Firefly・Catching-蛍狩り-

青海汪

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第四話

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二人の大君と総称されるアサキの宮とイズルの宮の出生には大きな違いがあった。それにはこれまでの概念を悉く打破してきた二人の父、第十七代目大君であるテンの宮の存在が大きく影響していたとも言われている。
 神聖な血を守る為、神託で選ばれた乙女と婚姻するのが習わしであったはずがテンの大君は、自らが選んだ乙女と結ばれ一女二男をもうけた。更に大君には許されない側室を迎え、一男。つまりイズルの宮を生んだのだった。
 アサキの宮にはケマンの姫宮とソウの宮という姉と弟がいたが、共に若くして病死。テンの大君が崩御される同年に亡くなられていることから、事実上アサキの宮とイズルの宮が王位継承者候補となった。その後両宮は同時に即位し、国を統治するが先に婚姻したアサキの宮との間に御子が誕生するとイズルの宮は自ら退位した。その後は大君の腹心として宮廷に残ったようだが、彼にも御子が生まれ子孫は続いた。
 分厚い史書を読み漁り以上のことを総括するだけでも驚く程の時間を費やした。認められた史実でも曖昧な表現に終始し分割して記載され、歴史全体の把握を防ごうとしているようだ。
 気がつけば持ってきた蝋燭の芯が半分以上溶けている。
「……ふぅ」
目頭を押さえ椅子に凭れると自然と深い溜息が漏れた。疲労した頭を倒し薄暗い地下の天井を見上げる。灯りの及ばない所で蜘蛛が何匹も巣を張り巡らせていた。
 「二人の大君…か…」
 違う腹から生まれた兄弟が、手を取り合い世を治めたと表現すれば美しい話で終わる。歴史ではイズルの宮が自ら退位しその後の継承争いは免れているが、もしここで志願しなければ歴史を変える大きな争いが起きたかもしれない。そして大君であったイズルの宮の子孫が貴族ではなく、官職は与えられたが最終的には歴史にも名の残らぬ一族へと堕ちていった。
 ふいにトウタのことが頭を過ぎる。イズルの宮のように妾の子と中傷され、辛い思いをしてきたであろう彼が苦心の末手に入れた王位に執着しなかったとは考え辛い。況してや大君の側室となれば周囲の者の見る目も変わってくるだろう。
 組んだ手に顎を乗せ考えてみる。大君が研究を進めるミズハ寮。そしてその研究に関係したあの空飛ぶ少年と青い瞳の薬師。青い瞳はいつも、自由に空を翔る夢を思い出させた。そう言えば確かウロ峠も古くから不老不死の秘密が隠されていると伝えられてきた。
 熱中して読むうちに目に止まった箇所をもう一度確認しようと、周囲に散らかった本を適当に探し始める。机の上は既に本棚と化していたので足元にまで積み上げた文献を拾い上げ―――以前は慎重に扱っていたそれらを重ねて、手当たり次第にページをめくっていくうちに口元に笑みが浮かんでいた。
 人はこんな短い間で変われるのだな、と実感する。クレハの言葉を借りるつもりはないが、それらはすべてコマリとの出会いから始まったのだろう。宮廷に幽閉され日々ナルヒトとしての教育を施される中、いかに大君が神聖な存在であるか語り部たちは口を揃えて教え込んできた。
 例え人を殺めたとしても、それは聖なる裁きと見なされ罪とならない。同じ人殺しでも剣の巫女とは大差ある扱いだ。しかしこの世の均衡はただ一人の存在で成り立っている。人々の善悪の根底にその時代の大君がいて誰よりも、また何よりも絶対的な人智を超えた存在でなければならなかった。
 歴史を知れば知る程自分が置かれた立場を恐れた。時に同じ血を分けた兄弟や肉親であろうと王位を求め争い合う。玉座が神聖な意味を持つ分、比例してわたしは己の運命を呪った。いつ誰に命を狙われるかわからない人生を突然押しつけられ、それまでの自分をすべて否定されてきた。見なければいい。聞かなければいい。目を閉ざし耳を塞げ。わたしは何も知らない、何も危害を加えない。だから誰も、わたしに関わるな……
 ページをめくる手が止まりようやく不老不死の文字に出会えた。
 『不老不死の乙女という者ありけり』
 この言葉は時々いくつかの文献でも見かけた。しかしどの文献でもその乙女の最後は悲惨な終わりを迎えている。きっと不死を求める権力者たちに対する皮肉を交え、語り継がれた寓話だろう。
 いつも権力を握る者は不死を切望するのだな。と口端を持ち上げ、硬い笑顔をつくった。
 
 エグリの大臣の診察を終えいつものように薬を調合していると、それまで姿を見せなかったトウタが現れた。戸を開けぼくがいることを確認すると
 「父上の用事が終わったらヒロマ様の元にきてくれ」
 「ヒロマ様の…?」
 久し振りのお声かけに少し驚いた。況してやトウタを遣す心情にも一縷不安を覚える。大臣の正妻が彼を快く思っていないのは周知の事実だ。疑問が独りでに膨らんでいったが笑顔を添えて応えた。
 「わかりました。では大臣、こちらに薬を出しておきます故、毎食後に欠かさずお飲み下さい」
 「あぁ、ご苦労であった」
 そして道具を片づけるとトウタと共に退室する。
 「どうも話し相手が欲しいみたいでね」
廊下に出た途端、彼も打ち解けた口調に変わった。
 「ぼくが役に立つといいんだけど」
 「大丈夫だよ。サトルを誰よりも気に入っているんだし。そうだ、今日はピリたちの所へいく予定はある?」
 「いや…特にはないけど」
 「よかった。実は二人を屋敷に呼んでいるんだ。勿論、大ぴらに出迎えるのは無理だから夜中に寝室に招く約束になっているけど」
 「……二人を…?」
 「前々から屋敷に上がりたがっていたからさ」
 そう、と呟き目の前にある豪華な戸を開いた。
 「サトル殿! 久し振りですねぇ」
 色白のふくよかな身体を脇息に預け、上品な貴婦人が侍女を侍らせぼくたちを出迎えた。
 「ご無沙汰しております。ヒロマ様に於かれましてはご機嫌麗しゅう存じます」
 「堅苦しい挨拶は抜きにされよ。それより近こう寄れ。最近は大臣の相手ばかりで、私の方にはきてくれず寂しい思いをしていたのですよ」
 手招きするヒロマ様を一瞥しトウタを見る。先程から無視されているのに、屁ともしない様子で立ち尽くしていた。
 「貴方もこちらへ」
トウタに向け素っ気無く言い放ち、再びぼくに熱い視線を浴びせる。
彼女の目の前に腰を下ろすと舐めるようにぼくを見てきたので、息苦しさを覚えた。
 「年はいくつじゃ?」
 豪奢な扇で口元を隠し問い掛ける。その瞳に不穏な気配を感じ僅かに身構えた。
 「十四になります」
 「そう……まだ若いが、なんら支障はないのですね」
 そして一瞬だがトウタと意味深な目配せを交わし、再び口元に不敵な笑みを浮かべた。
 「サトル殿のご両親はどのような仕事をされているのです?」
 見えない手で全身を強く締めつけられるような息苦しさを感じる。ぼくの感知しない所で、事は既に運ばれていると第六感が告げた。
 「小さな集落でしたのでこれといった特定の職業ではなくあらゆる職をこなしていました」
 「ご苦労されてきたのですねぇ」
片頬に手を当て同情するように息を吐く。そして笑みを絶やさないまま
 「私の養子となりなさい」
 と静かに言い放った。
 「存じていようが、私には大臣のと御子がいない。行く末はすべてトウタに関わっている。しかし貴方が私の子になり、いずれトウタと共にこの家を支えてくれたなら安泰じゃ」
 「ですが」
「大臣も貴方を気に入っています故、なんら問題はない。私は可愛い子を手に入れ、貴方は大臣の御子という肩書きを手に入れる。損はないはずじゃ。なぁ、トウタ」
 「はい。ヒロマ様の御判断に間違いはございませぬ」
 白々しく答える。これもきっと彼の入れ知恵に違いない。恨みがましく睨んだがむしろその横顔は楽しんでいるようにも見える。
「それに…サトルは兼ねてより宮中の生活に興味を抱いていた様子。ヒロマ様の御子となれば自由に参内も叶います」
 交換条件か。しばし考えに耽ったが肯定以外の返事は断固として受け入れない様子の彼女を眺め、握り締めた拳を膝の上で解き三つ指をついて頭を下げた。
 「謹んでお受けいたします」
「よかろう」
ヒロマ様が手を鳴らすと、それまで置物の如く微動しなかった侍女たちが立ち上がりぼくを囲った。
 「私は養子といえ、女人しか受け入れぬ。無用な家督争いは大君一族だけで十分じゃ」
 「しかし! ぼくは男です」
慌てて叫んだが、それは完全に無視された。
 「―――話は後に聞こう。連れておゆき」
 命じられ侍女たちに引率され否応なく別室へ連れていかれた。
 
 太陽が沈み天空の支配者が白い月に変わった頃、ようやく昼間から眠り続けていたライは目を覚ました。大きく伸びをしてまだ眠たげに欠伸を噛み殺すライに
 「ねぇ、そろそろトウタの家にいこうよぉ」
 「あ~もうそんな時間?」
 窓の外を一瞥して瞼を擦る。何だか最近ライは眠ってばっかりだ。朝起きて飯つくってまた寝て、必死に起こしても昼飯つくってはすぐに眠っちゃう。
 「ライ、最近身体の調子変か?」
 堤燈を用意して梯子を飛び下りながら、後からゆっくりと下りてくるライに声をかけた。
 「いやぁ…別にぃ。普段お前の面倒見てたから、その疲れだろ」
顎が外れるくらい大きな欠伸をしながら答えた。
 「じゃあ俺が運んでいってやるよ」
返事を待たずにライを背負うと全身に力を込め跳躍する。勢いに乗って飛び上がると一気に地面が遠くなった。上空の少し冷えた風が勢いよく吹きつけ、飛んできた埃が目に入った。
 涙目になった右目をこする俺の首にしがみつき、ライは耳元で怒鳴った。
 「いきなり飛ぶなよ!」
 「でもこの方が早いぞ。それにライも疲れないだろ」
漆黒の中に浮かぶ都の淡い光を見据え速度をつけて走り出した。夏場の湿気の少ない爽やかな空気が頬をすり抜けていく。久し振りのライとの飛行は心を躍らせた。
 「こうしてライと飛ぶの、すっごく懐かしいな」
 「そうだな」
 「都も飛んでいったら早いぞ」
きっとすぐに怒られるだろうと、冗談交じりに言ってみたが以外にライの返事は遅かった。
 「…ピリ……」
しばらくしてから沈んだ声を出してきた。首に回る腕に力がこもると同時に少し息苦しくなって勢いを落とす。西の空が橙色に染まっていた。そのすぐ青みがかった空や飛び交う鳥もすべて抱え込んで夕日は静かに寝床へ向かっていく。取り残された月は小さな光を散りばめて寂しげに輝いていた。
 「ピリは……俺の為に、死ねるか?」
 死という重い単語に全身が硬直した。
 「サトルの治療じゃ…間に合わない。俺の身体はどんどん腐っていく。指先や…足からゆっくり、動かなくなっていくんだ」
 密着したライの身体が小刻みに震えている。今ライが直面している恐怖は、むかし俺が味わったものと同じかもしれない。追い駆けてくる母親から逃げることのできない、絶望という恐怖。でもそこから救ってくれたのは、誰でもない。
 「…ライがいたから、俺は生きてこれたのに…ライがいないのに…俺がいる価値はない」
 心臓が鷲掴みにされたような気持ちの悪さ。胸が早鐘を打つリズムに乗って眩暈がしてきた。掌に汗が溜まる。そっと握っていた手を開いてみると、指先の傷跡が記憶を呼び起こしあの日の出来事を明らかにしていった。
墨汁をこぼしたような暗い夜は深い眠りに沈み、引っかき傷の形をした三日月が浮かぶ他に生き物の気配を感じさせなかった。泣き黒子の男に連れられ、子どもたちの亡骸が埋められる現場に向かった。知らぬ間に広げられていた俺の血脈の無残な最期を見て、この結末に自身も加担していたのだと気づいた夜。罪の重たさに耐えきれず、俺はライを連れて逃げ出した。
穴の中に山積みにされた子どもたちが小さな手を差し伸べて俺を誘っている。俺はお前たちの父親だから、子どもの為に俺も逝かなくちゃいけない。寂しい思いをしている子どもを、慰めなきゃいけない。
だけど―――怖かった。ライと共に見上げた空を、月を、眩しい太陽やライの笑顔とも別れなくちゃそこにいけない。だからできなかった。でも見捨てられた子どもたちは監視している。ただ一人生き残ったライを独り占めする俺の行動を、ずっと見ている。
 いつも声が聞こえるのは、子どもたちの恨み。父親にまで裏切られた子どもたちが、埋められない孤独を嘆いて俺の傍で泣き続けている。俺は誰よりもライの幸せの為に尽くさなきゃいけないんだ。子どもは親を選べない。けど親は子どもの未来を決められる。ライを幸せにすることは、亡くなった子どもたちに対する餞だから。
 「ライが…望むなら……俺、ミズハにいく。ライが生きていけるなら、俺、なんでもする」
 いつの間にか頬を熱い涙が伝っていた。
 「だからどこにもいかないで。俺から離れていかないで! ライがいくなら、俺もいくから!」
 迸る想いを吐き出し止まらない涙を何度も拭った。都との間にある堀を越え周囲に気をつけゆっくりと着地する。ゆっくりと振り返ってライを見るとライは口角を上げて、いつもの顔をしていた。
 「ばぁか! ミズハなんかにいく訳ないだろ」
 おでこを弾かれてようやく涙が止まった。そして複雑な表情を浮かべ
 「俺の為に…死ねても、俺はお前の為に死ねない」
と呟いた。
 「結局は自分が大切なんだ。どんなに仲が良くても、信じれる仲間でも最後に選ぶのは己だから」
 「でも…俺……」
「俺とお前が親子じゃなくて違う関係だったら……最高の人間になれただろうな」
言い淀む俺に、ライはそれまでとは一転した茶化すような明るい口調で話しかけてきた。
 「最高の人間……?」
 意味がわからず小首を傾げる。するとそっと手を握り、人気のない通りを歩き始めた。先を歩くライの肩を見詰め説明を待った。
 「……そいつのことしか考えられなくて、いつも傍にいて欲しくなる。顔が見えない日が続けば不安になって……怖くなる」
 「怖く?」 
 「…そいつも俺と同じように、俺のことを想っているのかどうかわからなくて、不安だけが増していくんだ。そいつから、ただ一言、声をかけてもらいたくて…でも聞きたくもない」
 握り締めた手が汗ばんでいた。そして何となくライには今、その最高の人間がいるんだと直感した。きっと俺ではない人。でも誰だろう? 俺の知らないライの知っている人?
そんな奴がいるのかどうか訝しく思えた。
この時、手を繋いだとても身近なはずのライがどうしてかとても遠い存在に感じた。
 松明が灯る大きな門を見上げ、本当にトウタの言う通りにすればこの門をもぐれるのか不安になった。ライも同じ思いらしく落ち着かない様子で辺りを伺っている。月が頭上に昇り約束の時刻が訪れる。と同時に大きな門の横につけられた勝手口が開き、侍女が顔を覗かせた。
 「ピリ殿とライ殿ですね?」
 頷くと手招きをして中に入れてくれた。
 「トウタ様からお伺いしておりますけども、旦那様方はご存知ありませんので物音を立てぬようついてきて下さい」
 居丈高な侍女に追い立てられ、俺たちは広い庭を忍び足で駆けていった。
 
 慣れない着物と飾り立てられて重たい頭にいい加減苛立ちを隠せなくなった頃、それまで悠々と一人将棋を楽しんでいたトウタがふいに手を止め顔を上げた。彼の部屋に宛がわれている庭に面した一間から障子を見詰め、二人の登場を今かと待っているようだ。
 「……ヒロマ様をどういいくるめて、ぼくに女の形をさせたんだ」
 気の毒そうにつくり笑いを浮かべながら呟いた。
「口調さえ直せばとても似合っているのにな」
 「大方…ヒロマ様が勝手に作り上げた借金を肩代わりしてやるとでも言ったのか? なんせ大臣の一つ種だからね」
 「まさか」
快活に笑い悪意のない顔で続ける。
 「それだけじゃないよ。女人はやっぱりたおやかにしている必要もあると思ってね。きみの為でもあるんだよ。どんなに見事に化けていても、やっぱりきみは――女の子だ」
 無意識に奥歯を噛み締め歯軋りを鳴らした。
 「大臣の養女になるのはそれなりにぼくにとって利益があるからだ。生活は今までと変えず寝床だけをここに移す。その間この女装をするだけで、ぼくは男だ」
「……罪人となったかつての剣の巫女も、少女と見紛う程美しい少年だったらしいね」
 「関係ない。ぼくは」
 突然腕を掴まれ彼の方へ無理やり引き寄せられた。息が触れるくらい近くにある顔を睨み、罵声を浴びせようとしたが彼の飽く迄落ち着いた表情に、喉元まで出かかっていた言葉は急にすぼんでいった。
 「ぼくの為にナルヒトの宮に大君になってもらわなければならないんだ。目的を果たす為なら、誰だって利用してやる」
 「ピリもライもきみにとってはただの手駒なんだな」
 「……他人は皆、独楽だよ。その紐を握るのが大君だ。政も大君の独り遊びに過ぎない。だけど、独楽を回すには台が必要だ。土台がなければどんな丈夫な紐を持っても、独楽で遊べない」
 黒い瞳は夜の闇よりも濃く、そこからなんらかの意志を読み取ろうとするのは不可能だった。
 「かつてむかしウロの峠はこの地に実在した」
 その一言に心臓が大きく飛び跳ねる。同時に指先の力が緩んだので、すぐさま彼から離れ赤くなった腕を擦った。
 「きっと剣の巫女がいた頃もウロはあっただろう。けれど不死を求める大君の力によって、その場所はいつの時代からか隠されてきた。祖先のことならぼくより、きみの方が詳しいんじゃないかな?」
 確信を持った口調に抗えず黙り込む。
 「巫女は……ウロの場所を知っていた。だから大君によって命を狙われた。皮肉にも巫女は刺客を殺めてしまい島を追われてしまった。あぁ、間違っていたら教えてね」
 ただ煌びやかなだけの衣裳の袖を力いっぱい握り締め、のた打ち回る激情を耐え忍んだ。
 「恐らくウロは、北の部族が守り続けたイハヤの森の奥にあったんだろう。でも討伐ですべては焼き払われ巫女の子孫も全滅した。きみだけが生き残ったんだろ? そして大君に復讐しようと、わざわざ都まできた訳だ」
 足を組み替え寛いだ様子で紡ぐ。その悠然とした態度が余計に怒りを煽り、彼をいかに苦しめて始末するかだけを必死に考えた。
 「そして島に残る巫女とその一族を殺したのもサトル、きみだ。あのことが露見するのを恐れて皆殺しした」
 唇を噛み締めるうちに血の味が口の中いっぱいに広がった。それでも彼は構わず続ける。
 「剣の巫女の父が、神聖な大君の血筋を隠すつもりだったんだろうけど、オオサク島の隠し部屋にちゃんとあったよ。歴代の家系図が。でも宮が見つける前にぼくが処分しておいたよ」
 腸が煮えくり返るような激しい憎悪。あの大洪水以来、こんなにも自我を失いそうになるのは初めてだ。燃え上がる怒りを必死の思いで押さえ、震えながら言葉を紡ぐ。
 「……何が望みなんだ…」
 「一芝居打つだけでいい。剣の巫女は追い詰められ自害し、クサヒルメの剣をナルヒトの宮に献上する。そしてきみはぼくの子を生み、その子は宮たちの御子と結ばれる」
 想像を超えた野望に絶句した。
 「神託なんてどうにでも細工が利くし、むしろこの方法が大君一族を救うことになるんじゃないかな。神の血を汲まない者が一時の大君となっても、その子どもが血を受け継ぐ者であれば伝えられた尊厳は傷つかない」
 悪びれなく淡々と言い放つトウタの顔を見詰め、改めて奈落の底に突き落とされる感覚に陥った。関白が彼の狙い。もし彼の言う通り歴史が流れればいずれ大君一族は衰退し他の権力者たちが世を支配するようになるだろう。世界は着々とあの終焉目指して進んでいく。
 思い出せ。ぼくは何の為に命を張って都まできたんだ。復讐だけではない。あの二人が結ばれることで決定される未来を―――覆そうと、やってきたんだ。
 
 地下から戻り扉に施錠していると、廊下の向こうから背筋を正し歩いてくる人物に気がついた。軍人上がりの真面目さがそのまま外見にも影響しているような、冷たい眼差しのイシベの大臣。左目の泣き黒子が印象的なその人は、真っ直ぐ前を見据え歩いていた。
 まるで己の視界からわたしを悉く消し去っているかのように、見向きもせず通り過ぎようとしたその時思わず言葉が口を突いて出た。
 「ミズハ寮で…禁術の研究が行われていると聞きました」
 正確な歩調で立ち止まると、正面を見据えたまま視線のみをこちらへ向け答えた。大君一族に対する態度とは到底思えないその反応に、彼がわたしをどう思い扱っているかがよくわかる。
 「失礼ながら、わたしは関知しないことですので」
 「空を翔る少年の顔も知らぬと申されますか」
 能面のような表情だったが、僅かに眉が動いた。
「長くに渡って大君の恩恵の元、研究は進められてきたそうですが……それでもご存知ないのですね? 秘密を保守するべく、代々貴方の一族がその研究を一任されてきたのに」
 「例え知っていようと、それは後継問題の条件に含まれていないはず。故にご協力し兼ねます」
 「ウロ峠はまだ見つかっていない」
踵を返そうとする彼の背中に慌てて投げかけた。すると過敏に反応を示し、おもむろに振り向いた。感情の読めない仮面が静かに崩れ始めようとする様子に密かに手応えを感じた。
「大君に古くより仕えている貴方がわたしや…ヌヒを快く思っていないのは知っている。貴方は大君の命よりも貴方自身が持つ考えに従って、ウロ峠を見つけるべく討伐に参加し、尚且つ死人返りという禁術を研究し……現大君に不老不死の力を与えようとしているのでありましょう」
その眼力だけで相手の心臓を射抜いてしまいそうな威力を持つ大臣を直視し、わたしは更に続けた。
「歴史と権力によって裏打ちされた大君の神聖さを貫く為、あらゆる命を厭わず研究に打ち込まれてきたのではないですか?」
語尾が誰もいない廊下にこだまする。短い沈黙を埋めようと窓の外で星々が懸命に光り輝いていた。いつも月にばかり気が取られていたが広大な空を明るく彩る彼らを背に―――飛べたらどんなに気持ちがいいことか。
 つい夢想に我を忘れそうになったその瞬間、ようやくトウチの大臣は沈黙を破った。
 「一千万…」
 「え?」
 思わず問い返すと、大臣は醜く片頬を歪め囁いた。
 「今日まで犠牲となってきた子どもの数です」
 衝撃の告白に胸を打たれる。恐らく大勢の犠牲はあっただろうと漠然と覚悟していたつもりだったが、具体的な数字を突きつけられ。その子どもたちが辿った悲しすぎる運命を想い目の前が真っ暗になった。
「血と骨と肉を掛け合わせ生来とは異なる方法で人間をつくり上げるのが、死人返りの術。しかしこの術は危険が伴う為、まだ大君のお身体を使うことは許されていない。まずは生存率を高め死に最も縁遠い身体にしていかなければならない…。しかしこれでは時間を費やすばかりで役に立たない。そこで浮上したのがウロ峠に眠る不老不死の秘密だった。ハシヒトの大君さえ生き永らえて頂けたら、汚れた者たちが王位に就く必要はなくなる」
 彼は淡々とただ言葉を途切れなく口にした。
 「我らは大君のお血筋を守るべく生きてきた。我らが滅びようと大君は存在しなければならない。大君こそこの世のすべてであり、この世がなくなろうと大君がいれば新世界は築かれる」
 饒舌に語る彼の―――大君を神聖視する教育を受け、育ってきた者の思想を目の当たりにしただ素直に恐怖を感じた。
 「たかが一千万の子どもの命で大君をお守り通せるのなら、なんら悲しむこともない。むしろ研究に携われ名誉だと喜ぶべきだ」
狂気、としか言いようがない。薄っすらと唇の端に笑みさえ浮べる彼を見詰め、異物が込み上げようとするのを必死に抑える。
「一千万の命が…大君の命に相当すると思うのか…?」
「足りぬ。まったく以って足りぬ。死人返りの術も、男御子が生めぬ大后と大君の一部を掛け合わせつくる為。偉大な統治者の御世が続くのなら、この世のすべてが滅びようとなんら問題ない」
思わず口元を押さえ吐き出しそうになった。そんなわたしを居丈高に見下し、彼は尚も言葉に刃を含ませ続けた。
「しかし義父となるのだから貴方に、少しは助言をしなければなるまい。大君のお心は……剣の巫女の絶命を願っておられます」
大君の本当の望みは―――巫女の死だと?
「誰も…ナルヒトの宮の代わりにはなれませぬ」
まるで追い打ちをかけるかの如く捨て台詞を残し彼は歩き去った。
ナルヒトの宮。聡明で幼くともあらゆる方面に才能を持った、大君の第一子。女宮であることを除けば、誰もが彼女を次期大君に望んだ人。
「わたしは……なれない…」
握り締めた拳が震えている。初めて自らナルヒトになれないと認めたその言葉は、情けないほどに弱々しく足元にこぼれ落ちた。
 
暗い闇に浮かび上がる障子戸に向かって俺たちを案内してくれた侍女は、小声でトウタの名前を呼んだ。周囲で騒ぐ虫の鳴き声くらい小さな声で呼んだので、ちゃんと届いたか不安に思ったけど、すぐに戸が開きトウタが顔を覗かせた。
俺たちに気づくと手招きをしてくれた。
「よくきたね。入って」
ライと顔を見合わせ早速屋敷に上がり込む。
「草履くらい履きなさい」
侍女の小言を聞き流し泥だらけの足で初めてトウタの広い部屋に入った。青い畳を踏み締めた途端、草のいい匂いが立ち上がった。装飾品の少ない部屋を見回すと隅に、綺麗に装った人形が座っていた。
「サ、サトル……?」
ライの叫び声を聞くまで、それが女の衣を着たサトルだってまったく気づかなかった。短い髪をまとめ蓮の花を飾ったサトルは、今まで見てきたどんなものよりも綺麗で、何故か急速に頬が熱を帯びた。
「まぁ座って」
口を大きく開けたまま絶句する俺たちに座布団を勧めると、用意していた茶菓子を出してくれた。
「何か軽く腹に入れた方がいいかな」
と呟き、まだ外にいた侍女に夕食を持ってくるよう命じた。その間サトルは綺麗に紅をひかれた唇を噛み締め、ずっと俯いたまま黙っていた。
「………女…だったのか……」
心底驚いた口調で呟く。俺もサトルがこんなに綺麗になるなんて思いもしなかった。
「あそこで女の子が暮らすなんて無用心だろ? それで男の振りをしていたんだって」
トウタの説明なんて耳に入らないくらい、ライはサトルを見詰めていた。なんだかそれが俺を更に落ち着かなくさせた。
「それで、サトルはヒロマ様の養女になったんだ」
「ヨウジョ…?」
聞き慣れない単語に問い返す。その隣でライが慌てたように叫んでいた。
「なんでだよ!」
「そんな驚かないで。理由は単純だから」
含み笑いを浮かべサトルを一瞥する。
「ヒロマ様が随分サトルを気に入ってらっしゃるし、なんせ御子がいないから話し相手が欲しかったらしいんだ。それに父上が世話にもなっているから…ね」
「でも…店はどうするんだよ? サトルの薬が必要な奴らだって沢山いるんだろ」
後半はサトルに向けられたけど代わりにトウタが答えた。
「生活は基本的に今までと変わらないよ。この屋敷から店に出勤するだけで」
 それでもライは悔しそうな顔をしていた。どうしたんだろう。眉間に皺を寄せてどこか苦しそうにも見える。そんなライを見て俺の腹の奥もちくちくと痛んだ。
「サトルは……どうして、養女に…なったんだよ」
三人の視線が一斉に集まる。同時に戸の向こうからさっきの侍女の声が聞こえ、次から次へと出来立ての料理が運ばれてきた。温かい鳥料理も目の前に並んだのに、どうしても気持ちが落ち着かない。泣きたいような怒りたいようなすっごく変な気分だ。湯気の向こうでサトルの寂しげな顔が歪んで見える。もしかしたらサトルも俺と同じ気持ちなのかもしれない。怒りたいけど怒れない。泣きたいけど泣けない。もどかしくて、苦しくて……こんなの、気持ち悪い。
「……生活水準が上がることを考えれば、悪くないよ」
―――嘘吐きだ。
「ふざけんな!」
頬を紅潮させいきり立つライ。サトルは嘘吐きだ。全然よくないって思ってるくせに、本当は嫌なのに平然と嘘を吐いた。
「まぁまぁ、ライも落ち着いてよ。サトルにとっても、将来を考えるなら当然の選択だと」
「嘘吐きだ…」
「え…?」
初めて俺を映した青い瞳を睨み
「サトル、嘘吐いてる。よくわかんないけど、全然嬉しくないのに無理やり今までの自分変えて楽しいのか?」
「…っ!」
苦しげに視線を逸らすと言い返しもせずに、サトルはひらひらした衣の裾を乱暴に掴み立ち上がると部屋を出ていった。それを見て余計に胸が苦しくなって、当たり前のようにしていた呼吸が今は上手くできなかった。
「別に…ライの努力次第では身分違いの恋だって叶うんじゃないかな」
まだ薄っすら湯気を立てる吸い物を口に運び、トウタが呟いた。
「恋……?」
驚いてライを見たけど、ライは俺なんか目に入らないくらいトウタを睨んでいた。
「第一そういう話もあるんだろ?」
「黙れ! 俺は……俺は」
「それでもピリから離れないのは、彼が切り札だからじゃないの?」
目を大きく見開きライは、一瞬俺を見た。そして何かを口にしようとしたけど、悲しげに顔を歪め外へ飛び出した。
「ライ!」
慌てて後を追おうとしたがトウタが俺の手を掴み引き止めた。振り向くと不気味な笑顔が待っていた。
「話しておきたいことがあるんだ」
初めて見る、トウタの本心。続く言葉がこれまで築いてきた大切な何かを跡形もなく崩してしまうんだと直感した。
 
足を何度もつっかけそうになりながら、部屋に戻ると涙が堰を切ったかのように流れて止まらなくなった。あてがわれた部屋は色とりどりの装飾品が並べられ、まさに女人に相応しい小物が沢山置かれている。けれどそれらは無言でぼくを責め立てた。姉者たちのようになりたくないから。女であれば嫌でもぼくを利用しようとする大人たちがいて、ただその手から逃れたくて、ぼくは…
『自分勝手な大人たちに、俺たちの命を弄ばれたくなんてない!』
脳裏にライの言葉が蘇る。利用されるのが怖くて、最期を決める選択を恐れてぼくは逃げることを選んだ。だから余計に悔しい。悔しい。悔しいんだ。ただ言い様のない敗北感が涙を誘い、次第に呼吸が短く―――浅くなってきた。
「ハッハッハッ…」
空気がうまく吸い込めない。吸っても吸ってもそれを上回る速さで吐き出してしまう。薬を取りに行こうとしたけれど眩暈に襲われ前のめりに倒れ込んだ。脂汗が浮かび手足が急速に冷えてうまく動けない。けれど肘に力を込め、なんとか床の上を這って移動すると元々着ていたぼくの衣から薬を取り出した。
薬を飲んで数分が経った。口腔内がからからになってしまったが、ようやく呼吸も落ち着き手足にも血が通い始めた。重たい頭を持ち上げ急須から直接お茶を飲み干す。喉の渇きが癒されるとふと机上の花が目についた。
鮮やかな赤い大きな花弁が豪奢な生活を好むヒロマ様の好みを伺わせた。
ふと思い立ってその柔らかな花びらに触れてみる。
変化はゆっくりと訪れた。
ぼくの指が接触した箇所から徐々に萎びていき、赤い色は枯れ焦げ茶色に変わると頭からもげて静かに落ちた。その上から拳を振り落とすと、乾いた音を立てて粉々に砕け散った。
「……畜生………」
頬を伝う涙を乱暴に拭い、悔しさのあまり唇を噛み締めた。女性としての特徴を抑え込む薬は、その効果が絶大な分だけ重要な副作用を伴った。かねてよりウロに住まう一族の長老たちに見られたこの現象を殊更強く現した。
『枯れない花はこの世にない』
まさにその通りだ。ぼくたちは結局あの地以外で生きていけない。けれど女人になれば姉者たちのように依代となってしまう。薬を服用し続ける限り、この枯れた花のような未来しかぼくにはない。
恨みを晴らし未来を変え―――必ず峠に戻りたい。広大な土地の一部へ変わってしまったみんなの骸を守りたいから、ぼくは戻らなければならないんだ。だけど同時にぼくには守れる人もいない。周りは己の欲の為に利用しようとする奴らだけ。
矛盾しているとわかっていながら薬を飲む。懐かしい故郷に戻りたい。けれど目的に殉じる覚悟でやってきた。
「………ピリ…」
無意識に呟いてハッとする。突然彼の笑顔が頭を過ぎり胸が熱くなった。そして熱を帯びた涙が頬を濡らしていく。両手で塞いだ口から嗚咽が漏れる。悔しさと悲しみが入り混じって意識が混濁していった。ただその中にある唯一の温かい感情に触れた途端、複雑な想いが広がった。
ぼくが彼を求めても、彼はいつも―――ライを見ている。あの二人の絆に決して勝てない。勝てるはずがない。
噛み締めた唇から血がこぼれた。と、庭に面した障子戸の向こうを人影が駆けていく。急に胸騒ぎがした。慌てて戸を開け放ちすべてを飲み込む漆黒の闇を見詰めた。
「ライがミズハに戻ったってこと、まだピリは知らなかったみたいだね」
板張りの廊下を静かに鳴らしトウタは歩み寄ってきた。
「……あの二人の関係を崩して何を企んでいるんだっ」
その卑屈な笑みを見た途端に、ぼくは怒りで全身を震わせ憎悪を言葉に変え吐き出した。
「狙いは権力なら、あの二人は関係ないだろ!」
「関係なくはない。ナルヒトの宮が即位する為にも、ミズハは必要ない。どうせなら自らが蒔いた種と共に、滅んでもらわなければ…」
語尾まで聞き届けることなくぼくは無我夢中に駆け出した。
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