トレントなどに転生して申し訳ありません燃やさないでアッ…。

兎屋亀吉

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7.エミリー

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 まだぼやけた思考で僕は考える。

 あれ?ここどこだっけ?

 知らない天井……いや、天井がないな。

 雨が降ったら絶対雨漏りしそうな屋根が、申し訳程度にあばら家に乗っかっているだけだ。

 隣にはおっぱいしかないし。

 ん?おっぱい?

 ああ、そうだ、僕の能力が想像以上にしょぼかったから不貞寝したんだった。

 トレントは寝なくてもいいからなんだか久しぶりに寝たな。

 人の姿になっても別に睡眠が必要な感じはしていないが、寝るのはやっぱり気持ちがいいな。

 これからはたまには寝るようにしよう。

 ちなみに隣のおっぱいは冒険者のお姉さんのおっぱいだ。

 お姉さんはさらさらの金髪ストレートヘアを胸の辺りまで伸ばした色白美人だ。

 まだ20代半ばくらいに見えるのに歴戦の冒険者って感じで身体は鍛えられていて、前は古傷がいっぱいあったけれど、僕の実を食べたらすべて綺麗に消えてしまった。

 いや~、お姉さんに食べられちゃったね。僕の果実を。

 お姉さんが起きたらそう言ってみよう。

 僕はお姉さんの顔色をみるが、血色がよく健康そうだ。

 呼吸音にも異常はなく、最後に脈を測ってみる。

 うん、1分間が分からないのでよく分からない。

 でも大体1秒に1回くらい脈打ってるからたぶん正常なはず。

 僕がお姉さんの手首に触って脈を測っていると、お姉さんが身じろぎした。

 「うっ、ん」

 お?起きるかな?

 お姉さんはゆっくりと眼を開けてぼんやりと僕を見る。

 段々と意識が覚醒してきて、僕の顔をはっきりと見る。

 お姉さんの顔色が急に真っ青になって部屋の隅に逃げてしまう。

 「#$%&’!?$%&’!!」

 うーん、なんて言っているのかわからない。

 あまり怖がらせたくはないんだけれど、お姉さんとは話したい。

 僕は立ち上がってお姉さんを追いかけるように部屋の隅にゆっくりと移動する。

 「$%&!!#$%&!!!!」

 お姉さんは今度は顔を真っ赤にして何かをこちらに訴えているように見える。

 僕は魔法で石版を作り出し、そこに文字を書いて筆談でお姉さんと意思疎通をはかる。

 『あなた方の言語は読み書きはできるが、話せない。筆談で頼む』

 それに対するお姉さんの返事はこうだ。

 『まず、服を着てくれ』

 そう書かれた石版を見て、僕は自分の身体を見下ろす。

 全裸だ。

 トレントの僕には生まれたままの姿ではないけれど、一糸纏わぬ姿で僕はお姉さんに迫っていたのだ。

 お姉さんが顔を真っ赤にしていたのは恥ずかしがっていたのかもしれない。

 意外と初心なのかもしれない。

 そう思うと、オークに色々アレされちゃったのはちょっとかわいそうだ。

 僕は服なんて持ってないのでとりあえずオークの腰布を腰に巻いて、上もオークの腰布をかぶってみた。

 お姉さんはとりあえずは納得してくれたみたいだ。

 お姉さんも裸なのでオークの腰布をとりあえず身体に巻いて僕に向きなおす。

 『記憶が混濁しているのだが、まず、あなたが私を助けてくれたということでいいのだろうか』

 『そうだよ。僕がオークの集落を殲滅して、そこにお姉さんがいた。ひどい怪我をしていたので治癒した』

 『なるほど、段々思い出してきた。まずは礼を言う。助けてくれてありがとう。そして私の記憶が正しければなんだかあなたがトレントに変身していた気がするのだが、気のせいだろうか』

 お姉さんは治療中に変な方向に曲がった腕を無理やり戻されたときの激痛を思い出したのか、それとも自分が今話している相手がモンスターかもしれないことに恐怖しているのか、青い顔をしながら僕に尋ねる。

 『気のせいじゃないよ。僕はエルダートレントだからね。人にも化けられるモンスターなんだ。心配しなくても僕は人に害をなす気はない。折れたお姉さんの腕を無理やり伸ばしたのは悪かったと思っているけれど、あのまま治癒したら後遺症が残る可能性があったからね。あらためて痛いことしてごめんね』

 お姉さんは僕が書いた石盤の文字を神妙な顔で見て、何かを考えているようだ。

 そしてゆっくりと文字を書き込んで僕に見せた。

 『いや、オークにへし折られた手足を治療してもらったんだ、謝ることではないよ。確かにものすごい激痛だったけれどそれはしょうがないことだ。それにしても、やっぱりあの時私が食べたのはエルダートレントの果実なのか。もしかしたらあなたにとってはなんでもないものかもしれないけれど、あれは人間の世界ではエリクサーの原料ともなるとても貴重なものだ。それを私なんかのために使ってもらって本当に感謝している。ありがとう。』

 エリクサー!僕の実エリクサーの原料だって!!

 興奮して鼻血出そう。

 僕はにやけるのを抑え、平静を装ってお姉さんに返事を書く。

 『どういたしまして。いや、あのときはとにかくお姉さんを治療しようと必死でね。色々試してみただけだから気にしなくていいよ』

 お姉さんは僕の顔を見て少し頬を赤く染めてはにかんだように笑い、返事を書く。

 おっと、これは僕に惚れたかな?

 『そういえば自己紹介がまだだったね、私はエミリー、冒険者をしている。あらためて私の怪我を治療してくれてありがとう』

 お姉さん改めエミリーの僕への好感度は結構上がったみたいだ。

 よし、あれをエミリーに伝えるのは今しかない。

 『治療なんて、僕は何もしてないよ。僕は、そう。食べられちゃっただけさ、おいしい果実をエミリーに』

 僕はそう書いてエミリーに軽くウィンクしてみる。


 エミリーの顔は真っ赤になった。


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