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9.邪竜
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オークの集落を出て10日ほど、ついに森の出口に到着してしまった。
森を出た向こう側は、あたたかい光が降り注いでいて、まるでそこから先は違う世界のようだ。
2人の間には少し物悲しい空気が流れている。
実際僕がこのまま町にふらふら遊びにいってもこの姿なら問題ないと思うのだけど、やっぱり人間の町はもう少し強くなってから行きたい。
最悪、モンスターであることがばれて国軍とかを相手にすることになっても余裕で逃げきれるくらいには強くなりたい。
少し重たい空気のなか、エミリーが口を開く。
「あの、いい加減に名前を教えてくれないだろうか」
そうだね、名前。
結構前から聞かれてはいたのだけれど、そもそも名前なんてないからな。
後で適当に考えて教えようと思っていて、忘れていた。
えーと、エルダートレントだからエルとかじゃだめかな。
なんだか自称新世界の神とかと頭脳戦をやってそうな名前だな。
安直すぎだろうか。
いや名前なんていうのは多少安直なほうが覚えやすいものだ。
よし、エルにしよう。
「僕の名前はエル。また会うことができたら、そのときも仲良くしてね」
「エルか、良い名前だ。ああ、約束しよう。また会おう」
そう言ってエミリーは光が降り注ぐ人間の世界へ帰っていった。
僕は暗い森の中をひとりぼっちでとぼとぼ歩く。
エミリー、僕の適当に考えた名前良い名前だって言ってたな。
寂しい。
オークの集落でエミリーを見つけるまではずっとひとりで森で暮らしていたじゃないか。
なのに、なんでこんなに寂しいんだろう。
こんなのまたひとりに戻っただけなのに。
やめだやめだ!
エミリーには町に行けば会えるんだ。
こんな暗い気分はさっさと切り替えていかないと。
よし、モンスターを狩りまくって気分転換だ。
とぼとぼ歩いていた僕はやがて小走りになり、最後は全力疾走で森を駆け抜けた。
オークの集落よりもさらに奥、森の最奥部にあたる場所。
僕と向かい合うのは、2本の角を頭に生やした大鬼、オーガだ。
超でかい。
3メートル以上はありそうだ。
対する僕はオークの腰布に棍棒という野蛮人スタイル。
このスタイルが気に入った僕はあれからずっとこのスタイルだ。
棍棒のグリップに布なんか巻いちゃったりしてね。
しかし、僕にはやっぱり人間の身体能力を想定して考えられた武術は合わないみたいだ。
僕はオーガが動く前に思い切り地面を蹴る。
そしてオーガが視認できないスピードでオーガの懐に潜り込み、がら空きのわき腹に棍棒をフルスイングする。
グチャンッというオーガが潰れて飛んでいく音がして、そのままオーガは後ろの大岩に叩きつけられる。
エミリーと組み手してたときは、僕の身体能力の上限なんて測りようがなかったけれど、この森の最奥部で出てくるモンスターは僕の訓練相手にはちょうど良い。
エミリーとお別れしてから僕は気を紛らわせるために、何も考えずこの最奥部でモンスターを狩りまくっている。
僕はオーガを吸収しようと大岩に近づいていくと、グルァという弱弱しいオーガのうめき声が聞こえてくる。
「すごいな、まだ生きてるのか」
オーガはその皮の防御力と生命力に優れたモンスターで、ちょっとやそっとじゃ死なない。
「じゃあいただくとしようかな」
僕は誰がいるでもないのに一人でつぶやくと、オーガに手で触れて生きたまま吸収した。
生きたままでも吸収できるのはオークの集落を襲ったときに気づいた。
元気なままだと少し生命力を吸うのに抵抗されるような感じがするけれど、瀕死状態だと抵抗なく吸収できるようだ。
「やっぱりオーガはうまい」
口から食べたらオーガの肉は噛み切れないほど硬そうだけど、生命力はうまい。
崩れて砂になったオーガを放って、僕はその後ろの大岩に登って寝転がった。
大岩が鎮座して樹が生い茂ることができないこの場所は、森を丸く切り取ったようにここだけ日の光が差していて、とても気持ちが良い。
「たまには光合成しないとね」
僕も一応植物なので光合成は必要だ。
毎日光合成する必要はないけれど、1ヶ月に1回ぐらいは葉っぱに光を当てないと体調が悪くなる。
僕は体中から枝葉を伸ばして、光を当ててやる。
やっぱ光合成は気持ちがいいね。
このままお昼寝しよう。
僕はモンスターに見つからないように、葉っぱでカモフラージュして眠りについた。
ゆっくりと意識が覚醒してくると、自分に光が当っていないことに気づいた。
あれ?夜になっちゃったのかな。
目を開けてみると、夜になったわけではなく何かの影が僕に覆いかぶさっていて光が当っていないのだとわかる。
何の影かって?
大きくて黒い物体だ。
おかしいな、寝るときはこんなもの無かったんだけどな。
身体を起こして、その物体をまじまじと見ていると、ふいにその大きくて黒い物体が動いて目が合った。
あ、やばいや。
これ、竜だ。
それも話が通じそうな賢い竜ではなくて、何もかも本能のままに破壊しそうな邪竜タイプ。
僕はそっと目をそらすが、邪竜はすでに僕の存在に気づいてしまったようだ。
邪竜の口から熱気が漏れ出てきている。
わーお、怒った?
僕は枝葉を引っ込めると、すばやく大岩の上から離脱する。
背中に熱波を感じて、逃げながら後ろを窺い見てみると、大岩がドロドロの溶岩みたいに溶けていた。
邪竜は火を吐きながら首を動かして僕を焼こうとしてくる。
お尻熱い。
1分くらいが経過しただろうか、これいつまで続くの?
炎はもう1分くらい逃げ回って、やっと止まった。
永遠に続くかと思った。
今度は僕のターンだ。
僕は逃げるのをやめて、邪竜に向き合う。
最近ではこの森の最奥部のモンスターでも相手にならなくて退屈していたところだ。
邪竜、相手にとって不足なし。
森を出た向こう側は、あたたかい光が降り注いでいて、まるでそこから先は違う世界のようだ。
2人の間には少し物悲しい空気が流れている。
実際僕がこのまま町にふらふら遊びにいってもこの姿なら問題ないと思うのだけど、やっぱり人間の町はもう少し強くなってから行きたい。
最悪、モンスターであることがばれて国軍とかを相手にすることになっても余裕で逃げきれるくらいには強くなりたい。
少し重たい空気のなか、エミリーが口を開く。
「あの、いい加減に名前を教えてくれないだろうか」
そうだね、名前。
結構前から聞かれてはいたのだけれど、そもそも名前なんてないからな。
後で適当に考えて教えようと思っていて、忘れていた。
えーと、エルダートレントだからエルとかじゃだめかな。
なんだか自称新世界の神とかと頭脳戦をやってそうな名前だな。
安直すぎだろうか。
いや名前なんていうのは多少安直なほうが覚えやすいものだ。
よし、エルにしよう。
「僕の名前はエル。また会うことができたら、そのときも仲良くしてね」
「エルか、良い名前だ。ああ、約束しよう。また会おう」
そう言ってエミリーは光が降り注ぐ人間の世界へ帰っていった。
僕は暗い森の中をひとりぼっちでとぼとぼ歩く。
エミリー、僕の適当に考えた名前良い名前だって言ってたな。
寂しい。
オークの集落でエミリーを見つけるまではずっとひとりで森で暮らしていたじゃないか。
なのに、なんでこんなに寂しいんだろう。
こんなのまたひとりに戻っただけなのに。
やめだやめだ!
エミリーには町に行けば会えるんだ。
こんな暗い気分はさっさと切り替えていかないと。
よし、モンスターを狩りまくって気分転換だ。
とぼとぼ歩いていた僕はやがて小走りになり、最後は全力疾走で森を駆け抜けた。
オークの集落よりもさらに奥、森の最奥部にあたる場所。
僕と向かい合うのは、2本の角を頭に生やした大鬼、オーガだ。
超でかい。
3メートル以上はありそうだ。
対する僕はオークの腰布に棍棒という野蛮人スタイル。
このスタイルが気に入った僕はあれからずっとこのスタイルだ。
棍棒のグリップに布なんか巻いちゃったりしてね。
しかし、僕にはやっぱり人間の身体能力を想定して考えられた武術は合わないみたいだ。
僕はオーガが動く前に思い切り地面を蹴る。
そしてオーガが視認できないスピードでオーガの懐に潜り込み、がら空きのわき腹に棍棒をフルスイングする。
グチャンッというオーガが潰れて飛んでいく音がして、そのままオーガは後ろの大岩に叩きつけられる。
エミリーと組み手してたときは、僕の身体能力の上限なんて測りようがなかったけれど、この森の最奥部で出てくるモンスターは僕の訓練相手にはちょうど良い。
エミリーとお別れしてから僕は気を紛らわせるために、何も考えずこの最奥部でモンスターを狩りまくっている。
僕はオーガを吸収しようと大岩に近づいていくと、グルァという弱弱しいオーガのうめき声が聞こえてくる。
「すごいな、まだ生きてるのか」
オーガはその皮の防御力と生命力に優れたモンスターで、ちょっとやそっとじゃ死なない。
「じゃあいただくとしようかな」
僕は誰がいるでもないのに一人でつぶやくと、オーガに手で触れて生きたまま吸収した。
生きたままでも吸収できるのはオークの集落を襲ったときに気づいた。
元気なままだと少し生命力を吸うのに抵抗されるような感じがするけれど、瀕死状態だと抵抗なく吸収できるようだ。
「やっぱりオーガはうまい」
口から食べたらオーガの肉は噛み切れないほど硬そうだけど、生命力はうまい。
崩れて砂になったオーガを放って、僕はその後ろの大岩に登って寝転がった。
大岩が鎮座して樹が生い茂ることができないこの場所は、森を丸く切り取ったようにここだけ日の光が差していて、とても気持ちが良い。
「たまには光合成しないとね」
僕も一応植物なので光合成は必要だ。
毎日光合成する必要はないけれど、1ヶ月に1回ぐらいは葉っぱに光を当てないと体調が悪くなる。
僕は体中から枝葉を伸ばして、光を当ててやる。
やっぱ光合成は気持ちがいいね。
このままお昼寝しよう。
僕はモンスターに見つからないように、葉っぱでカモフラージュして眠りについた。
ゆっくりと意識が覚醒してくると、自分に光が当っていないことに気づいた。
あれ?夜になっちゃったのかな。
目を開けてみると、夜になったわけではなく何かの影が僕に覆いかぶさっていて光が当っていないのだとわかる。
何の影かって?
大きくて黒い物体だ。
おかしいな、寝るときはこんなもの無かったんだけどな。
身体を起こして、その物体をまじまじと見ていると、ふいにその大きくて黒い物体が動いて目が合った。
あ、やばいや。
これ、竜だ。
それも話が通じそうな賢い竜ではなくて、何もかも本能のままに破壊しそうな邪竜タイプ。
僕はそっと目をそらすが、邪竜はすでに僕の存在に気づいてしまったようだ。
邪竜の口から熱気が漏れ出てきている。
わーお、怒った?
僕は枝葉を引っ込めると、すばやく大岩の上から離脱する。
背中に熱波を感じて、逃げながら後ろを窺い見てみると、大岩がドロドロの溶岩みたいに溶けていた。
邪竜は火を吐きながら首を動かして僕を焼こうとしてくる。
お尻熱い。
1分くらいが経過しただろうか、これいつまで続くの?
炎はもう1分くらい逃げ回って、やっと止まった。
永遠に続くかと思った。
今度は僕のターンだ。
僕は逃げるのをやめて、邪竜に向き合う。
最近ではこの森の最奥部のモンスターでも相手にならなくて退屈していたところだ。
邪竜、相手にとって不足なし。
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