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第二部:覚悟の種が揺れる
第6章:絆という名の盾 第5話:背中を預ける日
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谷の奥にひっそりと佇む遺構の一角──水音が反響する洞窟の奥深く、魔獣の巣はそこにあった。
依頼の対象は、その巣と魔獣の殲滅。既に戦いは終わり、血と泥の混じった空間に、静寂が戻っていた。
「……全員、無事」
リリィが周囲を見渡し、短く呟く。
魔獣の死骸を確認しながら、カイが手を振った。
「よし、終わり! 依頼完了だな。長いこと歩いた割に、オチはあっけなかったな~」
「戦闘は短くて済んだ方がいいわ。傷も少ないし……本当によかった」
クレアの声には、ほっとした響きがあった。
ニコがうなずく。
「みんながいたからこそですね。……本当に」
ガルドは何も言わず、その会話の輪の一歩外にいた。斧の手入れをするふりをして、目は皆の姿を確かめていた。
──守りきった。それだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
依頼報告用の証拠を集め終え、一行は帰路についた。
谷を登り、崩れた足場を回避しながら、元来たルートを逆に辿っていく。
幾度となく通った渓谷の風景が、なぜか今は柔らかく感じられる。水の流れ、風の通り、苔の匂い。すべてが“無事に帰れること”の証に思えた。
「……なんか、空気が軽いよね」
ニコがふと呟いた。
「それはお前がケガしてねぇからだろ」
カイがからかうように返す。
「違いますよ。……なんというか、皆の歩幅が、合ってる気がするんです」
その言葉に、クレアが少しだけ振り返った。
「……確かに」
「最初の頃はバラバラだったもんね。足音も、呼吸も、視線も」
リリィが珍しく、言葉を重ねた。
「でも今は……一つになってる。そんな気がする」
誰も、それに反論しなかった。
ガルドは無言のまま、それでもその会話の中心から離れようとはしなかった。いつの間にか、自然と“その中”にいる。誰もそれを意識しなくなっている──それが、何よりの証だった。
昼を過ぎ、太陽の光が谷の上から差し込む頃、登り道に差しかかった。
「うへー、ここが最後の鬼門だな」
カイが腕を振って伸びをする。
「帰ったら、甘いもの食べたい……」
ニコが苦笑する。
「じゃあ、皆で食べましょ。今度は街で、ちゃんとした甘いもの」
クレアが笑った。
リリィはうつむきながら、ぽつりと。
「……そういうのも、悪くないかも」
ガルドは、そのすべてを背中で聞いていた。微かな息遣い、靴音のリズム、草を踏む感触。仲間の存在が、自分のすぐ後ろにあることを、確かに感じ取っていた。
崖の上まで登りきったとき、視界が一気に開けた。
乾いた風が、草を揺らして吹き抜けていく。遠くに見えるのは、出発地点となったギルドの補給拠点。そこから先には、街と、日常がある。
「よっしゃー! ここまで戻ればもう安心だな!」
カイが両腕を掲げて伸びをした。
「……ふぅ」
ニコも息をついて、地面にしゃがみ込む。
「やり切ったわね。……ガルドさん、無理してない?」
クレアが声をかけると、ガルドは小さくうなずくだけだった。
左肩にはまだ包帯が巻かれている。クレアの治癒術で出血は止まり、痛みも抑えているとはいえ、完全には癒えていない。
それでも彼は、一言も弱音を吐かず、崖すら他の誰より早く登りきっていた。
「ほんとにもう、鉄壁どころか、鋼鉄製かよ……」
カイが肩をすくめると、ふと思い出したように言った。
「なぁ、おっさん。……いや、ガルドさん」
その呼び方に一瞬、全員が振り返る。カイは苦笑しながら、真正面から彼を見た。
「……正直な話、最近すげぇ頼りにしてんだよ。おっさんが前にいるとさ、なんか俺もちゃんと動こうって思えるんだよな」
唐突すぎるその言葉に、リリィが少しだけ目を丸くした。
ニコは、ふっと微笑んだ。
ガルドはと言えば──何も言わなかった。眉も動かさず、ただ、静かに皆の中に立っていた。
クレアがやわらかく笑って言う。
「皆、そう思っているわよ。きっと」
「……信頼って、言葉だけじゃなくて、背中でわかるもんだな」
カイがぽつりと呟いた。
「背中で……」
ニコがガルドの背を見る。
大きく無言でそしていつも前に立つその背中。怖さや重たさじゃない。今は、安心と支えの象徴だった。
リリィが視線だけでニコに頷く。もう、彼の背中は“壁”ではない。
ギルドに戻った一行は、無事に依頼達成の報告を終えた。
ギルドの受付にいるマルタが、いつもの朗らかな声で言う。
「いやぁ、全員揃って帰ってきてくれて、ほんとによかった! 今回の依頼、難易度高めだったから心配していたんだから!」
「ふふ……おかげさまで、少しだけ強くなれた気がします」
クレアが微笑み、ニコもうなずく。
「それにね、マルタさん。僕たち、ちょっとだけ変わったんですよ」
「ほう、どんなふうに?」
マルタが首を傾げる。
ニコは、隣に立つガルドの背中を見てから、静かに答えた。
「……背中を預けるって、こういうことなんだなって。初めて、ちゃんと分かった気がします」
その言葉に、マルタは目を細めて頷いた。
「うんうん、それってとっても大事なことよ。何をするにしても、信じられる背中があるって、強さになるもん」
ガルドはその会話にも加わらなかったが、最後にマルタと目が合ったとき、ほんのわずかに頷いた。それは彼なりの“同意”だった。
その夜、ガルドは一人、外に出ていた。
月の明かりが街の石畳に降り注ぐ。少しだけ夜風が肌を撫で、肩の傷に冷たさを伝える。けれど、彼の歩みは止まらない。
自分の背中を、誰かが見ているという、その感覚があれば。
彼はもう、誰も拒まない。守ることを誇りとして抱いている。
無言のまま夜空を見上げ、そっと瞼を閉じた。
──静かに、そして確かに。盾の男は、仲間の中に立っていた。
依頼の対象は、その巣と魔獣の殲滅。既に戦いは終わり、血と泥の混じった空間に、静寂が戻っていた。
「……全員、無事」
リリィが周囲を見渡し、短く呟く。
魔獣の死骸を確認しながら、カイが手を振った。
「よし、終わり! 依頼完了だな。長いこと歩いた割に、オチはあっけなかったな~」
「戦闘は短くて済んだ方がいいわ。傷も少ないし……本当によかった」
クレアの声には、ほっとした響きがあった。
ニコがうなずく。
「みんながいたからこそですね。……本当に」
ガルドは何も言わず、その会話の輪の一歩外にいた。斧の手入れをするふりをして、目は皆の姿を確かめていた。
──守りきった。それだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
依頼報告用の証拠を集め終え、一行は帰路についた。
谷を登り、崩れた足場を回避しながら、元来たルートを逆に辿っていく。
幾度となく通った渓谷の風景が、なぜか今は柔らかく感じられる。水の流れ、風の通り、苔の匂い。すべてが“無事に帰れること”の証に思えた。
「……なんか、空気が軽いよね」
ニコがふと呟いた。
「それはお前がケガしてねぇからだろ」
カイがからかうように返す。
「違いますよ。……なんというか、皆の歩幅が、合ってる気がするんです」
その言葉に、クレアが少しだけ振り返った。
「……確かに」
「最初の頃はバラバラだったもんね。足音も、呼吸も、視線も」
リリィが珍しく、言葉を重ねた。
「でも今は……一つになってる。そんな気がする」
誰も、それに反論しなかった。
ガルドは無言のまま、それでもその会話の中心から離れようとはしなかった。いつの間にか、自然と“その中”にいる。誰もそれを意識しなくなっている──それが、何よりの証だった。
昼を過ぎ、太陽の光が谷の上から差し込む頃、登り道に差しかかった。
「うへー、ここが最後の鬼門だな」
カイが腕を振って伸びをする。
「帰ったら、甘いもの食べたい……」
ニコが苦笑する。
「じゃあ、皆で食べましょ。今度は街で、ちゃんとした甘いもの」
クレアが笑った。
リリィはうつむきながら、ぽつりと。
「……そういうのも、悪くないかも」
ガルドは、そのすべてを背中で聞いていた。微かな息遣い、靴音のリズム、草を踏む感触。仲間の存在が、自分のすぐ後ろにあることを、確かに感じ取っていた。
崖の上まで登りきったとき、視界が一気に開けた。
乾いた風が、草を揺らして吹き抜けていく。遠くに見えるのは、出発地点となったギルドの補給拠点。そこから先には、街と、日常がある。
「よっしゃー! ここまで戻ればもう安心だな!」
カイが両腕を掲げて伸びをした。
「……ふぅ」
ニコも息をついて、地面にしゃがみ込む。
「やり切ったわね。……ガルドさん、無理してない?」
クレアが声をかけると、ガルドは小さくうなずくだけだった。
左肩にはまだ包帯が巻かれている。クレアの治癒術で出血は止まり、痛みも抑えているとはいえ、完全には癒えていない。
それでも彼は、一言も弱音を吐かず、崖すら他の誰より早く登りきっていた。
「ほんとにもう、鉄壁どころか、鋼鉄製かよ……」
カイが肩をすくめると、ふと思い出したように言った。
「なぁ、おっさん。……いや、ガルドさん」
その呼び方に一瞬、全員が振り返る。カイは苦笑しながら、真正面から彼を見た。
「……正直な話、最近すげぇ頼りにしてんだよ。おっさんが前にいるとさ、なんか俺もちゃんと動こうって思えるんだよな」
唐突すぎるその言葉に、リリィが少しだけ目を丸くした。
ニコは、ふっと微笑んだ。
ガルドはと言えば──何も言わなかった。眉も動かさず、ただ、静かに皆の中に立っていた。
クレアがやわらかく笑って言う。
「皆、そう思っているわよ。きっと」
「……信頼って、言葉だけじゃなくて、背中でわかるもんだな」
カイがぽつりと呟いた。
「背中で……」
ニコがガルドの背を見る。
大きく無言でそしていつも前に立つその背中。怖さや重たさじゃない。今は、安心と支えの象徴だった。
リリィが視線だけでニコに頷く。もう、彼の背中は“壁”ではない。
ギルドに戻った一行は、無事に依頼達成の報告を終えた。
ギルドの受付にいるマルタが、いつもの朗らかな声で言う。
「いやぁ、全員揃って帰ってきてくれて、ほんとによかった! 今回の依頼、難易度高めだったから心配していたんだから!」
「ふふ……おかげさまで、少しだけ強くなれた気がします」
クレアが微笑み、ニコもうなずく。
「それにね、マルタさん。僕たち、ちょっとだけ変わったんですよ」
「ほう、どんなふうに?」
マルタが首を傾げる。
ニコは、隣に立つガルドの背中を見てから、静かに答えた。
「……背中を預けるって、こういうことなんだなって。初めて、ちゃんと分かった気がします」
その言葉に、マルタは目を細めて頷いた。
「うんうん、それってとっても大事なことよ。何をするにしても、信じられる背中があるって、強さになるもん」
ガルドはその会話にも加わらなかったが、最後にマルタと目が合ったとき、ほんのわずかに頷いた。それは彼なりの“同意”だった。
その夜、ガルドは一人、外に出ていた。
月の明かりが街の石畳に降り注ぐ。少しだけ夜風が肌を撫で、肩の傷に冷たさを伝える。けれど、彼の歩みは止まらない。
自分の背中を、誰かが見ているという、その感覚があれば。
彼はもう、誰も拒まない。守ることを誇りとして抱いている。
無言のまま夜空を見上げ、そっと瞼を閉じた。
──静かに、そして確かに。盾の男は、仲間の中に立っていた。
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序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
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