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6.束縛のキスマーク
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翌朝、目を覚ますと、航はすやすやと寝息を立てていた。
「ふふっ、子どもみたい」
昨夜は野獣みたいに荒々しくて、激しかったのにこの変わりよう。同一人物かと思うくらい。
でも満ち足りて幸せな時間だった。
そもそも満足しなかったことなんて一度もない。よく考えたら、それってすごいことなんじゃないかって思う。
友達がこぼす愚痴のなかには、彼氏がひとりで満足して身勝手すぎるなんていうものもあって、それがひとりやふたりの話じゃないから、航の愛し方はきっとほかの男性とは違うのかなと思った。
わたしは航しか知らないから比べようがないけれど、比べたいとも思わない。初めてが航で、わたしはなんて幸運なのだろうと思う。
頬にキスをすると瞼がピクリと動いた。起こしちゃったのかなと顔を近づけてみるけれど、相変わらずリズムよく呼吸している。
それにしても、無防備なのにこんなに格好いいとはずるい。まつ毛は長いし、鼻筋も通っていて、唇だってきれいな形をしている。
もっと寝顔を見ていたいな。
だけど今日はあまり時間がない。名残惜しさを振り払い、わたしはベッドから下りると服を着て、バスルームに向かった。
髪をシュシュでひとつに束ね、洗顔と歯みがきをすませる。鏡を見ると、夕べのキスマークがくっきりとついているのがわかった。
ぎりぎり正面からは見えない……と思う。
かなり濃くついちゃったから、来週の水曜日まで残りそうだな。
キスマークは蒸しタオルをあてると薄くなって早く消えるとよく聞く。来週は会えるのかな。本当は消したいけれど、会えたときにキスマークが消えていたらバレちゃうかな。
「美織?」
「あっ、おはよう。もっとゆっくり寝てていいのに」
寝ぐせのついた航が眠そうな顔で入ってきた。しかもボクサーパンツ一枚という格好。
「もう帰るんだろう? 車で送る」
寝起きだからか、違和感のある声だった。鼻にかかったような、それでいてちょっとくぐもったような声。
「声が変だよ。風邪……かな?」
「ちょっと喉が痛いかも。でも平気。俺、めったに風邪ひかないから」
「疲れがたまってるんだし、あんまり無理しないで。送らなくてもいいよ、電車で帰るから」
今日は両家の顔合わせのために、お昼頃に両親が上京してくる。そのため一度自宅アパートに帰って着替えてから東京駅に迎えに行く予定だった。
「疲れてない。なるべく一緒にいたいんだよ」
航が甘えるように抱きついてくる。
裸の胸が目の前にあってドキドキする。厚い胸板はたくましくて、男の人なんだと思わせる。
「今日の午後、また会えるのに」
「今日は親がいるからこんなことできないだろう。それに次の日からは出張だから」
「うん、そうだね」
航は甘えたがり。でも自分から甘えておきながら、本当はわたしを甘やかしてくれているのかなって思った。
初めての恋愛で戸惑うばかりだったわたしに、こうやって甘え方を教えてくれたんじゃないかな。
甘えんぼうなんてばかにしたけれど、本当はそんな航が大好きで、そんな航でよかったと思っているんだよ。
心のなかでそんなことを考えながら、わたしは力いっぱい航を抱きしめた。
「ふふっ、子どもみたい」
昨夜は野獣みたいに荒々しくて、激しかったのにこの変わりよう。同一人物かと思うくらい。
でも満ち足りて幸せな時間だった。
そもそも満足しなかったことなんて一度もない。よく考えたら、それってすごいことなんじゃないかって思う。
友達がこぼす愚痴のなかには、彼氏がひとりで満足して身勝手すぎるなんていうものもあって、それがひとりやふたりの話じゃないから、航の愛し方はきっとほかの男性とは違うのかなと思った。
わたしは航しか知らないから比べようがないけれど、比べたいとも思わない。初めてが航で、わたしはなんて幸運なのだろうと思う。
頬にキスをすると瞼がピクリと動いた。起こしちゃったのかなと顔を近づけてみるけれど、相変わらずリズムよく呼吸している。
それにしても、無防備なのにこんなに格好いいとはずるい。まつ毛は長いし、鼻筋も通っていて、唇だってきれいな形をしている。
もっと寝顔を見ていたいな。
だけど今日はあまり時間がない。名残惜しさを振り払い、わたしはベッドから下りると服を着て、バスルームに向かった。
髪をシュシュでひとつに束ね、洗顔と歯みがきをすませる。鏡を見ると、夕べのキスマークがくっきりとついているのがわかった。
ぎりぎり正面からは見えない……と思う。
かなり濃くついちゃったから、来週の水曜日まで残りそうだな。
キスマークは蒸しタオルをあてると薄くなって早く消えるとよく聞く。来週は会えるのかな。本当は消したいけれど、会えたときにキスマークが消えていたらバレちゃうかな。
「美織?」
「あっ、おはよう。もっとゆっくり寝てていいのに」
寝ぐせのついた航が眠そうな顔で入ってきた。しかもボクサーパンツ一枚という格好。
「もう帰るんだろう? 車で送る」
寝起きだからか、違和感のある声だった。鼻にかかったような、それでいてちょっとくぐもったような声。
「声が変だよ。風邪……かな?」
「ちょっと喉が痛いかも。でも平気。俺、めったに風邪ひかないから」
「疲れがたまってるんだし、あんまり無理しないで。送らなくてもいいよ、電車で帰るから」
今日は両家の顔合わせのために、お昼頃に両親が上京してくる。そのため一度自宅アパートに帰って着替えてから東京駅に迎えに行く予定だった。
「疲れてない。なるべく一緒にいたいんだよ」
航が甘えるように抱きついてくる。
裸の胸が目の前にあってドキドキする。厚い胸板はたくましくて、男の人なんだと思わせる。
「今日の午後、また会えるのに」
「今日は親がいるからこんなことできないだろう。それに次の日からは出張だから」
「うん、そうだね」
航は甘えたがり。でも自分から甘えておきながら、本当はわたしを甘やかしてくれているのかなって思った。
初めての恋愛で戸惑うばかりだったわたしに、こうやって甘え方を教えてくれたんじゃないかな。
甘えんぼうなんてばかにしたけれど、本当はそんな航が大好きで、そんな航でよかったと思っているんだよ。
心のなかでそんなことを考えながら、わたしは力いっぱい航を抱きしめた。
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