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 何故だ。何故、エドアルドは俺の事を避ける。色々考えを巡らせ、無い時間を無理やり作って会おうとしても、あーだこーだと理由をつけて避けられ続けて早半月。俺はエドアルドにお礼をするどころか、一目奴の姿を見ることすら叶わない。誰がどう見ても、完っ璧に避けられていた。
 どうして? なんて馬鹿な質問、今更しない。だって俺、避けられる心当たり有りまくりだし。仮にもこの国の宰相様のエドアルドを、いいように使ったこと? それか、いつまでもウジウジグダグダしておきながら、結局自分に都合のいいように流される俺に呆れたのかも。今の今まで忘れていたが、悪い噂の絶えないあの熊男のこともある。他にも色々やらかした心当たりが。なんにせよ、心当たりが多過ぎてどれが原因か分からない。あるいは全部が理由かも。……そりゃぁ愛想も尽きるわ。
 そうか、若しかして若しかすると、俺はエドアルドに捨てられたのか。……いや早まるな、そうと決まったわけじゃない。だって未だ避けられてるだけだし! 徹底的にだけど。絶縁とかも言い渡されてないから! 自然消滅狙ってんのかもしれないけど。援助もされてるし! 自分で言うのもなんだけど、研究だけは使えるからかも。ま、まあ、未だ大丈夫な筈。……多分。
 そんな絶望的な現状に地の底まで落ち込みたいところだが、そうも言ってられない。今の俺にはやるべきことが山程ある。なんなら山積みで積み過ぎて雪崩を起こしてるまであった。研究に関する講演会に、学術誌への寄稿、他の研究者達との連帯……。仕事はいくらこなしても次から次へと湧いてきて、片付く気配は全くない。
 それでも研究自体は一段落したので、体は暇がなくても頭で物を考える余裕はあった。今まで研究活動にリソースの大部分が割かれていた脳みそが他のことに使えるようになった分、余計に。その脳みそでまた別の研究テーマでも見つけられればいいのだが、生憎と気になったことしか考えられない難儀な作りの俺の脳みそが今気になっているのは、エドアルドのこと。前まであんなにも俺にベタベタの甘々だったのに、最近になってスッカリ疎遠になってしまった、アイツの事だけだ。
「これはこれは、アーリ殿! お久しぶりです、こんなところで会えるとは思いもしませんでした! お噂はかねがね聞いておりますよ。いやー、私もあなたの研究には前々から注目していたんです」
「はあ、そうですか」
 下卑たニヤニヤ笑いが気持ち悪い太鼓腹の男が、揉み手をしながら媚びを売ってくる。俺とお近付きになって、なにか得をしようと企んでいるのだろう。その口振りからするに以前にもどこかて会ったことがあるようだが、全く記憶にない。どうせいつかのパーティーで俺を見かけていた程度だろう。流石に過去に援助を申し出て逃げ出した相手ならある程度分かっている。なんにせよ、自分の損得しか頭にない、構わなくていい人間だ。適当に相手をして受け流す。
 ここはなにかの授賞式のパーティー会場。俺の研究が大きな賞を受賞することが決まって、たった1人の研究員であり、責任者でもある俺が呼ばれたのだ。嫌で嫌で堪らないながらも、今の俺は以前よりもこうして顔繋ぎのパーティーに出るようになっていた。理由は簡単。エドアルドに会えるしれないから。俺が普通に訪ねていくよりも、こういう国の重鎮が公務で呼ばれるような場に俺が言った方が会える可能性が高いと俺は考えたのだ。
 まあ、それでもやっぱりエドアルドは代役を立てたり、お言葉だけ送ってきたりして済ませてるけど。最近ヴェチェッリオ様お見かけしませんね。ご政務がお忙しいのかしら? なーんて噂が耳の遠い俺にまで聞こえてくるくらいだ。相当徹底してる。そんなに俺の事避けたいのかよ。
 研究については考えなくなったが、その分エドアルドについて考えているので、俺の扱いにくさは以前とどっこいどっこい。やっぱり自分の考えに没頭して直ぐマイワールドにトリップするし、社会常識がなくて受け答えも頓珍漢。研究に関する質問をされることも増えたが、俺は噛み砕いて説明するということができないので、余っ程俺と相性が良くない限り大抵の人間は何が何だか訳が分からないという顔をして帰っていく。本当、相変わらず研究以外は何をやらせても駄目駄目だ。
 それでも、俺の周りには以前よりは人が増えた。その目的は分かり切っている。研究に成功し、今や俺は若くして押しも押されぬ大研究者だ。その功績を理由に国内外の組織から授与された勲章はドッチャリ山と積める程。名誉顧問やら名誉教授やらにならないかという打診は引きもきらず。巷では俺の苦労と成功の話が尾鰭をつけて語られている。正しく俺は、時の人となったのだ。そんな俺の栄光のお零れに、少しでもいいから自分も肖りたいと考える奴らが擦り寄ってきやがってくる。
 そう、変わったのは周りの態度。俺は何も変わっちゃいない。世界は俺を置いてけぼりに目まぐるしく変わっていく。前まで俺のことをゴミみたいに扱っていた奴らが、掌返しに下にも置かない振る舞いをする。人の変わり身とは時に恐ろしくなるな。兄さんを始めとした身近な人間が前と変わらず優しく穏やかなのが唯一の救いだ。
 本当はその優しくしてくれる人達の中にエドアルドも居てくれたらよかったんだけど……。まあ、無理は言わない。でも、俺が特に変わった覚えがないのなら、若しかして避けられているのはエドアルドの方に何か心境の変化でもあったのだろうか。やっぱり、いい加減俺に愛想が尽きたのかもしれない。それに関しては心当たりしかないし、今更それ等を改善してもどうしようもないので、今からでは後悔するくらいしかできなかった。
 ああ、俺はエドアルドとどうなりたいのだろう。自分でもよく分からない。手を取り合って仲直り? 仲違いしたのかどうかすら分からないのに無理な話だ。また以前のような関係性に戻りたい? ここまで徹底的に拒絶されてそれは不可能だろう。本当は、またあの優しい目付きで俺を見て、柔らかく頭を撫でてもらいたいだけなのに……。もう到底叶いそうにない過去のことを思い起こし、それでも諦めきれずにションボリと落ち込む。
 そうして俺は、毎日考えた。エドアルドについて。どうしたらまた以前のような関係に戻れるのか、またあの頃のように接してもらうには? それが駄目ならせめて一目相見えるにはどうしたらいい? 考えて考えて、日がな1日考えて……そしてどうやら考え過ぎてしまったらしい。考え事に夢中になってろくすぽ休息を取らず疲労が溜まっていたことも祟り、ある日のパーティー会場で俺は久しぶりにぶっ倒れたのだった。





 俺は昔から夢を見ない。疲れ果てて気絶してそのまま睡眠に突入といった眠り方ばかりとっていたので、体力的な余力の問題から夢すら見れなかったのだ。今回もそうだった。夢もクソもない、全くの無。そんな眠りの中から、フッと意識だけが浮上した。
 体が動かない。指、手、足。頭は辛うじて働くけど、それ以外はスイッチが切れたみたいにピクリとも言うことを聞いてくれなかった。それだけ疲れているのだ。頭が1番に回復するなんて、実に俺らしい。
 どうやら俺は、どこかのフカフカベッドに寝かされているらしかった。微かに薬草を煎じた薬の匂いがする。それと、近くに人の気配も感じとれた。どうやら2人程居るようだ。2人は俺を起こさないようにか、ヒソヒソと小声で会話をしている。
「でも、もう倒れてから3日経とうとしているんですよ? やはり1度、国立の病院で検査してもらった方がいいですって。費用は勿論私が出しますし、予約も権力使って捩じ込みますから」
「いえ、大変ありがたいお申し出ですが、何度も申し上げおります通り、それには及びません。弟が心配なのは分かりますが、割り込みなんてしたら多方面に迷惑です。こうしてルクレツィオが倒れるのは前にもあったことなので、今更特に騒ぎ立てるようなことではありませんので」
「それは彼の私も傍に居たので分かっていますが、前はこんなに長く寝ていなかったじゃありませんか。精々短い時には2時間、長くても半日足らずで起きて研究を再開していました。やっぱり、こんなに長く寝ているのは異常です」
「一刻も早く研究を始めたい一心で、根性だけで睡眠を短時間に済ませてた今までの方が異常だったんですよ。むしろ、疲れた分だけ寝て休息を取っている今の方が健全です」
 枕元に立つ2人は兄さんとエドアルドのようだった。エドアルド、避けてたのに俺が倒れたのを聞き付けて駆けつけてくれたのか。嫌っている相手でも倒れたら見舞いに来てくれるなんて、やっぱり昔のように優しいままだな。そのことになんだか胸が締め付けられ、変な感じがした。
 ふむ。どうやら俺の治療方針を巡って軽く言い争っているらしい。まあ、言っていたことが本当なら、約3日間も昏々と眠り続けていたわけだから心配にもなるか。今俺が起き上がって、意識は戻っているから平気だぞ! と言ったら安心するかな? いや、それより先に驚かせちまうかも。どの道体は動かないんだけどさ。そうこうしている間にも、兄さんとエドアルドの会話は続いていく。
「ですが、最初だけとは言え、熱だってでてたじゃないですか」
「ただの脳味噌の使い過ぎですよ」
「それが本当だとして、こんなにも頭のいい人間が脳味噌の使い過ぎで倒れて熱を出すなんて、やっぱり体調が良くなかったんですってば! おたくのかかりつけ医を信頼していない訳ではありませんが、やっぱり1度こちらで御典医に診させてください!」
 だんだんエドアルドの口調が焦っているかのように荒くなっていく。昔っから俺の気絶騒ぎに巻き込まれて慣れている兄さんはあまり焦っていないが、付き合いが浅く俺が倒れることにそれ程慣れていないエドアルドは落ち着かないらしい。エドアルドと関わるようになってからは仮に倒れたとしても直ぐに対応して、倒れないようにしていたからな。しきりに俺の心配をしている。これは早く起きていることを証明しないと、兄さんの手元から攫ってでも俺を御典医に見せかねない勢いだ。とっとと体を動かせるようにならなければ。
「ヴェチェッリオ様、本当に大丈夫ですから。こうしてルクレツィオが倒れるのは、悲しいことに我が家では日常茶飯事なんですよ」
「失礼ながら、倒れることが日常茶飯事になる程倒れるのは異常ですよ! やはり1度しっかり精密検査をしなくては」
「ですから」
 と、そこで唐突にノック音が。2人が音のした扉の方へ意識を向ける気配がする。
「お話中に失礼します。旦那様、お仕事のことで少しご指示を伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」
「ああ、今行く。ヴェチェッリオ様、取り敢えず弟のことはもう少し話し合って、お互いの意見の擦り合わせをしましょう。私は少々席を外しますので、ここでお待ちください」
 そうして兄のものらしき足音が遠ざかり、部屋から出て行った。後に残ったのはエドアルド1人。無言で俺の枕元に佇んでいる。俺の看病をする時にでも使おうと置いてあったのだろう。ギイッと椅子を引く音がして、エドアルドはそこに座ったようだ。顔の辺りにエドアルドの視線を感じる。寝顔を見られるのはなんだか気まずい。早く体を動かせるようにならなくては。
 手始めに必死になって手の指に意識を集中させ、動かそうとする。なかなか思う通りにはなってくれないが、それでも頑張っていると一瞬小さくピクリと指先が動いた。お、これは何とかなるかもしれねぇ。一生懸命、体を動かそうとする。
 と、その時不意に、エドアルドの気配が近づいた。次に頬へと手で触れられる感触が。エドアルドだろう。そのままエドアルドは、指先でゆっくりと俺の頬を撫で摩った。目尻を優しく何度もなぞられる。以前と変わらぬその手付きに、そんな場合じゃないのに俺はウットリとした。
「ルクレツィオ君……」
 ポツリ、とエドアルドが囁き声で俺の名を呼ぶ。愛おしげに聞こえたその響き。心配そうなのに、甘く蕩けた声。最近全く会えてなかったのに、久々に会ったらこれだ。もう、堪らなかった。
 衝動のまま力を込めれば、グッと手が動く。俺はその手で頬に触れていたエドアルドの手の手首を強く掴んだ。重たい瞼も根性で何とかすれば、カッと見開くことができた。目玉はギョロリとエドアルドの方に向ける。それはつい今しがたまで動けなかったとは思えない素早さで、自分でも驚く程のものだ。昏睡してると思ってた奴がいきなり目を覚まし腕を掴んでくるなんて、後から考えたらちょっとしたホラーだな。
 実際エドアルドも驚いたらしい。それも、ちょっとやそっとじゃなく、尋常じゃないくらいに。椅子の上で飛び上がり、よく分からん変な声を上げた。
「ピャッ!」
 ピャッてなんだよ、ピャッって。急なことに驚き過ぎて喉が絞まってそんな細い意味不明な言葉しか出なかったのか。なんにせよ変なことには変わりはないが。エドアルドのあげたよく分からん驚き声に気を取られながらも、俺は奴の顔を下から覗き込む。エドアルドの蒼碧の瞳と、視線がかち合う。と、思った次の瞬間。
 エドアルドは、物凄い速さで俺から視線を逸らし、あまつさえ顔まで首が捻じ切れそうな勢いでそっぽを向き、目まで閉じやがったではないか! なんで……何でそんなことをする。そんなにも俺の顔を見たくないのか。まさか俺の事、避けるだけじゃ飽き足らず、目を合わせるのも嫌な程嫌いに……。心の柔らかい部分が、ザグリと深く傷つくのが分かった。
「俺のこと、そこまで嫌いになったかよ……」
 グッと顔に力が篭もる。眉を顰め、表情を歪めた。勝手に目の辺りが熱くなる理由が分からない。喉が変にひくつくのは、せぐりあげそうになっているから? 悲痛な思いで唇を噛み締める。それでもどうやら、耐え切れなかったらしい。気がついた時には、熱い雫が俺の頬を伝っていた。涙声が気になったのかエドアルドは横目でチラリと俺を見て、そこに溢れる涙にギョッと目を見開く。
「ル、ルクレツィオ君!? な、泣いて……! 違う! 私は君のこと嫌いになんてなってない!」
「何が違うんだ! 俺のこと避けて、今も逃げようとして……。これで嫌ってないって方がおかしいだろうが! なんだよ、研究を完成させちまえば俺はもう用無しか? あの熊男のことが理由ってのも有り得るな。まさか……1度抱いて興味がなくなった? 全ては俺を落とすゲームだったのか? それならそうと言えばいいのに。……こんなことなら、お前に体を許すんじゃなかった。俺の中はもうお前でいっぱいなのに、お前の中には俺はもう居ないなんて。そのことが辛くて辛くて堪らない」
 エグエグとしゃくり上げながら、涙を流す。頭に自然と浮かんだ感情を流れるままに言葉にして、それで自分でも気がついた。そうか、俺はエドアルドに避けられて、こんなにも辛かったのか。エドアルドへの思いだけで、苦しい程にギリギリ胸が締め付けられる。エドアルへの猛る思いにポロポロと涙を流す俺を、奴は呆然と見ていた。
「エドアルド、この感情に付けるべき名前を俺は知らない。でも、俺は誰かのことをここまで必死になって考えたのは、生まれて初めてなんだ。考えるだけで胸が暖かくなって、姿が見えないと苦しくて……。昔のまだ何の蟠りもなく2人で笑いあって居られた頃を思い出すだけで、懐かしい喜びともう戻れない悲しみ、そんな色んな気持ちが沸き起こって頭の中がグチャグチャになる。……だからなのか? お前は昔、人の感情が見えるって言ってたよな。俺のお前に向ける無関心の透明が心地よいとも言っていた。俺はお前にこれ程までに関心を持ってしまって、それで透明じゃいられなくなってしまったのか? だから、醜く色づいた俺を見たくなくて、避けているんだろう。……今のお前には、俺は何色に見えているんだろうな?」
「……なんだ、それ。それじゃあまるで、ルクレツィオ君が私のこと……」
 エドアルドの呆けたような言葉に奴の手首を掴んでいた手から力が抜け、ズルリと離す。もうエドアルドの顔なんて見ていたくない。これから俺を捨てるであろう、エドアルドのことなんて。寝返りを打ってエドアルドの居る方とは反対を向き、目を手で覆った。後から後から溢れる涙を必死に拭う。もう、何も見たくない。そうしてエドアルドが俺に呆れて立ち去るのを待つ。
 しかし、エドアルドは一向にその場を後にする気配がない。奴は何かをするでもなく、無情に時間だけが流れる。俺の啜り泣く声だけが室内に響いた。エドアルドは声も上げない。俺に呆れてる? それともドン引きしてるとか? なんにせよ、いい感情は持たれていまい。そう思ってもエドアルドは俺の傍に居続ける。
 そして、どれだけの時間が経ったことだろう。唐突にエドアルドが言葉を発した。
「喜びの黄、安心の緑、悲しみの橙、そして……愛しさの青。それが、今の君の色」
 ソッと肩に手が置かれる。優しく、しかしうむを言わさぬ強さで背けていた顔をエドアルドの方を向かされる。抵抗しようと思えばできたが、エドアルドが言った言葉が気になってそれどころではない。それと、振り向かされて見た、エドアルドの顔。今にも泣きそうな、それでいて笑っている、喜びの表情を浮かべていた。
「ルクレツィオ君、私は君がずっと好きだった。確かに最初は私になんの興味関心も持たない透明な君に安らいでいただけだったけれど、傍に居るうちにだんだんと君の一途で真っ直ぐな人となりに惹かれていき、恋愛感情を抱いていった。だから君の弱みに漬け込んで、無理矢理抱くような真似までしたんだ。でも、直ぐに自分の卑怯さを後悔して自分の行いを恥じ、償おうとして尽くした。そうしたら全てが終わった後、私に向けられる君の透明に薄ら色がつき始めたんだ。それで私は途端に怖くなった。君の色が他の奴等と同じ、怒りの赤、恐怖の黒、嫌悪感の灰を向けてくるように変化したら、きっと耐えられないと思ったから。だから私は逃げた。私に悪感情を抱く君を見るくらいなら、2度と視界に入れないよう一生避け続けようと思ったんだ。でも、違った。君が私に向ける色は、どこまでも澄んでいて混じり気のない透明な青だった。青は愛しさの色。私が1番見たかった色だ」
「それじゃあ、エドアルド。お前は……」
「ルクレツィオ君、君を愛してる。愛してるんだ。私が臆病で意気地無しなばっかりに、君には要らぬ苦労と迷惑をかけてしまった。でも、もう逃げたりなんかしない。これから先一生をかけて、君の青を隣で守り続けると誓う。だから、どうか、もう1度……私にチャンスをくれないだろうか?」
 エドアルドが俺の手を取り、指先にソッと口付ける。その表情はどこまでも真剣で、誠実だった。胸が高鳴って仕方がない。今、耳にした言葉の全てが信じられなかった。本当に? エドアルドが、俺のことを? この男の全てが俺のものに? ああ、そして、この素晴らしい感情の全ての根源が……『愛』なのか。それはなんて素敵なのだろう。
「チャンスだって? そんなの、いくらでもくれてやる! エドアルド、俺の全てをお前にやるから、お前もお前の全てを俺によこせ!」
 そこから先に言葉はいらない。ただ、青い双眸を潤ませたエドアルドが、上から覆い被さって強く強く俺を抱き締める。俺はそれに奴の背中へ腕を回すことで応えた。生まれて初めて自覚し手に入れた『愛』という感情は、とても暖かく俺の胸の内を蝕んでいる。しかしそれは、悪い感覚ではなかった。
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