召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第29話 ミルフィーユの街(2)

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 がらがらがらがらがらがら…… 

 ひとけのない街に、滑車の乾いた音が響き渡っている。

 『第一城壁』を飛び出した四人は、『街路』を下っていた。

 「まさか、宰相がここまでやるとはな」
 「ああ、まったくじゃ」
 「我々の食糧が底をつくまで、待ちきれなかったんでしょうかね」


 『第一城壁』から『第二城壁』へとつながる『街路』は数本しかなく、しかも道幅も狭い。
 彼らは、その迷路のような『街路』を、一気に駆け下りていた。

 「わたしは、何か、状況が変わったんだと思うわ」

 弓を背にしたエルフのイザベルが、ぽつりと言った。

 「例の『炎の柱』だろうね」

 領主のアルベールが、うなずき返した。
 同じことを考えていたのだろう。

 「ええ…。その可能性は高いと思う」
 「あれって、今朝のことじゃねえか。宰相のヤロウ。決断が、早すぎるんじゃねえの」
 
 身の丈ほどもある、剣を背負っているエルフが、はき捨てるように言った。

 「むしろ、気が小さいんじゃろう」
 「そうですね…。すこしでも気になることがあると、じっとしていられない方ですから」
 「一国の宰相だぞ。もっと、どっしり構えてろよ」
 「生まれついた性格は、権力を握ったところで、変わらぬものよ」
 
 のんきに会話を交わしながらも、予定していた場所にたどりついた時。


 ズウウウウウウウウウン……


 街なかを、大きな地響きが走った。

 「やってくれたみたいね」
 「ああ…。『跳ね橋』が降りちまったな」
 「魔物が、来るぞい」
 
 彼らはそれぞれ、長年、共に戦ってきた得物を構えた。

 「ひさしぶりのお客様ですね」

 空には、かすかに赤みが残っていたが、街は、すっかり闇に閉ざされている。

 その闇に閉ざされた街を、真っ赤な眼光が、埋め尽くそうとしていた。
 竜騎士によって開けられた城門を、くぐり抜けて来た魔物どもだ。

 『第二城壁』から、『中央通り』を駆け上がると、大きな『広場』に出る。
 集会や、祭りなどの会場として使われていた『広場』だった。

 この『広場』から、『第一城壁』につながる『街路』は、急に狭くなる。
 四人は、『広場』から少し上の、狭い『街路』に陣取っていた。

 たしかに、魔物は、大群である。
 しかし、この狭い『街路』を駆け上がって来られる『数』は、限られている。

 大群に囲まれれば、一巻の終わり。
 だから、狭い『街路』におびき寄せて、少しずつ削るしかない。

 「まずわたしが、広場に集まった魔物に一発。火魔法をぶちかまします。
  その炎をかいくぐって上ってきた連中を、エミールとレギンで刈り取ってください」

 「「了解」」
 

 エミールは巨大な剣を、レギンは小柄な体格には似合わぬほどの大きなバトルアックスを手に、坂をすこしばかり降りたところで待機した。

 「じゃあ、わたしは、ふたりをすり抜けたやつを仕留めるわ」

 四人は、往年の、Sクラスパーティである。
 といっても、年々老けていくのは、ヒューマンのアルベールだけだ。

 城門が開くと同時に駆け上ってきたような、ザコの魔物を恐れるようすは微塵もなかった。

 しかし、魔物は、数え切れないほど城門をくぐって入ってくる。
 いずれ、「数」で押されるのは、子供にもわかる道理だ。
 さらに、その後には、大物がやってくるに違いない。


 「まあ、そんな感じで、バテるまでは、死骸の山でも築いて、バテたら、『第一城壁』に逃げ込みましょう」
 「そのあとは…どうするんじゃ?」

 ドワーフのレギンは、振り向きもせずに尋ねた。

 「…そうですね。まあ、それは、あとで考えるとしましょう…」
 「ああ。オレは、それでいいぜ」
 「わたしも…」

 矢をつがえながら、イザベルが続けて言った。

 「今は、今できることを精一杯やればいいわ」
 「あいかわらずじゃのう」
 
 そういいながら、レギンも笑っている。

 いつも、こんな感じでやってきて、それでも、生き残ってきた。
 だから、今度も、きっと大丈夫だろう。

 このあっけらかんとした、楽観主義こそ、彼らの強さの源だった。


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