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第二章 距離が縮まるオリエンテーション!

13話 二人だけで夜のお散歩へ

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 ちょっとしたハプニング? もありつつ、秘湯からホテルに戻ってきた。
 そして私はいま、ホテルの部屋の前で立ち尽くしている。
 き、緊張してきた……!

 泊まるホテルの部屋割りは『一組のA班女子と、二組のA班女子』のように、違うクラスの班の子と一緒になる。
 一組A班の女子は私一人で、二組A班の女子は三人いるみたい。

 ──ゴクリ。
 えいやっ、とドアをあけた。

「……あ! 神城かみしろさんだ! 秘湯どうだった?」
「わぁ、神城さんお肌ツルツル!」
「ほんとだー!」
「あ、え、えっと……?

 入ってすぐ三人に囲まれる、という予想外の出来事に私は困ってしまった。
 三人のうち、ボブヘアの女の子がズイッと前に出る。

黒羽くろばね魔央まおくんたちと、同じ班だよね? いいなぁ!」

 ボブヘアの子が言ったことに、「うんうん」と首を縦にふった二人。

「うらやまし~!」
「私も同じ班が良かったー」
「でもあたし、逆に恥ずかしくて顔を見れないかも~」
「あー、それもわかる!」
「結局さ、イケメンは遠くから眺めるくらいがいいよねー」
 
 三人はキャッキャっと盛り上がっていた。
 ボブヘアの子が何か思い出したのか、ぽんと手を叩く。

「そうだ! あたしたち今から自販機に、飲み物買いに行こうと思ってたんだけど、神城さんも一緒に行く?」
「へっ? あ、えっと……い、いいかな。さっき、お水飲んじゃって! 誘ってくれたのに、ごめんねっ?」
「ううん! じゃ、行ってくるねー」
「いってらっしゃい!」

 部屋を出て行く三人に手をふり、見送る私。

 人見知り注意報発生中……。
 うわーん、なんで断っちゃうのよ私のバカ。

◇◇◆◇◇

 私たちの部屋は和室。
 もうすでに、敷布団が四つ並べてあった。
 窓側の、まだ使われてなさそうな一つに寝転ぶ。

「はぁ、今日もいろいろあったなぁ」
  
 ──コンコン。
 どこからか音がした。
 入り口の方を見てみたけど、もっと近くで音がしたような……?

 もう一度、コンコンと音がした。
 窓を叩いたような音だ。
 まさかと思い、私は起き上がって窓のそばへ行く。ガラス窓の手前には、ふすまがあって二重構造こうぞうになっていた。
 私は勢いよく、ふすまをあける。

 ……私の記憶が間違ってなければ、ここは五階。
 なのに……、なんで外に魔央くんが居るの!?
 コウモリのような翼を動かし、魔央くんは宙に浮いている。
 そうだ、魔央くんは飛べるんだった!
 
「魔央く……」

 人差し指を口に当て「しー」とジェスチャーをした魔央くん。
 それを見て、すぐに私は手で口を塞いだ。
 魔央くんが口パクで何かを言っている。

 ──あ、け、て。

 窓を開けたら良いのかな?
 くこりとうなずき、私は窓を開けた。
 部屋の中に入ってきた魔央くんは、私の方に手を差し出して一言。

「夜の散歩にいきませんか? 可愛いお姫様」

 ──本物の王子様って、魔央くんのことを言うのかな……?

◇◇◆◇◇

「ちゃんとつかまっててね?」
「きゃっ!」

 私をお姫様抱っこした魔央くんは、空高く飛んだ。
 さすがに、建物の五階の高さから飛び立つのは怖くて目を閉じる。

「一華、大丈夫だから目を開けてごらん? 綺麗だよ」
「……綺麗? なにが?」 
「それは自分の目で確認しなきゃ」
「ううっ、が、頑張ってみる」

 すー、はぁー。
 深呼吸をして、私は目を開けた。

「……わぁ! 綺麗!」

 目の前には、キラキラと輝くたくさんの星が!
 山の上だからなのか星空がよく見える。

「すごいね! 魔央くんっ、見せてくれてありがとう!」

 嬉しくて魔央くんにぎゅっとしがみつく。

「っ! ……まぁ、俺からしたら一華の方が綺麗で、可愛いけどね」

 ボソボソと喋る魔央くん。

「……ん? 何か言った?」
「いいや。ほら、もっと高く飛ぶよっ!」

 さらに上へと飛んだ魔央くん。
 ふと下を向けば、遠くの方に街の光がイルミネーションのように光って見えた。
 星空とは違う輝きがあって、とっても綺麗。

「一華、寒くない?」
「大丈夫だよ」

 一人だったらきっと寒かったと思う。
 でも、密着している魔央くんの体温が伝わってきてあたたかい。
 とてもじゃないけど、そんなこと恥ずかしくて本人には言えない。

 山中さんちゅうの道で魔央くんが、夜景を一望いちぼうできるスポットを見つけた。    
 ベンチが一つと、観光案内の看板だけがある小さなスペース。二人で並んで座わった。

「本当に綺麗だね……」

 夢中になって夜景を見ていると、となりからの視線を感じた。

「魔央くん?」
「…………」

 私を見つめる魔央くん。

「一華」
「っ!」               
      
 顔が少しずつ近づいてきて……。
 もう少しで唇がくっつきそう。

 ……私このまま、魔央くんとキスしちゃうの?
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