英雄は根に咲く

ぼん

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第五部:決断の種を咲かせる

第21章:最後の咆哮 第3話:カイ、真剣になる

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 焼け焦げた空気が、肺の奥まで突き刺さる。

 足元に転がる焦土は熱を帯び、今にも全身を灼き尽くそうとしている。だけど――そんな熱よりも、俺の胸の内で煮えたぎる想いの方が、よほど熱かった。

 目の前にはレグナ。

 その背中は、かつて俺が憧れた男のものだった。

 だが今は、どこまでも遠く、ひどく小さく見える。

「終わりたいから戦う? そんなの、勝手すぎるだろ……ふざけんなよ」

 自然と、拳に力がこもる。

 気づけば、俺の手のひらには雷の光が、そして熱を帯びた火の光の玉が、静かに寄り添っていた。

 レグナが、焦土の中でじっと俺を見返す。

「……カイ、もう俺にはどうしようもないんだよ」

「それでも、俺には関係ねぇよ。お前がどんなに終わりたいって叫んだって、仲間が傷つくのは、俺は許せねぇんだよ」

 普段なら冗談のひとつも飛ばして、場の空気を変えていただろう。

 だけど今は――本気だ。

 怒りでも、悲しみでもない。“真剣”という言葉だけが、全身を貫いていた。
 
 焼け野の断層に響く、静かなざわめき。

 焔の牙の仲間たちも、俺たちブルーミング・ルーツも、みんながこの空気の中で、何かを見守っていた。

 それぞれが、言葉にできない想いを抱えて。
 
 レグナの周囲で光の玉たちが暴れ、火花を散らす。

 雷の色、火の色、どれもが今にも爆発しそうなほど、張り詰めていた。

「止まらないって言ったよな。だったら、俺が止める。お前がどんなに強くても、俺の本気は、それ以上だ」

 言葉が口から漏れるたび、体が熱くなる。

 この気持ちは“怒り”でも“悲しみ”でもない。

 ただ――今ここで、レグナと本気でぶつからなきゃいけない、そんな気がしていた。
 
 俺の光の玉が、一層まばゆい輝きを放つ。雷と火の精霊が俺の周囲を滑り、拳に集まる。

「行くぞ、レグナ!」

 俺の叫びが、焦土に響いた。

 レグナもまた、静かに立ち上がる。

「……カイ、お前は変わらないな。本気でぶつかってくる、その感じ、……嫌いじゃない」

「だったら、手加減はしねぇ」
 
 周囲の空気が一気に熱を増す。俺とレグナ、二人の光の玉が互いに呼応しあうように揺れる。
 
 ジーナが一歩下がり、トムとメルも構えを解く。

 ブルーミング・ルーツの仲間たちも、静かにその場を見守っている。

 リリィは矢を下ろし、クレアは胸元で光の玉を祈るように抱えていた。

 ガルドさんは、無言でこの一戦を受け止めようとしている。
 
 この場にいる全員が、何かを決めた顔をしていた。でも、今この瞬間――

 レグナと俺だけが、たった二人だけの世界にいる気がした。

 レグナが静かに拳を握る。その瞳には、もう逃げも誤魔化しもなかった。

 俺も、今だけは冗談も言わない。胸の奥に張りつめたままの熱と、一つになった。

「……カイ。俺は、間違ってたのかもしれない」

 レグナが絞り出すように言った。

 その声に、焦土を吹き抜ける風までが一瞬止まった気がした。

「強さばかりを求めて、仲間も、精霊も、全部――手段にしてしまった。守るつもりが、逆に何もかも遠ざけてた」

 俺は一歩、前へ出る。

「気づいたんなら、それで終わりにすんなよ」

 思わず、声が荒くなる。

「お前がどれだけ間違えても、俺たちは仲間だろ。背中向けて終わりにしていい関係じゃねぇだろ!」

 レグナの目が、かすかに揺れる。

「……俺が、この手で傷つけたものは、もう戻せない」

「だったら、ここで全部さらけ出せよ。戦って、泣いて、叫んで、それでも残るもんがあるなら、それが“お前”だろ!」

 今までの俺なら、こんな青臭い言葉、絶対に吐かなかったと思う。

 だけど今は、心の奥がひりひりするほど“真剣”だった。
 
 レグナが微かに笑う。

 どこかで、肩の力が抜けたような、ほっとした笑みだった。

「お前、ほんと、変わらねぇな……」

「そっちこそ。変わらないでいてくれよ。俺にとっての“レグナ”は、そういうヤツなんだから」
 
 互いの距離が、もう一歩だけ縮まった気がした。でも次の瞬間、レグナの光の玉が一際強く輝く。

「……それでも、俺はここで終わらせたい。全部背負ったまま、前に進むのが怖いんだよ」

「だったら、俺がぶっ壊してやる。その“終わりたい”って気持ちごと、全部!」

 拳を握りしめる。雷が走り、火の精霊が舞う。

 俺の光の玉が、レグナのものとぶつかり合う瞬間を待っている。
 
 まわりで、誰かが息を呑む気配。ジーナもトムもメルも、静かに見守っている。

 クレアもリリィも、ガルドもニコも――みんなが、俺たちを信じてくれている。

 その想いが、さらに俺を強くした。
 
 レグナが構えた。

 俺も足を踏みしめる。

「……カイ。お前の“真剣”、受け取るぜ」

「言っただろ。今だけは、本気で行く」
 
 次の瞬間、俺たちの拳がぶつかった。

 火と雷の精霊術が、焦土に爆ぜる。

 轟音とともに、地面が揺れる。
 
 痛みも、熱も、今はどうでもよかった。ただ、俺の全てを、レグナにぶつけたかった。
 
 ――終わりたいから戦う、なんて理由、絶対に認めねぇ。
 
 拳がもう一度ぶつかる。雷光が一瞬、世界を照らす。

 レグナの目が見開かれ、その奥にかすかな涙が浮かんでいる気がした。
 
「……カイ、俺は……」

「俺は、お前が好きだったよ。強いけど、不器用で、だけど仲間想いで――そんなお前が、俺の憧れだった!」

 叫びながら、拳を振るう。

 身体の奥が焼ける。けど、やめられない。
 
 何度もぶつかる。

 何度も、火と雷が弾ける。

 その度に、レグナの心の壁が少しずつ壊れていくのが分かった。
 
 俺は、どこまでも真剣だった。

 どんなに殴っても、涙が出そうになるくらい、本気でレグナと向き合っていた。
 
 焦土の空に、雷鳴と火炎の響きが消えていく。気づけば、レグナはその場に膝をついていた。
 
「カイ……」

 その声は、まるで泣き出しそうだった。
 
 ――俺の“真剣”が、ようやく届いた気がした。
 
 静寂が、焦土を包み込む。遠くで、風が焼けた地面を撫でていった。
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