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嵐の前
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中年の女はフリルのついた白いエプロンを身につけている。少しふっくらとした体型で、そこら辺の通りを歩いていそうな主婦といった雰囲気だった。
「マルク様がこちらにいらっしゃるなんて驚きましたわ。めずらしいこともあるものでございますわね」
とても宝飾品を扱っている店の店主には見えない。かといって、いかにもな裏社会の人間といった風体でもない。
「昨日はダグ様がいらっしゃいましたわよ。いろいろとご指示をいただきましたけれども、なにか追加の案件がございましたでしょうかね」
女はマルクに向かって機嫌良く話しかけている。
日常生活のどこで見かけても違和感のない雰囲気をしている女だが、たしかに商会の一員なのだということが伝わってくる。
人は見かけによらない。裏でなにをしているのかわかったものではないと、タニヤは寒気を感じてしまった。
「なんなりとお申し付けくださいませ。私はいかがいたしましょうか?」
女は胸を張って自信たっぷりにマルクへ問いかけた。
「今日はこの方の装備品を揃えにきた。案内を頼めるだろうか?」
マルクがそう言うと、女はタニヤを見た。
女は慈愛に満ちたやわらかい表情を浮かべている。まるで我が子を見つめる母のような眼差しだ。
そのような視線を向けられれば、歓迎されているのだと喜ぶべきなのかもしれない。
しかし、タニヤは目の前にいるエプロンの女が裏社会の一員だと知っている。
女の視線がタニヤの頭の上から足先までゆっくりと動いている。どうせ品定めをしているのだろうと思った。
タニヤはそんな女に向かって、しっかりと口角を上げて微笑んでみせた。
「……あらまあ。ではこの方が昨日ダグ様のおっしゃられていた方ですのね。新しくグリエラ様がお迎えになられたという」
女がタニヤをどう評価したのかはわからない。女は笑顔を浮かべたままそう言うと、恭しくタニヤに向かって一礼をしてきた。
「可愛らしいお嬢さまは大歓迎ですわ。どうぞ奥へお越しくださいませ」
女はすぐに身体を起こすと、店の奥にマルクとタニヤを案内した。
女に連れられた先にあったのは、壁に取り付けられた大きな鏡だった。そこは店の最奥で、行き止まりになっている。
タニヤはこんなところに案内してどうするつもりなのかと首を傾げる。
すると、女は鏡の前に立って手をついた。鏡はくるりと回転して、奥に地下へおりる階段があらわれた。
「どうぞ。お足元が暗くなっておりますので、お気をつけくださいませ」
エプロンの女は回転した鏡を押さえたまま、マルクとタニヤに中へ入るように促した。
まさか鏡が回転して階段があらわれるとは思わず、タニヤは目を丸くしてしまう。
タニヤが動かずに立ったままでいると、マルクが先に階段へ一歩足を踏み入れた。
彼はそこで立ち止まると、タニヤに向かって手を差し出してくる。
「急な階段ですので、気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
タニヤは素直にマルクの手をとって、ゆっくりと階段をおりはじめる。
「驚かれましたか?」
「ええ、少し。でも、考えてみたらダンジョンの探索みたいで楽しいですよ」
「まさかここでダンジョンという言葉を聞くとは思いませんでした。ご安心を、ここにモンスターはいませんから」
マルクとそんなやり取りしながら階段をおりていくと、すぐに明るくひらけた場所に出た。
「マルク様がこちらにいらっしゃるなんて驚きましたわ。めずらしいこともあるものでございますわね」
とても宝飾品を扱っている店の店主には見えない。かといって、いかにもな裏社会の人間といった風体でもない。
「昨日はダグ様がいらっしゃいましたわよ。いろいろとご指示をいただきましたけれども、なにか追加の案件がございましたでしょうかね」
女はマルクに向かって機嫌良く話しかけている。
日常生活のどこで見かけても違和感のない雰囲気をしている女だが、たしかに商会の一員なのだということが伝わってくる。
人は見かけによらない。裏でなにをしているのかわかったものではないと、タニヤは寒気を感じてしまった。
「なんなりとお申し付けくださいませ。私はいかがいたしましょうか?」
女は胸を張って自信たっぷりにマルクへ問いかけた。
「今日はこの方の装備品を揃えにきた。案内を頼めるだろうか?」
マルクがそう言うと、女はタニヤを見た。
女は慈愛に満ちたやわらかい表情を浮かべている。まるで我が子を見つめる母のような眼差しだ。
そのような視線を向けられれば、歓迎されているのだと喜ぶべきなのかもしれない。
しかし、タニヤは目の前にいるエプロンの女が裏社会の一員だと知っている。
女の視線がタニヤの頭の上から足先までゆっくりと動いている。どうせ品定めをしているのだろうと思った。
タニヤはそんな女に向かって、しっかりと口角を上げて微笑んでみせた。
「……あらまあ。ではこの方が昨日ダグ様のおっしゃられていた方ですのね。新しくグリエラ様がお迎えになられたという」
女がタニヤをどう評価したのかはわからない。女は笑顔を浮かべたままそう言うと、恭しくタニヤに向かって一礼をしてきた。
「可愛らしいお嬢さまは大歓迎ですわ。どうぞ奥へお越しくださいませ」
女はすぐに身体を起こすと、店の奥にマルクとタニヤを案内した。
女に連れられた先にあったのは、壁に取り付けられた大きな鏡だった。そこは店の最奥で、行き止まりになっている。
タニヤはこんなところに案内してどうするつもりなのかと首を傾げる。
すると、女は鏡の前に立って手をついた。鏡はくるりと回転して、奥に地下へおりる階段があらわれた。
「どうぞ。お足元が暗くなっておりますので、お気をつけくださいませ」
エプロンの女は回転した鏡を押さえたまま、マルクとタニヤに中へ入るように促した。
まさか鏡が回転して階段があらわれるとは思わず、タニヤは目を丸くしてしまう。
タニヤが動かずに立ったままでいると、マルクが先に階段へ一歩足を踏み入れた。
彼はそこで立ち止まると、タニヤに向かって手を差し出してくる。
「急な階段ですので、気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
タニヤは素直にマルクの手をとって、ゆっくりと階段をおりはじめる。
「驚かれましたか?」
「ええ、少し。でも、考えてみたらダンジョンの探索みたいで楽しいですよ」
「まさかここでダンジョンという言葉を聞くとは思いませんでした。ご安心を、ここにモンスターはいませんから」
マルクとそんなやり取りしながら階段をおりていくと、すぐに明るくひらけた場所に出た。
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