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第二部:覚悟の種が揺れる
第7章:雷と風の兄弟 第5話:カイ──風のように、ここにいる
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焦土の断層地帯での任務は、ついに終わりを迎えた。
長い一日だった。灼熱の戦いも、心に刺さる言葉も、すべてが焼けついた大地に刻み込まれている。
焔の牙との共闘を経て、俺たちブルーミング・ルーツはようやく目的地である魔獣の巣穴を完全制圧し、ギルドへの帰還報告の準備を始めていた。
魔獣の死骸から立ち昇る焦げ臭い煙、足元には崩れた岩と灰。けれど、その隙間に微かに咲く花をリリィが黙って拾い上げている。
「……これ、たくましい」
ぽつりと彼女が呟いた。リリィの指先の花弁が、煤で薄く汚れていたが、風に吹かれるたびにしなやかに揺れている。
「案外、根性あるんだな。その花」
俺がからかい気味に言うと、リリィは微かに眉を上げる。
「そうじゃなくて……生きてるってこと」
照れくさいのか、それ以上は何も言わなかった。
いつものリリィらしい静かな優しさだと思った。
別の場所にいる焔の牙の一行は、すでに片付けを始めていた。
レグナは剣の刃先を布で拭い、短く仲間に指示を飛ばす。メルは一度も声を発さずに周囲の警戒を続けている。トムだけは、何やら楽しそうに石を蹴りながら歩いていた。
彼らの動きは、いつも通り効率的で――どこか孤独だった。
レグナが最後にこちらへ歩み寄ってきた。
「カイ」
その名を呼ばれ、俺は少し身構えた。
「なんだよ、まだ用事か?」
「……変わったな、お前」
レグナはそれだけ言うと、俺の肩を軽く叩いた。
「前はただ突っ走るだけのガキだったのに。今は、いい顔してるぜ」
意外な言葉に、思わず苦笑する。
「年食っただけだろ」
「ふん、なら俺もまだまだ伸びしろあるな」
レグナは、わずかに口角を上げて笑った。
「ま、あんまり調子乗るなよ。次は負けねぇ」
「上等だ。けど、今度はこっちの仲間もいるからな」
軽口を交わし合い、互いの拳を軽く合わせる。
その様子をジーナが遠くから見ていた。
「行くわよ、レグナ」
ジーナの静かな声にうながされ、焔の牙の面々はゆっくりと歩き去っていく。
その背中を、しばらく無言で見送った。
静寂の中、風だけが焦土の上を通り抜けていく。どこか切なさを感じる風――けれど、嫌じゃなかった。
仲間たちもそれぞれ片付けを終え、ニコはギルド用の報告書を作っている。クレアは怪我の手当てをしながら、仲間一人ひとりの無事を確認していた。ガルドは最後まで無言で周囲を警戒し、リリィはもう一度、小さな花を岩の影にそっと戻している。
俺はふと、胸の奥に空洞があいたような感覚を覚えた。戦いも、言い争いも、すべてが終わった後の静けさ――
それでも、今はこの空気に身を預けてみたかった。
焦土の片隅で、しばし遠くの空を眺める。風の精霊が、まるで労うように肩に触れていく。
静かな余韻が焦土の現場を包む。
焔の牙の足音が遠ざかり、風だけが残った。彼らの強さも、孤高さも、どこか切ないほど鮮烈に焼きついている。
「……さ、帰ろうか」
ニコがそっと言った。
クレアが「全員けがはない?」と確認し、ガルドが無言で頷く。リリィは小さな花をそっと土に戻し、何も言わずに歩き出した。
俺はその背中をしばらく見送ってから、深呼吸をする。風が髪を撫で、肩先で光の玉が静かに明滅していた。
焦土の余熱はまだ大地に残っていたけれど、心の中は妙に軽い。
パーティでの帰還は、以前より自然だった。昔なら、俺はいつも一番後ろを歩いて、勝手に道草を食っていた。今は皆と同じ速度で、黙って歩いている。それだけなのに、不思議と“寂しさ”はなかった。
帰還の道すがら、
「……カイ」
ガルドが短く声をかけてくる。
「無茶はもうするな」
「……わかってる」
やり取りはそれだけ。でも、その声が妙にあたたかく感じられた。
クレアが笑顔で、
「カイのおかげで、今回は早く終わりましたよ」
「そんなことない。みんなのおかげだろ」
「ううん、みんなが力を出せたのは、カイの精霊術があったからです」
素直なその言葉に、心がじわっと熱を帯びた。
リリィはやっぱり何も言わなかった。
でも歩きながら、時々こちらを見ては、ふっと視線を外す。その沈黙が “ありがとう”の代わりなんだとわかるようになった。
ふと、足元に柔らかな風が流れる。風の精霊が寄り添い、雷の光がふと指先で跳ねる。
「……ま、悪くないな、ここ。案外」
小さく呟いたその言葉が、思ったより大きく胸に響いた。
パーティの誰もが特に何も言わず、それぞれの歩幅で帰還の道を進む。でも、それぞれが“ここにいる”――それだけで十分だった。
全員が無事に依頼を果たした。
俺は小さく、仲間の背中を見ながら思う。
(――風のように、ここにいる。誰かの力になれるなら、それでいい)
焦げた空気の残り香と、仲間の存在のぬくもり。どちらも、今の自分には大切なものだった。
長い一日だった。灼熱の戦いも、心に刺さる言葉も、すべてが焼けついた大地に刻み込まれている。
焔の牙との共闘を経て、俺たちブルーミング・ルーツはようやく目的地である魔獣の巣穴を完全制圧し、ギルドへの帰還報告の準備を始めていた。
魔獣の死骸から立ち昇る焦げ臭い煙、足元には崩れた岩と灰。けれど、その隙間に微かに咲く花をリリィが黙って拾い上げている。
「……これ、たくましい」
ぽつりと彼女が呟いた。リリィの指先の花弁が、煤で薄く汚れていたが、風に吹かれるたびにしなやかに揺れている。
「案外、根性あるんだな。その花」
俺がからかい気味に言うと、リリィは微かに眉を上げる。
「そうじゃなくて……生きてるってこと」
照れくさいのか、それ以上は何も言わなかった。
いつものリリィらしい静かな優しさだと思った。
別の場所にいる焔の牙の一行は、すでに片付けを始めていた。
レグナは剣の刃先を布で拭い、短く仲間に指示を飛ばす。メルは一度も声を発さずに周囲の警戒を続けている。トムだけは、何やら楽しそうに石を蹴りながら歩いていた。
彼らの動きは、いつも通り効率的で――どこか孤独だった。
レグナが最後にこちらへ歩み寄ってきた。
「カイ」
その名を呼ばれ、俺は少し身構えた。
「なんだよ、まだ用事か?」
「……変わったな、お前」
レグナはそれだけ言うと、俺の肩を軽く叩いた。
「前はただ突っ走るだけのガキだったのに。今は、いい顔してるぜ」
意外な言葉に、思わず苦笑する。
「年食っただけだろ」
「ふん、なら俺もまだまだ伸びしろあるな」
レグナは、わずかに口角を上げて笑った。
「ま、あんまり調子乗るなよ。次は負けねぇ」
「上等だ。けど、今度はこっちの仲間もいるからな」
軽口を交わし合い、互いの拳を軽く合わせる。
その様子をジーナが遠くから見ていた。
「行くわよ、レグナ」
ジーナの静かな声にうながされ、焔の牙の面々はゆっくりと歩き去っていく。
その背中を、しばらく無言で見送った。
静寂の中、風だけが焦土の上を通り抜けていく。どこか切なさを感じる風――けれど、嫌じゃなかった。
仲間たちもそれぞれ片付けを終え、ニコはギルド用の報告書を作っている。クレアは怪我の手当てをしながら、仲間一人ひとりの無事を確認していた。ガルドは最後まで無言で周囲を警戒し、リリィはもう一度、小さな花を岩の影にそっと戻している。
俺はふと、胸の奥に空洞があいたような感覚を覚えた。戦いも、言い争いも、すべてが終わった後の静けさ――
それでも、今はこの空気に身を預けてみたかった。
焦土の片隅で、しばし遠くの空を眺める。風の精霊が、まるで労うように肩に触れていく。
静かな余韻が焦土の現場を包む。
焔の牙の足音が遠ざかり、風だけが残った。彼らの強さも、孤高さも、どこか切ないほど鮮烈に焼きついている。
「……さ、帰ろうか」
ニコがそっと言った。
クレアが「全員けがはない?」と確認し、ガルドが無言で頷く。リリィは小さな花をそっと土に戻し、何も言わずに歩き出した。
俺はその背中をしばらく見送ってから、深呼吸をする。風が髪を撫で、肩先で光の玉が静かに明滅していた。
焦土の余熱はまだ大地に残っていたけれど、心の中は妙に軽い。
パーティでの帰還は、以前より自然だった。昔なら、俺はいつも一番後ろを歩いて、勝手に道草を食っていた。今は皆と同じ速度で、黙って歩いている。それだけなのに、不思議と“寂しさ”はなかった。
帰還の道すがら、
「……カイ」
ガルドが短く声をかけてくる。
「無茶はもうするな」
「……わかってる」
やり取りはそれだけ。でも、その声が妙にあたたかく感じられた。
クレアが笑顔で、
「カイのおかげで、今回は早く終わりましたよ」
「そんなことない。みんなのおかげだろ」
「ううん、みんなが力を出せたのは、カイの精霊術があったからです」
素直なその言葉に、心がじわっと熱を帯びた。
リリィはやっぱり何も言わなかった。
でも歩きながら、時々こちらを見ては、ふっと視線を外す。その沈黙が “ありがとう”の代わりなんだとわかるようになった。
ふと、足元に柔らかな風が流れる。風の精霊が寄り添い、雷の光がふと指先で跳ねる。
「……ま、悪くないな、ここ。案外」
小さく呟いたその言葉が、思ったより大きく胸に響いた。
パーティの誰もが特に何も言わず、それぞれの歩幅で帰還の道を進む。でも、それぞれが“ここにいる”――それだけで十分だった。
全員が無事に依頼を果たした。
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翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
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二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
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