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特別番外編(1)
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side 春名咲都
◇
五月。日曜日の昼下がり。
インナーバルコニーから見えるのは抜けるような青い空だった。
今日は結婚式には最良の日だ。
といってもわたしたちの結婚式は、まだもう少し先のこと。
今日は秋成さんが仕事関係の方の披露宴に招待されている。
有名企業の社長ともなると、披露宴に招待される機会が多い。まれに一日にふたつの式に招待されることもあって、まさしく今日がそうだった。
ちょうど今頃はふたつ目の式の真っ最中だろう。
◇
今日は店の定休日。
わたしは留守を承知で、午後から秋成さんのマンションにおじゃましている。
秋成さんが帰ってくるまでお留守番。
その間、リビング・寝室・キッチン・バスルームの掃除をした。
秋成さんはきれい好きなので、普段も自分で掃除はしている。そのためあまり手間がかからずに終えることができた。
軽く休憩を挟んだあとは、部屋中の植物の水やりと手入れ。最後に大きく育ったドラセナの葉っぱについた埃を丁寧に拭った。
「よし!」
これで完了。
気づくと、あっという間に時間が過ぎていて、時刻は午後五時をまわったところだった。
それからひとりで夕食を食べ、シャワーを浴びる。秋成さんから『もうすぐ家に着くよ』と電話がきたのは、午後七時頃だった。
十五分ほど経過した頃、部屋のインターフォンが鳴り、急いで玄関に向かう。ドアを開け、「おかえりなさい」と迎えると、「ただいま」と頬にキスをされた。
少しお酒くさい。酔っているのかな?
「咲都、いい匂いがする。シャワー浴びたの?」
「うん。秋成さんもすぐにシャワー浴びる?」
「その前になにか食べたい。お腹空いてるんだ」
「料理は食べてこなかったの?」
「そんな暇なかったよ。お酒はたくさん飲んだけど」
そう言って秋成さんは困ったように眉尻を下げた。
きっと仕事関係の人たちに話しかけられ、ゆっくり料理を食べる時間がなかったんだろう。時間差はある程度あったものの、披露宴の会場が離れていたから移動も大変だったと思う。
「冷蔵庫にあんまり食材がないから簡単なものしかできないけど。なに食べたい?」
「今日はおまかせで。なんでもいいよ」
「じゃあ、お茶漬けは?」
「いいね! 咲都が作るお茶漬け、好きなんだ。大葉とワサビとシャケ、あと白ごまがたくさんかかったやつ」
秋成さんは仕事でお酒を飲む機会が多いけれど、そういうときはたいていお酒だけ飲んで食事はとらずに帰ってくる。理由は食べる暇がないのもあるけれど、健康や体型維持のためでもあるらしい。
それなのに、わたしがいるとなぜか「お腹空いた」と食事をねだる。
今日はお茶漬けだけど、これまでラーメン、焼うどん、グラタン、親子丼等々。チーズたっぷりのピザトーストを作ったこともある。
冷凍していたシャケとごはんを電子レンジで解凍して、大葉を細切りにする。ワサビを添えて、最後に白ごまをたっぷりとふりかけた。
「おいしそう! いただきます」
「どうぞ」
背広を脱いだ秋成さんがダイニングでおいしそうに頬張る。麦茶が入ったグラスをテーブルに置くと、「ありがとう」と子どもみたいな笑顔になった。
「やっぱりシメは咲都の作る料理だな。これを食べないと一日が終わらない」
「おおげさ」
「そんな冷めた声で言うことないだろう。今日もすごく楽しみにしてたんだから。メニューはなにかなって帰りのタクシーのなかでも考えていたのになあ」
「そうだったんだ。ごめんごめん」
こんなことで喜んでもらえるんなら、これからもがんばって作り続けたい。おいしそうに食べてくれる秋成さんの顔を見ることも、わたしにとって癒やしになる。
「披露宴はどうだった?」
わたしは自分の麦茶を持って向かい側に座った。
「いい式だったよ。余興も楽しかったし」
「花嫁さんはどうだった?」
「ふたりともきれいだった」
「へえ、そっか……」
自分から話題をふっておいて、こんなことを言うのもなんだけど。なんの躊躇もなくほかの女性を「きれい」と言ってしまう秋成さんにちょっとイラッとしてしまう。
もちろん悪気がないのはわかっている。でも少しはわたしの気持ちも考えてほしいな。
ただでさえ最近のわたしはナーバス。ちょっとしたことにでも敏感に反応してしまう。
「どうかした?」
軽くむくれているわたしに気がついた秋成さんが小首をかしげた。
「ううん、なんでもない」
「ならいいけど」
秋成さんはたいして興味がなさそうに言うと、再びお茶漬けをかき込んだ。
よほどお腹が空いていたらしい。ものすごい勢いで完食した。
「ごちそうさま。すごくおいしかった。シャワー浴びてくる」
麦茶も飲み干し、満足げな秋成さんはさっさとバスルームに向かった。
わたしはダイニングに取り残されたみたいになって、わびしい気持ちになりながら麦茶を飲んだ。
花嫁だけでなく招待客のなかにもきれいな人はいたんだろうな。
秋成さんのまわりにはきれいな人がたくさんいる。当然、冴島テクニカルシステムズにもいるわけで……。
◇
五月。日曜日の昼下がり。
インナーバルコニーから見えるのは抜けるような青い空だった。
今日は結婚式には最良の日だ。
といってもわたしたちの結婚式は、まだもう少し先のこと。
今日は秋成さんが仕事関係の方の披露宴に招待されている。
有名企業の社長ともなると、披露宴に招待される機会が多い。まれに一日にふたつの式に招待されることもあって、まさしく今日がそうだった。
ちょうど今頃はふたつ目の式の真っ最中だろう。
◇
今日は店の定休日。
わたしは留守を承知で、午後から秋成さんのマンションにおじゃましている。
秋成さんが帰ってくるまでお留守番。
その間、リビング・寝室・キッチン・バスルームの掃除をした。
秋成さんはきれい好きなので、普段も自分で掃除はしている。そのためあまり手間がかからずに終えることができた。
軽く休憩を挟んだあとは、部屋中の植物の水やりと手入れ。最後に大きく育ったドラセナの葉っぱについた埃を丁寧に拭った。
「よし!」
これで完了。
気づくと、あっという間に時間が過ぎていて、時刻は午後五時をまわったところだった。
それからひとりで夕食を食べ、シャワーを浴びる。秋成さんから『もうすぐ家に着くよ』と電話がきたのは、午後七時頃だった。
十五分ほど経過した頃、部屋のインターフォンが鳴り、急いで玄関に向かう。ドアを開け、「おかえりなさい」と迎えると、「ただいま」と頬にキスをされた。
少しお酒くさい。酔っているのかな?
「咲都、いい匂いがする。シャワー浴びたの?」
「うん。秋成さんもすぐにシャワー浴びる?」
「その前になにか食べたい。お腹空いてるんだ」
「料理は食べてこなかったの?」
「そんな暇なかったよ。お酒はたくさん飲んだけど」
そう言って秋成さんは困ったように眉尻を下げた。
きっと仕事関係の人たちに話しかけられ、ゆっくり料理を食べる時間がなかったんだろう。時間差はある程度あったものの、披露宴の会場が離れていたから移動も大変だったと思う。
「冷蔵庫にあんまり食材がないから簡単なものしかできないけど。なに食べたい?」
「今日はおまかせで。なんでもいいよ」
「じゃあ、お茶漬けは?」
「いいね! 咲都が作るお茶漬け、好きなんだ。大葉とワサビとシャケ、あと白ごまがたくさんかかったやつ」
秋成さんは仕事でお酒を飲む機会が多いけれど、そういうときはたいていお酒だけ飲んで食事はとらずに帰ってくる。理由は食べる暇がないのもあるけれど、健康や体型維持のためでもあるらしい。
それなのに、わたしがいるとなぜか「お腹空いた」と食事をねだる。
今日はお茶漬けだけど、これまでラーメン、焼うどん、グラタン、親子丼等々。チーズたっぷりのピザトーストを作ったこともある。
冷凍していたシャケとごはんを電子レンジで解凍して、大葉を細切りにする。ワサビを添えて、最後に白ごまをたっぷりとふりかけた。
「おいしそう! いただきます」
「どうぞ」
背広を脱いだ秋成さんがダイニングでおいしそうに頬張る。麦茶が入ったグラスをテーブルに置くと、「ありがとう」と子どもみたいな笑顔になった。
「やっぱりシメは咲都の作る料理だな。これを食べないと一日が終わらない」
「おおげさ」
「そんな冷めた声で言うことないだろう。今日もすごく楽しみにしてたんだから。メニューはなにかなって帰りのタクシーのなかでも考えていたのになあ」
「そうだったんだ。ごめんごめん」
こんなことで喜んでもらえるんなら、これからもがんばって作り続けたい。おいしそうに食べてくれる秋成さんの顔を見ることも、わたしにとって癒やしになる。
「披露宴はどうだった?」
わたしは自分の麦茶を持って向かい側に座った。
「いい式だったよ。余興も楽しかったし」
「花嫁さんはどうだった?」
「ふたりともきれいだった」
「へえ、そっか……」
自分から話題をふっておいて、こんなことを言うのもなんだけど。なんの躊躇もなくほかの女性を「きれい」と言ってしまう秋成さんにちょっとイラッとしてしまう。
もちろん悪気がないのはわかっている。でも少しはわたしの気持ちも考えてほしいな。
ただでさえ最近のわたしはナーバス。ちょっとしたことにでも敏感に反応してしまう。
「どうかした?」
軽くむくれているわたしに気がついた秋成さんが小首をかしげた。
「ううん、なんでもない」
「ならいいけど」
秋成さんはたいして興味がなさそうに言うと、再びお茶漬けをかき込んだ。
よほどお腹が空いていたらしい。ものすごい勢いで完食した。
「ごちそうさま。すごくおいしかった。シャワー浴びてくる」
麦茶も飲み干し、満足げな秋成さんはさっさとバスルームに向かった。
わたしはダイニングに取り残されたみたいになって、わびしい気持ちになりながら麦茶を飲んだ。
花嫁だけでなく招待客のなかにもきれいな人はいたんだろうな。
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