失われた子どもたちの童話集  ――This is the story of Lost children.

青海汪

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第三部 剣を携える乙女

第二十一話 最後の扉を守る子どもたち

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 テーブルの上にツインが提供してくれた資料を広げて睨みながら、翠は一時間前から同じ体勢で考えを巡らせていた。空になったティカップを下げるティルにも気づかない恐ろしい集中力を持続させている。
 窓辺に椅子を持ってきた私は久しぶりに雪のやんだ空を見上げ、手元に広げた本を思い溜息を吐いた。何度読み返してもセトの本に新たな手がかりは見当たらない。それどころか彼が校内を隈なく監視していたのだとわかり、常に感じていた気配の正体を今さらながら知って気分が悪かった。
 時に私とキッコの会話などは詳しく書かれており、どういった経緯でキッコが私の噂を流したのか…などは十分に伝わってきた。それと地下のあの夥しい量の本が眠っていた部屋。それについて翠たちにも伝え、中にあった本を何冊かここまで運んできた。学園から姿を消した生徒たちの末路について書かれた本だったけれど、どれだけ調べても彼らのエンディングに薬が絡んだものは見当たらない。
 「どこにも二人を殺したなんて書かれてないんでしょ?」
 ティルが差し出した飲み物がコーヒーでないことを確認してから頷く。
「けれど、連れ去った後のことも書かれていないの」
頬杖をつきながら何度目かの溜息を漏らした。
 「ねぇ、ファルバロとは顔を合わした?」
鼻の上に皺を寄せながらティルが聞いた。ゲンジロウを通じて彼の近況は知っているけど、実際にまだ顔も見ていない。
首を横に振る私にティルは真顔で激励を始めた。
「彼もリンコを好いていると思うわ。だからリンコたちについて詳しく書かれているのよ」
 「単にジャックの娘だからっていう見解もできなくはないけどな」
返答に困っていると大きく伸びをしながら翠も会話に入ってきた。
「明日から冬休みよ。ファルバロはどうするのかしら…」
ティルの呟きに、私もつい暗澹とした気持ちを隠せずにいた。そんな私たちの様子を眺めながら、翠は出されてからずっと口をつけていないココアを取った。
「ファルバロはともかく、ジャックがどう動くか注意が必要だな」
そして一口飲んでから顔をしかめ
「どうしてココアは入れられて、コーヒーを入れることができないんだ?」
とぼやいた。
「豆が悪かったのよ。それに素直にココアが美味しいねって言えばいいのに」
「粉末にホットミルクを足す、即席ドリンクごときで褒めてもらって嬉しい…と。きみの向上心の低さには脱帽だね」
 「もぅ! 強情っ張りのひねくれ眼鏡!」
 もはや見慣れた二人のやりとりを微笑ましい思いで見守りながら、私は今朝届いた手紙を開いてみた。慌しくて読むのを忘れていた芹沢さんからの手紙。そこには近く休みをとって、友人とこちらへ観光にくるとの旨が記されていた。友人と言っても恐らく結衣子さんだろう。手紙が投函された消印から逆算して、近日には訪れるのではないかと期待していた。
 卒業生でもある結衣子さんから新たな情報を手に入れられる可能性に縋る想いだった。セトもベンバー教授も口を揃えてその存在を否定する。隠していれば当たり前のことだけど、なんとなく腑に落ちない。大切な…根本にある問題を忘れ、必死に破片を集めているだけのような気がしていた。
 「冬休みになればコックも交代に休みをとるし、厨房をもっと詳しく探せるよ。食料貯蔵庫だって見なくちゃね」
 ソファでナルキを挟んで本を読んでいたハルキが口を挟んだ。
 「私も…実家に帰る予定だったけど取りやめて、ずっとナルキと探すから」
 『ナルキと』という部位を強調しながら、ユンはハルキとの間に火花を散らせた。両者の間にいる当のナルキは、兄と恋人に囲まれ幸せそうにうたた寝をしている。
 呑気なものね…
 気持ちとは裏腹に憧憬の想いを秘めながら開いていた本を閉ざした。
「地下の本をもう少し探して持ってくるわ」
 「一人で行くの? もう少ししたらゲンジロウが授業終わるから…」
 「大丈夫よ。今度はライトを持っていくから」
気遣うティルに明るく手を振って断ると、私は生徒会室を出ていった。
 授業中なので廊下に生徒の姿はない。静まり返った沈黙が、青い影となって大理石の床に広がっている。まだ昼前だというのに陽は高く昇り校内はとても暗く沈んで見えた。
自分の影も周りの闇に飲み込まれて区別がつかない。学内でも同じ年頃の部外者なら、この制服を着てしまえば誰ともわからなくなってしまう。ふいにそんなことを考えた。
ゲンジロウの話で彼の中にある『ユキオ』という人格についてわかった。恐らくその『ユキオ』がセトの重大な鍵を握っているのだろう、というのが私と翠の共通意見だ。しかしいくら彼が『ユキオ』が目覚めないと言っていても、私たちにそれを確認する術はない。バロの息子との約束が生んだ人格。ならば彼を目覚めさせることで、一種の起爆剤になるかもしれないのに。
バロの狙い。それは世界中の子どもの幸せって……
そこには医者として高い評価を受けてきたバロが、教育者に転身した理由にも繋がる事実があるのだろうか? 狙いなんてなんでもいい。ただ一刻の猶予もないことが焦らせた。
セトが薬漬けにされている。耐え難い事実をゲンジロウから聞いた時、思わず眩暈がしてしまった。いくらなんでも実の孫に手をかけるはずがない。ましてや後継者ともなる存在だと思っていたが、甘い考えだった。
図書室から地下へ降りると私はペンライトを片手に慎重に薄闇の向こうにあるあの部屋を探した。冷えきった空気が神経を研ぎ澄まし、無意識にライトを握る指に力が入った。
 
 
 教授に指名された生徒が、黒板に書かれたレドヴァス語の詩を英訳していく。もうすぐで授業が終わるけど熱心さで有名なウィリアム教授のことだ。明日からの休みを考えて、俺たちに特別プレゼントと称してとんでもない量の宿題を出すだろう。
 どうかこのまま無事に授業が終わることを願いながら、ノートに黒板の文章を書き写した。
 「ねぇ」
と、背中を誰かが突いてきた。何ごとかと振り向くと、後ろに座っていたエリックが隣りのカイルとニヤニヤ笑っていた。
 「ゲンジロウも知ってた? ベティがついに精神科病院に送られるらしいよ」
 「バロも決断が遅いね。ストーカーしていた時点でもっと対処を考えてくれてもよかったものを」
まるで井戸端会議を楽しむ婆どものように、互いの顔をつき合わせて「ねぇ」と相槌を打つ。入院については初めて知ったけど確かにもっと早くに対応をするべきだったのかもしれない。そこまでキサメに生き甲斐を見出していたのかと思うと、なんだかやりどころのない悲しみと憤りを感じた。
 声を出さなきゃどこにも届かない。悲鳴に変える前に、いつも感情を押し殺してきた。セトは今も声を殺している。自我もすべてを殺して…バロに食われる直前だ。
 俺は、セトの友だち。セトの仲間だ。
奴の中に『ユキオ』が眠っている。奴がセトを脅かしているなら、不安にさせているなら―――何がなんでも…叩き起こしてやる。
 壇上に立つウィリアム教授がプリントの束を配布しながら大声を出した。
 「明日からの休みをいかに有意義に過ごすか。それはすべて諸君の判断に懸っている。くれぐれも心身を鍛え、この笑顔で再会できることを祈っている。それではわたしから愛を込めてプレゼントだ」
 終業のチャイムを掻き消す勢いのブーイングが飛ぶ。冗談のつもりか、ピンクのリボンで結ばれたプリントの厚みに驚嘆しながらも、それを鞄にしまうと素早く教室を出た。
 
 
 扉の鍵を開けたのと同時に遠くで鳴るベルが聞こえた。ゲンジロウは授業が終わった後に生徒会室へくるかしら。彼から聞ける最新の情報を思うと軽い焦燥感に煽られる。もっと手がかりを見つけもっと早く、もっと、もっと…セトを助けてあげたいのに。
 扉を開けると同時に目の前の景色が広がる。見慣れた沢山の本に埋もれた部屋の片隅で、壁に凭れかかったセトが脱力した姿態で座っていた。
 「!」
背中を弾かれたように彼の元に駆け寄る。私に気づいたセトは以前より憔悴した面立ちで、口角を上げて微笑み返した。
 「……ッ」
久しぶりなのに、声が出ない。話したいことや聞きたいことが山のようにある。どうして、彼を見た途端に何一つ言葉が出てこなかった。
「やぁ、リンコ。思ったよりも早くこの部屋を見つけたんだね。…少し休んだら出て行くから安心していいよ」
「セト…セト……ねぇ」
想いが溢れて彼の名前を繰り返すので精一杯だ。彼が帰ってきたと聞いた時に、真っ先に会いにいくべきだった。そうすれば何かできたかもしれない。そんな根拠もないことを思い罪悪感を覚えながら、私は彼の手を握りしめた。
「ここを出て。貴方は自由にならなくちゃいけない。いつまでもバロの息子に囚われないで」
「…逃げる…? ここを?」
セトは乾いた笑みを浮かべると笑顔で否定した。
「救われない迷子が沢山いるのに…見捨てて、いけない。バロの息子が望んだから彼が戻るまで、ぼくは」
彼の言葉を遮るようにして私も続けた。
「どうして貴方がこん何苦しまないといけないの? もっと自分を幸せにしようと思って…くれない……の?」
「ぼくもよく想像するんだ。世界がぼくらを受け入れてくれる日を。そうしたら、さ…待ち続けることもない。永遠に近い時を待つ乙女も、恋人を待っていたバロの息子も、みんなが幸せになれるんだ」
セトは私の手から離れると、両手で顔を覆うと沈痛な声で吐き出した。
「まだ、まだ、足りないんだ」
指の間から透明な液が伝わる。
「大人たちはみんな、小さな子どもだったのに―――すべて、忘れてしまうんだ。だから繰り返されていく悲しみがある」
「私は絶対に忘れない」
気がつけば私は考えるよりも先に反論していた。
「例え傷口が見えなくなったとしても、私は絶対に忘れたりしない」
セトは静かに瞬きをした。長い睫に水滴がついて、微光を反射しとても艶やかに輝いている。私の言葉が沈黙に浸って消えていく。最後に発した語尾の余韻も完璧に、飲み込まれていこうとした時、セトは瞬きよりも静かに口を開いた。
 「ほんの少しの罪悪感があれば、それを踏み台に空も飛べる」
 罪悪…感……?
 「殺したことも、忘れていた。だけど…思い出したよ」
掌を目の前で広げると、まるでそこに用意された科白が隠されているかのように凝視し彼は語りだした。
「チュチュを殺したのも、キサメがカナムラ教授の手で始末されると知っていても、ぼくは壁の花を決め込んだ。記憶はあるけど、その時何を思ったのか覚えていない。だからそういう時は」
ふいに顔を上げ視野に私を捉える。
 「『ユキオ』が起きていたんだ」
 疑いのない確信に満ちた思いが音を伴って差し出される。
 「邪魔者を殺せってことは『ユキオ』がそれを望んでいるから。『ユキオ』はぼくの呼びかけに応えてくれないけど、でも行動で示している。バロの息子の理想を忘れるなって言っているんだ。そしてぼくが意志にそぐわない行動に出たら…」
 「!」
 セトは震える指で私の手を握り締めた。
 「大切な人から殺されていく。ぼくのこの手で、バロの息子に代わって『ユキオ』がやっていくんだ―――」
 そしてセトはまるで堰を切ったように喋り出した。
「気がついたらまったく違う所にいる。記憶がない。どうやって…誰がそこまでぼくを連れ出したの? 知らないうちに友だちが増えている。けれど名前どころか顔だって見たこともない。まるで、まるでぼくが夢遊病になって出歩いているみたいに」
一気にまくし立てると咳き込んでからなおも続けた。
「夢で何度も暗い…石畳のすっごく狭い通路を走っているのを見るんだ。思いつきで壁にある穴を覗き込むと、そこからもう一つの世界が見える。笑顔で過ごすみんなを確かめて、安心するんだ。そうだ、ぼくは間違っていないって言い聞かせて。だからバロは注射をするんだよ。いくつになっても夢見がちで地に足がついていない。いずれ学園を継ぐのにどうして成長を拒むんだって―――」
 大きく見開かれた双方の目から透明な涙が迸った。
 「ぼくは……怖い。怖いよ。知らない自分がいっぱいいて、『ユキオ』がいつも、監視している。じゃあ大きくならないで、ずっとみんなと一緒にいればいいって思っても……バロが許してくれない。拒む訳じゃないんだよ。本当はみんなと一緒に大人になれたらって」
 セトは私の胸に頭を預け子どものように泣きじゃくった。時折、咳き込みながら延々と涙を涸らすまで吐き出したらいい。柔らかな頭を撫ぜながら私は不謹慎にも、このまま時が止まってしまえばいいのにと願った。
 すべての不安要素を取り除くことができないなら、せめて彼に涙を流せる場所を与えてあげたい。気力を養い、再び外の世界に羽ばたいていけるよう、いつでも扉を開くことのできる憩いの地になりたい。
 それが……バロの息子が望んだ、理想?
 旅立つ子どもたちを見送る母親の面影。泣きそうな顔で帰ってくる彼らに、温かなベッドとスープを持って出迎えてあげられる理想の―――家族。もしそれが、本当にバロの息子が欲したものだとしたら、なんてかけ離れてしまったのだろう。それでも現実に存在する学園を求めて、迷子たちは群れをなしてやってくる。
 彼らの為に扉を開け、彼らの為に鍵を奪い錠を隠す。閉じ込めることで幸せを確かめようとして、結局はみんなが傷ついているだけだ。悲しみは誰のもの? 憎しみや、喜びも、自分という存在があって初めて手に入れられるものなのに、私たちは自らの存在も否定してきた。
 彼の肩に顔をうずめ嗚咽を漏らしながら泣いた。
セト。今なら貴方の苦痛がわかる。ただ、ただ、認めて欲しかっただけの私たち。行き場がない迷子たちは追い詰められてどんどん常軌を逸脱した行為に走っていく。だから少ない手段の中で貴方は新たな居場所を作ることを選択した。
 誰にそれを責められる? いえ、どんな知識人を連れてきたとしても否定できない。永遠に答えを導き出すことも叶わず、メビウスの輪のように私たちは堂々巡りに彷徨う。
 「―――茶番はそのくらいにしておきましょう」
 扉の開閉する音と共に彼は私たちを見下ろすようにしてあらわれた。
 
 
 突然ゲンジロウに呼び出されて、ぼくとナルキ。そしてユンはセトの隠し部屋に連れてこられた。
 初めて足を踏み入れるその狭い部屋には、埃をかぶった本が沢山積まれていて足元の壁には子どもの落書きが残っている。学園にこんな所があるなんて知らなかった。色々と詮索してみたいけど、ゲンジロウの目的を聞くまで大人しくしておく。
 叩き起こされて機嫌を損ねたナルキが口を尖らせて拗ねた。
「どーして探しものするのに、ミドリとティルはいないの?」
 「あいつらは引き続き薬について調べてもらっておく。俺らがいなくなっても大して困らねーだろ」
 ティルと区分され、いささか憤慨した面持ちのユンを一瞥し溜息を漏らす。ナルキと両想いになったからって、そう易々と手放すものか。なんたってぼくが初めて失恋…それも本当に信じて、憧れていたカナムラ教授の裏切りに傷ついていたその目の前でくっついちゃって。
 あぁ憎らしい。俗にいうジェラシーってやつだけど、しばらくは二人の仲を邪魔して回るつもりだった。
 「それで、何を探すの?」
「ここにはバロの息子の、その、セトの伯父さんが書いた本があるんだ。その中から一番俺たちの最後にふさわしい結末のものを探すんだ」
 「ちょっと、それはどういうことなの?」
 ギョッとした面持ちで叫ぶユン。確かにこれだけの量から探すなんて、骨の折れる仕事だし、しかもぼくたちにふさわしいラストって…
 「セトは伯父さんが書いていた物語を受け継いでいるんだ。あいつは、伯父さんが書けなかったラストを探している。それを見つけてやれば、もしかしたら」
と言ってゲンジロウは言葉を区切った。根拠のない願いに不安を抱いたのだろうか。それとも自らに言い聞かせようと、念じているのかもしれない。
藁にもすがる思いで友だちの為に動こうとするゲンジロウ。結果が実を結ばなかったとしても、ぼくらが流した汗は無駄にならないだろう。
 ナルキも同時に顔を上げ、ぼくと目配せを交わす。気配を察したユンも慌ててぼくらに倣った。
 「ぼくたちの物語なら」
ナルキがぼくの言葉を継ぐ。
「もちろん絶対に」
ユンに熱い視線を送り
 「……最高の、ハッピー・エンドじゃなきゃ許さないから」
 ゲンジロウは当たり前だ、と言ってガッツポーズを決めた。
 
 
 彼の姿を捉えた途端、セトの瞳から涙が消えた。同時に先程までは感情を自由にしていたはずが、急に表情が強張り大量生産されている人形顔になった。私から離れると壁に凭れたままそっぽを向く。ジャックに背を向けることで拒絶を示している気がした。
 「さぁ、こんな所で油を売っている暇はないはずですよ」
 飴と鞭を備えた声にセトではなく、私が反応する。
「セトに何の用ですか?」
 しばし私を見据えると相好を崩し答えた。
「テストを受けていなかったので追試です。彼は出席日数もぎりぎりですので、ここで点を落としたら場合によって退学。よくて留年でしょう」
さり気なく視線を私から逸らすと再びセトに向かって声をかける。
 「……彼を連れて行かないで下さい」
 座り込んだまま動こうとしないセトの腕を掴み、お願いというよりも命令に近い口調で嘆願した。
「リンコ。その願いは…」
 「娘の顔もまともに見れないってことは、多少なりとも罪悪感があるんですか?」
卑屈な想いを横溢とさせ、こちらを振り向こうともしないジャックに向けて発した。
 「貴方が目指す場所はどこにあるの? 貴方は…貴方は、家族を捨てて、ここまでやってきたじゃない」
 しばらく硬直したまま動かなかったが、セトの腕を放し背筋を正すとやはり私と向かい合わずに呟いた。
「彼女に別れてから初めて手紙を送りました。ようやく研究の目処が立ち、わたしも色々と考える機会を得たので。近状報告と学園の様子について送ると、彼女からは手紙ではなく電話がかかってきました」
恐らく母は彼の手紙を私たちの目に触れさせないよう処分していた。翠と一緒に彼女の部屋を探したけれど、それらしいものは一切見当たらなかったことを思い出した。
「電話に出るなり彼女は『アンタが成し遂げようとしていることについて、私はとやかく言うつもりはない。けれどその姿を子どもたちに見せても恥ずかしくないのか、それだけは確かめなくてはいけない』と言って…彼女はわたしに貴方たち二人の編入を依頼してきたのです。まさか…その直後に彼女が亡くなるとは思いもしませんでした」
そこで一旦言葉を区切ると、ジャックは改めて私の顔をじっくりと眺めた。
「あの時初めてお会いしましたが…ヒサコによく似ていると思ったけど、瞳の色と鼻の高さは…」
堅い表情をふっと崩し、薄い口元に笑みをこぼす。
「わたし譲りですね。彼女はもう少し鼻ぺちゃでしたから」
 つい感慨に浸りそうになったがジャックを睨み、気持ちを奮い立たせて問うた。
「貴方がバロの元で何をしようと…私には関係ないです。だけど、彼は、セトは連れていかないで。もう自由にしてあげて!」
 「自由?」
ジャックは眉根をひそめて繰り返した。
「わたしたちは彼を束縛した覚えはありません。むしろ自立を支援してきたのです」
 床にしゃがみ込み、また咳き込んでいるセトの背中を摩りながら弁解を続けた。
「幼少時に父親を亡くしたいわゆるトラウマから、彼は極端に『大人』と『成長』を拒むようになりました。父親は遺伝性の病気を患っており当初は二十歳まで生きられないと宣告されていたのです。しかし二十歳を過ぎても存命した父親は、彼の母と出会い子どもをもうけました。幸い……今のところ兆候は見られませんが、確実に原因遺伝子を受け継いでいるのです」
 「病気……?」
突然の告白に意味が飲み込めず問い返す。
 「極めて稀な病状でそれについて書かれた論文も、世界中を探してB5用紙程度の内容しかないのです。このまま死ぬまで発症しないかどうか…それこそ、神のみぞ知るのですよ」
 「じゃ、じゃあ…彼に薬を投与していたのは」
 「もちろん治療の為です」
強い口調で断言した。そしてまるで私をたしなめるように
「経過を観察しながら薬を変えているので、幻聴、幻覚。錯乱を起こすこともあります」
 幻覚? 錯乱? 薬の影響で、多重人格だと思い込んで……? それでは…セトを操ろうとしていた訳ではなかったの? でもガドレの間に消えていった生徒たちは。彼らは生け贄として、実験に使われているのではないの?
 「生徒たちを実験に使っているんでしょう?」
 それまで明快に答えていたジャックが、ふいに口を閉ざした。手応えを感じ更に追い討ちをかける。
「私たちは証拠も集めているわ。今年選ばれた生徒の数は総数七名。うち男子が五名、女子二名。名前は……」
 「イヒヌゥの生徒の大半が、家族から見捨てられた子どもたちなのですよ」
まるでさも事もなげに、それでいて感情のこもらない口調でジャックは答えた。
 「それに引き換え、セトは多くの人々に望まれて生きている。残酷だと思いますか? 彼の為に多くの犠牲が生まれているのを、わたしは仕方ないと達観した気分で見ているのですから」
 「……狂ってる。逆にセトを追い詰めるだけよ!」
 「彼はいずれ気づくでしょう。自らが立つ土台に敷かれた大勢の屍に。そうして思うのです。犠牲になった生徒に報いなければいけないと」
 狂ってる、と再び心の中で呟いた。
 「わたしもバロに憧れ、彼の経歴を辿り…大学を出た後すぐにボランティア団体に入りました。人並みの表現しかできないですが……ただ、努力だけでは埋めることのできない現実を目の当たりにしたのです。医者は人の命を救うことはできる。しかし生き残った人々に希望を与えることも、その先を導いてあげることも叶わない。無力。そう、わたしは無力でした。技術を磨いても、それだけで人を助けることなどできない。挫折し……母国に帰った時、同窓会の誘いがきたのです」
 当時を回顧するかのように宙に視線を漂わせてから再度、ジャックは語り出した。
 「彼女と再会したのもその時でした。驚きました。まさか…血の繋がらない子どもを引き取って、自分の子どもとして育てていると知り、同じく社会に出て戦うはずの彼女が、あの頃と同じ光を絶やさずに宿していた。交際はすぐに始まりました。ヒサコがイギリスと日本を往復するパターンでした。同じ頃に同窓会でわたしはバロと再び話すきっかけを得て、その後も何度か会い様々なことについて語り合いました」
懐かしそうに目を細め、まるでつい昨日の出来事のように顔を綻ばせて喋った。
 「彼が辿ったルーツに、同じように挫折した過去があったと知り…彼の元で再び勉強したいと考えるようになりました。バロもわたしと同じく、全世界に暮らす子どもたちの幸せを願っていたのです。彼に秘書にならないかと誘われた時、既にヒサコは妊娠していました。わたしは、何がなんでも…もう一度この学園で考えてみたかった。医学の力を得ても救えなかった子どもたちがいる。彼らの先を導くのが教育者ならば、その仕事を間近で見て学びたかった。けれどヒサコは頑なに反対をしました」
 「……お母さんは、学園を…嫌っていたから」
 「そう。口論の末、わたしたちは別れました」
 「………ひどい…」
 すると力のない笑みを浮かべジャックは語り出した。
 「わたしもバロも気づいたのです。この世には手にしたすべてを捧げなければいけない子どもと、そうした子どもたちの支えがあって生きる子どもがいることを。しかし後者のほとんどが影の犠牲には目もくれない。それは何故か? 簡単です。事実を知らないから。無知のまま彼らは成長し大人になり世界へ羽ばたいていく。ならば統一した安全と平和を求める思想を植えつけ、潜在的な恐怖心を与えればいい。時が経てば世界の平穏に必ず結びつくのです」
 「もしかして……それが、その先駆けがセトだと言うの…?」
 「えぇ、その通りですよ」
悪びれる様子もなく頷いた。
「彼は順調に育っています。ただ少し…精神面が不安定なだけ。彼の実験に平行して第二弾、第三弾と準備に取りかかっているのですよ」
 足元から奈落の底に落ちていくような感覚に襲われる。何てことだろう。どういうことだろう。衝撃的な告白の連打に、すっかり麻痺してしまった頭で必死に考え巡らせた。セトを持ち上げるとジャックは微笑を浮かべて立ち去ろうとした。肢体をだらしなく垂らしたセトは、気を失っているのかまったく反抗する様子も見せない。
 「じゃあ!」
呼び止めようと慌てて言葉を紡いだ。
「じゃあ…バロの息子は、彼は、実験に使われていたんじゃないの?」
 「あぁ、ユキオは……」
ジャックは残念そうに目を伏せた。
「彼は、失敗作です」
 残酷なまでにあっさりと切り捨てて、ジャックは談話室の扉を閉めた。壁の向こうで遠のいていく足音に耳を傾けながら私は、心の底からの絶望を味わっていた。
 
 
 埃が舞い上がり隣りにいる相手の顔もぼやけて見える。最初のうちは寒さを我慢し窓を開けていたものの、次第に指が硬くなり血まで凍ってしまいそうだったので断念した。狭い室内だからすぐに埃が立つ。途中でナルキがマスクを調達してくれたので、まだましになったけど、ゲンジロウが私の目の前で床に積んだ本を倒した時は、つい殺意を覚えてしまった。
 「これもバロの息子が書いた本なのかなぁ?」
 タイトルに『盲目のラプンツェル』と書かれた本を持ってナルキが駆け寄ってくる。それを受け取りぱらぱらと中身に目を通した。
 魔女に塔に閉じ込められるまでの経緯はオリジナルと同じだけど、その後、戦争が始まりとんでもない威力の爆弾が投下された。焼けただれた皮膚と、露出した肉をさらした大勢の人々がラプンツェルの住む塔へ助けを求めて集う。塔には魔法がかけられていてどんな爆発が起きてもびくともしなかったのだ。
 魔女も王子様も戦火で死んでしまい、王子様が彼女に教えたような美しい世界はどこにもない。変わり果てた世界を見て失意のあまりラプンツェルは、鋏を取り出し自らの目を潰し、髪を伝って登ってくる人々もろとも根元から切り落としてしまった。
 嘆息と共に本を閉ざし「これもバッドエンド」と呟いた。
 「またぁ?」
肩を落として落胆するナルキ。
「どーしてバロの息子はハッピーエンドを書いてくれなかったのかな」
同調しながら私もゲンジロウを見やる。この面子でセトの伯父と面識があるのは彼だけだ。私とナルキの視線を感じて本をめくっていた手を止めると、ゲンジロウは天井の辺りを見上げながら呟いた。
「幸せだったのかわかんねぇよなぁ…」
「…噂で」
黙々と作業を続けていたハルキが開口する。
「噴水の間にある像はバロの息子が作ったって聞いたことがあるんだけど?」
噴水の間? あまり出向かない所だったが、そこに女神像があったのを思い出した。入学したての頃はしょっちゅう学内を歩き回って探索していたけど、中でも印象に残ったのがあの像が足蹴にする王冠に刻まれたレドヴァス語の「Dina da doo.」。
「ねっ。リンコが持っていたあの本にも同じ言葉が書かれていたでしょ? あれもバロの息子がセトに授けたものなら、女神像の作者も同じよね」
「すごーい、ユン! そんな所まで見ていたんだね」
手を叩いて褒めるナルキを無視して私は自身の推理を披露した。
「王冠はバロを示すものだとしたら、この支配が続くことを否定している。バロの息子が伝えたかったものは王国の最後」
そこまで一気に紡いでから三人の反応を伺った。しばらく重い沈黙が流れる。互いに視線を逸らしながら、まず最初にハルキが開口した。
「でも…そんなことをしたらぼくらはどうすればいいの? 学園にしか居場所がないんだよ」
「……ぼくも…まだ出ていく勇気はない。また、あの世界に戻らなくちゃいかないって思うと、ずっと、安心していたから、余計に…怖いよ」
とナルキ。二人の気持ちは痛いほどよくわかる。こんなことを言っておきながら、私自身も家に戻るなんて考えたくもなかった。
「探そう」
暗く沈んでいく私たちの空気を吹き飛ばすように、ゲンジロウは発破をかけた。確認し終えたものをまとめ、新たに本を漁りながら
「納得できるラストを俺たちの手で探すんだ」
と呟いた。
 
 
 消灯時間が訪れ、寮内の電気がすべて消えた。ベッドにもぐりこんでいた私はカーテンから漏れる外の明かりが気になり、ずっと目を開けたまま考え込んでいた。
 「ねぇリンコ…」
 壁際の方からティルの声が飛んでくる。
「一緒に寝ても、いい?」
 一瞬虚を衝かれたが、こんな時こそ誰かのぬくもりを強く感じたいその気持ちがよくわかった。
「もちろん。枕は持ってきてね」
ベッドにスペースを空けるとティルは嬉しそうに枕を抱えて入ってきた。二人で並ぶと案外狭い。けれどなんだか学園にきて初めて心から安心できた気がした。顔を寄せ合いながらティルは「ゲンジロウがツインとユンを連れて、あの秘密の小部屋を調べてくれたの」と語り出した。
 「どうして?」
 「自分たちの物語にふさわしい終わり方を見つけるんだって言っていたわ。バロの息子が書いた童話の中に、どれか一つでもハッピーエンドのものがあれば、それをファルバロに渡して彼が書く話にピリオドを打たせようって」
 体勢を変えながら残念そうに苦笑いをした。
「でも見つからなかったみたい。どれも悲しい終わりばかりで、どこにもハッピーはなかったって」
フィットする体勢を見つけたのか、ティルはようやく動き回るのをやめた。
 「けれど私、思ったの。ミドリと一緒にベンジャミンの日記を読んで、資料を調べて…彼がどれだけ私の為に一生懸命でいてくれたのかを改めて知った。どうせベンジャミンに私を救えるわけがないって、心のどこかで思っていた。だから、私は…」
 布団の中で私の手を探り出すとぎゅっと両手で握り、呟いた。
「私は幸せになる。ベンジャミンが払ってくれた犠牲の為にも、絶対に…絶対に、幸せにならなくちゃいけないって」
 未来を見据えた瞳が暗がりの中でも輝いて見えた。ティルの強い決意を宿した表情に、あの談話室でのジャックが見せた蒼褪めた顔が重なる。
 『―――彼はいずれ気づくでしょう。自らが立つ土台に敷かれた大勢の屍に。そうして思うのです。犠牲になった生徒に報いなければいけないと…』
 「私、ミドリが好き。愛しているわ」
 「!」
 恥ずかしそうにはにかむと、顔を近づけてそっと耳打ちした。
「だから彼が振り向くような女になるの。努力すれば絶対に叶わないことはないわ。ね、そう思うでしょう?」
 『この世には手にしたすべてを捧げなければいけない子どもと、そうした子どもたちの支えがあって生きる子どもが―――』
 「リン…コ……?」
訝しげに覗き込んでくるティルを見て我に返える。
 「ごめんなさい。ちょと…眠たくって」
 「疲れているのかしら? 地下から戻ってからずっと、顔色が優れないみたいだけど」
心配そうに語尾がすぼんでいく。けれど途中でわざと明るく振る舞いながら
「明日から休みが始まるわ。きっと……よくなるから。みんなが幸せになれるって願いましょう」
 「えぇ」
適当に相槌を打ってから目を閉ざした。眠れる訳がない。でも、今は誰にも迷惑をかけたくなかった。
初めて聞いた、父の本音。その意味を理解した時に受けた傷が、ずっと痛みを発している。みんなの幸せ。バロも、ジャックも、セトも…みんな、幸せを求めているのに、その手段が違うだけで、相手を認めることができなくて、お互いに傷つけ合っていた。
 ジャックに取り残された母を想い、頬を濡らす。私は何も知らないでお母さんを嫌い、憎んでいた。不敵で、最強の母。その肩書きの裏で、彼女が隠してきた傷を知ろうともしなかった。
 お母さん。お母さんは……ジャックが出て行こうとした時、一体どんな気持ちでそれを見ていたの? 目の前で閉ざされる扉を、ただ何もせずに黙って見ているしかなかったの? 信じたい。愛したい。口にすればとても陳腐な感情も、切実な願いに支えられとても大儀な意味を感じた。
 枕の向こうでティルの寝息が聞こえる。上体を起こしずっと手を離さないまま穏やかに胸を上下させる彼女を見詰め、私は―――
ただ、途方に暮れていた。
 
 
 静かな夜なのに、全然寝つけない。ルームメイトが消灯直前まで、冬休み中の予定を楽しげに披露していたからだ。ナルキはどこにいくの? って聞かれたけど、ぼくはずっとここにいる。ユンと、ハルキと一緒に薬を探さなくちゃいけない。でも明日からのことを思うとすっごく楽しくなる。
 寝返りを打ってからやっぱり起き上がった。さっき飲んだオレンジジュースが今頃になって尿意を誘った。
 「パズ…?」
一応声をかけてみるも、やっぱり反応はない。すぐに大きないびきが聞こえてきた。
 仕方ない。ちょっと怖いけど一人でトイレにいこう。まだ暖房はきいているけど廊下はもっと冷えるので、黒衣のマントを肩にかけて部屋を出る。みんな寝静まっているのか、静寂が余計に空気を冷ややかに演出していた。
 マントの裾を握り締め足早にトイレまで駆け込む。なんだかいつも寮内は喧騒としているから落ちつかないな。早々に用を足して出てくると、窓辺に佇む人物を見て小さな悲鳴を漏らした。
 「ナルキ、こっちきて」
 窓辺の人物がぼくの名前を呼んで手招きしている。声を聞いてすぐにその正体がわかり驚いた。
「ハルキ?」
寒いのかマントとマフラーを装備したハルキに
「どうしたの? ハルキもトイレ?」
と聞くと、彼はかぶりを振って再び視線を窓の向こうに向けた。
 「ナルキがトイレにいく音で起きたんだ。なんとなく校舎を見てたら…ほら」
丘の頂上にそびえる城を指差し
「あの左端の方でまた光った」
 巨大なシルエットに塗り替えられた城が夜空を背景に切り絵のように見えた。曇り空に星の瞬きも、月の気配も感じられないのにハルキが示す方向でオレンジ色の光が暗い校舎の中で揺らいだ。
 「誰かがいるみたい。いってみよう」
 ぼくの返事を待たずに手をつなぐと駆け出した。せめてマフラーくらい持っていきたかったけど、渋々ついていった。
 校舎に入ると、遠くで十二時を告げる鐘を聞いてそんなに遅い時間帯だったんだとびっくりした。もちろんのこと、ひっそりと静まり返った城の中に教授たちの姿もない。みんなベッドで寝ているんだと思うと、こんな冒険をしている自分たちが冒険に出た勇気ある若者のような気がしてわくわくしてきた。
 「確か二階か三階にいたけど…上にいったかな。それとも下かな?」
 ハルキの独り言に「多分上だよ」と応える。
 「…適当に言ってるだろ」
 図星を指されたので笑ってごまかす。
 「たっく……そんなんじゃ、すぐユンに愛想つかされるぞ」
ぼやきながらもその足は真っ直ぐ階段を登っていく。
 「そういえば、いつユンを好きになったの?」
 「えっ? え~と……」
はにかみながら後頭部を掻く。
すると素っ気ない態度で「話したくないならいいよ」と話題が取り下げられてしまった。
 「聞いてよ! グドゥの塔からユンが下りてきた時にぶつかっちゃって、それで」
 「それで一目惚れ? 下手な少女漫画の常套手段じゃんか。面白くない」
 「面白がらないでよ! ぼくは本気なんだからっ」
 「はいはい。なーんかつまらないな。ナルキが平凡な恋愛に夢中になっている間に、ぼくはもっと刺激的な大人の恋愛をしよっと」
 「え! それってキサメみたいな…?」
 「馬鹿っ。そんな訳」
と、二階へ続く踊り場で足を止めると階段の先を見上げた。
「声が…聞こえなかった?」
 「もしかして噂のゴーストかな? どう、どうしようか? やっぱりゴーストはいたんだよ!」
 パニックに陥るぼくの手を握り締め「確かめてから帰るよ」と、怖いもの見たさから階段を登っていく。信じられない思いでハルキの背中を見詰めながら
「そんなぁ!」
絶望に打ちしがれるも、容赦なく手を引かれて進む。もしもゴーストだったらどうしよう。せっかくユンと幸せになれたのに食べられちゃったら、一緒にいられなくなっちゃうよ。
 「ねぇ戻ろうよぉ…食べられちゃったらどうするの? 呪い殺されちゃうよ」
 「丑の刻参りじゃあるまいし、正体を見るだけなら平気だよ。それとも明日、ユンの前で怖気づいて尻尾を巻いて帰ったんだって言って欲しいの?」
 「うっ……」
痛い所を衝かれて黙り込む。やっぱりハルキは強い。そんなハルキが本気の恋愛をするとしたら、誰が候補に上がるか考えてみた。リンコ…はセトがいるし、スージーも彼がいる。マーガレット…ミルキィ、ロスターニャ……。さっきから気の強そうな子ばっかり上げてるな、と思ってからぴったりの子を思いついた。
「ねっ! シュカならきっと気難しいハルキとも相性がぴったり―――」
最後まで言い終わらないうちに頭を殴られた。拳を作ったハルキが静かに
「雉も鳴かずば打たれまいってね」
ぼやく。どうして殴るのかわかんない。絶対にいいと思ったのに…
「ひどいや、ハル…」
いつの間にか明るく照らし出されたハルキの顔が、驚愕したまま停止している。向かい合ったぼくらの周囲をオレンジ色の炎が広がり、そびえ立つ壁のように天井まで昇り見下していた。
「―――――!」
風の流れに乗って黒煙が頭上を覆う。熱気で喉が渇き、咳き込みながら涙を流した。
「しゃがんでっ! 腰を低くするんだ」
ぼくの手を引っ張り床に這いつくばるハルキ。大理石の床に熱が伝わり皮膚が焼けるほど痛かった。目も鼻も口も耳も、毛穴まで煙が入ってきて呼吸を妨げる。苦しくて息ができない。
「ゴホッゴッ…寮…へ……」
腰を屈めて走り出すと階段を駆け下りながら、誰かの声を聞いた気がして振り向く。焦げ臭い匂いに混じって、薔薇の強い香りを嗅いだ。その瞬間、鼻腔を貫き頭の奥を刺激すると、激しい眩暈と共に心が浮き立つ危険な快楽を覚えた。
手足から力が抜けていく。すっごく身体が軽くて、今なら空気と同じくらいじゃないのかな。ちょっと蹴ってみたら飛び上がれそうだよ……
「ナルキ! 飛び降りろっ!」
恍惚とした感覚に浸り舞い散る火の粉を見詰めていたぼくは、ハルキの叱責で我に返った。気がつけば足元の絨毯に炎が移り勢いよく燃え盛っていた。
手を差し出すハルキに支えられて残る階段を飛び降りる。まっすぐハルキの胸に飛び込み、顔を見合わせるとすぐにまだ火の手が回っていない漆黒が支配する廊下に向かって駆け出した。
ぼくは無意識に踊り場を見上げた。
家具や絨毯が上げる煙の向こうに炎に照らされて、まるでスポットライトを一身に浴びた孤高の舞台に立つ踊り子のように、ベティが真っ赤な髪を振り乱し軽やかなステップを踏んで舞っていた。
「ベティ!」
 炎に飲まれたシャンデリアが次々と落ちていき、吹き上げる火の粉が彼女の舞台を彩る。
ベティ、そう叫ぼうとするぼくの腕をハルキが強く引き戻した。
 
 
 ずっと起きたまま暗闇を見詰めていた私は、ふいに階下で慌しく動き回る人の気配に気づきベッドを出た。なんだか心許ない不安に駆られ、迷わず部屋を抜けると窓から校舎を見る。
 夜気で凍りついたガラスに手を当て、もっとよく見ようと顔を近づける。丘の上に立つ城は今、何かの幕切れを告げるように―――漆黒の空を背景に炎上していた。
 「!」
 同時に寮内の電気がつき警報と共にアナウンスが流れた。
 『火災発生。火災発生。生徒たちは直ちに起床せよ。繰り返す。校舎にて火災が発生。生徒たちは直ちに起床し、監督生の指示に従いなさい』
 蜂の巣を突いたように各部屋から悲鳴が起こる。騒然とする空気に弾かれ、咄嗟に部屋に戻るとベッドの上でティルが目を白黒させて呆然としていた。
 「ナァ二…何があったの……?」
 「城が、城が燃えているの!」
 怯えるティルを急かし着替えているとノックもなくドアが開き、シュカのルームメイトで監督補佐のミョンウォルが血相を変えて飛び込んできた。
 「事務所の前に集合して。今一階の生徒を避難させたから!」
 「……シュカはどうしたの?」
 私の追及にミョンウォルは狼狽した。ずっと耐えていたのか小刻みに身体を震わせると、泣きそうな顔をして
「さっき、わた、私が…私が止めるのも聞かずに校舎へいって…。でも、でも、教授たちに伝えたら、とにかく私たちの避難を優先させろって。だか、だからすぐに、直ちに行動して」
 半ば自らに言い聞かせるようにまくし立てると、隣りの部屋へ向かった。嫌な予感が胸を燻る。こういう時、大抵私の予感は当たってしまうんだ。お祖母ちゃんたちが殺されたあの日もずっと外で、こんな思いを抱いたまま待っていた。確かめるのが怖くていつの間にか足を踏み入れていた世界を直視できなくて、逃れることばかりに知恵を働かせていた―――
 「行きましょう…」
私の腕を掴みティルはマントを手にとった。
 「私たちまで無謀な行動に出たら、尻拭いの迷惑をもっとかけることになるわ。だから群れからはぐれないで、ちゃんといきましょう」
茶色の瞳が嘆願するように瞬きもせず、私を凝視する。正論だ…。そう、心の中で呟くと無言でマントを受け取った。
 寝巻き姿の教授たちに誘導され、生徒たちは最初にこの学園にきた際に通された事務所の前の広場に集められた。学園ごとに人数の確認が行われ、全員が揃った所から山を下りた所にある、私とセトがいったあの村に一時避難する段取りになっていた。
 生徒会役員たちは各自のチェックや怪我人の有無などに追われ、生徒会長の翠も慌しく動き回っていたけど無傷の姿を見たティルは安堵のあまり腰を抜かしてしまった。他の生徒たちもほぼ無事のようだけど、中には不安や寒さのあまりパニックを起こし泣いている子も多い。あちらこちらから聞こえる悲鳴や泣き声を聞きながら、私は無意識にセトを探していた。
 かじかむ指を温めながら四方を見回す。すると人垣を割ってゲンジロウが真っ直ぐこちらへ向かって進行してきていた。彼の傍らにセトがいないことを不安に思う。深刻な面持ちが近づいて、声をかけようとしたその時、私の元に転がり込むようにしてツインがあらわれた。
 煤けた顔を上げ、私を捉えるとマントにしがみつきナルキが叫ぶ。
「た、大変だよ! ベティが…ベティが放火したんだ!」
 「ぼくら、必死に逃げてきたんだけど火の回りが速くて!」
 こちらの気配を察してゲンジロウも小走りに駆け寄ってくる。そして裾を焦がしたマントを羽織るツインを見て事情を理解したのか、すぐさま二人に向かって
「レオを見なかったか?」
と問うた。
 「あいつ、シュカが校内にいるって聞いて…! 今、教授たちが助けにいくっていってくれたんだけど、でも、セトも見当たらねぇんだ!」
 ――――。
 セトがいない? 嘘よ、そんな…彼がまだ残っているはずが……
 「リンコォ!」
ティルの呼び止める声が聞こえる。生徒たちを掻き分け、我を忘れて走る。事務所の横を通り抜けようとした時、監督生たちに指示を与える翠と目が合ったが、私は迷わなかった。
 雪の溶けた道を選び濡れた足場にすくわれそうになりながら、脚だけは決して止めず駆ける。丘を横断する石段を一気に飛び越えながら、それでもまだ遠くにある赤く燃え盛る炎の城へ辿りつけないことを苛立たしく思った。
 セト……
 私には貴方を救えないかもしれない。貴方自身が決着をつけない限り、きっと誰の声も届かない。だけど自らを縛り、そして責め苦しめてまでしてそれは守らなくちゃいけないものなの?
 石段を登り終え玄関口の大扉に駆けつける。真鍮のドアノブに手をかけようとして、誰かが私の手を掴んだ。
 「馬鹿っ! そのまま触ったら火傷するだろーが!」
 ゲンジロウだ。言及を避けるように、マントを脱ぎ捨てると勢いをつけて体当たりをした。振動で扉の隙間ができるたびに黒煙が漏れてくる。城壁を飾っていた蔦は焼け焦げて、あの白く美しかった城は見る影もなく炎の苗床と化していた。
 バンッ
 効果音と共に扉が開く。熱気が髪を焦がす勢いで襲い掛かったので、咄嗟にマントを翻した。
 「行くぞ!」
 炎の中に勇ましく突き進むゲンジロウの後を追って、私もマントを捨てた。
 
 
 とんでもないことになってしまった…
 もはや元の姿などこれっぽちも残していない廊下を見詰めながら、ぼくは場違いにも深い溜息を漏らした。つい、シュカがまだ校内にいるって聞いて駆けつけてきちゃったけど、こんな大惨事の場所に誰が好き好んでくるあろうか。噂がデマであることを祈りながら、煙を吸い焼けてしまった喉を酷使して姉の名を呼んだ。
 「シュカ! どこにいゴホッ、ケホ……」
熱さのあまり目も開けられない。さっきから毛先が燃えているみたいで、チリチリという音と変な匂いがしていた。これで禿げてしまったら、なんとも情けない見た目の美容外科医になってしまうではないか。
 「シュカ! シュカ、シューカー!」
一通り彼女の名を連呼し、それでも応答がないことを確認し踵を返す。きっとここにはいないな。もしかしたらよく利用していた談話室にいるかもしれない。頼むからさっさと見つかってくれよ、と心の中で姉に呼びかける。
激しい熱気に喉をやられ立て続けに咳き込んだ。そして掌に付着するものに気づき広げてみる。周囲で派手に踊る炎たちとは比べものにならないくらい、深い朱色の液体がぼくの手に華を咲かせていた。
「………これが例の薬の影響?」
自問してから鼻で笑った。
「まさかね…」
そう呟き、燃え上がる絨毯を踏みしめ談話室へ向かった。
 
 
 目の前を塞ぐ巨大な柱の下で彼女は笑っていた。赤い髪が、髪の毛よりも赤い血に染まってとても綺麗だね。
 何が楽しいの? と問うと
 「これでまた彼に…おいしいアップルパイ焼いてあげられるわ」
 パイを焼く為に火を放ったのだろうか。それだとしたら、少し火力が強すぎる。パイはすぐに灰になり、やがてきみも灰になってしまうよ。
 「灰に? いいえ、私は彼の元へいくのよ。だって私たちは婚約したから。いつか彼の故郷を一緒に訪ねてこう言うの。初めまして、キサメのクレビス(婚約者)のベティですって」
『クレビス』決断前の、人。か……
 「貴方も一緒にくる? もうすぐ彼がくるわ。私が上手に踊ったからダンスに誘いにくるのよ。あのガドレの時のように―――」
虚空を捉えた瞳から光が消える。もみあげから流れてきた血が、彼女の蒼褪めた顔に彩を添えた。
 さようなら、ベティ。きっとキサメと素敵なダンスを踊っておくれ。
 瞳孔の見開いた彼女の瞼を閉ざすと重たい腰を上げて『セト』は歩き出した。視界に映るものを思い出の景色と合わせ、今いる場所を確かめるように彼はゆっくりと城内を徘徊していく。
 これがバロの息子が望んだ場所。恋人との逢瀬の為に用意した、理想の地。前座として今、一人の少女が恋人との再会を果たした。けれどバロの息子たちはどこで愛を語らっているのだろう。
 『セト』はバロの息子の面影を求めて、歩き続けた。
 
 
 むかし近くのお寺に飾ってあった地獄絵図を回顧し、まさに今置かれている現状こそ地獄そのものに違いないと思った。壁に飾られた絵画も装飾品の数々も、黒ずみに変化し教室の扉など木製のものはことごとく炎に飲まれていった。
 床に落ちたシャンデリアの破片を避けながらゲンジロウと共にセトを探す。交互に彼の名前を呼んだけど、燃え盛る勢いに負け恐らく届いていないだろう。
 「こんな調子じゃ……俺たちも即、お陀仏だぜ」
こめかみの汗を拭いながらゲンジロウがぼやく。顔が火照って私も汗でびしょびしょになっていた。
 「でも、セトだけじゃなくて、レオやシュカもまだ残っているのよ」
火の粉から二つのお下げを守りながら応える。
 「それに…ここにはキッコとモリアがいるかもしれない」
もはや祈りに近い心境だった。
 「案外、バロが最初に避難させてるかもしれねぇけどな…」
と呟いてから「頼むから誰も死ぬなよ…」共に願いながら駆け出す。
けれど私の中で最初に感じていた不安は、ずっとずっと大きく膨れ上がっていた。
 「談話室…」
 「へ? どうして?」
 「学内で私たちが一番よく利用していた場所よ。片っ端から探してみましょう」
 走りながら逡巡したが、すぐに相槌を返すと「わかった。行ってみようぜ」と向かってくれた。
 
 
―――隠れん坊する者 この指止まれ はーやくしないと 指切るぞ
 「…本当に、指を切るのかな?」
額から伝い流れてくる汗を拭きながら誰にでもない、ぼくの中でざわめく沢山の仲間たちに向かって問いかけた。
 ―――高山 崩した 蝋燭一本消えた 後からきても知らんっぺ…指切ったっ
 「ずいぶんとシビアな遊びなんだね……」
これまで隠れん坊をして一度も指を切られたことはなかったのに、よくよく考えれば子どもの遊びというものは不思議で、よくわからない。残酷なのにまったくそれらしさを感じさせない天性の悪魔のようだ。
 「子どもは悪魔だよ。天使のように可愛い子なんて……いる訳がない」
天使のように可愛い子ならば、どんな罪も許されるだろうか? 例え人を殺してしまったとして、咎める人々に天使の笑顔を返せばそれで済まされてしまう。
 そんな子どもがいれば、世界から迷子は消える。
 「ぼくも…天使になりたかったなぁ」
無茶な願いとはいえ、つい言葉に変えてから苦笑してしまった。
「なれるわけがないか」
自嘲を漏らす。それにしてもここは熱い。熱さで目の前に湯気が立っているよ。喉もからからで…脚も疲れて動けない。ちょっと前にも寝ていた気がするのに、また意識が途切れることに一抹の不安を覚える。
戻っておいで、こっちへおいでよ、と頭の中で幾重にも声が聞こえぼくを誘った。瞼を閉じるとついさっきまでの出来事が一気に回想される。深夜に突然鳴り響いた警報。慌てふためく生徒たち。寒空の下、一箇所に集められ泣き叫ぶ女子生徒たちがいる。シュカが校舎に残されていると聞きつけ止めようと入った友人らを倒し突進していったレオ。そして柱に押し潰されたまま動かなくなったベティ。誰が彼女の臨終に立ち会ったのだろう。気がつけば、ぼくの目の前で彼女は死んでいた。
 ……まるで舞台を見ている一人の観客のようだ。すべてどこか虚構じみていて、悲しみも憤りも、愛情も上辺だけのものにしか見えない。
 どうしてそんなに頑張るの? きみたちは所詮、ぼくが描く物語の登場人物にすぎない。
何故必死に生きようとするの? いつその舞台から下ろされるかわからない命なのに。
 『私は絶対に忘れない』
 鼓膜にリンコの声が蘇った。いつの会話のことだっただろうかと、首を傾げ戸板の外れた談話室を見る。吹き上げる炎に紛れて誰かの話し声が聞こえた。廊下に飾られた薔薇が、一輪だけ燃えずに咲き誇っていた。
 
 
 黒焦げになってもまだ炎がまとわりつく扉を脚で蹴り倒し、目的の談話室へ入っていく。ここが他の談話室よりもお菓子の量が多くて、真っ先に新作が登場する密かな穴場だった。
 立ち込める煙を避けながら腰を屈め室内を眺める。床まで煙が回っていて、下手をすれば一酸化中毒で倒れているかもしれないな、と思った矢先。テーブルの下にうずくまる姉の姿を見つけた。
 「…シュカ!」
掠れた声で名を呼ぶと肩がピクンと反応した。頭上のテーブルに火がつき、勢いよく燃え始めているというのにシュカは逃げようともしない。どうしたんだよっ。毒づきながら駆け寄り「大丈夫?」と顔を覗き見た。
 「!」
だらしなく開いた唇から涎がいく筋も垂れている。焦点の合わない瞳がぼくを通り過ごしてどこか遠くを眺めたまま、何が嬉しいのか頬を痙攣させて笑っていた。あの神経質な姉の面影は微塵もなく、目の前にいる女性は本に書かれた薬物中毒者とまったく同じ症状にあった。そう、まさに額面通りに症状を鵜呑みにしている、姉。
 「らいりょーぶよぅ」
呂律の回らない舌足らずな口調。
「こりぃえで、ずっとずぅとここにいれりゅわぁ」
奇天烈な笑い声を上げ、手足をばたつかせて興奮する姉を抱き締める。知らないうちに痩せ細っていた身体は腕を回してもまだ余裕があった。
「姉さん、ごめん…!」
「ひゃははは…ふゅひゃははは……!」
「全部、ぼくが至らなかったからだ。もっと、もっとうまくこと運ぶべきだった。姉さんがここまで悩んでいたなんて知らず、こんなんになってでも、この学園に居続けたかっただなんて…」
水気を失っていた目元に涙が浮かぶ。瞬きと共に床にこぼれ落ちるまで、ずっと乾かず涙の筋を作っていった。
「歓迎会でベンジャミンのマネキンを置いたのも、もっと危機感を募らせて、お気楽な連中にここに以外にぼくらを迎えてくれる場所はないんだぞって思い知らせてやりたかったんだ。薬の噂を流したのもぼく。本当はお菓子はただのお菓子で、なんにも入っていないんだよ」
腕の中でシュカがかぶりを振って必死に否定した。
「本当さ。代々先輩たちもその噂を伝えてきた。ぼくらは薬漬けにされているから、ここを出ることができない。薬の所為で、学園が勝手にぼくらを縛りつけているんだって思い込む口実にしていた。―――だって! そうでもしなきゃ、やりきれないだろ? 大人たちがぼくらを捨てただなんて……信じられない。信じた途端、ぼくらの存在価値が根源から崩されてしまう!」
シュカは反論しようとぼくの胸を叩いた。けれど体力を失った彼女の拳など、蚊がとまった程度のものだ。それが余計に悲しくさせ、なお更姉の姿を直視することができなくなった。
「姉さん…もう、思い込むのはやめて。姉さんは薬物中毒なんかじゃない。校舎が燃えているのを見てここで中毒のふりをすれば、バロの同情を買って学園に残れるって思っんだろ? ねぇ、ぼくには嘘を吐かないでよ」
テーブルの炎がじわじわと近寄ってきているのを温度で感じながら、ぼくは静かに嘆願した。熱で膨張した空気に押され一斉に窓ガラスが割れていく。シュカの身を守り盾になると、背中にいくつもの破片が突き刺さった。
 「……私は…ただ、このまま永遠に時が止まればいいのにって思っただけなの…」
泣きじゃくりながらシュカは初めて言葉を発した。
「大人になんてならなくていい。何も望まない。だから…だから、ずっと今の私であり続けたかった!」
嗚咽を漏らし叫ぶ。あぁ、なんて哀れな人なんだろう。惨めで、孤独で、プライドばかりが高い悲しい人。不器用にしか生きていけなくて、でも、それでも生きる場所を見出したというのに。
どうして大人たちは、子どもから、取り上げることしか考えないのか。
 ぼくらは何も求めていない。何も持っていない。与え、その見返りを求めるのは常に大人たちじゃないか―――
 姉の泣き声に呼応して、ぼくも背中の痛みを忘れ声をふり絞って叫んだ。誰もぼくらを助けてくれない。見捨てられるだけの弱く儚い存在。それが子どもたちなんだ。
 「―――薔薇の香りには、リラックス効果がある」
 視界の隅にあらわれた影が、そっと目の前に一輪の白い薔薇が差し出した。驚いて顔を上げると、セトが優しい微笑をたたえて立っていた。
 シュカの手に薔薇を握らせると、怯える彼女に穏やかな口調で喋りかけた。
「そう、お菓子に薬なんて入っていない。だけど薔薇にちょっとした細工があったんだ。品種改良した種類の匂いを複合させることで、一種の放心状態に陥る。普段は人によって差が出るけど、何だかわからないけど幸せで、ちょっと心が浮き立つようになる。そしてガドレの時は特に強い作用がある薔薇が選ばれる」
 ぼくの腕からシュカを解き放つと肩を貸し、そしてぼくにも手を差し伸べて立ち上がるよう促した。
 「やっぱりレオだったんだね。ベンジャミンのマネキン…よく似ていたよ」
 褒賞の言葉に苦笑いを浮かべながら腰を浮かせたがひどい眩暈に襲われた。先に部屋を出ていくセトとシュカの後を追いながら、そっと座っていた所を見ると自分でも驚くくらいの血溜まりができていた。
 今も背中に突き刺さったままのガラスを思い出し、こうして動くたびにどんどん流れ出る温かな液体が、着実にぼくの命を縮めていくのだろうと意外と冷静に考えた。廊下に出ると先程よりも火の勢いが増し、セトはシュカを半ば引きずるようにして連れていた。華奢な彼の後ろ姿を見て慌てて肩を貸す。いつの間にかシュカは気を失っていた。
 「レオは最初からバロに尽くしていた。教授たちに生徒の情報を逐一報告し、モリアが電話でベンジャミン殺害のことを告白したことも、キサメが薬について嗅ぎまわっていることも。すべて教えてくれたよね」
肩で呼吸をしながらセトを問うた。
 「どうしてそんなにここに、こだわるの?」
美しい顔を徒労を浮かべながら聞いてくる。しばしその表情に見惚れてから、ぼくも答えた。
「すべて、セトにバロの座を継いで欲しかったからだよ」
 黙り込むセトから目を逸らし、もはや見る影もないかつての洗練された美で溢れた校内を見詰め
「美しいものを制するのはそれを凌駕する存在だけ。ぼくらを制するのもまた、きみしかいないと思っていた」
 しかしぼくの計画は失敗してしまった。せっかく生徒たちを統一させ、同じ志の元に集う仲間に仕立て上げたものを学び舎がこんなことになってしまっては元も子もない。
 「ベティがキサメの死を聞くのは予定外だったよ…」
嘆息交じりに呟いた。
 
 
 シュカの肩を支えながらレオは静かに言い放った。
 「セトはね、優しいんだよ。とっても優しいから、中途半端なぼくらを絶対に見捨てることができない。絶対に裏切ることもできない。だからきみになら一生の忠誠を誓えるって見込んだんだ」
さっきから顔色が悪いのに饒舌っぷりだけはあいかわらずだ。うな垂れたままのシュカを連れて、この先にある抜け道へ誘おうとしたが、ふいにレオから足を止めた。
シュカの腕を放し脱力した表情でぼくを見る。
「セトを見込んでお願いだ」
どこか達観した清々しいくらい澄みきった瞳を見て、急に不安が胸を揺さぶる。
 「ぼくはもう、駄目だから…シュカを頼むよ。姉は外見こそいいけれど、意外と弱虫で涙脆いんだ。できることならそこらへんも憂慮して、彼女の将来に……」
と紡ぎかけて大量の血を吐き出した。
 「怪我は背中だけじゃなかったの?」
 しばらく咳き込んでから口元を拭うと
「よく観察してるね。最近になってわかったんだけど、どうやらぼく、薔薇アレルギーだったみたいでね。特にここの薔薇は身体に合わなかったんだ」
 「……留まり続けた理由もシュカの為?」
 ぼくの質問に満面の笑みを浮かべ頷いた。
「姉さんははぼくの憧れだった。だからシュカの将来を、どうか導いてやって」
 膝から崩れ落ちながらも笑顔を絶やさない。やはり背中の出血量が半端ないようだ。
 『死ぬのかな…』
 『あいつ、死ぬの?』
 『すごいね。すごいシスコンだけど、すごい潔い』
 ざわめく仲間たち。彼らの囁きに耳を傾け、静かに首を縦に振った。誰よりも学園と、バロに忠誠を誓った迷子。もし生きながらえることができたなら、彼はぼくの良き仲間になっていただろう。
 「ファルバロの名に誓って…」
 「ハハッ…できることなら……セトがシュカを嫁にもらってくれたら、よかった、んだけどな…」
煙に巻かれながらレオは呟いた。
「それと…できたら、亡骸はこの地に……」
 彼の最期の言葉を聞き届けると同時に、天井からシャンデリアが落ち彼の骸に突き刺さった。噴き上げる熱風と粉塵が舞う舞台を見詰め
「…さようなら、レオ」
血飛沫を上げるかつての仲間の残骸に向かって、別れの言葉を捧げ再び歩き出した。一人ではしんどい。通い慣れた道なのに右も左もわからず、行く手を阻む煙がいたずらにぼくらを惑わす。ここから一番近い道はどこだろう…。頭の中で隠し通路の構図を描きながら、次々と炎上し塞がっていく道をぼんやりと眺めた。
 
 
 ゲンジロウが扉を蹴飛ばし開けた途端、炎が勢いよく両手を広げて出てきた。立ち込める煙が直撃し咳き込む。喉が咳をするたびに悲鳴を上げた。
 「セト! 誰かいるかっ」
必死に呼びかけ、応答がないことを確認し移動する。最早、私もゲンジロウも、必死に喪失直前の意識を手繰り寄せなんと奮い立たせ歩き続けていた。先を進むゲンジロウの姿がよろめく。
 「!」
咄嗟に彼の身体を支えたが、私も一緒になって座り込んでしまった。火照った顔に手を当てると信じられないくらい熱くなっていた。朦朧とする表情でどこかを捉えると
 「もう一度…初めましてから、始めたかったなぁ」
と呟いた。
 「ゲンジロウ……」
胸を締めつけられ力いっぱい彼の手を握った。
「始められるわよ。もう一度。私たちはやり直せる」
 「俺……今度こそセトの、親友になりたい…や」
瞬きと共に目尻から透明な液体が流れる。
「なりたい……なりたいよ…」
繰り返し嘆願するゲンジロウ。切なくて、悲しくてそれ以上にこの願いは叶わない気がして辛かった。出会いからやり直せるなら、私は何から伝えよう。伝えたい言葉が横溢として涙が込み上げてきた。
 「ゴホッ…ゴホゴホッ。つぅ…」
煙が身体の隅々まで入り込み胸が痛んだ。必死に手繰り寄せていた意識が、飛ばされそうになる風船のような頼りなさで揺らめく。朦朧とし薄れそうになる意識の下で、私は、もう一度セトに会いたいと心から願った。
 「……誰かいるの?」
 陽炎の向こうに人影があらわれる。その声に反応し私とゲンジロウは咄嗟に顔を上げた。
 「―――ゲンジ…ロー? リンコも…」
驚いたように一瞬、目を見張ったがすぐに元の表情に戻った。その背中には誰かを背負っている。
 「…セ」
名前を紡ぎかけた私を遮るように
 「きて、こっちに抜け道があるから」
とセトは身を翻して進んだ。
 「!」
慌てて立ち上がると彼の後を追う。引きずるようにして連れるシュカに肩を貸すゲンジロウを見守りながら、レオはどうしたのだろうと、心の中で問いかけた。セトは廊下を真っ直ぐ突き進み階段へ向かった。踊り場に飾られた巨大な肖像画が燃えている。本来なら穏やかな微笑をたたえていた少女たちの絵なのに、油絵の具が溶けて醜悪な老婆に変貌していた。
 「ゲンジロウ、その絵を突き破って」
 咳込みながら頷くと指示に従いゲンジロウはキャンパスを蹴破った。すると向こう側に空洞があったらしく、すぽりと彼の膝まで入り込んでしまった。
 人が一人ようやく通れる程度の穴を開けるのを見届けるとセトはゲンジロウに先に行くよう促した。
「先に入って、彼女を受け取って」
 「わかった」
暗がりの中に足を踏み入れるとかなり深いのか一気にゲンジロウの身体が飲み込まれてしまった。つい転んでしまったらしく下の方から「イデッ」という悲鳴が聞こえる。
 両手を差し伸べるゲンジロウに向かって、セトと力を合わせてシュカを渡す。彼女が無事受け止められると、今度は私を見た。
「次はリンコだよ」
嫌な予感を覚え躊躇う私に
「レディ ファーストでしょ?」
 おちゃけた表情から目を逸らせられず、不安が胸の中で更に大きく膨れ上がるのを感じながら穴に手を添えて飛び込んだ。
 「!」
ゲンジロウが受け止め、ゆっくりと地面に下ろしてくれた。冷たく湿った空気がとても心地いいけど、一歩先に広がる真っ暗闇に恐怖を覚え咄嗟にポケットの中を弄った。
 確か制服にペンライトを入れたままにしていたけど…
 「まっすぐ行けば地下の談話室近くまでいけるよ。そこから壁伝いに進んでいくんだ。排水口から外に出られる」
頭上でセトが指示を出す。
 驚いて見上げると彼はまだ炎に残ったままだった。
「待って! セト! 一緒に、一緒にきて!」
足場の悪い岩肌につま先を突き立て、届かない光に向かって指を伸ばしその姿を掴もうともがく。今セトを捕まえなくちゃ、絶対に会えない。嫌な予感が破裂寸前の所まできていた。
 「……きっと、戻ってくるよ」
私の伸ばした指先に触れながらセトは言った。
 
 ―――それは別れを覚悟した言葉だった。
 「絶対、絶対にだぞ! お前、俺がどんだけしつこいか知ってるだろうな! 約束したからなっ」
 「もしかしたら、まだ誰か残っているかもしれない」
逆光でセトの顔がよく見えなかった。
「それに…ぼくも約束を果たしたいんだ」
シルエットがそう告げると立ち上がろうとした。遠のくセトに向かってゲンジロウが叫ぶ。
「なら俺たちとも約束しろ! 守らなかったら針千本飲めよ! 嘘! 飲むなっ。戻ってこい!」
「お願い、いかないで…っ!」
私はその悲痛な願いを聞きながら声を上げて泣いた。
「約束するよ」
セトの小指が差し出され慌てて伸ばした指と絡まる。リズムをつけて揺らすと
「嘘ついたら 針千本 のーます 指切った…」
指が離れていく。同時に唯一残っていた地上との繋がりを断たれ、奈落の底に落ちていくような感覚に襲われる。私が冷たい石の上に座り込み、再び顔を上げた時には既に彼の姿はなかった。
「そしてね…次に会った時は『初めまして』から始めよう」
地上の灼熱とは隔離された暗闇に、泣き声が幾重にもこだましていく。予感は完璧に的中してしまった。破裂したそれは涙に転換され溢れ出る。
 「行かないで…セト……」
 私の願いは彼に、届かなかった。
 
 
 踊り子たちが繰り広げる深夜の舞踏会。赤く燃える火炎のドレスを回転させ、美しいステップを披露する彼女たちの間をすり抜けながらぼくは目的を定めずに歩いていた。
 泣き声が耳に貼りつて離れない。最後に見せた二人の顔が、忘れられない。
 鋭い痛みを発する胸を抑え震える足を叱咤して歩いた。熱風に煽られ汗は瞬時に乾きその上から新しい水滴が伝う。
 『一緒に行けばいいのにぃ』
 『駄目だよ。まだ仕事が残ってるだろ』
 『そうさ、救われない迷子を導くのがぼくらの使命だもん』
口々に囁く仲間の声を聞き流しながらまるで、自分自身に言い聞かせているみたいだな、と自嘲する。
 『ねぇ、セトは一緒に行きたいと思わなかったの?』
ストレートな質問に虚を衝かれる。けれど少し考えてから、かぶりを振った。まだぼくはいけない。例えついていったとしても『ユキオ』がそれを許さない。やるべきことが残っている。ぼくは、バロの息子と恋人の再会を見届けなくちゃいけない。彼が初めて書いた、最初で最後のハッピー・エンドを完成させる為にも。
 目の前に大きな柱時計が火を噴いて倒れ落ちた。派手に飛び散る火の粉を避け壁際に移動すると、力が抜けて膝から崩れてしまった。
 あぁ…そうだった。リンコに本を預けたままだ。最後に見た彼女の泣き顔を思い出し、交わした約束を反芻した。
 「戻って…くるよ……」
煙を吸い咳き込みながら呟く。次第に酸素が薄くなり、吸っても吸っても肺が満たされなくなった。約束した。だけど、今はバロの息子との約束を優先させなくちゃいけないんだ。
 意識が朦朧として瞼が重たい。瞼を閉ざす時を狙って、死神が大きな鎌を携えて身をひそめて待っている。三日月形の刃が漆黒を背景に怪しい光を発する。
 人を殺した人間が皆と同じ所へ行ける、訳がない………
 だけど、行きたいな。そこにいればいつかリンコも、ゲンジロウもくるだろう。そうしたら約束は破らず、少し時間が経つけどきっと許してくれる―――
 
 
 セトの指示に従って私たちは乾かない目元を拭いながら歩いていた。ポケットに入れていたペンライトを片手に先導を務めるゲンジロウが、少し離れてついてくる私に向かって声をかける。
 「いい加減泣きやめよ。あいつは…絶対に約束を守る、律儀な日本男児だぜ」
と言いつつもゲンジロウも目が潤んでる。
 「律儀ならなお更よ。きっとユキオさんとの約束も果たそうとするわ。だったら私たちとの約束なんて……」
呻きながら救いようのない現実に、新しい涙を流した。
 「ヒック…うっう……」
救えなかった。助けたかった大切な人を。私はまた、目の前で行われていることに対し無気力なまま終わってしまった。何度後悔しても足りない。それどころ悔しさが倍増し、自分に対する憎しみで心が充満していく。
 「…………」
 「うっ…くっ……」
 「………コ」
 「?」
空耳だろうか。でも、確かに誰かが私の名前を呼んでいた気がする。
「今、私の名前を呼んだ?」
 「呼ばねぇよ」
ぶっきら棒に答えるゲンジロウの語尾に被せるようにして、今度ははっきりと
「リンコ…」
と聞こえた。
顔を見合わせてから考える。聞き覚えのある声。どこでだろう。そうだ!
 「キッコ?」
驚きその名を口にすると、慌てて周囲を見回した。ずっと泣いていて辺りに注意がいっていなかったので、今どんな所を歩いているのかさえわからずにいた。ペンライトが岩肌が露出する壁を照らし出す。どうやら古城によくある地下貯水庫のようだ。このまま行けば図書館の地下まで繋がっている。つまり、いくつかある隠し通路の出口が、この地下貯水庫に通じているのだろう。
 「こっち、こっちよ! モリアもいるわ」
 ライトを向けた先で白い腕が振っている。目測で五十メートルほど先に彼女らがいるようだ。ゲンジロウと共に駆けつけると、天然の鍾乳洞のような巨大な氷柱状の石柱で造られた檻があり、中でキッコとモリアが飛び跳ねていた。
 「もぅ信じられないっ! まさかまた、生きてリンコと会えるなんて…! ほら、モリアも何か言いなさいよぉ」
 キッコに突っつかれて直立不動だったモリアも口を開いた。
「げ、ゲンジロウも…げ、元気そう…」
 「それより、どうやってお前ら入ったんだよ。鍵穴もないし…」
 「あっ、それね。今リンコが立ってる目の前の柱にボタンがあるの。こう見えて意外とハイテクなのよ」
自慢することでもないと思ったけど、言われた通りに氷柱状の石柱の表面を探り突起したボタンのようなものを押した。すると鈍い振動と共に柱が天井に上がっていき、人が一人通れる程度の出口ができた。飛び出してきたキッコはまず私に抱きついてきた。
 「怖かったわ! でもジャックや他の教授たちが代わる代わるご飯を持ってきてくれたの。あたしが色々とやらかしてしまったみたいで、学園側は退学させたいけど親が帰ってくるなって…はは、なんか笑えちゃう。学内に籍を置けないから処分が決まるまでここでって…もぅ、何がなんだか…」
かぶりを振り頭を掻きむしると、初めて私たちの装いに興味を持ったらしく
 「ねぇ、なんだかすっごい焦げ臭いのは気の所為? ゲンジロウってば背中が焼けてるわよ!」
 「な、何をしていたの…?」
 二人の質問に下手に答えて混乱させるよりは、と互いに目配せを交わすと私はキッコの手を。ゲンジロウはモリアの腕を掴んで城の外へ繋がる出口を目指し歩いた。
 
 壁伝いに道を進む道中の会話で、大まかな事情を説明したキッコとモリアは言葉を失って驚いた。
 「ぼ、ぼくらがここにいる間…そんなことが、あ、あったんだ……」
 「こう言ったら失礼かもしれないけど、私も聞きたいの。どうして他の子たちは殺されていたのに、貴方たちは……」
 「そ、それ、それは」
どもりながらも説明しようとするモリアに代わってキッコが答える。
 「モリアは元々そういう約束だったらしいの。学園に滞在することはできないけど、この国で暮らしたいって要望を出したら、準備が整うまでここで我慢してくれって。あたしは…キサメから、その、リンコのお父さんについて聞いた直後にジャックと、セトに連れ去られて。あたしも殺されていたかもしれないんだけど、多分セトがバロを説得してくれたんだと思う」
 「き、キッコがリンコの一番の友だちだから、だよ」
遠慮がちに切り出すと涙声で紡いだ。
「セトは物語を書いていたんだ。バロの命令で、こ、殺されていく生徒たちの為に、ひ、一人で物語を書いていた。時々、ぼくらを見舞ってくれて、そ、それで教えてくれた。死んでいく仲間を、忘れたらいけないって…ひっく……い、言っていたんだ」
 忘れない為。でも、戒めの為でもあったと思う。ジャックの言う通り、いつか玉座に腰を据えた時、振り向かずとも本を開けば犠牲になって消えた子どもたちの名が連ねてある。
 それを見詰めその名前を口にして、過去を思い出し―――彼は永遠に玉座から離れようとしないだろう。自らを追い詰めることが餞になると信じている。幸せになる権利を放棄させて、縛りつける忌まわしい物語。
 「あっ、見ろ。あそこに光が…!」
 一条の光に向かって集まる。円形の穴に戸板が打ちつけられているけど、形状からして下水道管の名残りのようだ。ゲンジロウとモリアが力を合わせて板を剥がす。なかなか頑丈につけられているらしく、歯を食い縛って奮闘する二人を見守りながら、私は、私たちが辿る物語の結末を考えた。
 
 
 チラチラと赤い蝶が目の前を飛んでいく。軽やかに羽根を羽ばたかせて弧を描く姿は綺麗で、ずっと見守っていたかった。目の前を舞っていた蝶がぼくに向かってくる。途端に蝶の体は炎に包まれ寸での所で散り果てた。
 小さな小さな亡骸。
 小さな…小さすぎる……哀れな命。瞬きを繰り返しながら、ぼくはそっと膝を下り黒焦げた蝶に手を差し伸べた。
 『儚いね…』
頭の片隅で、誰かが囁く。聞きなれない声。だけど、ぼくはその声をよく知っていた。滅多に喋らないけど、操る言葉は少ないけど彼はいつも物語を書いてその想いを告げていた。
 ユキオ…? それとも、伯父さんなの? 
 「だ…れ……?」
ずっと閉ざしていた瞼をこじ開ける。前髪が焦げてすごく変な臭いがしていた。いつの間にか目前にまで炎が迫り四方に壁を作っていた。
 揺らめく陽炎の彼方に雪生面影が蘇る。
 「だめだよ…そっちは、燃えちゃうよ……」
億劫とした動作で立ち上がると雪生を追って歩き出した。
 「待って……隠れ、ないで…」
炎の翳りに出たりあらわれたりを繰り返す。追いついてもすぐにまた、数歩先でぼくを見詰めている。まるで隠れ坊、いや追い駆けっこ。近づこうとしても離れていく。
 「鬼じゃないよ。ぼくは……鬼じゃ…」
 窓の前に辿りついた時ガラスが弾けきらきらと破片が飛び散った。咄嗟に身を庇ったけど、いくつか突き刺さり鈍い痛みが貫いた。
 「つぅ…」
一番大きな破片を膝から抜くと血が出てきた。手で押さえても止まらない。痛みがひどくなり自然と涙が出てきた。
 ―――ぼくの記憶に父はいない。最も古い父に関する思い出は、葬儀の際に主治医から慰めの言葉を受けている母の背中だった。
「この年まで生きただけ…奇跡に近い病気ですから」
黒いスーツに身を包んだ医師は、泣き崩れる母の前で呟いた。憐れむような眼差しが母の背中にしがみつくぼくに向けられる。
「しかし、息子さんにも遺伝子は受け継がれているのです。発病したら、長くは―――
脳裏に蘇った記憶を振り払いながら、遠くでぼくを見たまま動かない雪生を見詰め返した。
「お…置いて…かないで……お願い、ついていくから。どこまでも、伯父さんについていくから!」
痛みを堪えて叫んだ。
雪生は何も言わず、立っていた。
 
 
 戸板を剥がすとそこはちょうど温室の裏側に繋がっていた。順番に穴から這い出ると、先導を切ったゲンジロウがシュカを背負い私たちを誘い石段に向かった。背中に降り注ぐ火の粉の熱さを感じ、振り向きたいのを我慢して駆け下りる。
 「リーンコー!」
 石段の下でティルと翠。そしてベンバー教授とジャックが私たちに向かって手を振っていた。それぞれの顔に浮かんだ表情は様々だったけど、共通して私たちの生還を心から喜ぶ気持ちを見出し再び会えたことを感謝した。
 眩しさに顔をしかめ階段の中腹で立ち止まる。見ると湖を囲う木々の向こうで、暁の太陽が静かに昇ってきていた。神々しい光の帯が四方の空を貫いてく。温もりを秘めた光が心地よい。青い湖を駆ける風がまっすぐ丘の上まで昇り、木々を震わせる。
冷たく、ほんの少し温かい風が頬を撫ぜた時、長い黒髪を棚引かせた女性が私のすぐ傍を擦れ違った気がした。キラリと光ったものが目にとまる。そうだ、剣の柄が反射したんだ。
 ―――乙女が剣を持って…
 「!」
振り向いたその一瞬だけ、灰色の空に向かって炎を噴き上げる城へ向かう、長髪の女性を見た。
その手には、あの剣を携えて。
 
 
 気がつくとぼくは噴水の間で横たわっていた。どうやってここまできたんだろう。記憶がないけど、流血する脚の痛みで夢ではないのだと思った。
 女神像から出る水が熱気を緩和して、さっきまでの出来事が信じられないくらい静かで穏やかだった。亀裂が走った床に吸い込まれるようにして頭を預ける。冷たくて、ここならずっと眠っていられる。離れたくなくて体を縮ませた。
 …ジャリ
 小石を踏む気配が床を伝って聞こえてくる。誰かまだ残っていたのかな? ぼんやりする頭を起こし、佇んだままぼくを凝視する人物に目を向けた。
 「物語の結末は……考えた?」
優しく労うように言葉をかける。
 雪生は、バロの息子は、あの日と何ら変わりない姿で立っていた。
 「…『ユキオ』? それとも、伯父さん?」
 ゆっくりとかぶりを振りぼくの質問に否定の意を示す。
「セトが作った仲間の人格たちはすべて幻覚だった。けれどただ一つ。ずっと沈黙し続け、時にきみの身体を勝手に拝借し、さっきも可哀想な赤毛の少女の最期を看取った、一人の人格がいた」
そっと口を開き「それが、ユキオ。それがぼくだよ」と囁いた。
「ここに連れてきたのも…」
「きみが意識の座を手放し始めていたから、ぼくが代わりに連れてきた。きみの口からエンディングを聞く為に」
乾いた唇を湿らせて考えていたラストを告げた。
「伯父さんと恋人が再会する…んだ。ここで、この学園を舞台に」
「そしてセトはこの学園で朽ち果てる。屍の上に築いた玉座を放棄し、あの世で彼女らとの約束を果たそうとしている。でも気持ちはよくわかるよ。屍を土台にした王位なんて結局は、脆く儚い足場だから」
「……ぼくも伯父さんの世界へ行くよ。大人になれないなら、伯父さんが作ったネバーランドへ連れていって」
雪生は表情を変えずにぼくを見た。怒っている訳でもなく、喜んでいる訳でもない。けれど叶えようとも思っていない、ということだけは十分に理解できた。
 床につく掌に地響きが伝わる。歩み寄りぼくの前に屈むとユキオは天井を見上げて呟いた。
「じきにここも崩れる」
 「ユキ…」
紡ぎかけて言葉を飲む。彼の大きな手がぼくの頭に触れ、愛しげに撫ぜてくれた。
 「セト、本当はきみ自身が一番求めていたんだろ? 大人を拒む子どもたちを集め、甘いお菓子に依存させ学園に縛りつけることで、大人になれない自分を慰めていた。新たな統治者となり、迷子たちの理想とする世界を築くことをゲンジロウたち仲間は望んでいたけれど、きみはそれが決して叶わないと知っていた。何故なら、彼らもまた、きみを残して大人になっていくから」
 「………」
沸々と込み上げてくる感情が涙腺を刺激し、大粒の涙がこぼれてきた。小刻みに震え床にしみをつけていく涙。それを見詰めながら
「だって…みんな、行っちゃうから……」
と漏らした。
 「病気は…治らないかもしれない……。ぼくは、将来の夢も描けない。みんな、みんなここを出る時は泣いて悲しむのに、大人になってからもまた、戻ろうとするなんて、そんなのずるい!」
 はらはらと涙を流しながら雪生の胸にしがみついた。
「ねぇ、雪生はぼくの傍にいて。絶対に離れないで一生、このまま…大人にならないで!」
 ユキオの瞳に同情が滲む。
 「本当は、恋人と再会なんてしないんだ! ぼくが考えた物語は、ずっと終わらないまま。そうすれば雪生はずっとここにいるでしょ? だって、だって、ぼくは……一人になりたくないんだ!」
 その時大きな振動が走った。地鳴りのように目の前の景色が上下に大きく揺れると、天井から剥がれた片鱗が降り注ぐ。
 「……時間だ」
ユキオは冷たく言い放つと立ち上がり、踵を返した。
 「!」
驚き顔を上げる。追い駆けようとしたけど膝の傷が痛んで脚が動かなかった。
 「待って! 置いてかないで!」
声を張り上げて叫ぶ。馬蹄型のアーチに向かって歩くユキオは足を止めようともしない。
 「雪生! ぼくも行くよ! 一緒に、一緒に世界を築こうよ!」
 落石が起こす粉塵が視界を白く染め上げて彼の後ろ姿を消していく。
 「雪生―――!」
 アーチの向こうに佇む黒髪の少女が雪生に手を差し伸べた。二人は幸せそうに笑い声を上げると、一度も振り向かず炎の中に消えていった。
 轟音に掻き消されながら、ぼくは声の続く限りユキオの名を呼び続けた。
 
 
 階段を下りると顔をくしゃくしゃにしたジャックが、私の手を引き寄せ抱き締めた。そして大の大人が、子どものように泣きじゃくった。恥ずかしいようなこしょばいような…初めて味わう心地のよい感覚に照れながら、私は広いジャックの背中に手を回した。
 その時大地を揺るがす地響きが鳴った。
 「城が!」
 誰かの悲鳴を聞き丘の上を仰ぎ見る。それは、まるで映画のワンシーンのようにあの美しい城にふさわしい、壮大なスケールで静かに崩れ落ちた。
火の粉が上がり粉塵が舞う。
 雪のように降り注ぐ埃の中で、二度目の地響きを奏でると古城は完全に沈黙した。
 「………」
頬を撫ぜる冷たい風が、救えなかった彼のすすり泣く声を私の元まで届けた気がした。
 
 その後生徒たちが一時的に避難している村に向かった私たちは、教会から血相を変えて飛び出してきた神父から耳を疑うようなことを聞かされた。なんと教会のシンボルでもあるあの剣が、ちょっと目を離した隙に消えていたというのだ。もちろん生徒たちは誰一人と剣に触れていない。
 それを聞いて脱出の際に擦れ違った、あの乙女の幻影を思い出した。
脱出の際に腰を痛めたバロに代わってジャックが、教会側との相談し詮索に当たった。村人たちの提供でしばらく私たちは、しばらく教会と住民の方々の家に滞在することになった。騒ぎを聞きつけた芹沢さんが予定を繰り上げて空港からまっすぐに村を訪れ、同行してきた結衣子さんは、何年かぶりにベンバー教授との再会を果たした。その時のベンバー教授はまるで初恋を知った少年のような顔で、終始ぎこちない様子で結衣子さんと向き合っていた。キッコとそれを見て、笑い、そして冷やかした。
 二人の幸せそうな姿を見て、ちくり…と胸が痛む。
 
それから城の焼け跡からベティとレオの遺体と、何故か無傷のままのあの剣が発見された。いくら探しても、どこにも彼の骨は見つからなかったと、捜索に出たベンバー教授は沈痛な面持ちで報告した。そしてシュカはずっと昏睡状態が続いているけど、時間の問題で目覚めるだろうと、ジャックは診断した。
 一連の事件は生徒の火の不始末と言うことで片づけられ、収集がつくまで生徒のほとんどが実家へ戻るということになった。私と翠は芹沢さんに説得されて日本へ帰ることにした。
 帰りの飛行機の中で、恐らく他国にある姉妹校に転校を勧められることになるだろうけどどうしたいか? と聞かれ、私は日本の学校へと答えた。翠はその時敢えて明言を避けていたけど、きっとティルと連絡を取り合い相談するのだろうと思った。
 また、ちくっと胸が悲鳴を上げた。
 乗り換えで結衣子さんと並んで座ることになった。華奢な外見とは裏腹に気取らず、なかなか豪快な人柄ですぐに打ち解けることができた。その彼女が初めて悲しげな表情を見せたのが意外にも学園の崩壊ではなく、消えてしまった彼について触れた時だった。
 「私たちにとって藤谷、いえ。雪生が必要だったように、あの学園にもセトという子が必要だったのね」
過去形でくくられる言葉に胸が激しく痛む。
 誰もがはっきりとした形で伝えてはこないけど、同じ結論に達している。ただ私は、どうしても約束を違えるようなことを、彼がするはずがない。と、一人よがりに願っていた。
 「…湖の伝説にある乙女が、剣を持って城へ向かうのを見たんです」
 「え?」
窓の外を眺めていた結衣子さんが、改めて私に視線を向けた。
 「乙女は不変の世界を象徴するものでした。そして剣は…世界に改革を起こす象徴。だから私……あそこは永遠に変わらないけど、でも変わっていくんだと思うんです」
 それも彼が望んだ姿。自らを束縛し、それでも変わることを望んだ切実な…願い。
 だから私も願おう。少なくとも同じ夢を抱く間は、泡沫でも彼の存在を感じられる気がした。
 「私も」
そっと膝に置いた手に指を重ね「願うわ」と結衣子さんが呟いた。
 「否定し続けることはできない。そこを望む人々がいる限り、存在する意味が生まれる。けれど常にその存在を問わなくちゃいけない。世界が…子どもと向き合えた時、自然と学園は消えていく」
 涙ぐむ私の頭を撫ぜそっと肩に寄せると
「さぁ、シートベルトの装着サインが出ているわ」
と優しく囁いた。
 
 日本へ戻り私は少し離れた中高一貫校へ通い、翠も近くの高校へ転入することになった。二人であの小さな家で食事を作り、洗濯をして買い物へいって。時折、芹沢さんが結衣子さんを連れて遊びにきた。普通の家族が当たり前のようにしていることを、私と翠はぎこちなさを残しながらも少しずつ繰り返し、積み重ねて……単調な日常へ戻っていった。
 そう、翠は高校卒業後に再びドイツの大学へ向かい、どうやらその頃にはティルと本格的に付き合いが始まっていたようだった。ポーカーフェイスの彼からちゃんと聞いたことはないけど、一日おきに必ずかかってくる国際電話を兄に取り次ぎながら、私はいつかティルを「お姉ちゃん」と呼ぶ日がくるだろうと予感していた。
 驚いたことに私が進学した高校に、途中からキッコも編入してきた。どういう経緯で調べたのかわからないけど、いつもの調子で
 「やっぱりリンコといた方がやる気が出るのよ」
と笑う彼女のタフさには到底叶わないなと密かに苦笑した。
 携帯電話を持つようになってからゲンジロウとモリアたちとも時々、メールを交換するようになった。お互いの近状を知らせ合う短い文章のやり取り。稀にむかし話に花が咲くこともあったが、意識的に逸らしている箇所があった。
 そう。誰も、彼の行方を知らない。消えたままの彼を気遣うあまり、誰もがその名を口にすることを憚り、自然とセトの話題が減っていく。
いつからか私も、彼の名前を遠い記憶の片隅に追いやるようにしていった。思い出すことが辛くて、後悔するのも悲しくて。初めて好きになった、この初恋は想いを告げることもなく…時が自然と、育んできた感情もろとも朽ち果てさせていくのだと信じた。
 
 
これで、私の物語は終わった。
―――幕が下りるのを待ち、私は静かに瞼を伏せた。
 
 
舞台は幕を閉じ、まばらな拍手を残して観客たちは去っていった。
 静まり返った劇場。余韻に浸る静寂。
 パチ パチ パチ……
どこからか手を叩く音が聞こえてくる。たった一人のアンコールに応える為に、再び幕が開かれる。ライトの消えた舞台の上に現れた子どもは、軽やかにステップを踏み、静まり返る観客席に向けて踊り出した―――
 
 
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