チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

文字の大きさ
28 / 131

28.招かざる客

しおりを挟む
 前田慶次といえば、戦国一の傾奇者で有名な武将じゃないか。
 漫画で読んだよ。
 『漫画で分かる日本の歴史』とは違う漫画でね。
 まさかこんな長野の山中で出会うとは。
 麻枝慶次郎と改名した慶次は、京都にいる義理の父と一緒に岐阜に来ると言い残して去っていった。
 麻枝は前田の字を変えただけだし、慶は三好長慶から勝手にもらったそうだ。
 完全に織田家と前田家への皮肉じゃないか。
 はぁ、そんな名前の人を弟子にして大丈夫かなぁ。
 というか弟子にすることも了承してないし。
 弟子はもう隣に住んでるパチモンのお坊さんだけで十分なんだけどな。

「なんか疲れたね。帰ろうか」

「そうですね。なんだか気圧されてしまいそうな覇気のある人でしたね。善次郎さんとは正反対の印象です」

「キャンキャンッ」

 足元にじゃれつくゆきまるを抱き上げ、俺たちはテレポートで岐阜に帰った。





「石山の蜂起に呼応して、朝倉・浅井も挙兵した。どうやらすでに森三佐衛門殿や青地駿河守殿、織田の九郎様までもが討ち取られてしまったようだ」

「攻めの三佐も数には勝てぬということですか」

「まあ当たり前の話じゃな」

 敵の多い織田信長は今現在、六角に朝倉、裏切った浅井、三好、宗教勢力多数と同時に戦っている。
 さすがの織田軍にも死者が多数出ているようだ。
 その他にも武田に上杉と敵ばかりじゃないか。
 織田信長じゃなったらあっという間に織田は滅んじゃっているんだろうな。
 現に子供の代では織田家はぱっとしないし。
 しかし今回亡くなった人の中でも、森三佐衛門さんはかなり有名な武将だ。
 またの名を森可成さんと言って、戦上手の武辺者として知られた人だ。
 そんな人でもあっさり死んでしまうのだから、戦国時代は怖いね。
 俺は殿や他の家臣と今後の織田家のこととか、山内家の身の振り方とかを話し合って殿の屋敷を後にする。
 山内家も大変だ。
 家臣には死んでほしくないけれど、武功は立てたいというのが殿の本音だ。
 しかし戦国時代はそんなに甘くない。
 きっとこれから先、家臣は死ぬだろう。
 俺にはたぶん助ける力があるけれど、それをしてもいいのかどうかは分からない。
 まだ史実で殿が戦に参加するまでは2年くらいあるはずなので、それまでに考えて結論を出しておかなければな。

「ん?馬が繋がれている」

 この長屋は足軽のための長屋なので、住んでいるのは当然みんな足軽だ。
 ほとんどの人が副業を持っているが、基本的に全員戦働きを本業とする人たちだ。
 だけど、馬を買えるような人がいたかな。
 俺は嫌な予感がして急いで自分の家に向かう。
 もしあの馬が長屋の住人の持ち物ではないとしたら、それは馬を持っている人が長屋に馬で乗りつけているということになる。
 家の前に着くと胸騒ぎは大きくなる。
 開いたままの木戸から、土間に数人の人間が立っているのが見えたからだ。
 その数人の人間が持つキラリと光るもの。
 それが抜き身の刀であることが分かった瞬間、俺の頭の中が真っ赤に染まる。
 気が付いたら土間に立っている人間全員の両肩両股関節の関節を外していた。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ、き、貴様、このようなことをして、ゆるさぐぼぁっ」

 勝手に口を開いた男の顎の関節も外す。
 男たちの悲鳴を聞いていたら、なんとか心が落ち着いてきた。
 雪さんは別にピンチでもなんでもなかったからね。
 どちらかといえば、謎な状況だ。
 板の間に上がり込んでいたのは2人の子供。
 年齢は中学生くらいか。
 仕立てのいい着物を着ていることや、取り巻きと一緒に馬で乗りつけていることからかなり家柄のいい坊ちゃんたちだということが分かる。
 しかしどういうわけか、一人が雪さんに膝で抑えられて口の中に銃口を突き付けられている。
 2人とも脇差の柄に手がかかっていることを見れば、大体の状況が見えてくる。
 
「雪さん、大丈夫?」

「善次郎さん、大丈夫です。善次郎さんこそ、その人たちは織田家家臣さんですけど大丈夫なのですか?」

「うーん、分からない。まあ無理なようならどこかに逃げればいいよ」

「そうですか」

 雪さんの声には特に動揺している様子はない。
 しかしいつもよりも僅かに声音が小さいような気がする。
 胸の奥がチリチリと焼け付くような憤怒が燻る。
 その怒りはいったい何に対してなのかは分からない。
 雪さんを残して呑気に出かけた自分になのか、こんな時代になのか、それとも目の前で呻いている男や子供になのか。
 時代に怒ってもしょうがないから、自然とその怒りは自分と目の前の連中に向かう。

「雪さん、もう放していいよ」

「はい」

 雪さんが銃口を下げ、少年を押さえつけていた膝を退ける。
 途端に少年は刀を抜こうとするが、俺の足が刀の柄を押さえて抜くことはできない。

「そっちの子も動かないでね。人の家に乗り込んできて奥さんに刀を向けたんだから、本来なら斬り殺されても文句は言えないんだよ」

「そ、その女が!無礼なことを言った!!」

「無礼なことを言ったら斬っていいんだ。ならなんで君の首はまだ繋がっているんだろうね」

「そんなの私が織田の嫡子だからに決まっている!さっさと無礼の報いを受けさせろ!!」

「黙りなさい。斬るよ」

 俺の手はすでに刀の柄に伸びている。
 子供はゴクリと唾を飲み込んだ。
 織田の嫡子ということは、織田信忠かな。
 信孝の可能性もあるが、すでに北畠家に入ることが決まっている信雄ではないだろう。
 まあそんなことはどうでもいい。

「織田の嫡子だからなんだというんだ。戦国の習いでは、斬られたほうが悪い。君を斬ったことで俺は織田信長の怒りを買うかもしれないけど、そのときには君はあの世だ。つまり俺が君を斬るということは、君には関係の無い話だ」

「そ、そなた、織田信長が、父上が恐ろしくないのか?」

「怖いよ、そりゃあ。でも、斬らなきゃいけないときは斬らなきゃ」

 俺は腰の刀をすらりと抜く。
 2人の子供がひっと息を飲む。
 肩と股関節を外された男たちが土間を芋虫のように這って俺に助命を懇願する。
 少し怖がらせすぎただろうか。
 俺だって子供を斬る気は初めから無い。
 そりゃあ大人たちがみんな刀持って年がら年中斬った斬られたやってりゃあ、子供の教育に良いはずがない。
 周りの大人の悪い影響もたくさん受けているだろう。
 つまりは土間で喚いている大人たちが悪い。
 この子たちには、刀を向けるということは斬られる可能性があるということをしっかりと教育しておかなければな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...