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第一部 迷路に集う子どもたち
第二話 迷子たちの訪問
しおりを挟む―――This is the story of Reo.
ぼくが監督生になって一年が過ぎようとしている。そしてこうやってセトを探すよう真っ先に命じられるようになった期間とそれは等しい。お陰でセトを探すならまずレオに頼むのが当たり前、と教授たちの間では思われるようになってしまった。そしてぼくが周囲を見回し歩いていると、大抵他の生徒たちにも
「やぁ、レオ。セトだったら向こうに歩いていったよ」
とセト探しの情報を提供してくれるようになってしまったのだから仕方ない。
空き教室をいくつか覗いてから、廊下の突き当たりにある談話室を思い出し向かう。授業が終わり生徒たちのほとんどが食堂にいる為、校内はいつもより静かでぼくの足音だけが辺りに響いた。
ガラスについた結露を一瞥し探している相手が外にいっていないのを祈った。さすがの彼もこんな寒い日に繰り出す訳はないだろうが、常に予想の斜め上をいく行動が目立つので否定しきれない懸念材料でもある。それに約束の時間も迫っている。急がなければと焦る気持ちに押され足音が徐々に短く駆けていく。
木製のドアを押し開け顔を覗かせると、暖色で統一された室内には食事を終えた生徒の話し声で満ちていた。その中に壁際のソファに腰をかける二人の姿を確認しやっと胸を撫で下ろした。
声をかけようかと思ったが、彼が幼馴染みのゲンジロウとどんな会話をしているのか気になりそっと隅の一人がけ用のソファに座って様子を伺った。向こうも談話室に入ったぼくに気づいた素振りもなく、隣のゲンジロウに至っては手元に集めたクッキーを口の中に押し込むことに夢中だ。相当の量を摂取したように見えるがそれでも物足りなげにゲンジロウは辺りを見回した。程よく日に焼けた肌には吹き出物一つなく、どんなに彼が甘いもの好きだとしてもきっとこの外見だけを見るなら誰も信じないだろう。短く刈り上げた髪に鋭い眼差しは一見して相手に警戒心を与える。けれどやや丸みを帯びた輪郭がそんな印象を多少なりとも和らげていた。
対照的にその傍らに座るセトはとても白い肌を持っている。黒と言うには薄い髪に縁取られた顔はどこか儚げで、長い睫を伏せてぼんやりと夢想する姿はとても詩的な美しさを醸し出していた。
どうしてぼくが監督生という立場だけを理由に、セト探しを安請け合いするかというと単純なことだ。ぼくは三度の飯、もといお菓子よりも美しいものが好きだ。苦労して探し出した彼を見つけた瞬間の何とも言えない達成感は、一種の麻薬的効果を生み出す。自分で言うのもなんだけど、人一倍美的感覚に於いて研ぎ澄まされた感性を持つと自称しているぼくにとってそれは至福の時でもあった。
この贅沢な瞬間を味わおうと、ぼくはセトという芸術品を鑑賞しながら手近な所にあった机上のチョコレートをつまんだ。その時、一緒に添えられていたキャラメルをいくつかポケットに忍ばせることを忘れなかった。
談話室には女子が数人隅で固まってトランプゲームをしている他に、参考書を持った生徒たちがテーブルを独占して必死にノートの空白を埋めていた。全員の手元にそれぞれクッキーやらケーキなどのお菓子が握られている。
校内の至る所にお菓子類が置かれているのだ。それも毎朝食堂で焼かれた手作りで、甘いもの好きの女子や低学年の連中は常にお菓子を持ち歩いていた。勿論、ゲンジロウも例外ではない。当の彼は口寂しくなったのか忙しなく辺りを見回している。そのまま放っておけば、隣の席を陣取る女子生徒たちのテーブルに盛られたお菓子を取りに行きそうな勢いだ。ゲンジロウが女子に白眼視される光景を見てみたくなり、息を潜め身を乗り出した。ちょっとした喜劇の始まりを予感し胸が期待に頬が勝手に赤くなる。
狙いを定めた鋭い眼差しで立ち上がろうとしたその瞬間、隣に座ったままぼんやりと床を見ていたセトがふいにポケットからチョコを差し出した。
「おう、サンキュー!」
嬉しそうに包み紙を剥がすとすぐに噛みついた。目を細めると先程まで漂っていた鬼気迫る表情は消えとろけそうな笑顔を浮かべた。つまらない展開に思わず舌を鳴らしてしまった。とは言え壁にかけられた時計を確認すると、ぼちぼちいかないと面倒な姉が血相を変えてやってくるだろう。
「今日から転校生がくるんだろ?」
ゲンジロウの質問にセトは顎を引いて肯定した。
「日本人らしいけど…こんな時期に珍しいな。セトの祖父さんは何か言ってたか?」
バロを祖父さん呼ばわりするのはゲンジロウくらいだ。誰もが絶対的な権力を握る学園長を現地の言語を使いバロと称え、尊敬する半面でその力を恐れていた。それ故にバロの孫であるセトも周囲から一目置かれていた。
「言ってた…気も、するね」
「なんだよそれ、相変わらず注意力散漫してんだなぁ」
ゲンジロウは豪快に笑うとソファに凭れ大きく伸びをした。その横で首を捻りセトは背後の窓から外を眺めた。その視線が不意に何かを捉えたように見え、彼を捕捉しようとしていたぼくもつられて壁際に近づき窓を覗いた。ここからだと丘の下にある事務所の屋根とそこから登ってくる人間が見える。普段なら授業もないこの時間に階段を使う人間はいない。しかし青々と伸びた丈のある草に埋もれる石段を、黙々と見知らぬ人間が二人も登っていた。
きっと彼らと年も変わらないあの男女が転校生なのだろう。
長い髪の毛を二つに分けてお下げにした女子生徒が電燈の前で顔を上げた。視線はこちらを捉えなかったが、仄かな灯りに照らされるその顔が仔細に観察できた。日が沈み暗くなった空の下で、先を歩く男子生徒の顔はよく見えなかったがあまり似ていないように思える。けれど彼女の意志の強そうな眼差しに興味を覚えた。遠目からもその容姿が並みのものではないとわかった。
―――容姿も家柄も成績もここへ入る前に審査される。バロとぼくはそういった面では趣味が似ていた。二人とも美しいものが好きなのだ。永遠に美術館で飾れそうな、生きた宝石を何よりも愛している。
少し遅れて草の間からジャックの癖毛が見えてきた。
「確か一人は俺らと同じ学年なんだろ? どんな奴かなぁ」
チョコをくわえながらゲンジロウが呟く。
「男、だよ」
「何だよ、つまんねぇなぁ」
すると彼の言っている意味がわからないと言いたげに首を傾げた。しかし表情を変えずにただ首を横にしただけなので、その姿はいささか不気味だった。
「無表情に首傾げたって気持ち悪いだろ!」
趣味の合う仲ではないけど、こればかりはゲンジロウの突っ込みに賛成した。
「まぁいいや。そういやぁ……もうすぐ冬休みだよな。お前はどうするんだ? たまには帰れって小母さんに言われてるんだろ?」
質問の意図を少し考えてかセトは軽く首を横に振った。
「ふぅん…まぁ俺も今年はここに残るよ。夏に一度日本に戻ったろ? そん時、体調崩してよぉ。医者が言うにこっちの空気がよっぽど合うもんだから、身体が拒否反応でも示してるんじゃないかって言われちまった」
チョコをすべて胃におさめたゲンジロウは快活に笑いながら目を細めた。が、突然セトが立ち上がった。
「どこ行くんだよ?」
「バロのご機嫌伺いに、ね」
と言うとセトは初めてその視界にぼくを捉えた。冷めた眼差しがずっとこちらの観察に気づいていたのだと暗に伝えているようで、本来の使命を思い出し凭れかかっていた壁から離れた。
いつの間にか談話室の入口に現れていた姉のシュカが戸口でこちらを睨んでいた。彼女は何よりも秩序と節度を重んじ、徹底した完璧主義を貫いていた。それ故に一秒の遅刻さえも彼女の前では許されるものではなかった。
姉の絶対零度の眼差しを華麗にスルーしながらぼくはセトに話しかけた。
「バロが怒ってたよ。ファルバロは時間にルーズだってね」
ファルバロとはセトの異名だ。発音が難しいレドヴァス語の中でも特に難しく、意味も複雑でバロと同じく本来の意味を知らない。ただここへ入学した頃から上級生たちが彼をそう呼んでいたのでそれに倣っていた。
ふと彼のズボンの裾が土で汚れていたのが目につく。
「外にいっていたのかい?」
こちらの問いかけに答えずセトはおもむろにゲンジロウの方を振り向いた。
「食べ過ぎない方がいいよ」
「ん? あぁ、さすがに虫歯には気をつけてる」
手を上げて応える彼から奪うようにしてセトの背中を押すと、鬼の形相で二人を待つシュカの元へと誘った。
「約束の時間、とうに過ぎてるわ。何故探しに行ったレオまで遅刻するの? 私が理解できるよう論理的に理由を述べなさい」
「美的感覚のないシュカに伝わるかわかんないけどね。要は綺麗なものに見惚れてたんだよ」
半分本気、半分は茶化した物言いにシュカは眉間の皺を更に寄せ、左親指の爪をガリッと噛んだ。右の爪はすべて半分以上を噛まれ皮膚が黒ずんでいる。怒りがある程度に達すると出てくる彼女の癖だが本人にその自覚はない。
「まぁまぁ、怒らないでよ。こうして無駄口叩く時間さえ惜しいでしょ。さぁ、行こう」
廊下は開放的な城の造りの所為もあり暖房があまりきいていない。カーディガンのボタンをとめながらノロノロと歩き出すセトを追い立てるも、そんな彼の働きなど一向に意に介さない様子のシュカの長い攻撃的独り言が始まった。
「何故この放蕩者の弟は論理的に説明ができないのか。それは物事の事象を…」
灯りが少ないので、石造りの廊下は暗闇の中でぼやけて見えた。柱の一つ一つが綺麗に磨き上げられ人が通る度に表面に服の色が宿る。三人の足音が響くだけで生徒たちの笑い声さえ聞こえない。この沈黙が異様に不気味で知らず知らずのうちに私は翠に寄り添うように歩いていた。
ジャックの案内で手の込んだ年代を感じさせる木の扉の前で立ち止まると、ノックをして中の返事を待った。
しばらくして落ち着いた低い声で
「どうぞ」
ジャックが私たちに目配せを送ってからゆっくりと扉を開ける。隙間からこぼれる温かい光に思わず目を細めた。石の床の上に赤い薔薇柄の絨毯で覆った広い室内で、火の焚かれていない暖炉脇の椅子に腰をかけた白髪の男性が紅茶を淹れて待っていた。白髪によく似合う萌黄色のセーターとスラックス姿だが全身から匂うように威厳が感じられた。
まずジャックに目を向け頷くと、すぐに私たちに向けて固い表情を崩した。
「やぁ、よくきてくれたね。外は寒かっただろう? さぁ温かいお茶を飲んでおくれ」
明朗とした態度でソファに促がすと、磁器の可愛らしいティカップを勧めてきた。
間違いなくあの写真に写っていた紳士だ。一回り小さくなり皺も目立ったが、穏やかな目元と笑った時の印象は変わりない。顔を見合わせ翠の反応を待つ。予想通り彼は笑顔で頷くと、先に私に座るよう目で示した。
「ありがとうございます。お会いできて光栄です、ミスター・ハナブサ」
座り心地のよい柔らかなソファに腰を下ろしカップに手を伸ばす。
「おいしぃ…」
予想以上の美味だった。イギリスでもこんなに美味しい紅茶を飲んだことがない。初めて嗅ぐ香りだが現地の産物だろうか。
ひとまず紅茶で唇を潤すと、リラックスした様子で足を組み替えた。
「さて、遥か遠い国からやってきてくれた二人だが…どうだね? 日本の学校もレベルが高いことは知っているが、この学園の第一印象として合格点は頂けるだろうか?」
深く皺が刻まれた顔に冗談を交え、学園長は優しく微笑みながら問いかけた。
「最高です。道中にミスター・ジャックから学園について色々とお聞きしましたが、これからの学校生活を思うと胸が躍る気持ちです」
優等生の答えに満足げに頷くと、きみは? と私を見た。
「私も母の母校で学べて幸せです。新しい環境で沢山の友だちを作るのが第一目標です」
「そうか…」
母のことを聞こうと布石を打ったのにそれには触れず、隣に立つジャックと目配せを送った。すると彼は何かを取りに隣の部屋へ続く扉へ消えていった。
「実はわたしも不安だったんだ。こんな時期にやってくる転校生だから、きっと問題を起こしたに違いないと思ってね。ジャックを迎えに寄越したが、もしも彼がこんな悪童を迎えられないと思ったならすぐにでも追い返させるつもりだった」
と言って大袈裟に肩を竦めてポーズを決めて見せた。
「けれどやってきた子どもがこんなに素敵な紳士、淑女で安心したよ。きみたちならきっとここでもうまくやっていけるだろう」
茶菓子に手作りと見られるクッキーの入った小皿を差し出してきた。
「さて、まず私からいくつか説明をしておきたいことがある」
そう切り出すと、それまで穏やかだった眼差しに鋭い険を宿し真面目な口調で話し始めた。
「ご存知の通りここは全寮制だ。この季節は豪雪地帯になる為に生徒たちの休日の外出は許可をしていない。後でそれぞれの寮監督生の代表を紹介しよう。男女一名ずつを選出している。これが姉弟だが実に優秀でね…」
と言って扉の方を一瞥する。
「そしてここでは独自の教育カリキュラムを実施している。きみたちには年間に習得する授業単位を、自分で決めて自分に合った時間割を考えてもらう。一つの科目に於いても最低で五人はいる専門教員の中から選んでもらう」
紅茶を啜るとその香りを味わうようにカップを眺めた。
「総合年間修得単位数が足りないものは勿論留年してもらうが、成績優秀な者には優先的に留学許可が出される。お望みならば日本の姉妹校に行くことができる」
説明を聞いた限り楽しそうでもあり高度な授業内容に不安も感じた。翠の顔を盗み見るが、彼は新しいゲームを手にした子どものように目を輝かせていた。きっとその思いに嘘はないのだろう。
茶封筒と綺麗に折り畳まれた二人分の制服を持ってジャックが戻ってきた。封筒に入った書類の数々よりも私は女子用の制服に目を奪われる。濃紺のワンピースは、大きめのボタンがついていてレトロなデザインがとても可愛い。男女共同じデザインの温かで手触りのよいカーディガンとお揃いの革靴まで用意されている。
目を輝かせる私ににっこり微笑むと
「もしサイズに問題があるようだったら、遠慮なく言っておくれ。すぐに新しいものをしつらえよう」
「オーダーメイドなんですか?」
驚いて訪ねるも、さもそれが当たり前だといった感じで頷いた。そして一緒に渡した茶封筒を指差した。
「そちらに寮生活の心得や校則などの諸注意が入っているので後で確認して欲しい。新しい教科書は寮に用意してある。いずれも校内のロッカーに入れておくといい」
ふいに扉の向こうに人の気配がしたので一斉に注目した。ノックが響きすかさず学園長が入るよう応えた。
東洋人の顔立ちの男子生徒に続いて、髪を後ろで一つに束ねた女子生徒が入ってきた。彼女の襟元にはリボンではなくタイが締められていた。大人びた雰囲気から察する限り恐らく高校生くらいだろう。
二人が一礼をすると腰を浮かせるが、ふと眉間に皺を寄せた。
「セトはどうしたんだい?」
すると男子生徒が慌てて扉を開け誰かの手を引いた。白く細い腕から女性を連想した。それは翠も同じだったらしく、小さな顔が現れてこちらを捉えた瞬間私と翠の間に静かな動揺が走った。
薄い柔らかな髪の毛に包まれた白皙とした肌は、一見して陶器の人形のようで伏せられた瞳には生気がなかった。女の子というよりも美術館に飾られた彫刻品の冷たさを感じさせた。
三人が揃うと学園長は立ち上がったので私たちもそれに倣う。
「紹介しよう。彼女が女子寮の監督生、シュカ・ヒスズミ。ここで言う高校三年生だ」
シュカと呼ばれた女子生徒は、固い表情のまま背筋を伸ばし直角にお辞儀をした。糊のきいた折り目も新しい制服に、きちんとまとめられた髪型を見ても神経質そうな性格が伺えた。
「彼はシュカの弟で、レオ。高等部の二年生だが成績優秀者であり、男子寮の監督生だ」
愛想笑いを浮かべ頭を下げた。先に紹介された姉と比べ明るい雰囲気に好感を得た。
「そして真ん中にいるのがセト・イチノセ。ミドリと同じ学年だ」
自分のことを紹介されているのに、彼の視線は私たちを越えて窓の向こうを見ていた。
「ここでは失われたこの国の文化復興にも力を入れていてね。独自の行事なども多く取り入れている。セトは幼い頃よりここの習慣に親しんで育っているから、何かあればきみたちの力になってくれるだろう」
そう説明しながら学園長は軽くセトの肩を叩いたがそれでも反応を示さない。彼もそんな態度を熟知しているらしく、さり気なく離れたが何となく二人から目には見えない気安さのようなものが感じられた。
本当に起きているのかしら? と訝しむ私を尻目に翠は率先して笑顔を振りまいた。
「初めまして、ミドリ・ユラガワです」
「妹のリンコです。宜しくお願いします」
「わからないことがあれば何でも聞くといい。ルームメイトは同じ年の子だから友だちにもなりやすいだろう」
温かな口調で囁くと学園長は満足げに微笑んだ。
その後少し談笑を済ませてから私たちは寮に案内されることとなった。学長室を出るなりシュカはすぐに制服を着るよう命令口調で促がした。
「これから寮に案内します。ただちに着替えなさい。食堂は二十一時まで開いているけれど、基本的に十八時から二十時までに夕食を済ませなさい。寮の就床時間は二十二時。時計は必ず秒針まで時刻を合わせて行動しなさい」
入隊の経験はないけれど、まるでそれに則ったような厳しい管理に驚き言葉が出なかった。シュカに圧倒されている私を見てレオも翠も苦笑いを浮かべていた。
五人揃って廊下を歩き出すといくつもの足音が重なって反響した。何だか足音に紛れて誰かに見られているような気がする。後ろを気にして歩く私を一瞥し、レオがシュカをからかうように口出ししてきた。
「そんなに怖い顔してたら転校生が怖がるよ」
「感情のコントロールぐらいできているわ」
確かに喜怒哀楽の見分けがつきにくい表情だけれど、と内心賛同する。姉弟と聞いたけれどこの二人はまったく正反対のタイプだった。
「はいはい、あぁ怖い。甘いものが足りてないなら、ほら」
おどけた口調でポケットからキャラメルを取り出してきた。基本的に外出は許可されていない以上、恐らく外部から通信販売か何かで手に入れたのだろうけれど。それにしては包装が簡易過ぎるのが気になった。
「これでも食べて落ちつきなって」
反発するかと思いきや、意外にもシュカはキャラメルを受け取りその場で口に含んだ。唇を一文字に閉ざし、黙々とキャラメルを噛み続ける姿は初対面から今に至るまでに出来上がったシュカのイメージと大きくかけ離れていてどこか異様で不気味に見えた。
「リンコも食べる?」
首を横に振り断ると彼は心外だと言わんばかりの顔をした。
「お菓子嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど、今はいらないわ」
学長室に通される前に私と翠は夕食代わりの軽食を出され、食事を済ませたところだった。それに先ほどの温かな紅茶の余韻も残っており、十分お腹が満たされていたので特に食指が湧かないというのも理由だった。
「ミドリは?」
「いや、今はいいよ」
ふぅんと呟くと、手にしたキャラメルを自分の口の中に放り込んで再び私たちに話しかけてきた。
「人気がないから驚いているだろ?」
「夕食が終わったら大抵が寮に戻るんだ」
「寮って、校舎と渡り廊下で繋がっていたあの煉瓦造りの建物?」
「そっ。男子寮と女子寮は離れているから、変なことしようと思うなよ」
軽口を叩くレオに対し、早くも打ち解けた態度の翠を眺めながら階段を下りていると頭上から女の子たちの笑い声が聞こえてきた。やっと学校らしさを感じ内心ほっとしてしまう。
「あれ? シュカ、セトがいないよ」
驚いて周囲を見回すが、それまで黙々と私たち後についていた彼の姿はどこにもない。
「紹介が済んだのだから彼を拘束する理由もないわ」
心配する素振りもないのできっと日常茶飯事なのだろうが、あの人形のような顔を思い出し思いきって質問を切り出した。
「セトは学園長の身内の方なのかしら?」
「え? どうして?」
不思議そうに瞬きを繰り返し優しく問うてきた彼の瞳の奥に、鋭い光を見つけ背筋に冷たいものが走った。
「雰囲気が似ているように感じたんだけど」
曖昧に答えを締めくくりさり気なく隣に立つシュカの表情を伺う。こちらは明らかに機嫌が悪くなっているらしく眉間の皺が増えていた。腹立たしげに指を口元へ運ぶと、皮膚が黒ずんだ親指を噛んだ。よく見ると左右両手の指先が黒くなり小指の爪まで消えていた。
「そのうちわかると思うけどさ、セトはバロの孫だよ」
「バロ? 学園長のこと?」
「そっ、レドヴァス語でね。ちょっと浮世離れしているけど、気にしてたらきりがないからね」
そして話を遮るように私たちの間にシュカが割って入るなり追い立てられた。
「さっ、こっちよ。寮への行き方も同時に覚えなさい」
成す術もなく引きずられるように歩いていくと、いくつものドアが並ぶ廊下へ出た。
白い壁にはめられた木製のドアはどれも美しい彫刻が施され、学園長室と同じく年代を感じさせるものだった。壁際の高窓からはステンドグラスを通して注ぎ込む淡い月の光が、様々な色彩に変わり大理石の床に美しい模様を落としている。
きっと学校だと言われなければ到底信じられない内装だ。天井も高く、廊下に並ぶ丸柱には細やかな彫刻が施されていた。シャンデリアが飾られたダンスホールを抜け、角を曲がる。突然それまで規則正しく人より早い歩調で歩いていたシュカが脚を止める。長身の彼女とは目測で十センチ近く差がありやや上目遣いに見上げる形となった。
居丈高な態度には慣れっこだ。どこにいっても新参者に対する扱いは変化がない。
「二つだけ忠告しておくわ」
女子は群れを重視する故に、輪を乱す人間に対し排他的になる。集団生活を営む上でそれは当たり前とも言える感情だろうとは思うけど、むかしから私は女子に嫌われやすかった。
「まず長い髪の毛は他の女子から好かれない」
両肩から垂らした三つ編みにしたお下げを指差し早口に喋る。
「第二にルームメイトと深く関わらないように。余計な面倒が増えるから」
そして一切の質問を拒むように再び背を向けると、より早い歩調で歩き出した。
「先輩!」
「ここではファーストネームで呼び合うのが習わしよ」
慌てて背中を追いかける私に振り向かずに答えるシュカは、既に校舎と寮を繋ぐ階段へ出ていた。長い階段の先に焼き煉瓦で造られた三階建ての建物がある。事務所から丘の上にある校舎まで気が遠くなるくらい長い階段を登ってきたのにここでもまた階段か、と思わず肩を落とした。それでもどんどん彼女との間にできた距離が伸びていくので私も仕方なく追いかける。外に出た瞬間、激しい気温差に鳥肌が立ち身体を縮めた。
「長髪が校則違反だとは聞いていないわ」
手摺りを掴み湿った木の階段を駆け下りる。備えつけの灯りがないのでちょっとでも気を緩めたら踏み外してしまいそうだ。
「それに……シュカも長い髪の毛じゃない」
彼女の背中で揺れる毛の束を睨み私は唇を尖らせた。
階段を終え寮の扉の前で待っていたシュカは私が辿り着くと唇の端をわずかに歪めた。
「貴方だから、嫉妬されるのよ」
「向こうにガールフレンドっていなかったの?」
シュカたちと別れ翠と一緒に校内を歩きながら他愛のない話を続けていた。しかし次第に話題にも尽きてきたので寮に向かいながら定番の質問を切り出してみた。
「ここにくる為に別れたよ」
端正な横顔に照れも恥じらいも浮かべずサラリと答える。まだ十六歳といえばこの手の話に興味を示すはずなのに、やけに素っ気ない。むしろ彼も実はバイだったりするのだろうか。
「へぇ。じゃあルームメイトとも馬が合うだろうね」
「そういえばルームメイトってどんな子だよ?」
「一言で例えるなら、女好き」
翠の眼鏡が鼻先までずれた。そんな彼のリアクションについ笑みを浮かべながら、顔の前で指を三本まで折って数えた。
「全女子生徒の約三割と交際経験があるって言われてるような奴だよ。ここで彼女をつくれば兄弟になる可能性がある女の子が三割いるってことだね」
「随分と…積極的な奴なんだね」
ずり落ちた眼鏡を戻し片頬を引きつらせて硬い笑顔を浮かべた。下手糞な作り笑いと向き合ううちに、どちらかともなく笑い声が起きた。
「そう。だから気をつけなけりゃね。キサメにかかりゃあ、リンコみたいな守りの堅そうな子でも一撃だよ」
「あいつはまだ青臭いガキだよ」
ふっと口角を上げ、どこか馬鹿にしたような目つきになった。睫が伏せられ白目の部分に陰が宿る。初めて会った時からあまり似ていないと思った兄妹だったが、この表情はどこか似通ったものを感じる。
周りから一歩身を退いたどこか冷めた雰囲気。数秒前まで一緒に笑った仲だというのに、翠との間に見えない壁が生まれていた。それも彼の妹の名を口にした途端に。
「と言っても、一つか二つくらいしか年も変わらないんだろ? 身内の贔屓目って言葉をミドリが知らないとしても…リンコは十分、魅力的な女性さ」
「きみには彼女はいないのか?」
一瞬言葉に詰まり翠の顔を凝視した。既にそのリアクションで察しはついてしまったのか、彼は意味深に口元を緩め説明を求めた。
「…いや、まいったな。いずればれるとは思っていたけど
仕方ないとばかりにぼくは両手を挙げた。別に隠している訳でもないし、学園内では様々な恋愛が自由に認めらている。
「実はさ、バイセクシュアルなんだよ。男と二股かけていたのがばれて、ちょっと前にガールフレンドと別れたんだよ」
これにはさすがの翠も表情を硬くした。
「恋人をレドヴァス語では決断前の人っていうんだ。リナレスってね。そして婚約者を共に生きる人、クレビス。妻、もしくは夫を、死を共にする人って意味でオンクレビス….
どれもすごい意味だろ?」
黙って肯定の意味を示す彼を一瞥し、ぼくは息交じりに続けた。
「だからぼくもいつかただ一人の人間を決め、共に生き、棺に入った後も愛せるといいなぁって思う。条件はその相手が最高に美しいってぐらいなんだけど、なかなかいないんだよねぇ」
「欲張りなんだよ」
苦笑いをしながら指摘されたが、それでもしばらく二人の間に笑い声が耐えずに続いた。
ドアを開けた途端それまでの空気を一変させる雰囲気に圧倒された。ずっと人気のない空気に晒されていた分、少女たちの華やいだ笑い声や姿にしばし目を奪われた。視界に収まる半分が東洋人の顔立ちだったが、中には美しい金髪や艶やかな茶色い髪を肩より下まで伸ばした少女も多く混じっていた。
廊下の至る所にそれぞれのグループを作り私を遠巻きに観察していたが、一番近くに立っていた黒髪のやや小太りの少女が目を輝かせて口火を切った。
「貴方が転校生?」
「キクコ、まずは自己紹介しなさい」
シュカに注意されて少女は、形のよい唇からペロッと舌を覗かせ
「モーヴィエ。ようこそメール・ヴィ学園へ。あたしはキクコです。中等部の最高学年よ」
年が近いと知り思わず頬が緩む。交友関係を広げるいい足掛かりになりそうだ。
「モーヴィエ、リンコ・ユラガワです」
「リンコも日本人なのね? なんだか気が合いそう! ねっ、シュカ。これからリンコを案内する役目をあたしにさせて!」
「駄目よ! バロから言いつかっているんだから」
私の手を取り主張する彼女にシュカは噛みつきそうな勢いで叫び反論した。
「シュカの役目はリンコを寮に案内するまででしょう? それに転校生の案内よりも先にティルを探しに行く方を優先しなくちゃ。またどこぞの殿方と消えていらっしゃるわよ」
キクコの言葉にシュカは目を見張った。そしてまた爪を噛むとしばし考え苦々しげに
「ティルはいつ頃消えたの?」
「ほんの三時間前かな? お邪魔しちゃ悪いか…」
のんびりとした返事の途中でシュカは恐ろしい形相で駆け出した。突然の展開に驚きはあったが、取りあえずティルという素行の悪い少女がいるということだけはわかった。もしかしたらルームメイトというのも彼女である可能性もある。だとしたらシュカも随分と親切な忠告をしてくれた訳だわ。
シュカが立ち去ると周りにいた少女たちの間から笑い声が上がった。
「コルスティモと同室なんですって」
「日本じゃ類は友を呼ぶって言うんでしょう? ルゲッツには関わらない方がいいんじゃないかしら」
窓際に集まっていたグループが私に声をかける。レドヴァス語が混じり意味もあまりわからなかったがこちらを見る目つきに嫌悪感を覚えた。
「何言ってんのよ。さっ、リンコ! 部屋に案内するわ」
先ほどから自然に握られていた手を引っ張り、キクコは寮の階段を駆け上った。
寮は三階建てで私の部屋は二階の廊下の隅にあった。通路の至る所に薔薇の花が飾られて殺風景になりがちな風景を可愛らしく演出していた。廊下の突き当たりに黒い電話が一台置かれ、それで男子寮と教員たちの寮と連絡を取るのだと説明してくれた。
実はあたしの部屋の隣なんだ、とキクコが嬉しそうに言った。
「同室の子と反りが合わなくてさぁ、これからはちょくちょくリンコの部屋にお邪魔させてもらおっと」
「私はいいけど、ルームメイトが困らないかしら」
金のプレート書かれた私とルームメイトの名前を一瞥し呟く。
『ティル・トラヴィス
リンコ・ユラガワ』
素行が悪いという彼女が常に寮内にいるとは思えなかったけれど、鍵が開いていたのでドアノブを回した。
「いいの、いいの! ティルはほとんどこないから」
室内はクリーム色の壁で覆われ小さな絵画がいくつか飾られていた。窓際にはピンク色の薔薇が飾られ、その下に置かれたテーブルには茶菓子とティカップが揃えられている。ベッドと机が左右対称に並べられている。
教科書と制服一式が置かれていた机に向かうと、コートを脱いでからベッドに新しい制服を並べてみた。
「ティルっていう子はそうとうの問題児なの?」
「そっ! あっ着替えるならあたし、後ろ向いとくわ」
慌てて背を向けるキクコに微笑みながら部屋の暖房をつけ着替え始めた。オーダーメイドだけにサイズはぴったりだ。それにしても一体いつの間に私たちの身長などを測ったのだろうか? 母が事前に書類を送っていたのかしら? リィートン校に私の知らない間に基本データーを教えてもらっていたのだろう。どちらにしろ、彼女らしい手際のよさだわ。着替え終わってからキクコを呼ぶと、彼女は歓声を上げた。
「よく似合ってる! リンコって意外に身長あるんだ」
「ありがとう、でも私、百六十センチよ」
「あたしは五十六センチ。ここでは日本人は小柄だって、馬鹿にされやしないけどね。日系の学校だから日本人やアジア系が多いのよ」
ベッドに腰を下ろすとキクコもすぐにその隣に座ってきた。人懐っこく意外と甘えん坊な一面もあるようだ。何となく子犬に懐かれたような錯覚を抱いてしまう。
「キクコって呼びにくいでしょ? キッコでいいよ」
相槌を打つとキッコは再び喋り出した。
「そう。ねぇねぇ、一緒にきていた眼鏡の男の子ってリンコのお兄さん? あまり似てないわね」
第三者からの私たち兄妹に対する評価はいつも苦笑しか生まない。返事をしようと思いふと気になった。私たちが学園に着いてからずっと生徒の姿を見かけていないのだ。食後は寮に戻っているというレオの言葉を鵜呑みにしていたが、ならばどうして彼女が翠の姿を確認できたのだろう?
階段を下りる時に聞いた笑い声を思い出し、その主がキッコである可能性を考えた。
「あたし一人っ子だからさぁ。ここに兄弟で入る子も結構いるんだけどね」
「シュカたちも姉弟だけど性格が似ていないみたいね」
「あぁ…あの二人はね。でもレオもあれでかなり真面目なんだよ? 二人とも推薦で大学だって決まってるもの」
「そうなの?」
感嘆しながら、あの姉弟の関係を改めて考えてみた。確かに性格は似ていないが、双方とも整った顔をしていた。明るい態度を終始崩さなかったレオだが、セトと学園長についての質問に異様な目で私を見たのが気にかかる。
「ねぇ、バロって学園長を指す言葉なの?」
「そうだけど、入学した頃から先輩がそう呼んでいたの真似していただけだし…」
語尾をすぼめてぼやくと立ち上がり、キッコは机上に積まれた教科書から辞書を取った。
「どこにもバロとファルバロについては意味が載ってないのよねぇ」
「ファルバロ?」
舌を回し彼女の発音を真似た。
「セトの異名よ。バロの孫。色白で女の子みたいな顔してるわ」
「……どんな子?」
「明るいしいい子よ。レドヴァス語が上手くてさ、あたしも彼に教えてもらったし」
「明るい?」
どういうことだろう。数分の面識しかないが彼が明るいとは信じられない。それとも極度に人見知りでもするのかしら?
「明日は休学日だからリンコの歓迎会しなくちゃね。それと時間割はもう決めたの? よかったらあたしの時間割参考にしてよ。一緒に授業受けたらきっと楽しいわ」
セトについて腑に落ちないものを感じながらもキッコの笑顔に応じた。
「キッコと一緒なら授業も退屈しなさそうね」
「よく喋るって言いたいの? 失礼しちゃう」
腕を組み憤慨して見せたがすぐに唇の間から舌を覗かせた。ころころと表情が変わり、確かに一緒にいて飽きないだろう。
「ねぇリンコは好きな人っている?」
お約束の質問に首を横に振って答えると、年頃の少女たちがそうするようにキッコも目を輝かせて叫んだ。
「最高にかっこいい数学の教授がいるのよ! タカシ・ベンバーっていうんだけど、教え方も上手いし、日本にあるメール・ヴィの姉妹校出身だから結構話せる人なの」
「日本の?」
「そう! バロのお父さんが設立した学園らしいわ」
その時、脳裏に写真で見た燕尾服姿の新郎の姿が蘇った。手掛かりはこの学園が何らかの形で関係しているというぐらい。いや、もしかしたらまだ指輪を持っているかしら? 母が身ごもっていたとは知らずに別れたとしても私たちの苗字から察しているかもしれない。
ふいに漠然とした疑問が過ぎった。父親を探して、私はどうしたいんだろう。膝の上で組んだ指を見詰め考えた。私はただ……むかしのように翠と話したいだけ。学校の出来事や嫌いな男子の悪口を言って、共に笑い、時に叱咤し、成長して大人になっても、お互いの位置関係が微妙に変わったとしても、顔を合わせれば冗談を言い合える仲になれると思っていた。
どうしてお母さんは、十数年間も黙っていた秘密を明かしたの?
キッコのお喋りを聞き流しながら、あの日、仕事から帰った母は眠っていた私たちを起こし、発した言葉を思い出していた。
「二人とも私の子どもだけど、父親が別なのよ」
煙草をくわえ、白い煙を旨そうに吐き出しながらどこか遠くを見る目つきで呟いた。そして驚く私たちを尻目に、乾いた笑い声を上げると目の前の煙を払うように手を振りながら
「別にこれからの生活が変わる訳でもないわ。ただ知らないよりは役立つでしょ?」
アーモンド形の瞳を楽しそうに細め、長い指を絡めその上に顎を乗せた。余裕を感じさせる態度に苛立ちを覚える。何故かわからないが無性に腹が立った。何も変わらないと言ったはずが、私たちは大きく変わってしまった。
地元の中学へ入学するつもりだった翠は逃げるようにドイツへ渡り、私も母と二人で暮らす生活に嫌気が差してイギリスへ留学した。最後まで、どんなに問い詰めても私たちの父親の正体を明らかにしなかった母。それがどうして死んでから私たちをこんな所へやったのだろう。あの人の母校に何があるというの?
「…ってことなんだけど、リンコはどう思う?」
我に返り疑問符を浮かべるキッコの顔を見た。
「聞いてなかったのぉ?」
頬を膨らませ不機嫌そうに口を尖らせると顔を覗き込んできた。彼女の大きな瞳に映る自分の顔が、ちゃんと笑顔を浮かべているか確認しながら
「あら、ちゃんと聞いてたわよ。明日学内を案内してくれるんでしょ? そのついでに翠も紹介すればいいのね」
途切れ途切れに聞いていた単語を繋ぎ合わせ内容を想像すると、さも熱心に耳を傾けていたという風に答えた。すると満足そうに再び笑顔を取り戻し頷いた。
「そう。ミドリってかっこいいものね。血が繋がってなかったらリンコだって狙っていたかもしれないわ」
「そんな訳ないでしょ」
笑えない冗談だとばかりに否定するとキッコは大真面目な表情で首を振った。
「だってリンコ、美人じゃない! あたしだって痩せたらそれなりにねぇ…」
と言いつつテーブルの茶菓子を取って肩を竦めた。
ふいに疑問が芽生える。ここの生徒はどうしてこんなにしょっちゅうお菓子を食べているのかしら。その割に特に肥満体って訳でもなさそうだけれど。
「ねぇ、どうして学内にお菓子が沢山あるの?」
「どうしてって…勉強で疲れた脳には甘いものが必要でしょ? 正確にはここが国だった頃の古い習慣らしいわ」
「国としての歴史って長いのかしら」
「それなら明日教授に質問してみなさいよ。ヴィ・ディウ国って名前だったんだけど、結構むかしに侵略されて滅びたんだってさ。それでもレドヴァス語とかお菓子とかって風習として残っているのよ」
「メール・ヴィの『ヴィ』とヴィ・ディウ国の『ヴィ』は同じ意味になるの?」
「多分……発音のちょっとした違いで意味がいくつも分かれるから…」
言葉を濁しながらクッキーを頬張り考え込んだ。キッコばかりを当てにしてはいけないと思い、辞書を開くと隣から星形のクッキーが差し出された。
「勉強熱心なのねぇ」
「早くここに馴染みたいもの」
クッキーをかじり答える。バターと砂糖の味が舌先に広がった。ほんのりときいたバニラエッセンスの香りが鼻腔をくすぐり、口の中で柔らかくとろけていった。甘いのに後味はしつこくなくさらりと喉元を通って胃に収まる。
こんなにおいしいお菓子なら次々食べたくなるのも仕方ないわ……
二枚目を求める胃袋の声を我慢し、口に残る余韻を楽しみながら『R』のページを開いた。
『Ruggets…非嫡子。父親がわからない子ども』
背後に冷たいものが走る。衝撃のあまりクッキーの味も忘れてしまった。寮に入るなり投げかけられた言葉の意味。どうして初対面の彼女らが私たちの秘密を知っているの? じわりと汗が滲む指を動かしキッコの視線に触れぬよう『C』のページを開き探した。
私のルームメイト、ティル・トラヴィスを指したあの言葉の意味は…
『Corstimo…娼婦。身体を売ることを生業とするもの』
「ここがミドリの部屋だよ」
寮で熱烈な歓迎を受け、いい加減つくり笑いも引きつり始めた翠を連れてぼくは彼の部屋へ案内した。冬の間は学生たちの安全を考慮し、休日でも基本的に外出を禁じられている為まさに生徒たちは娯楽に飢えていた。そこへ転入生の登場とくれば、誰もが最大限にこの機会を利用し楽しもうとするのは妥当とも言えるだろう。ドアを開けた途端、巨大な薬玉が割れ垂れ幕が落ちて四方八方から吹きつける色彩豊かな紙吹雪。吹奏楽部有志による歓迎の演奏に、ダンス部たちによるパフォーマンス。狭い寮の入り口を最大限に使ったこの演出に日本の高校生ならば、目を白黒させて驚くものと思われた。
しかし呆気にとられていたミドリもすぐに最高の笑顔で彼らの歓迎に応えていた。その紳士らしい完璧な振る舞いに、寮の生徒たちは一瞬にして彼に心を許したのがわかった。
「疲れただろ? 部屋に備えつけのティーセットがあるから…」
「窓の下にいる女…誰?」
「え?」
「さっきからずっとぼくらの後をつけている赤毛の女の子。木の下に今も立っているよ」
迷惑そうに眉を寄せながら顎で窓の方をしゃくった。窓から身を乗り出した瞬間、木陰に隠れる少女の姿を確認した。反応が素早く顔まで確認できなかったが、こんなことをするのは彼女くらいだろう。おっとりとした雰囲気が大人から好かれているが、外見とは裏腹になかなかしつこい性格の彼女の名前を口にしようとしたその時
「ベティ・レイラ・クレンディ。ぼくのガールフレンドだった子だよ」
振り向くといつの間に部屋から出てきたのか、寝巻き姿の大柄な少年が欠伸をしながら立っていた。癖のない金髪に彩られた碧眼の瞳が楽し気に困惑するぼくへと向けられる。
「モーヴィエ、レオ。彼女がまた何かやらかした?」
「…きみのルームメイトを監視していただけみたいだよ」
キサメ・リトバルスキーは均等のとれた体格にギリシャ神話を連想させるような精悍な顔立ちをしている。バロと等しく美しいものを愛すると豪語しているぼくだけど、彼は完璧に例外だ。百八十センチという身長差の為か、それとも広い肩幅が原因か彼には中性的な美をまったく感じない。両性器具を備え持つ完成された美を愛するぼくとしては、既に男性らしい凛々しさを漂わせるキサメは対象外だった。
「あぁ、きみが転校生か。日本人?」
「ミドリ・ユラガワだ。日本人だけど…きみはドイツ人?」
壁につけられたネーム・プレートを一瞥して問いかける。
「そう、クウォーターでね。祖母が日系中国人だったんだ」
白く綺麗な歯を唇の間から覗かせ爽やかに笑うとキサメは握手を求めた。
「キサメ……樹雨って日本語で、樹からしたたる水の雫のことを言うけれど」
「父親も日本びいきのドイツ人だからだろうね。一応これでも、そのむかしアークティック国を治めた末裔らしいけど」
意外にも楽し気に歓談を始める二人を眺め、ぼくは注意が逸れている間にはそっと後ろへ退き始めた。翠を無事にルームメイトと引き合わせたのだからこれにてお役放免である。その上ストーカーベティまで登場しているのだから、これ以上この場に留まっても迷惑な展開しか想像ができなかった。
足音を殺し退場しようとしたぼくの肩を突然キサメが掴んだ。
「それじゃあぼくはここで」
「それがそうはいかないよ。ずっときみを待っていたのだから」
小首を傾げ顔の筋肉をすべて使って柔和な表情を作る。そうすると彫りの深い顔から影が消え、どこかあどけない子どものような顔になる。しかし日頃からその顔で女子生徒たちを誘惑している現場を何度も目撃していた。故に何の魅力も感じず、むしろ嫌な予感しかしないのである。
「窓の下の素敵なストーカーを追い払う役目を、ぼくが引き受けるとでも思っているの?」
「ストーカーって言葉が、今日本で流行っているらしいね」
冗談を交え、飽く迄温和な態度を崩そうとしない。
「ベティは放っておけばいいさ。もうすぐ消灯時間だ。帰らざるを得なくなるしね。ぼくがきみに頼みたいのはまったく別だよ」
「なんだよ」
「ベンジャミンが消えた」
「ベンジャミンが?」
白皙とした肌を持つ栗色の髪の少年の名前を聞き背筋が凍る思いがした。まだ中等部の可愛らしいベンジャミンは、ぼくのお気に入りに一方的にだが指定している生徒の一人だ。
「…消えたって騒ぐ割にはみんな関心がないようだね」
転入したての彼にどこまでこの学園の特異性を語るか戸惑ったけれど、そんなことよりも可愛い後輩の行方を優先して案じる選択をとった。
「ツインがずっと探していたのだけど見つからないって泣きついてきたんだよ。あの双子とは仲がいいみたいでね。ぼくも心配で心配で…なかなか眠れなかったよ」
重力に逆らい見事に反り上がっている角のような後頭部の寝癖を睨みながら、咄嗟にベンジャミンが行きそうな場所を考えた。普段から学内を探索しては様々ないたずらをするツインが探しても見つからないとなると厄介な展開になる可能性もある。
「わかった。とにかく捜索してもらうよ。手掛かりになるようなことはない?」
「……コルスティモ」
バロが嫌う汚らわしい呼び名に思わず目を見張った。何故転校生がいる前でわざわざその単語を使うのだ、と視線に非難を込める。
「あぁ…失礼」
わざとらしく咳を払うと、キサメは爽やかな笑顔を浮かべて話を続けた。
「最近ベンジャミンはガールフレンドを作ったって聞いた。寮を出る時も彼が香水をつけて、身だしなみを整えていた所まで目撃されている。だからデートにいったと思っているからまだみんな落ちついているのさ」
「ガールフレンド?」
そう答えながらぼくは頭を抱えて唸りたい気分になっていた。コルスティモと呼ばれる相手などこの学園に一人しかいない。そうした最悪の場合を想定して動かねばならぬのに、その決定打をなかなか打ち明けようとしない態度に苛立ちを覚え始めた頃。ようやくキサメは口を開いた。
「お相手はティル・トラヴィスだよ」
キッコとベッドに座りお喋りを交わしているうちに、いつの間にか短針は二つも数字を跨ぎ、消灯時間を告げる鐘の音が廊下で鳴り響いていた。
「いっけない! もうこんな時間になってたの!」
壁に飾られた振子時計を見上げ、キッコは血相を変えて立ち上がった。
「もうすぐシュカが点呼をとりにくるわ。無断外出は連帯責任になるの!」
と言って、今だ帰りのないルームメイトの机を一瞥した。このままだと私まで責任を取らされるはめになってしまう。
「大丈夫よ。シュカが連れ戻すって言っていたし、彼女の場合これが日常茶飯事なの」
何とかなるわと、肩を叩くと同時にドアがノックされた。
「シュカだわ!」
慌ててドアに飛びつくと恐る恐る戸を開けた。ゆっくりと開いていく戸の隙間から、明るい金色の頭が覗く。短い巻き毛に一枚の葉っぱを絡ませて、そこには等身大のフランス人形のような美しい少女が立っていた。
細い体からしなやかに伸びる長い手足。腰の位置が高く、均等のとれた体つきには女性らしい膨らみもあり、そこにいるだけでその場の雰囲気が一気に華やいだ。
「ティル!」
キッコが少女の名を叫ぶまで私は、その端正な顔立ちに見惚れていた。急いで少女を部屋の中へ引き入れると、キッコは入れ替わりに戸の外へ出て
「貴方のルームメイト、リンコよ。リンコ! 明日七時になったら迎えにいくわ。一緒に朝食にしましょうね」
と早口に捲くし立て勢いよくドアを閉めていってしまった。後に残された私たちの間に否応なく沈黙が流れる。それにしてもなんてスタイルがいいんだろ。同じ制服でも彼女が着るとファッション誌から抜け出してきたみたいだわ。
「リンコ…?」
鈴を鳴らしたような澄んだ高い声が響く。見上げると口元を緩め、ティルは笑顔を咲かせていた。
「モーヴィエ。ワタシィ、ティル。日本語、勉強してぃるからワタシィにも、たくさぁん教えてくれますぅかぁ?」
「こちらこそ…モーヴィエ。私の名前はリンコです」
たどたどしい日本語につい微笑みを浮かべると、私は聞き取りやすいようゆっくりと答えた。立ち上がり握手を交わそうと思ったが、頭についた葉っぱが気になった。
「ティル、じっとしていて」
背伸びをして彼女の髪に手を伸ばす。小さな葉を掴んだ瞬間、ほんのりと制服から甘い薔薇の匂いがした。すぐに彼女が男子生徒と出歩いていたことを思い出し。同時に嫌悪感を覚えるも感情を押し込み葉をゴミ箱へ捨てた。
「何か飲む? 紅茶くらいなら私でも淹れられるけど」
笑顔を向けティカップを温める私をしばらく見詰め
「ナァニ聞かないのは、知っているから? それトォも聞くのを怖いかぁら?」
「え?」
驚いて顔を上げるとティルは穏やかな笑みをたたえ、ゆっくりと歩み寄ってきた。窓から注ぐ淡い月の光を受け、髪の毛一本一本が金糸のように光り輝いて見える。
茶葉を入れたポットを握る手にそっと指を重ね合わせてきた。途端、身体が痙攣を起こしスプーンを落とした。けれどティルは構わず私に顔を近づける。無遠慮な距離感に心臓が早鐘を打ち頬が熱を帯びる。
「リンコ」
大きな瞳を縁取る長い睫がなければきっと愛玩動物のように見えただろう。何も見ていないようで、無垢で汚れのない美しい瞳が縋るように私を捉える。
茶色いガラス玉に私を捉えると深刻な表情で
「Dina da doo.」
と呟いた。
背後でノックが繰り返される。我に返えり私は慌てて返事をした。
「はぁい!」
その瞬間、強く握り締められていた手から力が抜けティルは崩れ落ちるように床に座り込んでしまった。
「ティル!」
驚いて抱き起こすと彼女は穏やかな寝息を立てて眠っていた。呆れ返る間にドアが開き僅かな隙間から私たちの姿を確認すると寮監督生のシュカは
「ちゃんと揃っているわね」
と勢いよく戸を閉めていった。
「………」
何てことだろう。あまりに目まぐるしい展開に溜息が自然と吐いて出た。そして心地よさそうに眠るルームメイトの美しい寝顔を眺め、一体どうやって彼女をベッドまで運ぶか考えた。
頭を預けていた壁から伝わる振動で目が覚めた。けれどまだ夢現としているのか、意識がはっきりとしない。全身が気だるく鉛のように重たかった。
大きな欠伸を立て続けに繰り返すと、冷えきった手足の指先にやっと血液が巡り始めた。長い間座っていたらしくお尻がひどく痛く、また石畳の床は冷えていて全身がカチコチに硬直していた。
頭を持ち上げると軽い眩暈がしたので一旦動きを停止させる。痛みが過ぎるのを待って瞼を開ける。すると『ぼく』の目の前には二つの小さな穴があり、そこからもう一つの世界を眺めることができた。
三つ編みを長く垂らした少女は、巻き毛の少女を抱きかかえたまましばらく途方に暮れていた。巻き毛の少女は熟睡しているらしく頬を叩かれても目を覚まそうとしない。
しばらく肩を揺さぶっていたが諦めたのか、身長差のある巻き毛の少女の肩を担ぐとベッドまで運んだ。少女を横たわらせ毛布をかける時、三つ編みの少女の表情に変化が訪れた。ぴたりと動作がとまり、視線は巻き毛の少女の首元に集中している。
『……キス・マーク』
愛情の証しともいえるその赤い斑点を見つけ、三つ編みの少女は嫌悪感をあらわにした。眉間に深く刻まれた皺だけではなく、小さな唇を噛み締め恐ろしい眼差しで少女を睨みつけ内側で燃える憎悪を露骨に顔に出した。そして小刻みに震える指から毛布を乱暴に離すと、顔を背け巻き毛の少女から遠退いた。
寝巻きに着替えベッドへ入るまでの間、一度も巻き毛の少女をその視界に捉えようとしなかった。
せっかく見えた美しい世界も、暗闇に閉ざされてしまった。幾分目は覚めた気もするが、それでもまだ全身を覆う倦怠感はなくならない。誰かがあの子みたいに『ぼく』も運んでくれたらいいのに……
何回目かの欠伸をしてから壁から離れ、通い慣れた暗闇の道を歩き出した。
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