーちょうだいよ」
「なっ……」
ほんっとに我侭な人だなあ、と祐輔は呆れてものが言えなかった。
(この人の彼氏はどんだけ我慢強いんだろう?)
祐輔はアルバムを卓袱台の上に置いた。
春名に座布団を勧め、待つように再度告げた。
膨れ面の春名はアルバムはもう見ないと突っぱねたが、カレーを温める祐輔の後姿を見て、やはり扉を開いたらしかった。
学校のアルバムではなく、祐輔自身の子供の頃から写真のアルバム。ある程度の年齢までの写真が収められている。
「ふうん……」
生まれたばかりの写真、七五三の写真、小学校の入学式の写真……何かの行事ごとに祐輔の笑った顔がある。
「妹さんかな……」
春名の想像どおり、妹と写った写真、友達と写った写真、アルバムをめくると、今からは想像できない祐輔の姿があった。
「こんなに可愛かったんだぁ……今はチョーダサいけど」
「一言多いですよ」
中学生頃の写真からは祐輔は眼鏡をかけていた。
部活動中、望遠鏡の前で笑いもせずに直立不動で立っている祐輔の写真を見たようで、何やら言っていた。
春名はおかしくてたまらなかったのか、
「なに、無愛想だなあ、笑えっちゅーの」
一人でけらけら笑いながらアルバムをめくっている。
その様子を見て、祐輔は小さく嘆息した。
そのうち、いい香りが漂いはじめ、祐輔はカレーを皿に盛った。
「温まりましたよ」
よそったカレーが運ばれてくると、春名は再び目を輝かせた。
「わっ、美味しそう!! ちょっと黒いね、なんか辛そう!」
「春名さんは辛いのはダメですか?」
「大丈夫! 辛いの好きよ」
「僕は味音痴だから、辛すぎるかもしれないけど」
「うんうん平気平気! ちょっと待ってね、もうちょっとだけみたい」
「なんだ、結局がっつり見てるじゃないですか」
祐輔は苦笑するが、春名の耳には入っていないらしい。
お茶もスプーンも、祐輔が全て揃えて、祐輔も自分の用意ができてしまった。しかし春名はまだアルバムを眺めている。
「春名さん、先に食べちゃいましょう。アルバムはあとで見て下さい。お腹すいてるんでしょう?」
「そうね、そうだったね」
春名は名残惜しそうにアルバムを閉じた。
「こっちにアルバム持ってきたのね」
「うん、なんとなくですけどね。たまにみると懐かしいかなーと思って。でも実家に置いてきたらよかったかなあって気もしています。結構重いですからね。まあ持って来てしまったものはもういいですけど」
「…………」
いただきまーす、と二人は手を合わせた。
祐輔は、カレーを口に運ぶ春名の手を見つめた。
果たして味は……、と彼女の顔色を伺う。
どうせまた嫌みを言うのに決まっている。
「……うんまっ。なんか懐かしい味がするぅ!」
辛さと懐かしさが混じってる、と春名は笑った。
文句は言われなかった。
よかった、と祐輔はホッとする。そして自分も空腹を満たすように、口に運んだ。
我侭な春名のことだから、何かいちゃもんをつけるかな、と思った祐輔だった。
文句は言わず、美味しい美味しいと春名は口にする。
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる