男性に近寄れない吸血鬼令嬢は孤独な王に囚われる

石里 唯

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孤独な王は温もりを知る 後

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「これなら、しっかり置き土産を受け取ったと言えるでしょう」

 自分5人との激闘の末、クリストファーは右の腹を押さえながら、森から出て、明るい日差しに目を細めた。
 これほど呼吸が乱れたのは、ここまで魔力を使ったのは、何年ぶりだろうとぼんやりとした意識の中で、取り留めのない疑問が浮かぶ。
 いや、怪我をするのは何年ぶりだろう、そちらの方が幼い時以来であることは確かだと、まだ血が止まらない腹を見て、苦笑した。
 魔力を使いすぎて集中ができず、血を完全には止められない。これは、人生で初めての惨敗と言えるかもしれない。恐らく数年は眠りに着かなければならないだろう。
 クリストファーが深く息を吐いたとき、

「お兄さん、大丈夫?」

 透き通った声が投げかけられた。
 頭の中に風が吹き込んだように、その声はクリストファーの雑念を消し去っていた。
 声がかけられた方へ目を遣ると、少し離れた場所に、日差しに溶け込むような煌めく白金の髪を持つ、幼い少女が草の中に座っていた。歳は5歳くらいだろうか、まだ丸みを帯びた頬が愛らしい。遊んでいたのだろう、手には作りかけの花輪が握られている。

 一瞬で、澄んだ声の主を観察したクリストファーは、頭を抱える思いがした。幼い子どもは、クリストファーの強い魔力に恐怖を感じて泣き出すのだ。さらに、弱って意識の集中ができない今は、魔力は全く抑制ができず、彼から溢れ出ている。
 けれども、子どもを宥める言葉をかける余力も、転移で逃げ出す余裕も彼にはなかった。

 魔力の調整を要するが、魅了をかけて子どもの方を動かそうと、彼は少女の瞳を見つめ――、
 次の瞬間、息を呑んだ。
 少女の瞳の色は、懐かしい、自分に光をくれた濃い緑を思い起こさせたのだ。
 そして、彼はその事実に驚愕した。

 少女の方もクリストファーに視線を合わせているのだ。

 どういうことだ?
 クリストファーは初めてのことに混乱した。
 少女の魔力は、歳の割には強いものを感じるが、決してアレッドと同じ強さではない。
 それなのに少女は泣きもせず、彼と自然に目を合わせている。
 呆然と立ち尽くし、少女の懐かしい緑の瞳に魅入っていると、彼女の大きな瞳が見開かれた。
 少女はパッと立ち上がった。

 ――あぁ、ようやく逃げ出すのだろうか。
 少女の次の動きを想像したクリストファーの胸に、微かな痛みが走った。
 けれども、少女は見開いた目をクリストファーから逸らすことはなかった。

「お兄さん!血が出てる!」

 しまった…!
 幼い子どもに見せていいものではなかった。かと言って、見られてしまったものをどうすればいいのか思いつかず、クリストファーが狼狽えている間に、少女は自分に向かって走り出した。

「来ては――」
 いけない、と叫んで少女を止めるつもりだった。小さな軽い身体は、彼から漏れ出る魔力に弾かれてしまう。けれど、彼の声は驚愕に呑まれ、途絶えた。

 ――!?

 叔父以外、誰もが身を竦ませる距離をあっさりと突破し、少女は止まることなく、自分の傍まで駆け寄ったのだ。
 クリストファーは、自分の傷を見つめる白金の髪の少女を愕然と見下ろした。連続して彼を襲う未知の出来事から、全く動けないクリストファーと対照的に、少女はまた動いた。
 小さな牙を出し、小さな指を一噛みして、彼に差し出したのだ。

「飲んで!」

 怪我をした相手に、自分の血を飲ます。
 それは、大人の吸血鬼が、魔力のまだ弱い幼い子どもの怪我を治すときにする方法だ。
 恐らく少女の親がしてくれたことを真似しているのだろう。
 彼の腰にも届かない小さな少女がくれた心遣いは、クリストファーの胸に、じわりと温かいものを広げていく。
 
 クリストファーは膝をついて、小さな天使と目線を合わせた。
 鮮やかな濃い緑の瞳は、素直に心配を浮かべている。
 彼は目元を緩ませ、差し出された小さな柔らかい手をそっと取った。叔父以外で生まれて初めて触れた手は、とても温かい。彼は一段と顔を緩めた。

「ありがとう。だが…」

 幼い時は魔力を大事にしておくれ、と寸前まで思い浮かべていた言葉は、彼に襲った甘い香りにかき消された。目の前の小さな指から溢れ出した血は、初めて味わう、甘く、抗いがたい魅力を持つ香りを放っていた。
 彼の世界は一瞬にして香りに染まる。
 甘い香りは頭の芯を疼かせ、そして瞬く間に体中を疼かせた。

「あぁ…」

 思わず漏れた彼の喘ぎに、香りが揺れ、彼の身体の熱も揺らいだ。
 熱に侵されるまま、気が付けば、彼は小さく細い指を舐めていた。
 舌に、芳しい香りを放つ妙なる血が触れたとき、体中が歓喜の声を上げた。水が砂に沁み込むように、体の隅々まで甘美な血が沁みこみ、彼を満たしていく。彼のあらゆるものが少女の存在を名付けていた。

――私の片割れ。私の半身。

 彼は唇を離すと、自分の唯一を抱きしめた。
 小さな体が伝えてくる温もりは、彼に陽だまりを思い起こさせた。
 どれぐらい、陽だまりに陶然と身を埋めていたか分からない。
 彼の腕の中の愛しい陽だまりが、もぞもぞと動き出した。身動きが取れないのが心地よくないようだ。

「お兄さん、大丈夫?」

 おずおずとした声がかけられた。彼の片割れは、まだ彼の傍にいることを何よりの幸せには感じてくれないらしい。血を交わしていない、そしてまだ幼い少女に当たり前の事ではあっても、僅かに感じてしまう寂しさを押し隠して、彼は彼女を抱きしめる腕を緩め、笑顔を向けた。

「あぁ、もう大丈夫だよ。ありがとう」
 『大丈夫』とは控えめな表現だ。これまでの人生の中で、ここまで満たされて寛いだことはなかった。瞳に入るすべてのものが鮮やかな色を持ち、世界が変わったようにまで感じられる。
 クリストファーは穏やかな眼差し向け、彼の世界の中で一際煌めきを放つ愛しい片割れの髪を撫でた。
 彼女は彼の返事に安堵の表情を浮かべ、そして目を瞬かせた後、輝くような笑顔を見せてくれた。
 彼女の笑顔にクリストファーの胸は照らされたような心地がしたけれど、一体、何が彼女に笑顔をもたらしたのか気になった。彼女のことは何でも知りたかった。

 答えは彼女が教えてくれた。
「お兄さんの瞳、まるで菫みたい…!」
 彼女の弾んだ声に、彼の胸も弾む。

「菫は好き?」
「私の一番大好きな花よ。とても綺麗な色でしょ?」
 彼の胸に、また明かりが灯った。今、この瞬間、自分の瞳の色に感謝した。彼女が初めて自分のことで好いてくれたものだ。素直に言葉が零れた。

「ジェシイの好きな色でよかった」
「どうして私の名前を知っているの?」
 ジェシカは目を丸くした。クリストファーは彼女の素直な表情の変化に頬を緩めた。

「ジェシイの血が教えてくれたんだよ」
 幼いジェシカからもらった血の量は僅かなものだったが、血に宿る魔力はクリストファーに彼女のことを伝えてくれた。
 彼女の名前だけでなく、彼女がクラーク辺境伯の一人娘であること、両親から贈られて一番うれしかったぬいぐるみと寝ていること、この場所は彼女のお気に入りであること、この場所で今まで多くの動物たちに出会ったこと、今朝の朝食は苦手な野菜が出て、少し辛かったこと――、鮮明に彼女の記憶を観ることができた。

「すごい!」
 新しいことを知った興奮で、緑の瞳は輝いた。ジェシカの収まらない興奮は、新しい疑問に結びつく。

「私がお兄さんの血を飲むと、お兄さんのことを血が教えてくれるの?」
「そうだよ。けれど…」

 クリストファーは苦笑した。彼女の瞳の輝きでは、今にも飲んで確かめたそうだ。
 けれども、吸血鬼同士が血を飲み交わすことは、身体の交わりと同じ意味を持つ。お互いの身体に溶け込んだ血が性的な快感を誘発し、そのまま身体の交わりも始めることが普通だ。
 5歳の少女が性的な快感を覚えるとは思わないが、文字通り恋の意味も知らない少女に試させることではない。

「ジェシイが大人になって…」

 クリストファーは遠回しに、今飲むことを止めさせようとして、ふと、ジェシカ大人になるまでのことを思い描いた。少なくとも、後10年は必要だ。けれども、クリストファーは森で受けたダメージで恐らく数年は眠りにつくことになる。
 瞬間、恐怖が駆け抜けた。
 眠っている間、彼女が逝ってしまうことはないのか?
 大きな病を得るかもしれない、大きな事故に巻き込まれるかもしれない、まだ見落としていたクリストファーに不満を持つ勢力が、絶好の機会と、再び内乱を起こすかもしれない――、
 さまざまな可能性が駆け巡る。
 
 クリストファーは、心臓を掴まれた思いで瞳を閉じた。
 嫌だ。彼女を失うなど、絶対に認めない。
 
 クリストファーはゆっくりと目を開いた。美しく澄んだ緑の瞳が、笑顔と共に出迎えてくれる。
 彼は無垢な瞳に、すべての者を魅了すると言われる笑みを浮かべて、問いかけた。

「私の血を飲んでみる?」
 幼気な少女は、喜色を浮かべ、躊躇わず頷いた。

 ジェシカと同じように指に牙を刺し、彼女の前に差し出した。
 興味津々な面持ちで待ち受けていた彼女は、ふっと目を閉じた。

「お兄さんの血、素敵な香りがするのね」
 片割れが自分の血を感じてくれている――
 その事実に、クリストファーの身体に歓喜が駆け抜ける。彼の中から罪悪感は消し飛んでいた。

「飲んでおくれ」
 囁くように希った。片割れは零れるような笑顔を見せて、彼の指を取った。
 小さな舌が指に触れた刹那、焼き尽くすような激しい熱を持った欲が彼を襲う。
 片割れと溶け合いたい――
 熱は彼を焼き尽くしていく。

「うっっ…!」

 呻きながら、熱に侵され溶かされそうになる意識の中、唱え続けた。

――ジェシイは5歳だ。目的を思い出せ…!

 彼は唇を噛みしめ、意識を保ち、自分の魔力を血の中に込めた。
 血を通して、クリストファーの魔力がジェシカの身体に入り込む。幼い身体に受け入れられる限界まで、彼は自身の魔力を注ぎ込んだ。
 加減を間違えたつもりなかったが、彼の強い魔力に幼い身体はピクリと揺れたかと思うと、ぐったりと力を失い、倒れ込んできた。

「ジェシイ。私の力を受け入れるんだ」

 瞳を閉じた彼女の、髪を撫で、頬を撫で、祈るようにクリストファーは囁いた。
 注ぎ込んだ魔力が彼女に馴染めば、彼女はクリストファーの力の一部を持つことになる。そして、彼女が彼の力を使えば、たとえ眠りについていても彼はそれを知ることができる。
 考えたくもないが、もし彼女に危険が迫っても、これで彼は片割れを護ることができるようになる。

「だから、受け入れておくれ」
 彼はジェシカの額に口づけを落とし、願った。
 君に去られたら、私はもう生きていけないだろう。一度味わったこの陽だまりを失うことに耐えられる自信も、耐えるつもりもない。
 どうか、お願いだから、護らせておくれ。

 彼の魂の叫びが聞こえたかのように、ジェシカの瞼がゆっくりと持ち上げられ、澄んだ緑の瞳が現れた。

「クリス。ずっと側に居るよ。一人じゃないよ。…大丈夫」

 澄んだ声はクリストファーの全てを止めた。
 一瞬後、彼は息を取り戻し、込み上げた熱いものを瞬きで散らした。
「ありがとう」
 掠れてしまった声は、彼女に届いたのだろうか。
 ジェシカは再びゆっくりと瞳を閉じて眠りに落ち、クリストファーは愛しい少女を腕に抱えた。
 自分が抱えることのできる存在があることに、彼は僥倖を噛みしめ、瞳を閉じた。
 そして、心の内に、万感の想いを込めて、かつて自分を抱きかかえてくれた存在に告げた。
 
――叔父上、あなたの置き土産を確かに受け取りましたよ。

 ジェシカの血は教えてくれた。
 この場所で、アレッドが彼女に微笑んで、頼んでいた。
『僕のクリスと同じくらい可愛いお嬢さん。銀の髪の『お兄さん』がここに来るまで、これから毎日、野原に来てくれないかい?』
『頼まれなくても、ここには毎日来ているのよ。大丈夫だよ』
 澄んだ声で返された答えに、叔父は眩しそうに目を細めていた。
『ありがとう。僕のクリスをよろしく』
 小さく囁かれた叔父の言葉の意図が分からず、叔父との会話は彼女の記憶に残っていた。
 
 叔父が導いてくれずとも、時が経てば、魂の片割れと出会うことはできただろう。
 けれども、叔父はクリストファーを一人残すことに心を痛めていたのだろう。
 柔らかな日が差す野原で、叔父から向けてもらった尽きることのない愛情を感じたクリストファーは、ゆっくりと瞳を開き、ジェシカの寝顔を見つめ、穏やかな微笑を浮かべた。


◇◇ 
「陛下!何と…!娘はどうしたので…、え…?」
 クリストファーの転移に気づいたウィレムは、屋敷を飛び出し、そして目の前の光景に絶句した。
 彼の、目に入れても痛くない、できれば入れてしまいたい愛娘が、眠ったまま、クリストファーに抱きかかえられている。そして、瞳を閉じた娘から、とてつもなく強い魔力を感じた。
 それだけでも、驚くことだったが、今のウィレムにはそれは些事だった。
 ウィレムの意識は、娘を抱えるクリストファーの腕と胸から瞬いている、銀と白金の光に全てが向けられた。

 ウィレムはその光が意味することを、噛み砕くことに時間を要した。
 ウィレムの背後で、妻を始め、使用人たちまで、屋敷の皆が駆け付けたことを感じたが、気にかける余裕はなかった。
 背後の皆がウィレムと同じように衝撃を受け、固まっていることも伝わったが、構う余裕はやはりなかった。

 じわじわと認めたくない事実が、ウィレムの頭に入り込む。
「娘は、陛下の片割れ…」

 瞬く光は、ウィレムに容赦なく認めたくない事実を突きつける。「お父様のお嫁さんになる!」と言ってくれた娘の最高の笑顔が、哀しい程鮮やかに蘇り、そして消えていった。

 いつかは来ると思っていたが、――いや、来なければいいと思っていたが――、まだ、心の準備などできていなかった…。
 早すぎる…。

 そうだ、早すぎる。
 呆然と瞬く光に事実を見つめたウィレムは、じわりと別の一つの事実に気が付いた。
ウィレムは強張った口を開いた。

「娘は…、陛下の血に渇望を覚えたのですか…?」
 血への渇望は、身体が大人になる準備を始めて、ようやく覚えるものだ。
 可愛い娘は、どうみても準備など始まっていない。渇望を覚えるはずがない。
 魂の片割れ同士には、常識は通じないのだろうか。

 自分から問いかけながら、答えを知りたいのか知りたくないのか分からなくなったウィレムに、クリストファーは爽やかな笑みを浮かべた。
「いいや。まだ5歳だからね」

 辺りを清めるような爽やかな笑みに、幾分、現実から目を逸らしたくなっていたウィレムは、つい「そうですね、5歳ですから、当然ですな」と頷き流されそうになったが、やはり、愛しい娘の事とあって、意識は直ぐに引き戻された。

 大きな疑問が突き付けられる。
 陛下が娘の血を飲んだ理由は分かる。彼の衣服は血に塗れていた。
 愛しい、優しい娘は、自分から血を差し出したのだろう。私の可愛い娘はよくできた娘だから。
 ともあれ、娘が渇望を覚えていないなら…、

 一段と強張った口を、ウィレムは何とか開く。
「どうして、娘は陛下の…、ち…、ち…、血を飲んだのでしょう」
 5歳の娘の行為として、口にするにはあまりに憚られることで、思わずウィレムはつかえてしまった。

 そんなウィレムの様子を気づいているのか、いないのか、クリストファーは輝くような笑みを浮かべた。
「私が飲んでもらいたかったから」

 瞬間、ウィレムは自分の顔から表情が抜け落ちたことを感じた。
 彼の背後で妻と使用人たちも、一斉に、底冷えのする魔力を放ったが、ウィレムがそれを咎めることはなかった。
 今や、ウィレムは自分自身を抑制することで手一杯だった。いや、抑制する必要があるのか疑問に思い始めていた。
 それでも、ウィレムはどうしても聞き出さなければならないことが残っていた。

「む…、娘は、まさか…、よ…く…、欲…、欲情…」
 ウィレムは、もう、自分がつかえているのが、非常識な行為を口に出すためではなく、目の前の青年への憤りの為であることをはっきりと自覚した。

 常ならば、いくら魔力を使いすぎていても、クリストファーは自分に向けられた怒りを見過ごすことはなかったが、今の彼は腕の中の愛しい片割れに意識の大半を取られている。
 ウィレムに艶やかな笑みを見せて、途切れた質問に答えるだけだった。

「まさか、彼女はまだ5歳だからね」
 ウィレムは正義が護られた心地がして、思わず涙ぐんだが、それは束の間の安息だった。
 目の前の男は、頬を薄っすらと染め、凄絶な色香を出しながら呟いたのだ。

「私は20歳だから、圧倒されたけれど……」
 
 ウィレムは拳を握り締め、牙を出し唸った。ウィレムが敵意を露わにしたところで、何の脅威にもならないのだろう。
 目の前の惚けた男は、ウィレムには目もくれず、愛しい娘を見つめて、蕩けている。

 ウィレムは、5歳の娘に欲情したこの色惚け男を殺せるものなら殺してやりたかったが、紛れもなく娘の片割れで、殺せば娘が悲しんでしまう。
 背後で上がる屋敷の皆の唸り声を耳にしながら、ウィレムは誓った。

 今回の反乱が起きたとき、ウィレムは臣下の中で一番早くに目の前の色狂った男を支持するために駆け付けたが、次に内乱が起きれば、自分は反乱軍に――、いや…、国と領民の平和のためにそれは難しいが…、いや…娘に泣かれてしまうだろうから、やはりできないが……、次は一番最後に駆け付けてやる…。

 根が善良であるため、微妙な呪いの誓いを立てるウィレムだったが、すぐに少しだけ留飲を下げることになる。
 強すぎる魔力は完全に溶け合うまで、娘に負担を強いた。可愛い小さな娘は3週間も眠り続け――、
 目を覚ましたときには、血の記憶は娘の中から消えていた。
 クラーク家は魂の片割れのことは一切触れず、娘に真っ当な子ども時代を過ごさせることにしたのだ。
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