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激突

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 タニヤは新たに巨大なハンマーを取り出した。
 このハンマーも、魔法付与がされているアイテムである。付与されている効果は、物理攻撃の威力が倍になるというシンプルながら強力なものだ。

 ただし、これは今までに使用してきたアイテムとは違い、タニヤとクヌートで協力して魔法を付与している。
 魔術に対しての抵抗力が高いモンスターでも、人とモンスターの魔力がかけ合わさった術に関しては耐性を持っていない個体がほとんどだ。
 これならば効果が期待できるだろうと、タニヤは意気揚々とハンマーを構える。

 クヌートは一度上空で旋回し、一角狼を狙い定める。
 そこから一角狼に向かって、ただ真っすぐ落ちていく。タニヤが指示した通り、正面からということをクヌートはしっかりと守っている。
 
 タニヤはクヌートが地面を回避できるぎりぎりのところで、背中から飛び降りた。
 クヌートは一角狼のいる軌道を外れて再び上空に舞い上がり、タニヤはそのまま一角狼に向かって真っすぐに落ち続ける。
 一角狼は自分めがけて向かってくるタニヤを正面から待ち受けていた。

「――ッガルル!」
 
「さすがね。そうこなくっちゃ!」

 一角狼がタニヤの目の前に迫ったとき、角に向かっておもいきりハンマーを叩きつけた。
 ボキリと鈍い音がして、今度こそ角が折れた。
 一角狼は呻き声をあげてその場で転がりまわる。丈夫な角が折れるほどの衝撃だ。しばらくはまともに動けないだろう。
 
 タニヤはその様子を眺めながら地面に着地すると、ハンマーを指輪の中にしまう。ゴーグルを取り外しながら、ゆっくりと一角狼に向かって歩き出した。

「残念だけれど、あなたの子供はもういないわ」

 タニヤはもがき苦しむ一角狼のそばまで来ると、その場に膝をついた。そして、狼の顔を覗き込みながらゆっくりと右手を差し出す。

「あなたの夫も、もういないの。あなたの家族はみんな殺されてしまったわ」

 タニヤが一角狼に向かって差し出した手の甲から、小さな魔法陣が浮かび上がる。

「できることならあなたも家族と共に死にたいのでしょうね。その気持ちはすごくよくわかるわ」

 一角狼は悶え苦しみながらタニヤの手に浮かび上がる魔法陣を見つめ、すっと目を細めた。

「……でもね、あなたまで死ぬ必要なんてないじゃない」

 タニヤは真剣な表情で一角狼を見つめる。

「あなたは私に負けたの。だからね、あなたは一度ここで死んだのよ」

 タニヤはほんの少しだけ微笑んで、真摯に訴えかけた。

「あなたの家族を奪われた怒りや悲しみはわかるわ。一生忘れられないでしょう。だからこそ、死んだつもりで生きてみるということを考えて欲しいの」

 一角狼は魔法陣から視線を移して、タニヤの目をじっと見つめてきた。
 タニヤの魔法陣に一角狼が触れれば、従魔術師とモンスターの主従契約が完了する。

「……私と一緒にこない?」
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