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第1章
上官の溜息
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全く、あの男は人が良すぎる
グラハムは内心で大きな溜息を付いた。
ポールは全く気付いていなかったが、部屋にはもう一人の男が潜んでいた。
ポールの上官グラハムである。
クロシア国では珍しく魔力の強いグラハムは、隠形を得意として、殿下の護衛の切り札として控えていた。
そして、自分の部下の表情もつぶさに見ることになった。
ポールは自身の良心の呵責を表に出さないように、顔の筋肉を抑えているつもりのようだが、それが功を奏していたのはエリザベス嬢に対してだけであった。
ポールのわずかな眉の動きや顎の強張りを、アンソニーは口元を微かに緩めて眺めている。
恐らく、いや、確実に、楽しんでいるのだろう。
もっともアンソニーはポールの顔の動きだけを楽しんでいるのではないと知りつつも、グラハムに一つの考えが形をとった。
あの男の配属を変えた方がいいのかもしれないな
ポールは剣技も体術も一流の技量があり、ある程度の魔力も持つ素晴らしい部下であることはグラハムも認める所であるが、純朴で人が良すぎるため感情の動きが大きい点が、護衛としては玉に瑕なのである。
せめて、もう少し表情に出さないようにやり過ごす技術を身に着けてくれればいいのだが、それはあの性格を変えてしまうことになるかもしれない。
部下の至らなさと職業選択の難儀を憂いながら、グラハムは再び胸の内で溜息を付いた。
まるで、その溜息を聞き取ったかのように、アンソニーがからかうような視線をこちらに向ける。
グラハムは舌打ちしたい思いに駆られた。
しかし、あのご令息は本当に強い魔力の持ち主だな
グラハムは公爵の屋敷内を隠形で護衛すると、事前に公爵家に対して極秘に許可を取っていたが、特に部屋のどこに控えているとは知らせていない。
それでも、アンソニーは必ず彼の控える場所に強い視線を一度は向けて、警戒を怠らない。
初めて公爵家で殿下を護衛したときは、アンソニーは通りすがりにいきなりグラハムの目の前でよろめき、肘でグラハムのみぞおちを突いたのだった。
まだ成人前の体の細い少年に不釣り合いな強力な魔力と殺気に、グラハムは一瞬総毛だったものだ。
隠形の技が落ちているのではないかと、その後、白の守護師に練習に付き合ってもらったが、自分の技量が衰えていることはなかった。
白の守護師の見立てによれば、強い魔力で他人の思念を読み取ることができるのだろうというものだった。残念ながら、グラハムの結界で彼の魔力を遮ることはできなかったのである。
隠形としての自分を見破る魔力の持ち主ならば、どこに敵が潜んでいても察知することができるのだろう。
正直なところ、護衛に引き抜きたい思いだったが、公爵嫡男の彼にそれを望むことはできない。
断腸の思いで逸材を眼前にして諦めたグラハムであったが、その結果、アンソニーに公爵家での護衛のたびに警戒の眼差しを向けられるのである。
護衛するものが監視されるとは、動きが制限されるようで幾分調子が狂う。かといって、いかなる動きにも気を配ることが護衛には求められ、アンソニーの顔の動きを無視するわけにもいかない。
あのご令息の前では、純朴な部下も自分も大差はないかもしれないな
公爵家での仕事はやりづらいものがあったが、任務は遂行しなければならない。
グラハムは息を深く吸い込み、再び集中を高めた。
その時、アンソニーの口元が微かに緩んだ。
それが、部下の思念を読んだためか、あるいは自分の思念を読んだためであるかは、任務に専心するグラハムは、もう追究しないことにしたのである。
グラハムは内心で大きな溜息を付いた。
ポールは全く気付いていなかったが、部屋にはもう一人の男が潜んでいた。
ポールの上官グラハムである。
クロシア国では珍しく魔力の強いグラハムは、隠形を得意として、殿下の護衛の切り札として控えていた。
そして、自分の部下の表情もつぶさに見ることになった。
ポールは自身の良心の呵責を表に出さないように、顔の筋肉を抑えているつもりのようだが、それが功を奏していたのはエリザベス嬢に対してだけであった。
ポールのわずかな眉の動きや顎の強張りを、アンソニーは口元を微かに緩めて眺めている。
恐らく、いや、確実に、楽しんでいるのだろう。
もっともアンソニーはポールの顔の動きだけを楽しんでいるのではないと知りつつも、グラハムに一つの考えが形をとった。
あの男の配属を変えた方がいいのかもしれないな
ポールは剣技も体術も一流の技量があり、ある程度の魔力も持つ素晴らしい部下であることはグラハムも認める所であるが、純朴で人が良すぎるため感情の動きが大きい点が、護衛としては玉に瑕なのである。
せめて、もう少し表情に出さないようにやり過ごす技術を身に着けてくれればいいのだが、それはあの性格を変えてしまうことになるかもしれない。
部下の至らなさと職業選択の難儀を憂いながら、グラハムは再び胸の内で溜息を付いた。
まるで、その溜息を聞き取ったかのように、アンソニーがからかうような視線をこちらに向ける。
グラハムは舌打ちしたい思いに駆られた。
しかし、あのご令息は本当に強い魔力の持ち主だな
グラハムは公爵の屋敷内を隠形で護衛すると、事前に公爵家に対して極秘に許可を取っていたが、特に部屋のどこに控えているとは知らせていない。
それでも、アンソニーは必ず彼の控える場所に強い視線を一度は向けて、警戒を怠らない。
初めて公爵家で殿下を護衛したときは、アンソニーは通りすがりにいきなりグラハムの目の前でよろめき、肘でグラハムのみぞおちを突いたのだった。
まだ成人前の体の細い少年に不釣り合いな強力な魔力と殺気に、グラハムは一瞬総毛だったものだ。
隠形の技が落ちているのではないかと、その後、白の守護師に練習に付き合ってもらったが、自分の技量が衰えていることはなかった。
白の守護師の見立てによれば、強い魔力で他人の思念を読み取ることができるのだろうというものだった。残念ながら、グラハムの結界で彼の魔力を遮ることはできなかったのである。
隠形としての自分を見破る魔力の持ち主ならば、どこに敵が潜んでいても察知することができるのだろう。
正直なところ、護衛に引き抜きたい思いだったが、公爵嫡男の彼にそれを望むことはできない。
断腸の思いで逸材を眼前にして諦めたグラハムであったが、その結果、アンソニーに公爵家での護衛のたびに警戒の眼差しを向けられるのである。
護衛するものが監視されるとは、動きが制限されるようで幾分調子が狂う。かといって、いかなる動きにも気を配ることが護衛には求められ、アンソニーの顔の動きを無視するわけにもいかない。
あのご令息の前では、純朴な部下も自分も大差はないかもしれないな
公爵家での仕事はやりづらいものがあったが、任務は遂行しなければならない。
グラハムは息を深く吸い込み、再び集中を高めた。
その時、アンソニーの口元が微かに緩んだ。
それが、部下の思念を読んだためか、あるいは自分の思念を読んだためであるかは、任務に専心するグラハムは、もう追究しないことにしたのである。
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