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7.その壁を飛び越えたら
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「小さい頃、わたしは千沙ちゃんにたくさん甘えさせてもらってたよね。千沙ちゃんがやさしいのをいいことに、わたしはいつも我儘ばかり。ほら、うちは弟ふたりでしょう。弟たちが優先で我慢させられることが多かったから」
「わたしのほうこそコンプレックスがあった。美空に似てるって言われるのが嫌でたまらなかった」
「それで、わたしを避けようとしていたの?」
「だって、わたしは可愛くないもん。わたしたちがいくら似ていても、わたしは美空より劣る」
「劣るなんてそんなことないよ!」
「でも実際、おじいちゃんもおばあちゃんも親戚の人も、みんな美空ばかりをちやほやしてた。だから、わたしは可愛くないんだよ」
女の子らしい服も似合わないと思っていた。美空みたいに人に甘えることも苦手。みんなの中でうまく笑えなくて、気づくと輪の中から離れて、ひとりぼっちになっていた。
顔や背格好は似ていても、なにか根本的なものが違うような気がしていた。たぶん、わたしにはなにかが足りない。スポットライトを浴びることのできる人間とできない人間の境界線には、とてつもなく大きな壁が立ちはだかっているような気がした。その壁を越えるには、足りないものを見つけないといけない。
「千沙ちゃんはどうして殻に閉じこもってるの?」
「殻って……。なにが言いたいの?」
「言いたいことがあるなら言いなよ。やりたいことがあるなら挑戦してみればいい。いつも本音を隠してたんじゃ、誰も近づけない。そばにいた人たちも離れていっちゃうよ」
美空の言っていることが痛いくらいに胸に突き刺さった。わたしが本音を言える人は限られている。家族とすずちゃん、あと隼人さんぐらいだ。
やけに息苦しかった。でもそれは自分で生きる世界を狭めていただけ。
わたしはナギの泳ぐ姿を頭の中に思い描いていた。まわりからの期待や過去の栄光を避けるように心を閉ざしてしまったナギが、一歩を踏み出している。もう一度、自分の可能性に賭けて壁を乗り越えようとしている。
それはわたしの望んでいた姿。そしてナギの向かっている場所がわたしも目指していた世界。
ナギに勇気をわけてもらいたくて、わたしはナギを応援していた。ナギならわたしを導いてくれるような気がしていた。
だけど自分から拒絶してしまった。そしてナギも遠くに行ってしまった。この状況は望んでいたものとは正反対。わたしはどこに行くのだろう。いや、どこにも行けないんじゃないだろうか。
このままだとわたしはみんなにも置いてかれてしまう。真っ暗な未来を見つめながら、きっと人をうらやんでばかりの人間になってしまう。
自分で切り開かなくちゃ。どんな結果になろうとも、それを乗り越えるという強い意志を持たないと、わたしはこの先、一生変わることはできないような気がした。
「ごめん、美空。わたし、ナギのことが……」
「だったら早く行きなよ」
美空は微笑みながら目に涙を浮かべていた。その涙の意味はなんだろう。美空はナギに気持ちを伝えたのだろうか。
ナギとの間でどういう結論が出たのかは、美空はなにも話さなかった。けれど、わたしのことを送り出そうとしてくれている。
「いいの?」
「わたしに許可をもらう必要なんてないよ」
「ありがとう、美空」
「この間、チャンスをもらったから。だから今度は千沙ちゃんががんばる番だよ」
その目から一粒の涙がこぼれ落ちた。それでも美空は表情を崩さない。
美空は強い。いつも見ていた純真な笑顔の裏にある意志の強さを初めて知った。
どこからともなく舞い降りた妖精は人知れず悩みや苦しみを抱え、葛藤し、ときには涙を流し、栄光を掴んだ。
わたしに足りないもの。それは本当の自分を受け入れること。誰をうらやんでもわたしはわたしでしかない。壁を越えるのは今なのかもしれない。
新しい世界を見たい。今ならそれも叶うはず。
「わたしのほうこそコンプレックスがあった。美空に似てるって言われるのが嫌でたまらなかった」
「それで、わたしを避けようとしていたの?」
「だって、わたしは可愛くないもん。わたしたちがいくら似ていても、わたしは美空より劣る」
「劣るなんてそんなことないよ!」
「でも実際、おじいちゃんもおばあちゃんも親戚の人も、みんな美空ばかりをちやほやしてた。だから、わたしは可愛くないんだよ」
女の子らしい服も似合わないと思っていた。美空みたいに人に甘えることも苦手。みんなの中でうまく笑えなくて、気づくと輪の中から離れて、ひとりぼっちになっていた。
顔や背格好は似ていても、なにか根本的なものが違うような気がしていた。たぶん、わたしにはなにかが足りない。スポットライトを浴びることのできる人間とできない人間の境界線には、とてつもなく大きな壁が立ちはだかっているような気がした。その壁を越えるには、足りないものを見つけないといけない。
「千沙ちゃんはどうして殻に閉じこもってるの?」
「殻って……。なにが言いたいの?」
「言いたいことがあるなら言いなよ。やりたいことがあるなら挑戦してみればいい。いつも本音を隠してたんじゃ、誰も近づけない。そばにいた人たちも離れていっちゃうよ」
美空の言っていることが痛いくらいに胸に突き刺さった。わたしが本音を言える人は限られている。家族とすずちゃん、あと隼人さんぐらいだ。
やけに息苦しかった。でもそれは自分で生きる世界を狭めていただけ。
わたしはナギの泳ぐ姿を頭の中に思い描いていた。まわりからの期待や過去の栄光を避けるように心を閉ざしてしまったナギが、一歩を踏み出している。もう一度、自分の可能性に賭けて壁を乗り越えようとしている。
それはわたしの望んでいた姿。そしてナギの向かっている場所がわたしも目指していた世界。
ナギに勇気をわけてもらいたくて、わたしはナギを応援していた。ナギならわたしを導いてくれるような気がしていた。
だけど自分から拒絶してしまった。そしてナギも遠くに行ってしまった。この状況は望んでいたものとは正反対。わたしはどこに行くのだろう。いや、どこにも行けないんじゃないだろうか。
このままだとわたしはみんなにも置いてかれてしまう。真っ暗な未来を見つめながら、きっと人をうらやんでばかりの人間になってしまう。
自分で切り開かなくちゃ。どんな結果になろうとも、それを乗り越えるという強い意志を持たないと、わたしはこの先、一生変わることはできないような気がした。
「ごめん、美空。わたし、ナギのことが……」
「だったら早く行きなよ」
美空は微笑みながら目に涙を浮かべていた。その涙の意味はなんだろう。美空はナギに気持ちを伝えたのだろうか。
ナギとの間でどういう結論が出たのかは、美空はなにも話さなかった。けれど、わたしのことを送り出そうとしてくれている。
「いいの?」
「わたしに許可をもらう必要なんてないよ」
「ありがとう、美空」
「この間、チャンスをもらったから。だから今度は千沙ちゃんががんばる番だよ」
その目から一粒の涙がこぼれ落ちた。それでも美空は表情を崩さない。
美空は強い。いつも見ていた純真な笑顔の裏にある意志の強さを初めて知った。
どこからともなく舞い降りた妖精は人知れず悩みや苦しみを抱え、葛藤し、ときには涙を流し、栄光を掴んだ。
わたしに足りないもの。それは本当の自分を受け入れること。誰をうらやんでもわたしはわたしでしかない。壁を越えるのは今なのかもしれない。
新しい世界を見たい。今ならそれも叶うはず。
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