勇者の影武者でやられる予定でしたが、魔王も偽物でした。

遠近法子

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第7話 覚醒と逃走

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「……う……うん……」
 その時、傍らの少女が身じろぎする。
 ぱちり、と目を開く。
 茫漠と霞んだ、サファイアブルーの瞳が、こちらを見つめた。
「あなたは……」
 まだ半分夢の中にいるような口調で語りかけてきた。
「大丈夫か」
 俺は、少女に語りかける。
「魔王様は……」
「どうした?」
「あの、魔王様は……どこ?」

 これではっきりした。彼女は、魔王ではない。
 自分のことを様付けで呼ぶやつはいない。


「魔王様は無事だ。君の名前は?」
「ルカ……」
「君は魔王じゃないね、ルカ」

「魔王……じゃ……ない……。
 魔王アーケディア様は……どちらに……」

 すがるような目をする少女ルカ。
「あとで会わせてあげる。君は、魔王の何なんだ?」

「私は……魔王の……ニセモノ」
 
 俺は、ゆっくり顔を上げる。
 視線の先には、ザラストロ。
 やはりこいつは、信頼できない。

「ザラストロ……お前、何を考えている?」
「……騙されてはなりませんぞ! リヒト様! この娘は一芝居打って、リヒト様を手駒にしてやろうと策をめぐらし……」

 俺は、ザラストロの駄弁に構わず、ルカに向き直る。

「ルカ、教えてくれ。君のスキルは何だ?」
「……あなたは、誰?」
 俺は躊躇する。
 彼女になんと言って、身の証を立てればいい?
 今の俺は、勇者のレプリカ装備をまとった、見知らぬ男だ。
 さらに言うなら、彼女の本物(とでも言うべきなのか)である魔王アーケディアを倒しに来た、S級パーティの一員だ。

 どう言ったら、信頼を獲得できるのか?

「僕はリヒト……君の味方だ」
「……」
 咄嗟に口から出た言葉だった。
 最悪だ。
 自分のことを「君の味方だ」というやつが、味方であった試しはない。

 こういうところで、さっと相手の心をつかむようなことが言えないから、いつまでたっても俺はダメなんだ。

「……味方」
 それでも、ルカは俺の顔をじっと見て、復唱した。
「味方だよ」
 押してみる。
「味方。信じる」
 ルカはうなずく。

 信じてくれた。素直。
 ていうか、信じちゃっていいの? 俺のことを。
「あなた、私のことをかばってくれた。あの、すごい剣のスキルから」
「……覚えていてくれたんだ」
「それから、あの炎のスキルも」
 ヴァイスの<デスブレード>。
 それから<獄炎>だ。
 その二つの攻撃から、俺は彼女をかばった。
「リヒトがかばってくれなかったら、私は死んでいた。私がいま生きているのは、リヒトのおかげ」
「……」
「私は死ななきゃならなかった。でも、死ぬのが怖かった。
 死ななきゃアーケディア様のお役に立てなかった。
 でも……それでも生きていてうれしい」
「ルカ、君のスキルについて教えてほしい」
「……スキル?」
 ルカは、小首を傾げる。
「……私のスキル<反射>は、スキルを反射して、そのまま持ち主に返すスキル」
 やはり。
 思った通りだ。
 
「……ザラストロ。だいたいわかってきたぞ」
 俺は、ザラストロに再び向き直った。
「お前たちの魔王アーケディアは、このルカを偽物にして勇者ヴァイスと戦わせようとしたんだろう。

 その後の展開も、およそ想像はつく。
 ヴァイスがルカを魔王と思い込んで<デスブレード>を放つ。
 ルカが、スキル<反射>で<デスブレード>を反射する。
 それにより、勇者パーティは崩壊する」
「……甘く見られたものですね。そのような杜撰な計画を立てたと思われるとは」
 ザラストロが、嘲笑に唇を曲げる。
「杜撰でもなんでもかまわないのさ。お前たちの目的は、勇者パーティではない。
 このルカの排除なんだから」
「……ッ!!」
 ザラストロが、言葉に窮する。
「お前たちにとって、勇者パーティなんかより何倍も、ルカが邪魔だった。
 それはそうだろう。<反射>のようなスキルは、攻撃系のスキルの持ち主にとっては脅威でしかない。

 味方としておいておけば、これほど頼りになる存在はないだろう。でも、中途半端な奴ほど、特別な力の持ち主を『状況次第で自分の敵になる存在』と思いがちだな」
「……」
「まして、このルカは、か弱い、華奢な少女だ。
 こんなガキが、自分をもおびやかす脅威たりうることに、誇り高き魔族の精鋭が耐えられるはずもない。プライドが許さないからな。なんとしてでも処分したかったはずだ」
「こんな小娘ごときに、我々が恐れを抱いていた、とでも?」
 ザラストロの顔色が紅潮する。
「小娘にじゃない。スキルにだ。
 さっきの俺のスキルにしても、お前は『相手のスキルを我がものとできる能力』もさることながら、何より『スキルを使用する際に相手の能力を無効化できる』という点にこだわっていた。
 確かに<獄炎>なんていう、単純な攻撃スキルの持ち主は、<反射>や無効化には、どうすることもできないからな」
「貴様などに、炎の何がわかるというのだ!」
 ザラストロが血相を変える。

 ――かかった!
 俺は内心、哄笑を漏らす。
「ザラストロ、お前――<獄炎>の持ち主だったのか」
「……何だと……?」
「実は確証がなかったんだよ。お前が<獄炎>の持ち主だったのか、どうか。
 だが、いまお前が自白したことで、<獄炎>の使い手が誰かということが明らかになっちまった。
 ――わかるか。つまりお前は、あの場にいた。
 勇者ヴァイス、ルカ、そして俺を不意打ちで倒そうとしたのがお前だって、いま自分で言ったんだよ」
「くっ……」
 ザラストロの顔が蒼白になる。
「これで、お前に与する理由はなくなったな。
 お前はさっき、俺のことを新たな魔王として戴く、なんて言っていたが、それに関わる理由もなくなったってことだよ。
 お前は『俺たち』の敵だ!」
「……愚かな……」
 ザラストロが怒りに燃えて、俺を見つめる。
「やはり、この場であなたたちを燃やし尽くすしかないようですね……」
「おいおい、もう少しこちらはお前と話をしてもいいんだがな。何でもしゃべってくれそうだからな」
 俺はヘラヘラと笑う。
 
 確かにザラストロがさっき言ったとおり、俺のさっきの推理――ヴァイスの<デスブレード>をルカの<反射>で跳ね返すという作戦は、無理がある。
 
 まあ、そのことに関しても、ある程度の推論はできてはいるけどね。
 
「いいだろう。望み通り〈獄炎>の使い手たるザラストロが、お前たちを直々に焼き尽くしてやる……」
「いいのか? 俺がここで<デスブレード>を打てば、<獄炎>をステータスに入れられるぞ」
「笑わせるな、人間」
 ようやく魔族としての本質をむき出しにして、凄絶に笑うザラストロ。
「よしんば貴様ごときが<獄炎>を身につけたところで、蚊ほどにも感じぬわ。我が<獄炎>は、人間などに操れるはずもない」

 ――さて、それはどうかな。
 俺は内心で考える。
 ヴァイスの<デスブレード>にしても、俺はステータスに入れた次の瞬間からヴァイス同様に使用することができた。
 この理屈からいけば、ザラストロの<獄炎>も、やつと同じくらいの威力で使用することができる。
 ――とはいえ、リスクがないわけではない。
 下手に、こちらの<獄炎>を通用させないスキルなんて、ザラストロが習得していたらやばいものだ。
 魔族の高位種族になると「炎属性攻撃完全無効」だの「魔法完全防御」だの、危険なスキルを抱えているやつがごまんといる。
 ザラストロだって、魔王の側近クラスの魔族(あの魔王の部屋にいることができたということは、それなりの存在なのだろう)だ。油断はできないな。
 
 また、こちらが<デスブレード>のスキルを使用するのも、あまりよい手とは言えない。
 ザラストロは初手から、こちらが<デスブレード>をラーニングしている可能性を加味していた。
 ということは、こちらが<デスブレード>を打ってくることに、なんらかの対策をしている可能性がある。
 考えすぎかもしれないが、こっちだって生命がかかっている。
 
(ルカの<反射>を使う?)
 ――危険すぎる。
 ルカの<反射>は、俺にもわからないことが多い。
 発動条件や範囲も不明だ。
 危険すぎる。
 
 こうやって考えてみると、あらためて絶体絶命の状況に自分たちがいることに気づかされる。
 
(――だが、俺はなんとかしてみせる)
 俺は、ルカの手をぐっとつかんだ。
(彼女も一緒に、この場を逃れるんだ)

 俺はザラストロに正対し、ルカの方を見ずに、そっとつぶやく。
「――ルカ。ほとんど初対面なのに、こんなことを言って申し訳ない。俺を信じてくれ」
「信じる」
 即答だった。
 さすがに、俺は少し動揺した。
「信じてくれるのか」
 俺の手を、彼女はそっと握り返す。
「あなたは、私をあの時助けてくれた」
 手のひらの温かみが、伝わってくる。
「私は、魔王様の偽物。あそこで死んでしまうはずだった」
 彼女の決死の思いが、俺の心に染み渡ってくるようだった。
「だけど、あなたは助けてくれた。だから、私はあなたを信じる。どんなことが、あっても」
「……わかった」
 
 このとき、俺は誓った。
 正体も何もわからない、このルカという女の子。
 この子を、どこまでも守ろうと。
 そのために、俺のすべての力とスキルを使おうと。

 そのために、ここは撤退しようと。
 
「――ザラストロ! 行くぞ!」
 俺は、すでに戦闘態勢に入ろうとする敵を、きっぱりと見た。
「<デスブレード>だろうと<獄炎>だろうが、何でも打ってくるがよい! 魔族の力、見せつけてくれる!」
 俺は、そう言い放つザラストロに向けて―。
 
「スキル発動!」

 ステータスの中にある、一つのスキルを選択。
 <デスブレード>ではない。
 もちろん、習得していない<獄炎>であるはずはない。
 
 正体不明のスキル。
 俺は、それを躊躇なく選択する。
 
「<クォンタム・テレポーテーション>!」
「何っ!」

 スキルを発動した瞬間、俺とルカの姿が光に包まれる。
 ザラストロの怒りに満ちた顔が一瞬浮かんで、そして俺の意識は消えていった。
 
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