年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる

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疑惑

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 同窓会があったらしい。俺のじゃなくて、課長の高校時代の同窓会だ。先々週の話である。
 別に、それはいいのだ。課長にも付き合いがあるのはわかっているから。問題は、その同窓会の日以来、課長が俺に隠し事をしているらしいことだ。
 先週も、今週も、課長がよそよそしい。
 仕事中はいつも通りなのだけれど、プライベートで二人きりになろうとしない。部屋に泊めてもくれない。考えたくないけれど、俺に飽きたのだろうか? それとも、高校時代の同級生の中に、意中の人でもいて、その人と上手くいったりしたのだろうか?

「佐々木さん、今晩ひまですか? 」
「えぇ、真田君に誘われるのなんて初めてね。夕飯くらいなら付き合ってもいいわよ」
「ありがとうございます。じゃぁ、仕事が終わったら□□駅前の○○〇って喫茶店で待っていてくれますか? 」
「了解」
 俺は事務所の紅一点、佐々木さんに相談することにした。一人で悶々と考えているのが辛かったのだ。佐々木さんは一つ上の先輩で、可愛らしくて、元気で、性格はさばさばしていて、とても付き合いやすい人だ。姉御肌で、よく俺の面倒をみてくれている。課長が離席した隙に、約束を取り付けて、俺達は喫茶店で待ち合わせをした。

「今日は、何をご馳走してくれるの? 真田君」
「佐々木さん、オムライスでいいですか? この間話していたお店、先週オープンしたみたいですよ」
「うん。じゃぁそこにしようか。先週、課長と行ったの? 」
 佐々木さんの何気ない問いに、俺は勝手に傷ついてしまった。
「あぁ、ごめん。私が悪かったわ。だからそんな顔しないでよ」
「そんな顔って、どんな顔ですか? 」
 声が恨みがましくなる。
「もう、そんな落ち込んでいますっていう顔しないの。かわいい顔が台無しよ」
「可愛いのは佐々木さんでしょ。俺は可愛くないです……」
「私は可愛いけども、真田君も可愛いのよ。まぁ、お姉さんが話を聞くから、元気出しなさい」
「うぅ、ありがとうございます」
 
 オムライスは美味しかった。佐々木さんに懸念をぶちまけて、慰めてもらって、少しだけ気分が浮上する。「ちゃんと話をしなきゃ、相手が何を考えているかなんて分からないのよ」と、そう言って背中を押してくれたから、俺は課長と話す決意をした。仕事中は、そんな話は出来ないし、二人きりになるのを避けられているので、帰宅してから、先ずはメッセージを入れる。
―――課長は、俺に飽きたんですか? 俺と別れたいのですか? 
 とても挑発的なメッセージだと思う。でも、これくらいはっきり訊かないと、課長にのらりくらりと躱されそうだから。
『待って、なんでそんなこと? そんなわけないだろ』
 直ぐに返事が来て、ちょっとホッとした。通話に切り替える。
「課長、じゃぁなんで、俺を避けているんですか? 同窓会の日からですよね? 昔の恋人と何かあったとかじゃないんですか? 」
「それもないから。あき、課長って言うなよ。あのさ、同窓会の時に言われたんだよ。悪友どもに。太ったなぁって……」
「は?」
「いや、だからさ、ちょっとジムに通って体を絞ろうかと思ったんだよ」
「え? 課長、太ってないですよ? 」
「ああ、まぁ、あきと出会ってからは変わってないんだけどな。高校時代からしたら、大分太ったんだよ」
「それは知りませんでしたけど、そんなことで? 」
「そんなことって言うけどな、努力しないと若い恋人に振られるぞって」
「誰が言ったんですか? そんなこと」
「いや、悪友どもが……」
「とにかく、課長はそれ以上痩せる必要ありません。それに、放っておかれる方が俺は傷つきますから」
「だから、課長って言うなって。あき、怒っているのか? 」
「怒っていますよ。もっと早く相談してください。幸也さんの恋人は、悪友の人たちじゃなくて、俺なんですから」
 そう言ったら、課長が小さく噴き出した。
「そうだな。寂しい思いをさせて悪かった。あき、今度の休みはあきの望むこと、なんでもしてやるよ」
「言いましたね? 遠慮はしないですよ」
「ああ、なんでもプレゼントするし、なんでも食べさせてやるよ」
「そんなこと望んでいませんけど、まぁ、その日を楽しみにしています」
「うん、早まったか? 何させられるのかな? 俺は」
「当日のお楽しみですよ」
 
 直接話して、疑惑も晴れて、俺はすがすがしい気持ちで課長へのおねだりを考える。まずは、今より痩せていたという高校時代の写真を一枚、おねだりしてみたいと思う。課長の嫌がりそうな顔が目に浮かんだけれど、それもまた嬉しかった。

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