トレントなどに転生して申し訳ありません燃やさないでアッ…。

兎屋亀吉

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8.トレントにも別れはツライものですよ

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 あれから1ヶ月ほどが経った。

 オークの集落の壁に毎日正の字刻んでいるからちゃんと1ヶ月だよ。

 エミリーは怪我を治したお礼に僕に言葉を教えてくれた。

 読み書きはできるから覚えるのはそれほど難しくは無かった。

 今ではぺらぺらだ。

 どうやら僕は人との会話に飢えていたらしい。

 エミリーと話したいという強い想いが言語習得を早めてくれたのかもしれない。

 「それでは行くぞ!」

 「うん。全力でね」

 直後に鳴り響く剣戟。

 僕の手に握られた棍棒と、エミリーが振るう片手剣がぶつかり合い甲高い金属音を響かせている。

 エミリーが持っている片手剣はオークの溜め込んでいたお宝の中にあったものだ。

 僕の棍棒は自分の枝を適当にへし折ったものだけれど、その強度は鋼鉄を凌ぐ。

 言葉はあらかたしゃべれるようになった僕は、エミリーに頼んで軽く武術などを習っていたのだ。

 この身体はなかなかに優秀で、皮膚はどういう原理か魔力を流すとトレント形態並みに硬くなるし、パワーもオークの比ではないほど強い。

 まだ今は戦いになったら手数が多い分トレントに戻ったほうが強いけれど、人型の身体にはトレントにはないスピードという武器がある。

 オークキングの魔法のようにトレントの樹皮でも防ぎきれない攻撃をする敵が現れたら、人型のスピードを生かした戦い方も必要になってくる。

 当らなければどうということはないとか言ってみたい。

 そんな感じでエミリーに武術を習っていたんだけど。

 カンという甲高い金属音を立てて僕の首筋にエミリーが剣を突き立てる。

 僕の負けだ。僕は両手を上げて降参のポーズをとる。

 「ふう、参った」

 「正直、君には武術なんて必要なさそうだけどな。今だって結構本気で首落とす気で攻撃したんだけど…」

 「いやいやすごく役に立つよ。この短期間で僕はずいぶん強くなった気がしている」

 「武術はそんな短期間では強くならないよ」

 エミリーの剣術は実践で鍛えられた我流剣術で、騎士のような華やかさはないけれど、長年冒険者としてモンスターと戦ってきただけあって無駄が削ぎ落とされたスマートな剣術だ。

 とくに型があったりとかはなく、とにかく敵を倒すために動きを最適化していくやりかたとかを教わった。

 ここからは自分で研鑽していかないといけない。

 「とりあえず基礎は教えた。そろそろ教えることもなくなってきたね」

 エミリーは寂しそうに僕のほうを見て少し頬を染める。

 ああ、これ完全に惚れてますわ。

 まあ僕の格好が上半身裸なせいなんですけどね。

 普通に考えていくら危ないところを助けられたといってもトレントには惚れないよね。

 エミリーも年頃の娘さんなので僕の裸には少しばかりの興味があるのかもしれない。
 
 正直服は邪魔なんだよね。

 どうせ攻撃食らったら服だけ破けるし。

 この身体は寒さも感じないし。

 できるなら全裸で暮らしたいくらいだけど、腰巻を装備しているのはエミリーへの気遣いだ。

 ちなみにエミリーはオークの腰巻を器用に服みたいに縫い合わせて、その上からオークに没収されていた皮の防具をつけている。

 その布オークの腰巻だって言ったら、すごい勢いで洗ってたけど。

 僕も巻く前に一応洗ってるけどね。

 臭いから。

 そんな感じでエミリーとは1ヶ月間一緒に暮らして、結構仲良くなっていたから僕も別れるのは寂しい。

 ここは危険な森で、僕はモンスターで、エミリーは人間だ。

 人間の町にはパーティの仲間がいるとのことだ。

 この森には調査の依頼で来ていたらしく、自分が殿に残ったためおそらくパーティの仲間は逃げ切れているらしい。

 この森でいっしょに過ごすこと1ヶ月間。

 そろそろ別れのときだ。

 「明日、町に戻ろうと思っている」

 「うん。森の入り口まで送っていくよ」

 「ありがとう。この恩は忘れない」

 「もう怪我を治した恩は十分に返してもらったよ。それよりもパーティメンバーがすごく心配してそうだね」

 「そうだな。もう死んだものとして扱われているかもしれない。みんな私が戻ったら驚くだろうな」

 「でも、オークに色々、その、されたのは話さないほうがいいかもしれないね」

 「わかっている。私はあまり気にしてないのだけどね。あれは地獄のような時間だったが、いざ助かってみたら、なんだか全部夢だったような気がしているよ」

 いや、それは精神の防衛機能が働いているのではないだろうか。

 精神状態大丈夫かな。

 とりあえず森の入り口まで送る間にカウンセリングしてみよう。

 「忘れちゃったほうが楽かもしれないね」

 「そうかもしれない」

 そして翌日、僕達は1ヶ月間暮らしたオークの集落を後にしたのだった。

 

 
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