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第二部 首を繋がれた王と姫君
第十話 泣けない人魚の泣かせ方
しおりを挟む第二部 首を繋がれた王と姫君
さぁ物語は始まった
新たな仲間が戸を叩く
ぼくは 貴方に飼われた小鳥
ぼくは 貴方の手で育てられた薔薇
ぼくは 貴方の為に胡桃を割る人形
ぼくは 貴方に髪を差し出す乙女
ぼくは 貴方に持てるすべてを捧げて
ぼくは 貴方から生まれ 貴方から蔑まれる ただ一人の迷子
ぼくらは 貴方の忠実な下僕
迷い続ける彼女は 声を失った人魚
悲しみから目を逸らす彼は 罪の果実を手にした罪人
舞台に立つ彼らは 糸を握られたマリオネット
闇に怯える彼は 生き残った山羊
真実を求む彼女は 狼に食われる赤ずきん
裏切りに憤る彼女は 貴族の収集物の一つ
衣を奪われた彼は 大人たちに操られた道化
嗄れた声で歌う彼は 虫かごで息絶えた
ぼくらは守られている
貴方の手によって 未来永劫 守られている
だからぼくらは 貴方を『王』と呼び 称えよう
ぼくらは 貴方の元に集う迷子たち
ぼくらを残して逝った ピーター・パンを待つ
――― 失われた子どもたち
第十話 泣けない人魚の泣かせ方
―――This is the story of Serisawa.
何日ぶりかに、芹沢は気分のいい目覚めを迎えた。ハムエッグは好みの具合に熱が通り、星座占いで乙女座の運気良好と言われ意気揚々と出勤してしまった。しかしデスクの上に山積みにされたクライアントからの苦情の書類を見た途端、今朝から温めてきた活力は一気に下がった。
さすがの私でも年甲斐にもなく現実逃避したくなった。席に着くなり部下の一人である国仲が血相を変えて駆け寄ってきた。その冴えない顔色を見てすぐに事情の察しがついた。
「芹沢さん! 大変なんですよ! 実は昨日…」
やっぱりか、と自分の直感を心底恨めしく思いながら彼の悲鳴を遮った。
「ちゃんと指定した店へいかなかったの? いつもあそこを商談に使っているんだから、そこにしておきなさいって言ったはずよ」
と、つい憎々しげに呻いた。
「それが…社長が和食なら鮨だって言い出して…それで、その……畑中さんの前で馬肉を食べちゃったんですよ」
「畑中さんが趣味で馬を飼っているって知っていたんでしょ?」
「事前に向こうの会社のデーターとかを社長にお渡ししていたんですが…その、何と言うか…」
「あーもうわかったわ。後で私から畑中さんに謝罪にいってくる」
「すみませんっ。お願いします!」
神妙に頭を下げる彼を一瞥し、社長への不満不平をぐっと堪えた。デスクの上を片づけ、未処理のものとそうでないものを分け今日の仕事を始める。と言っても大抵が苦情処理だ。前社長である妃紗子さんが亡くなり灘垣が社長に就任してもう三ヶ月が経つ。その間に会社は目に見えて衰退していき社員たちも日を追うごとに不安の色を隠せずになってきた。
そろそろ潮時かもしれない、と私も考えるようになった。彼女がいないここに未練なんてない。むしろ社長秘書からただの平社員に降格された時点で決断すべきだった。これまでのキャリアも弁護士という肩書も、今後独立するだけの資金さえも預金口座にちゃんと蓄えてあった。
それでも三ヶ月もここに残っていたのは、やはり妃紗子さんとの思い出溢れる場所だったからだろう。
「……はぁ」
右肩下がりのモチベーションを少しでも維持しようと、煙草をくわえ火をつけた。妃紗子さんがいた頃は全フロアが禁煙だったと、次第に故人の面影を忘れつつある自分に気づき激しく嫌悪した。灰皿に点火したばかりの煙草を押しつけ、書類と睨み合っていると胸元に入れていた携帯電話が鳴った。
画面に映る名前を確認し電話に出る。
『はーい! セリサワ!』
のっけからのハイテンションについ携帯から耳を離してしまった。鼓膜に貼りついた声が幾重にも響いたので、左手に持ち替えると
「ここは日本よ」
と、つい喜びを滲ませて答えた。
『あーそうよね。習慣ってば怖いわね。では改めましておはようございます』
「おはよう。今どこからかけているの?」
『今朝一の便でまた戻ってきたのよ。今日から展示が始まるから有給使ってきちゃった』
「そう、それならランチでもどう?」
『勿論よ! 私もそのつもりで電話したのよ。それじゃぁ、お昼に例のレストランで』
「えぇ、わかったわ」
電話を切った後自然と口元が緩んでいた。メール・ヴィ学園の教員の彼女から、また二人の近状を聞けるのだと思うと心が浮き立った。もはや後見人という立場を超えて、あの兄妹は実の子どもに近かしい存在となっていた。何よりも妃紗子さんが唯一この世に残した、大切な子どもだということが大きかった。
とにかくお昼までにはこの仕事を片づけてしまおうと覚悟を決め、再び書類の山に没頭した。
窓から注ぐ光が眩しくて、目覚まし時計が鳴る前に自然と目が覚めた。
ほどよく暖房がきいた部屋には私が一人で眠っていて、傍らのベッドにはいつもながら彼女の姿はなかった。
伸びをしてからベッドから足を出す。ふわふわした素材のスリッパをひっかけ、クローゼットから制服を取り出しふと、カーテンの隙間から伸びる光を浴びた机の上に目を向けた。
ベティたちがプレゼントしてくれたぬいぐるみやらでいつの間にか、日本から持ってきた本や詩集が隅に追いやられていた。そういえば持ってきたのはいいものの、なかなか手にとる機会がなく薄っすらと埃をかぶっていた。
のろのろとした動作で制服に袖を通すと、髪をまとめる前に机に座り大好きなあの本を開いてみる。繰り返し読み続け、今では空覚えしてしまった言葉の数々。初めてピーターパンについて知ったのは、偶然テレビで放送されている彼のアニメ映画だった。自由に空を飛び悪い海賊たちをやっつける雄姿に心を惹かれ、母に頼んで本を買ってもらったのだ。
母は英語版の本をわざと買って私に渡した。
『本当に欲しいものはね、多少の努力で手に入るものじゃないのよ。アンタがこれを諦めずに読み切ることができたら、いつか必ずピーターが生まれた国へ連れていってあげるわ』
結果として私は、母との約束を守り「Peter Pan and Wendy」と「Peter Pan in Kensington Gardens」の二冊を読み切った。そしてその数年後にイギリス留学を果たした。
「―――This will go on always,so long as children know how to fly .」
ピーターとウェンディの物語の終わりを締めくくる大好きな言葉だ。
『こうしてずっと続くのです。子どもたちが飛び方を覚えている限り』
でもきっと物語は私の知らないところで延々と紡がれていくのだと信じていた。インディアンたちも人食いワニも、海賊たちだって。みんな誰も知らない世界で生きている。いつかピーターが生まれた国へいき、私も一緒に冒険をしよう。ケンジントン公園に忍び込んで、ピーターと遊ぶのだと夢を膨らませていた。
「…終わらないと思っていたのに」
どんなに憎んでも、母はずっと生きていて。もしかしたら大人になった時に、ようやく彼女と二人で話し合うことができるかもしれないと心のどこかで思っていた。その時には翠も一緒に。三人でワインを空けて朝まで語り合うのだと。幼少期の辛かった思い出を母と翠にぶつけて。嫌っていても、私たちはいつかわかりあえる日がくると思っていた。
それなのにあの人は、誰の許可もとらずにさっさと先に幕を下ろしてしまった。自分勝手で傲慢で、どこまでも我を貫くまさにお母さんらしい最後。
廊下に響く生徒たちの笑い声を聞き、本を閉ざしてようやく櫛を手に立ち上がった。
ティルの化粧台を借り、腰まで伸びた毛に櫛を入れ二房に分けていつもの三つ編みにする。そろそろ切ろうかと思いながら、ついきっかけを逃しここまで伸びていた。この毛先がまだ肩あたりにあった頃の私は、どんなことを思い毎日を過ごしていたのかもう思い出せない。人間の脳が記憶できる情報は限られている。だからこそ人はあらゆる方法を使って過去を留めておこうとするのだ。
忘れてはいけない過去だから……
櫛を置き立ち上がる時に目が合った鏡の中の少女は、蒼褪めた顔に仄かな決意を滲ませていた。
あの写真が示す事実を調べなくちゃいけない。
億劫とした所作でコートをとりドアを開けると、そこには私の『友だち』が待っていた。
「おはよう、リンコー!」
「ハァイ! 今朝は一段と冷えてるわよぉ」
「あっ、リンコ。後で昨日のノート貸してよ」
親しげに喋りかけてくる彼女たちに向かって、私は微笑んだ。
それから私は昼までに何とか書類をまとめ上げ、取引先の社長宅への謝罪も済ませると慌てて指定したレストランへ向かった。急いできたけれどまだ彼女はついていないようだったが、早くも店内は混み始めていたので窓際のテーブルに座って待つことにした。
店員がメニューを持ってきたので、職場の若い子たちがここの魚料理は評判だと言っていたのを思い出し白身魚のムニエルを頼んだ。できたらワインも頼みたかったが、午後からの仕事を思いぐっと我慢した。
上着を脱いで伸びをする。子連れの客もちらほらと見られ、子どもたちが慣れない魚の骨に悪戦苦闘していた。
「ねぇお母さん。この前ね先生が、どうして海はしょっぱいのかって宿題を出したの」
一つテーブルを空けて後ろに座る親子連れの会話が耳に入った。
「それでね、あたしはお魚が沢山泣いたから海がしょっぱいんだっていったの。でもそれは間違いだって! お魚は泣かないし海は涙でしょっぱいんじゃないって」
お魚の涙かぁ……
子どもらしい発想だと思いフフッと笑みを漏らした。
「次の作品に使えそうなお話だわ」
テーブルにかかる影に気づき顔を上げた。
「Hello! あ、じゃなかった。こんにちは! セリさん」
大輪の薔薇が咲いたような華やかさを醸し出し、白いコートに身を包んだ金村恵理は微笑んだ。
「久しぶりね。さぁ座って、私はもう頼んだわ」
「じゃぁ私はシーフードサラダとホタテのリゾットにしようかしら」
とメニューを一瞥し、飛んできた店員に注文をした。まだ二十代くらいの男子店員は頬を染め、やや上ずった声で彼女の注文を繰り返して戻っていった。
手を組みその上に顎を乗せるとやや傾斜に彼女を見上げる。会うたびに思うのだが、どうしてこんなに美しい人が教員になったのだろうと、不思議に思った。実際に彼女は女優と言っても十分に通用するだけの容姿とスタイルを兼ね備えていたのだ。
「懐かしいわね。私たちが出会ったのも、このレストランだったけど…セリさんは覚えてるかしら?」
「そうだったわね」
二ヶ月くらい前だっただろうか。偶然立ち寄ったこの店で相席になったのをきっかけにこうして親しい仲になったのだ。メール・ヴィ学園の教員と聞いて、共通する話題が初対面の警戒心をすぐに打ち砕いた。
「そう、お魚の涙で思い出したけどこんな話を知っている?」
「何?」
「人魚姫をパロッたものなんだけど、海辺で歌声を聴いて美声の主に惚れた王子様と、その声の主の人魚が恋に落ちたの。人魚は何とかして二つの脚を手に入れようとして魔女に力を借り、その代償に声を売った」
ここまで聞くと別に何らオリジナルを感じない。所がぐっと身を乗り出すと、恵理は目を輝かせて続けた。
「二人は再び出会い両想いになったかと思いきや、王子は彼女の美しい歌声に惚れた訳で、声の出ない彼女には興味も何もなかったのよ。それで悲しみ暮れる人魚だったけど魚だから涙が出ない。王子は人間だと思い込んでいるから、涙も流せないのに本当に悲しんでいる訳がないって言って人魚を切り殺してしまったってお話よ」
「なぁにそれ。童話とはほど遠いわね」
「ふふ。でも面白いと思わない? 目の前にあるものしか信じられない、涙がなければ悲しんでいないって思った王子の気持ち……現代の人間を皮肉っているわね」
「解釈の仕方によっては、そうともとれるわね」
運ばれたコーヒーにミルクをいれ、疲労した脳に糖分を与えると芹沢はようやく一息吐いて友人の近状を尋ねた。
「展覧会は順調なの?」
「もちろんよ。でも今回は京都での展示だから、この後すぐに新幹線で京都までいかなくちゃいけないの」
「あら、呼び出して悪かったかしら」
「いいのよっ。東京にも用事があったから。それよりセリさんは変わらず、あそこの会社にいるの?」
「えぇ…なんだかんだでまだいるわ。いい加減に独立も考えているんだけど、今、私が抜けたらすぐに潰れちゃいそうな気がして」
口火を切ると私はやや滑らかになった舌で、溜め込んでいた鬱憤を吐いた。
「新社長の心象が思っていたよりも株主たちからの評判がよくなくって、今日も取引先に頭を下げにいっていたの」
「そぉ。でもどうして前社長は、そんな無能のぼんくらを指定したのかしら? 私だったら翠くんか琳子ちゃんのいずれが成人するまで、貴方に経営を任せてそれから子どもに譲るわ」
「私に経営を一任するって言うのは無理だけど、確かに…何故あの男を選んだのかしらってよく考えるわ……」
言葉を区切り、続く科白を濁ませる私の顔を覗き込むと
「ずばり、あの会社を潰すのが狙いだったのかしら」
心の中を読まれたような気がして、ナイフを握る指に動揺が走る。けれどまさに同じことを思っていたとは言い出せず私はぎこちなく首を振った。
「さすがにそれはないわよ」
彼女もぺロッと舌を出して笑うと、運ばれてきた料理に目を輝かせて喜んだ。
昨日の雪は溶けずにそのまま固まっていた。用務員のおじさんや手の空いている教授たちが雪下ろしに追われている中、授業は緩やかに行われた。
「―――で話は変わるが、三平方の定理をむかし日本では鈎股弦の定理と呼んでいたんだ」
壇上に立ちよく通る明瞭な声で、ベンバー教授がピタゴラスについての解説をした。空き時間を使って彼の授業に紛れ込んだものの、意外と周囲の生徒の反応も穏やかでたまに私のようにもぐりの生徒がくるのだと教えてくれた。
チュンフォア教授と違い語り出すと授業が脱線するのも構わず、延々と数学について持論を展開していくのが玉に瑕だけど指導力のある教授だとは思う。
「……」
ベティたちに連れられ前方の席に座らされていたけれど、教室の片隅にいるキッコとモリアの視線を感じあまり授業に身が入らなかった。視点もベンバー教授から外れノートの上あたりをずっと彷徨っている。
キッコは何度も話しかけたそうな素振りを見せていたけど、常に脇をベティ、サエ、ジェニファーで固めていたので決して近づいてはこなかった。彼女たちのガードは効果的だったけれど、密室に閉じ込められているようで息苦しい。
頬杖をついて鉛筆を動かしながらレポート用紙に書き連ねた名前を反芻する。ミッシェル・バード、ハンス・コリン・カイエダ、クワィエット・パデップ……
在任する男性教員をまとめたリストだった。もちろんバロの秘書であるジャックも含まれている。ざっと目を通しただけでも数十人を超えるこの中に私の父親が、もしくは手がかりが存在するのだ。
あまり考えたくはないけど、付き合っていた当時の年齢が十代だった可能性もあるのでまだ二十そこそこの教授の名前も挙げてあった。血液型から調べてみるのも方法かもしれない…と思いO型の母なら同じくO型のベンバー教授もあり得るのだと、改めて黒板に数式を羅列する後ろ姿を見上げた。
学生時代の彼女と母の折り合いが悪かったと言っていた。もしかして母が彼にちょっかいを出していたからかもしれない。けれど在任する教授のほとんどが系列校で卒業した人ばかりだ。横に広がる繋がりから生まれた出会いも捨てきれない。キサメが言っていたようにもしも父親が薬の開発に関わっていたとしたら、まずは医学や薬学の専門知識を持った人間が候補に挙がるだろう。または原材料の生産に携わる人物か、もしくは臨床開発データマネジメントや治験コーディネーター、医療情報担当者等一般的な新薬開発だけでも様々な職種の力が必要となる。表立っては教鞭をとりこうして授業を執り行っているけれど、実はもう一つの顔がある教員たちなんてざらにいるだろう。
結局現時点で父親について絞り込むことは難しく、むしろより複雑になってしまったということだ。
「では今日はここまで」
終了の鐘と同時に生徒たちが立ち上がる。両隣に座るジェニファーたちが大きな欠伸をしていた。涙目になるジェニファーに声をかけようとしたその時、後ろに座るベティと目が合ったがすぐに視線を逸らされた。不自然な動作に先程からずっと監視されていたのだと気づいた。
ベティが、私を見ている。
全身を巡る血が熱く感じ背筋にじわりと汗がわいた。彼女を通じて一挙一動をキサメが見ている。まるで舞台に上がった女優の気分だ。スポットライトを受けていなくとも、舞台に立つ間は絶対に気を抜けない。
「あ、リンコ! 話しがあるんだ。残ってくれないか?」
輪を作り教室から去ろうとしていた私に、女子生徒に囲まれたベンバー教授が声を張り上げて呼び止めた。周囲に集まる女子たちの視線に一瞬、冷ややかな軽蔑が宿る。けれどベティらの顔色を見て慌てて表情を繕った。
「それじゃあ、先に移動しておくわね」
「なんならエスケープしちゃいなよ」
「昼食はぁ、ミドリも誘ってるからねぇ!」
三人に手を振り教室へ戻る。賑やかだった教室も集団が消えた途端に生気を失い、どこか索漠とした空間に生まれ変わった。
黒板を消すベンバー教授を眺めながら、相手から口火を切るのを待つ。恐らくキッコから何らかの相談を受け、私に事情を聞こうとしているのだろう。何度も振り返りながら教室を出ていったキッコを思い出し、何が彼女をそれほど私に執着させているのか疑問に感じた。彼女ならいくらでも他に友だちを作ることだってできるだろうけれど。
「ぼくの授業はどうだったかな?」
掌についたチョークの粉を払いながら世間話をするような、軽い調子で話しかけてきた。私も悪びれた態度をせず軽く肩を竦めると
「やっぱりばれていたんですね」
と笑いかけた。
「そりゃあ…そうさ。毎日同じ顔を拝んでいるんだ。一人でも違う子がいればすぐにわかるよ」
「とてもわかりやすくって…特に雑談が面白かったです」
頭を掻き口角を上げて笑ったが、ふいに表情を固めるとぎこちなく問いかけてきた。
「…最近はベティたちとつるんでいるようだな」
「だいぶここにも慣れてきたので、友だちの幅も広がりました」
「そらぁ、いい。残る三年をここで、ほとんど同じ面子で過ごさなくちゃいけないんだからな」
愛想笑いがどこか白々しい。どうやって本題を切り出そうか思案しながら言葉を発しているのだとわかって、ふいに邪険に扱いたくなってしまった。
「でも他校へ編入するのもいい刺激になると思います」
やんわりと前置きを作ると
「誤解しないでくださいね。私とキッコは別に喧嘩をしている訳でもないんですよ。ただ友だちって言っても、束縛されるような関係でもないし今までの友情が壊れてしまった訳でもないですから」
釘を刺すとベンバー教授はぐっと黙り込んだ。話を先回りされたので、彼の中の順序が崩れてしまったのだろう。俯いた途端、彫り深い目元に翳りが宿る。哀愁を漂わせ閉口するベンバー教授の端正な面立ちは、面食いの母の標的になり得ると思った。
ふぅと溜息を吐き、教壇から下りると教材をまとめながら語りだした。
「まぁ取り越し苦労だったならいいんだ。生徒の間に起きている問題は、ぼくらには…見えないし、わからないからな」
「珍しい…ですね」
意外な言葉につい本音がこぼれた。
「ん? 何がだ?」
無意識に漏らしてしまった失言を挽回しようと、あまり生意気な言い回しにならないように気をつけた。
「素直にわからないって言える教授がいるなんて…意外でした。どこの国でも大人は、私たちのすべて知っている前提があるように感じていましたから」
「でも…わからないっていうのは、ただの言い訳かもしれない。ぼくはきみらを何も知らないし、在学中にすべての生徒と触れ合い理解し合えるとは思っていない。不可能だとも思っている。だから…現実には叶えられないことばかり吹聴して、虚しい思いをしたくないだけかもしれないよ」
淡々と呟くその様子は普段からは想像できない、虚ろでむかし諦めた夢を懐古するような切ない眼差しをしていた。どうしてそんな顔をするのだろう。と疑問に思い、ふいにベンバー教授がセトの伯父と同級生だったのを思い出した。
「母の…後輩だったんですよね。ならセトの伯父さんとも面識があるんですか?」
「知っているも何も…ユキオは同級生だったよ」
歩き出したので私もその傍らについて教室を出た。まだ辺りには教室移動を行っている生徒で溢れている。
「確かこの城も、元はユキオさんのものだったんですよね? こんな立派なお城を持てるなんて……素敵ですね」
天井に施された絵画やステンドグラスを仰ぎながら感嘆の声を出す。
「さぁ。どうだろう。多分、彼は…一度もここに足を踏み入れていないと思うよ」
「どうして?」
間髪入れずに疑問を投げかける。ベンバー教授は一瞬、ばつが悪そうに顔をしかめたがやや声をひそめた。
「在学中から入退院を繰り返していて、卒業後にはずっと入院していたらしい。もう二人が亡くなって…こんなに経つんだなんて……信じられないよ」
「二人も…亡くなっているんですか?」
「同じ年に、ぼくの大切な友だちが亡くなったんだ」
再び瞳に深い翳りが宿る。けれどそれを隠すように敢えて顔を上げ、明るい照明を浴びると朗らかに笑って見せた。
「大切な人の代わりは作れないからね。だからこそ友だちは大切にしなくちゃいけないよ」
その笑顔にどこか違和感を覚えたが、予鈴を告げる鐘が鳴り響いたので一礼し次の教室へ向かった。
楽しいランチを終え、午後から外回りの営業に出ているうちに日が暮れいつの間にか退社時刻が迫っていた。私は一旦会社に戻るつもりで出ていたが、たまにはこのまま直帰も悪くないかもしれないと思い携帯電話を取り出した。運よく部下が電話に出たのでそのまま帰宅する旨を伝え、ふふっと口角を緩ませる。今日は久しぶりに寄り道をしよう。
カシミアのマフラーを首に巻きつけ横断歩道を渡り人気のない道を進すむ。枯れ木のシルエットが左右に大きくそびえたち、木枯らしが冷たい音色を奏でていた。もう十二月だというのにまだ雪は降らない。恋人たちが寄り添うクリスマスは近いのにイルミネーションの輝き独り身には無関係だ。
本来なら妃紗子さんの月命日も欠かさずにいきたかったが、こんな生活を繰り返すうちに休日さえ外に繰り出すのも億劫になりつつあった。昼過ぎまで眠って起きても近所で小用を足すくらい。室内も片づく訳がなく、田舎の母が見たらきっと特大雷を落とすだろう光景だ。
忙しさに身を任せ日常の煩わしさから目を逸らしていた。直面する諸々の問題と向き合うだけの勇気も気力もなくて、それでも堕落した生活には嫌悪していた。妃紗子さんの墓参りへいこうと思ってもなかなかそれを実行できずにいたのは、そんな今の自分を彼女に見せたくなかったからかもしれない。せめて彼女の前だけでは格好つけていたかった。
墓地の奥の木々が少し茂った所に彼女は眠っている。祖先代々伝わる苔の生えた石碑の横に、まだまだ見た目にも新しい彼女の墓があった。花でも買ってくるべきだったと後悔しながらも落ち葉を踏みながら近づくと、墓の前に立つ人影に気づき僅かな疑心が生まれた。
あの伯父夫婦や親戚連中がくる訳がない。
茶色いファーがついたコートに身を包んだ細身の女性だ。薄っすらと茶色に染めた髪を結った立ち姿は見る者の目を惹く。その印象は少し恵理に似ていたが、スラリと伸びた手足は大輪の花を連想させる彼女と違い柳の木を連想させた。
白い百合を供え随分と長い間、手を合わせている。不審に思いその背後に回り、わざと枯れ木を踏んでこちらの存在を示した。
肩がビクッと震え色白の顔が振り返る。整った顔立ちだったけれど、やや細い顎がどこか冷たい印象を与えた。年は妃紗子さんと同じ頃だろう。睫を上下させ黒曜石のような瞳に涙を滲ませ、涙の痕が残る白い頬を緩め優しく微笑むと低頭して立ち去ろうとした。
擦れ違おうとした瞬間に我に返り咄嗟に彼女の腕を掴む。その細さに驚嘆しつつも
「あ、妃紗子さんのご友人かしら?」
と慌てて繕った。
「……貴方は?」
眉間を寄せながら芹沢と、掴んだままの腕を交互に見比べ問いかける。改めて非礼に気づき謝罪しながら腕を放した。そして露骨に警戒心を向ける彼女に名刺を渡すと
「第一秘書を務めていた芹沢と言います。いきなりごめんなさい、葬式でも見かけない方がきていたからつい…」
「あぁ」
名刺を見て頷くと目元に残る涙を拭った。
「後輩だった関根結衣子です。ずっと海外にいて、妃紗子さんが亡くなったって聞いたのはつい先日だったので」
そして視線を私の背後へ向けた。
「偶然……友人の墓の近くだったから、彼女の月命日に一緒に参ろうと思ってきたんです」
「ご友人?」
上体をひねり彼女の視線の先を追う。少し離れた所に、線香の煙が漂う脇に白い百合が供えられた比較的新しい墓石が目に入った。
「彼女も妃紗子さんの後輩だったんです。でも、途中で転校して……」
懐かしげに語る結衣子に興味をくすぐられた。これまで妃紗子さんの過去を語れる人と出会ったことがなかったのだ。これはある意味、運命を切り開くチャンスかもしれない。憧れそして尊敬した彼女について知るのが、形通りに進められる毎日から脱却するきっかけを与えてくれる気がした。
「よかったらお茶でもいかがですか? お子さんも海外にいってしまい、故人について語る暇がなかったものですから」
突然の申し出に結衣子は睫毛を上下させ血の気のひいた蒼褪めた表情で
「海外って、まさか……メール・ヴィ…学園へ……?」
と尋ねた。
早くも廊下には生徒たちの姿が消えていた。同時にそれは次の授業が始まっていると暗に告げていた。次の教室は本館から突き出た別塔で行われるのに、このままでは間に合わない。
走りながら随分と前にモリアから聞いた近道の螺旋階段を思い出し、そこへ向かって針路変更をした。走る度に背中で揺れる二つのお下げを意識する。何となく、また誰かに毛先を掴まれそうな気がして心なしか背中が強張っていた。
高い天井に響く足音がこだまして背後から何十人もの人が私を追ってきているみたいで怖い。走れば走るほど不安が大きくなってゆくけど、脚を止める訳にはいかない。螺旋階段にはゴーストが出るとみんなが噂していた。それでも近道なら仕方ないと言い聞かせ、手摺りを掴んで駆け上った。
弧を描き回転しながら上ってゆく。勢いをつけているので遠心力も作用し頭がふらふらして気持ちが悪くなってきた。
「……っ」
つい眩暈を起こして立ち止まる。瞼を閉ざしていても平衡感覚が戻らず足元がふらついていた。しゃがみ込む私の影に別の影が覆いかぶさる。
ギィ…と床板が軋む音に、反射的に顔を上げると今朝からずっと見かけていなかったティルが私の顔を覗き込んでいた。あまりに意外な登場に呆気にとられる。けれどティルはおかしそうに瞬きを繰り返し、笑いかけてきた。
「リンコォトゥモ、エスェープ?」
久しぶりに聞いた発音の怪しい日本語にふっと気持ちが緩む。同時にこのチャンスを逃す手はないと思った。
「英語で喋りましょう、ティル」
「アァ…」
少し宙を見上げ視線を漂わせると
「オッケー。それならお喋りしましょう」
と流暢なキングスイングリィッシュで語り出した。
「ボーイフレンドと…喋る時はいつも英語なの?」
「私は英語しか喋れないもの。でも日本語も勉強しているのは本当よ」
「それならベンジャミンは英語が得意だったのかしら。聞いている限り、彼の英語はお世辞にもうまいとは言えなかったのに」
足元に落としていた教科書を拾い、私に手渡すとティルは目を逸らしたまま階段を上り始めた。後ろに続きながら更に言葉を紡ぐ。
「彼とは幼馴染みだったんでしょう? かつてはお付き合いもしていたベンジャミンが、仮に貴方の言う通り死んでいたとしたら…随分と平然と毎日を過ごせているわね」
「……私ガァ」
ふいに日本語に切り替え突然に開口した。
「貴方トゥ日ッポ語で喋レのには、訳がアりノ」
「訳…?」
段に足をかけた状態で顔をこちらへ向けると
「ガァイ国人ノォ怪しキィ発音、日本ゴォを聞いティモ、ニィ本人が聞キトレナァッシイ。注意フゥカァックくソの発音を聞きキトロトゥする意思がナァければ」
「!」
確かに普段から英語の会話が飛び交うこの学園内で、彼女のような不慣れな日本語で会話をしていても大して注意を払ってまで聞こうとはしないだろう。それだけティルの発音には全神経を集中させ、更に内容を推測する必要があるのだから。
……そこまで考えていたなんて…
意表を突く策略に驚嘆する反面で、新たな警戒心が沸き起こる。
「貴方自身もその事件に関与していないのかしら。表向きはコルスティモと罵られ、周りから浮いているけど…実際はセトと何らかの強いコネを持って行動しているんじゃない?」
長い金色の睫に隠された茶色い瞳を見詰め冷たく投げかける。小さな窓から注ぐ光が頬の産毛を照らし、淡い微光が彼女を美しい作り物のように演出して見せた。
「知っているんでしょう? この学園の裏で行われていることを」
私の問いかけに首を振って否定すると
「知っているけど、何も知らされていない。だから助けて欲しいの。リンコはまだ…シィクンツッ、グドゥ、イヒヌゥのいずれにも属していないから。貴方のお兄さんはもう、シィクンツッに選ばれているもの」
「シィクンツッ……?」
聞き覚えのあるその言葉を反芻する。
『セトいわく、ぼくらはこれに分類されるそうだよ』
キサメの科白を思い出し疑問が膨らむ。
どういうこと? 翠はもうシィンクンツッに選ばれているって…
頭痛に刺激され、記憶に蘇った言葉の数々が耳元でうるさく反響した。
『お兄ちゃんも優秀だしな』
琳子ちゃんは似てないね…そのくらい、お兄ちゃんと比べたら当たり前……あんなお兄ちゃんなら私も欲しいな…半分しか血が繋がってないから、きみは……
―――ドウシテ、私ダケ、イツモ、違ウノ?
「貴方はまだ、学園に染まっていないから。だから頼めるのはリンコしかいない。お願いよ。どうか彼を」
「私が…染まって、いない?」
違う。私はいつもちゃんとやってきた。翠に負けないように、翠に劣らないように。私の目標は翠そのものだった。彼の真似を完璧にして、初めて私の価値が生まれる。
「……私も、シィクンツッよ」
「え? 意味を知っていっているの?」
「違わないわ」
かぶりを振って否定する。強い耳鳴りがしてティルの声も途切れ途切れにしか聞き取れなかった。
「だって私たちは兄妹だもの。兄妹は似ている…そうじゃないと、いけないのっ」
「お、落ち着いてリンコ! そんな調子じゃ何も話せないわ!」
「私は―――」
ピンッと髪の毛が背後に立つ人物に掴まれる。同時に目の前に立つティルの顔から血の気がひいたのがわかった。
「面白そうな話だね」
彼が言葉を発しただけで辺りの気温が下がる。硬直し動かなくなった身体から冷や汗が流れるのに、心臓が高鳴り一気に頬が熱くなった。正体の知れない感情と純粋な恐怖心がぶつかり合う。
鼓動が毛先を通じて彼にまで届きそうだった。けれどふいに髪の毛を掴む手を緩めると、セトは私たちの間に入ってきた。
「面白そうな話だったけど、今度は是非きみの『父親』も交えて事件について聞いてみたいな。面白ければ小説のネタとして知り合いの作家に提供してみてもいい?」
『父親』と聞き、明らかにティルの顔に動揺が走った。両目を見開きわなわなと震えだすと、嫌だと首を横に振りながら彼を凝視する。そんな彼女の涙を溜めた瞳を見据え、冷たい微笑を浮かべると
「あまり彼女におかしな噂を吹き込まないで。彼女はここに馴染もうとしているんだから」
そして視線を私に戻すと、今度はひどく対照的に温かみある眼差しを向けてきた。
「リンコはもう、立派にぼくらの仲間だよ。生徒会に入ったミドリも同じくだ」
けれどその言い回しはどこか差別的で、私を仲間だと認める反面で、ティルを槍玉に挙げようとしているようにもとれた。彼がこんなふうに特定の人物を除け者にする所を初めて見る。それも何故、ティルを? ベンジャミンが消えた後に二人が密会していたことから、親しい関係なのかもしれないと勘繰っていたけれど、それは間違いだったのかしら。
「ドクター・アンジーが探していたから、ティルを医務室まで連れていくよ」
訝しんでいた私に笑いかけると、項垂れる彼女の手をひいて歩き去っていった。ゆっくりと階段を下りていく二人を見送るも、何故か私の視線は彼女たちの繋がれた手に注がれていた。
「………」
さっきまで早鐘を打っていた心臓は、今は穏やかだけど鈍い痛みを絶えず発していた。
生徒会室の扉が開くと既に室内で寛いでいたキサメの姿を見つけ、ミドリはやや驚いたようだった。ソファに腰かけ新聞を広げていたキサメも彼に気づくと
「この時間は授業をとっていなかったのかい?」
と新聞を折り畳みながら問いかけた。
「休講だ」
短く答え椅子に腰を下ろす。『ぼく』が覗く穴からはミドリの横顔とキサメの後頭部が見えた。それにしても二人の表情を同時に捉えるには穴が少なすぎる。当選以降キサメたちは生徒会室を活動の本拠地にし、バロからも彼らには特別に注意が必要だと警戒していた。薬の秘密を嗅ぐ愚かな奴ら……。こうして動向のすべてが筒抜けなのだと気づく頃には、あいつらも消えているだろう。ほくそ笑みながら穴に顔を近づけ聞き耳を立てた。
「そういえば、そろそろガドレの準備をしなければいけないのだね。開催期間は私服も可能となるからドレスアップした女神たちを拝めるのだよ」
嬉しそうな声を出すキサメを鼻で笑い、翠は机から書類を取り出すと目を通しながら答えた。
「楽しむのは自由だけど生徒会長としての役割はちゃんと果たせよ」
「何よりもリンコのドレス姿が楽しみだよ」
「それは日本の新聞か?」
会話が噛み合っていなかったけど、肩を竦めてキサメが折れた。
「四年前に起こった老夫婦殺人事件について調べていたのだよ。それなりに裕福な家庭だったから当初は強盗目的かと思いきや、犯人は事件当日まである女児にストーカー行為を繰り返していたらしいね」
急にミドリの横顔が険しくなる。彼がこんな風に感情をあらわにするのは珍しい。
「ユラガワって日本で多いのかな? 被害者も同じユラガワっていうのだけど…偶然にしては、きみの祖父母が亡くなった日にちと事件が起こった日が重なるっておかしいとは思わないかい?」
「……そんな偶然が起こる訳ないだろ」
憎々しげに肯定する。そして立ち上がると手にしていた書類を突きつけるように渡し
「今日の会議までにこれにきみのサインを入れけよ」
それまで悠長な態度を保っていたキサメも書類の量に圧倒され、恨めしげにミドリを見上げた。
まさかジェニファーの言う通りになってしまうとは…
もはや遅刻を免れないと悟り、後から入って目立つよりはエスケープをしてしまおうと決め図書室へきていた。初めてのエスケープに内心ドキドキしてしまっている。けれど読みかけだった本を探して私は巨大な書架の間を巡った。
この時間帯の授業は必修が多い為、図書室には普段よりも人気がない。静寂が鼓膜を刺激して耳がおかしくなりそうだったけど、どういう訳かこの静寂の音がむかしから好きだった。耳を澄ませばどこかでページをめくる音が聞こえる。姿は見えないけど確かに存在する安堵感に守られ、私は本に囲まれた場所を好むようになった。
一通り書架を回りそれでも目当てのものが見つからなかったので、諦めて適当に本を探す。作家名で選んでいたが、薄い革張りのタイトルも作家名も書かれていない本を見つけ手にとってみた。
表紙に日本語で『泣かない魚』とだけ書かれている。もしかして、と思い裏返してみるとそこにはセトのサインが入っていた。きっとこれも彼の収集物の一つだったのだろう。あながち収蔵されている本の大部分が彼のものだったという噂も嘘ではないかもしれない。薄い本なのですぐに読み終えてしまえそうだ。そう思い表紙をめくった。
読みやすい童話調の文章はすらすらと頭に入っていく。
どうやら人魚姫をベースに書いたものらしいが、恋人の心を疑って王子が彼女を手にかけてしまう物語だった。恋の為に自らの大切な声を手放した人魚も、狭い視野にとらわれた王子も傍から見れば馬鹿だなと思ってしまう。
涙がなければ…泣いているってわからないのかしら。
物語に込められた作者の意図を考えながら本を戻すと、ふいに視線を感じて振り向いた。
「……あ、あの」
声を上ずらせながら、以前よりも少し痩せたキッコが立っていた。近くにモリアの姿はない。偶然に私を見つけ近づいてきたのか、それともずっと監視していたのか…
つい邪推してしまう。この学園では常識では考えられないことが陰で堂々と横行しているのだから。
「どうかしたの? 今の時間に授業はとっていなかったのかしら?」
どうせ彼女を利用しても大した収穫は見込めないだろう。せめてファルバロと深い繋がりのあるゲンジロウか、それともユンを懐柔しなければ役に立たない。
「あ、あたし…わからないけど」
どこか怯えた様子で言葉を紡ぐキッコを見守るも、早くも関心は他所へ移っていた。
「でもリンコを怒らせたなら、謝るから! ずっとあたしを避けているでしょう? どうして? ねぇ、どうして?」
「何言ってるの? 私たち、別に喧嘩もしてないじゃない」
「嘘よ! ずっと避けてるじゃない。ベティたちとつるんであたしが近寄らないようにしているでしょ!」
そこまでわかっているのにどうして理由まで頭が回らないのだろう。黙る私を一瞥し、キッコは寂しげに笑った。
「あたしね、入学してからもずっと周りに馴染めなくって…色々なことを喋れる友だちもいなかったの。特別な特技もなくて…地味な生徒だった。だから転校してすぐにみんなが興味を持ったリンコが羨ましかった」
「だから…私を中傷する噂を流したの?」
「ち、違うの! それは、だ、だって下手すればリンコも消され―――」
慌てて口を閉ざすキッコを凝視し、私は一瞬で確信した。
「知って、いたの?」
と一言一言に力を込めて呟いた。
彼女たちは。この学園の生徒たちはみんな、ベンジャミンが失踪しているのだと知っている。そして今、彼の代わりを演じる誰かを全校生徒たちがサポートし合っているのだ。
「ち、違う…あたしは何も!」
「ベンジャミンが消えた理由も知っていて…知らないふりをしていたのね? そうよね、偽者がぼろを出してもみんなで隠せるもの」
「……違うの…。でも………ガドレの、主に、見初められたら…」
「ガドレの主?」
聞き慣れない言葉に過敏に反応する。ベンジャミンの失踪の噂が流れたと同時にガドレの開催が決定された。それらから考えるに「ガドレの王」とは生徒たちに共通するある種のキィワードのようなものなのだろうか。
「…知らない。あたしは…何も…」
俯き制服の裾を握り締めると、キッコはぽろぽろと涙をこぼした。
この涙は本物なのかしら。泣けない人魚の気持ちを疑った王子とは逆に、床にシミを広げていく彼女の涙がどうしても白々しく見えてしまう。あれほど様々な手段を使って周囲を操っていた母だけど、一度も涙を武器にしたことはなかった。陳腐な言い方だけど、女の常套手段だった涙を彼女はいつ、どんな時に流していたのだろう。
何も知らない母の過去は、記憶にある彼女に相応しい華やかなものだったのかしら。
急に切ない思いが込み上げてきたので、意識をキッコへ集中させた。大粒の雫を流しながらしゃくるキッコを一瞥し、噂を流したのもただ私を独占したかっただけなのだと理解した。
彼女からすれば私は強者となる。弱者が身を守るために力の上回るものに媚びるのは当たり前だ。知らぬ間に上下関係が逆転し、操り人形のように使われてしまうこともある。
けれど私はそんな愚か者にはならない。必要ない者は容赦なく切り捨てよう。
「私は一人でも戦えるわ。今までもずっと、誰も味方になんて…なって、くれなかったから」
「嘘よ…みんながリンコを慕って、みんなが憧れているもん」
裾で目元を拭いながらぼやく姿を見て、ずっとわからなかった疑問が符合した。ただ私に理想を重ねているだけ。結局はキッコも上辺だけの私しか見ていない。
「信じるも信じないも…貴方次第でしょう」
捨て台詞のように呟くと、目を合わせないまま踵を返した。
墓地から歩いて数分の喫茶店に入りコーヒーを二つ頼むと、私と結衣子の間に再び沈黙が流れた。膝の上で指を弄びながら、それとなく向かい合う彼女の面立ちを観察する。少し痩せているけど綺麗な女性だ。意思の強そうな目元に好感を覚える。けれど細い指にはどちらとも指輪がはめられていなかった。これだけ綺麗な女性でも結婚しないでいるのは意外な気がしたが、妃紗子さんの例を思い出し妙に納得してしまった。
愛想のよい女子店員が注文の品を運んでくると、ようやく結衣子も顔を上げた。
「さっきの話だけれど」
「あの一族は呪われているって思っています」
すかさず発言すると、居心地悪そうな顔で私を一瞥した。
「呪われているって…」
と言葉を選んで繕うも、不穏な気配につい身構えてしまった。笑って済ませられるような思い出話ばかりではないのだろうか。
「結衣子さんもあの学園を出身されていたんでしょう?」
「…私は…日本の姉妹校を卒業しています。妃紗子さんと知り合ったのもその頃でした」
「あぁ、そうだったの」
「芹沢さん、ですよね?」
納得する私に突然食ってかかると結衣子は一気に捲し立てた。
「どうしてお子さんをあそこへ入れたんですか? 妃紗子さんはあの学園を憎んでいたんですよ? 学園長一家が支配する閉鎖的な空間で吐き気がするって、いつも言っていたのに」
「ど、どうしてって…遺言として、それにあそこで学んで欲しいって本人が言っていたのに憎んでいるだなんて。私も調べたけど素敵な学園じゃない」
かぶりを振り結衣子は両手でカップを包むと、コーヒーに映る自身の顔を睨みつけた。
「信じてもらえないかもしれないけど、あそこへ入れられる子どもたちは…みんな、何らかの傷を背負っているんです。社会が受け入れない子の……最後の砦…だった」
淡々と紡ぐ面差しは一切の感情を排除した、まるで人形のようなものだった。
最後の砦…と心の中で反芻しその意味を玩味する。学校は一つの国のようなものだ。中へ入らなければ中で行われていることもわからない。
ミルクを加えたコーヒーを啜り口の中を潤す。素晴らしい味に店が繁盛する理由もわかった。小麦色に変わった中身をゆらゆらと回し、カップの縁に描かれた柄を眺め
「わからないわ。だって貴方の言う通りなら、あの妃紗子さんも心に傷を負っていたと? ずっと一緒に仕事をしていたけど、彼女にはそんな弱い所なんてなかったもの」
結衣子は何も答えなかった。ただじっとカップを握ったまま私の動向に耳を傾けているようにも思えた。
再び流れる沈黙に乗じて再び彼女の様子を盗み見る。あまり華美な装いではないけれど、身に着けているものは高価なブランドものばかりだ。黒いワンピースはきっと喪服をイメージしてきたのだろう。もし彼女の主張にのっとるならば、彼女自身も辛い過去を経験していたことになる。そう考え至った途端、芹沢の軽い好奇心が心をくすぐられた。学校という特殊な環境に、それぞれの過去を抱えた子どもたちが集まるだなんて……なんだかドラマチックなシナリオだ。
「妃紗子さんはずっと、実の兄に性的な虐待を受けていました」
「!」
唐突に語られた衝撃的な告白に言葉を失う。唖然として彼女を見据えると、先程の『人形』の表情をして続けた。
「全寮制だったけどお兄さんから逃げようとメール・ヴィへいきました。芹沢さんの知る妃紗子さんっていうのも演技だったんです。本当は自分に群がる男たちを軽蔑し、誰にも心を許そうとしなかった冷たい人だった。頼りにされるのを喜ぶ反面で自分がいなければ何もできない周囲に激しく嫌悪もしていた」
「…嘘……よ」
否定したものの、どうしても心からそれを後押しできなかった。
「今だから言うけど、わざと傷口を抉っていた妃紗子さんが嫌いだった。私が付き合っていた彼にまで手を出そうとして…っ。けれど私や、卒業生たちが互いに連絡を取り合っているのはただ仲がいいからじゃない。同じように生きてきた仲間だから」
ふっと言葉を区切り冷めたコーヒーを口に運ぶ。そして強い眼差しを向けると、信じたくないという私の希望を打ち砕くように言い切った。
「学園に教員として戻る生徒が大勢いるのもその為です。みんな、外の世界に生き甲斐を見つけられなくて、どうしてもむかしの仲間を頼ってしまっていた。あそこにいる限り自分たちは安全なんだって思っているから」
心が張り裂けそうなくらい痛い。全身から悲鳴を上げて彼女の主張を否定したかった。けれど、ずっと前から気づいていた。敢えてそれから目を逸らしてきた。
「……会社も学園と同じ状態…だわ。妃紗子さんがいなければ、誰も、何もできない」
涙腺が緩み熱い何かがこぼれそうになる。なんて愚かだったのだろう。彼女の一番の友だちだと思い込み、ただ自分のポジションに満足していただけじゃないか。
俯いた途端握り拳に雫が落ちた。
「私には……あの子みたいに逃げる勇気もなかった」
「あの子?」
声を裏返らせ呟いてから、友人の墓が近くにあると言っていたのを思い出した。
「七年前に交通事故で亡くなった友人です。唯一、学園を自分の意思で出ていった生徒でした」
感慨もなく答えると、大きな溜息をつき両肘をついて両手で顔を覆った。
「でもまさか子どもまで、あそこに入れるとは思ってもみなかったわ…」
何だかとんでもない間違いを犯したような気がして居た堪れなくなる。確かに彼女の話を鵜呑みにするなら、翠たちを転入させたのは間違いだったかもしれない。
「あぁ……でも、父親がいるんだもの。当たり前といえば、当たり前かも…」
「え、父親?」
驚く発言につい中腰になった。結衣子もびっくりして両手で覆っていた潤んだ瞳を開き、私を見上げた。
「知らなかったんですか?」
やや間を置いてから投げかけられた問いかけに、素直に頷く。が、結衣子はそれ以上に語ろうとはせず、質問を拒むようにコーヒーを飲み始めた。
「子どもたちも自分の父親が誰なのか知らないの」
畳みかけるように言葉を紡ぎ懇願するが結衣子は素知らぬふりを続けた。
「あの世にいる妃紗子さんに顔向けができないくらいの秘密を喋りました」
メニュー表を取り出し、デザートの覧を眺めながら結衣子は断固とした態度で答えた。近くを通った店員にストロベリーパフェを注文し、改めて私を直視すると
「それにもし、あそこでしか生きていけない男を自分の父親だと知って…場合によっては傷つくのは子どもたちでしょう」
と有無を言わさない迫力を伴って断言した。それ以上の言及を許さない強固な面差しに、これが彼女の言う『仲間意識』からの協力なのだろうと察した。
食堂へ向う途中の会話でさりげなく『ガドレの主』について質問をしてみた。するとサエを筆頭に、三人は特に隠す素振りもなく説明を始めた。
「それってぇ、ファルバロの渾名って聞いたわぁ」
「あたしもだよ。パルトロを選別する時に彼が最後の決断を下すとか、何とかって聞いたけど、実際はどうなんだろうね。セトがまだ学園にいない頃に多忙なバロが、その仕事を特定の生徒を選び与えたとかいう噂もあったし」
「ガドレでは伝説の乙女が毎年選ばれるのよ。パルトロから剣を受け取り恋人の元へ向かう為に。去年はシュカが選ばれていたわ」
それは意外な選択だった。つい面食らう私の胸中を察した様子のベティは、ふふと短く笑いおっとりとした口調で説明を始めた。
「外見や成績に関わらず選ばれるらしいわ。ガドレが終わってからしばらく、その年の乙女は周囲の注目を浴びて人気も上がるとか言うけど、シュカの時は、彼女が集まる人間を断固として拒否していたからあまり盛り上がらなかったみたい」
「せぇっかく、おかたぁ~い寮監督生のイメージを払拭できたチャンスだったのにねぇ。あの人ってぇ意外と人嫌いなのねぇ」
「意外でもないだろ、あれは典型的な堅物だって」
「でもでもぉ、私がよ、乙女に選ばれたらミドリも見直してくれるかしらぁ?」
サエの惚気を完全に無視してベティが口を開いた。
「リンコはもう聞いているかしら? ガドレの間は私服も許可されるから、大抵の子がドレスアップするのだけど…。学内でレンタルもできるし、必要ならカタログを送ってもらうこともできるわよ?」
「準備しなくちゃいけないのね。もうみんなは決めているの?」
この質問に三人は瞬時に頷いた。同時に彼女たちの瞳は急に輝き始め、生き生きと各々が着る予定のドレスについて語り始めた。
「今年はマーメードラインのドレスを新調したのよ。楽しみにしていてちょうだい」
豊満な胸元に手を当て、ベティは自慢げに微笑んだ。
「私はあの丈のドレスを着る為に一年間ダイエットに励んだのよっ。絶対に何がなんでもミドリに見てもらわなくちゃあ~」
「やっぱりこういうイベントは盛り上がるよね。私は今年はシックに攻める予定だよ」
制服で過ごしたかったけれど彼女たちの気合の入り方を見てつい尻込みしてしまう。残る三年もこの学園にいることを考えると、一着くらいは用意してもいいかもしれない。後でレンタル用のカタログを借りてみようと心に決めた。
それにしても『ガドレの主』がセトを指すとしたら、彼に見初められた生徒が消えていくとはどういうこと? キッコが怯えながら紡いだ言葉が気にかかる。ガドレの後に冬期休暇と重なって行われる転入期間を利用すれば、沢山の生徒を誰にも疑われずに消せる。
連なって嫌な発想が頭を過ぎった。
彼には有名な収集癖がある。自分が気に入った生徒を何らかの形で集め、消して…いた? でも腑に落ちない。それなら彼と終始行動を共にしているゲンジロウや、ユンが真っ先に消えているはずだ。
食堂に着きテーブルで待つ翠を見つけ背筋に冷たいものが走る。傍らでサエが感嘆の声を上げベティが頬を蒸気させる。誰も翠の異変に気づいていない。いつもの彼とは違う。空気がいつもより…殺気立っている。
「……翠、顔色が悪いわ…」
椅子に腰をかけながら恐る恐る声をかけるも、彼は普段と変わらない態度で
「そんなことないさ」
と答えた。しかし次の一瞬にキサメが私たちを交互に見たその視線に、何もなかった訳がないと直感した。
あの翠が動揺している。それもキサメが関係している。手を組んだと言いながらも、監視し隙を見て相手を食い物にしようとしているのだ。それでも冗談を交え親しげにやり合う二人を見て、何が翠をそこまで追い詰めているのか考えた。
気がつけば喫茶店から望む外の景色は、陽が完全に沈む辺りは暗闇に飲み込まれていた。駅まで帰る方向が一緒だったので、私たちは同じ道を歩いていた。
「ねぇ芹沢さん…」
ふいに結衣子から開口する。これまでの会話で暗澹とした思いが渦巻いていた私は、億劫とした動作で隣に立つ彼女の横顔を見た。それは街灯や店頭の明かりに照らされ、とても無感情で冷徹にもとれる表情だった。
「失礼を承知の上で申し上げます。もしかしたら芹沢さんを怒らせてしまうかもしれないけど、言わずにはいられないので」
前置きを述べて小さく息を吸い込むと
「妃紗子さんはあそこを嫌っていたけど、あそこでしか生きていけないと悟っていたと思うんです。けれど卒業して会社を興していざ自分がその頂点に立った時、同じようにそこに依存していく社員を見て、それに気づいたんじゃないでしょうか」
口には出さなかったが確かにそれは間違いないと思う。彼女についていけば。その庇護下にいれば、何も恐れるものはない。そうやっていつの間にか妃紗子さんの足枷となっていたのだろう。
知らず知らずの間に、彼女は最も嫌っていた学園を自らの手で再現していたのだ。
それがどれだけ辛かったことか。
「ワンマンを貫いたのも、自分じゃなくちゃ駄目なんだっていう強い責任感があったから。でも…新しい社長を指名したのは自分の手で幕を下ろしたかったからじゃないかしら」
―――あぁ、本当に…
私は何を見ていたのかしら。一番近くにた私がどうして妃紗子さんの流していた涙に気づけなかったのだろう。
「……目の前にあるものしか信じていなかった私も、人魚姫を殺した王子と同じね」
そう呟いて潤んだ視界を結衣子に向けると、彼女は悲しげに微笑んでいた。
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