トレントなどに転生して申し訳ありません燃やさないでアッ…。

兎屋亀吉

文字の大きさ
9 / 15

9.邪竜

しおりを挟む
 オークの集落を出て10日ほど、ついに森の出口に到着してしまった。

 森を出た向こう側は、あたたかい光が降り注いでいて、まるでそこから先は違う世界のようだ。

 2人の間には少し物悲しい空気が流れている。

 実際僕がこのまま町にふらふら遊びにいってもこの姿なら問題ないと思うのだけど、やっぱり人間の町はもう少し強くなってから行きたい。

 最悪、モンスターであることがばれて国軍とかを相手にすることになっても余裕で逃げきれるくらいには強くなりたい。

 少し重たい空気のなか、エミリーが口を開く。

 「あの、いい加減に名前を教えてくれないだろうか」

 そうだね、名前。

 結構前から聞かれてはいたのだけれど、そもそも名前なんてないからな。

 後で適当に考えて教えようと思っていて、忘れていた。

 えーと、エルダートレントだからエルとかじゃだめかな。

 なんだか自称新世界の神とかと頭脳戦をやってそうな名前だな。

 安直すぎだろうか。

 いや名前なんていうのは多少安直なほうが覚えやすいものだ。

 よし、エルにしよう。

 「僕の名前はエル。また会うことができたら、そのときも仲良くしてね」

 「エルか、良い名前だ。ああ、約束しよう。また会おう」

 そう言ってエミリーは光が降り注ぐ人間の世界へ帰っていった。





 僕は暗い森の中をひとりぼっちでとぼとぼ歩く。

 エミリー、僕の適当に考えた名前良い名前だって言ってたな。

 寂しい。

 オークの集落でエミリーを見つけるまではずっとひとりで森で暮らしていたじゃないか。

 なのに、なんでこんなに寂しいんだろう。

 こんなのまたひとりに戻っただけなのに。

 やめだやめだ!

 エミリーには町に行けば会えるんだ。

 こんな暗い気分はさっさと切り替えていかないと。

 よし、モンスターを狩りまくって気分転換だ。

 とぼとぼ歩いていた僕はやがて小走りになり、最後は全力疾走で森を駆け抜けた。






 オークの集落よりもさらに奥、森の最奥部にあたる場所。

 僕と向かい合うのは、2本の角を頭に生やした大鬼、オーガだ。

 超でかい。

 3メートル以上はありそうだ。

 対する僕はオークの腰布に棍棒という野蛮人スタイル。

 このスタイルが気に入った僕はあれからずっとこのスタイルだ。

 棍棒のグリップに布なんか巻いちゃったりしてね。

 しかし、僕にはやっぱり人間の身体能力を想定して考えられた武術は合わないみたいだ。

 僕はオーガが動く前に思い切り地面を蹴る。

 そしてオーガが視認できないスピードでオーガの懐に潜り込み、がら空きのわき腹に棍棒をフルスイングする。

 グチャンッというオーガが潰れて飛んでいく音がして、そのままオーガは後ろの大岩に叩きつけられる。

 エミリーと組み手してたときは、僕の身体能力の上限なんて測りようがなかったけれど、この森の最奥部で出てくるモンスターは僕の訓練相手にはちょうど良い。

 エミリーとお別れしてから僕は気を紛らわせるために、何も考えずこの最奥部でモンスターを狩りまくっている。

 僕はオーガを吸収しようと大岩に近づいていくと、グルァという弱弱しいオーガのうめき声が聞こえてくる。

 「すごいな、まだ生きてるのか」

 オーガはその皮の防御力と生命力に優れたモンスターで、ちょっとやそっとじゃ死なない。

 「じゃあいただくとしようかな」

 僕は誰がいるでもないのに一人でつぶやくと、オーガに手で触れて生きたまま吸収した。

 生きたままでも吸収できるのはオークの集落を襲ったときに気づいた。

 元気なままだと少し生命力を吸うのに抵抗されるような感じがするけれど、瀕死状態だと抵抗なく吸収できるようだ。

 「やっぱりオーガはうまい」

 口から食べたらオーガの肉は噛み切れないほど硬そうだけど、生命力はうまい。

 崩れて砂になったオーガを放って、僕はその後ろの大岩に登って寝転がった。

 大岩が鎮座して樹が生い茂ることができないこの場所は、森を丸く切り取ったようにここだけ日の光が差していて、とても気持ちが良い。

 「たまには光合成しないとね」

 僕も一応植物なので光合成は必要だ。

 毎日光合成する必要はないけれど、1ヶ月に1回ぐらいは葉っぱに光を当てないと体調が悪くなる。

 僕は体中から枝葉を伸ばして、光を当ててやる。

 やっぱ光合成は気持ちがいいね。

 このままお昼寝しよう。

 僕はモンスターに見つからないように、葉っぱでカモフラージュして眠りについた。

 


 
 ゆっくりと意識が覚醒してくると、自分に光が当っていないことに気づいた。

 あれ?夜になっちゃったのかな。

 目を開けてみると、夜になったわけではなく何かの影が僕に覆いかぶさっていて光が当っていないのだとわかる。

 何の影かって?

 大きくて黒い物体だ。

 おかしいな、寝るときはこんなもの無かったんだけどな。

 身体を起こして、その物体をまじまじと見ていると、ふいにその大きくて黒い物体が動いて目が合った。

 あ、やばいや。

 これ、竜だ。

 それも話が通じそうな賢い竜ではなくて、何もかも本能のままに破壊しそうな邪竜タイプ。

 僕はそっと目をそらすが、邪竜はすでに僕の存在に気づいてしまったようだ。

 邪竜の口から熱気が漏れ出てきている。

 わーお、怒った?

 僕は枝葉を引っ込めると、すばやく大岩の上から離脱する。

 背中に熱波を感じて、逃げながら後ろを窺い見てみると、大岩がドロドロの溶岩みたいに溶けていた。

 邪竜は火を吐きながら首を動かして僕を焼こうとしてくる。

 お尻熱い。

 1分くらいが経過しただろうか、これいつまで続くの?

 炎はもう1分くらい逃げ回って、やっと止まった。

 永遠に続くかと思った。

 今度は僕のターンだ。

 僕は逃げるのをやめて、邪竜に向き合う。

 最近ではこの森の最奥部のモンスターでも相手にならなくて退屈していたところだ。



 邪竜、相手にとって不足なし。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

処理中です...