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37.兵どもが夢の……
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野伏せり、山野に寝起きする山賊や浮浪者のことをこの時代ではそう呼ぶ。
どちらかと言えば山賊という意味合いのほうが強いだろうか。
目の前のこの人たちは野伏せりの中の野伏せり。
バリバリの山賊だ。
今までの俺の倫理感では悪。
人道に外れる悪党だ。
だけど人から奪って生き延びることが当たり前のこの時代、明確な悪など存在しない。
織田信長が悪で無かったらなにが悪なんだって話だ。
そもそも善だ悪だという感覚をまず捨てるべきなのかもしれない。
じゃあ新しい価値観としては、敵か味方か?それとも自分とそれ以外?
自分以外が敵だったら殿や雪さんも敵になってしまう。
戦国時代の価値観というのはまったく俺にはついていけない。
「ビビッて声も出ねえか?」
「ぎゃははっ、腰の刀が泣いてるぜえ」
まったく、小物臭のする山賊だ。
でもおかげで戦国の価値観というものにあたりがついた。
とりあえず目の前の敵をぶん殴る。
俺の中の価値観はそれで十分だ。
殺すか殺さないかは、後から考えたり殿や雪さんに聞いたりすればいい。
俺は腰の刀は抜かずに落ちていた棒を拾い上げる。
「ぶあっはははっ、こいつ、木の棒で何するつもりなんだよ」
「お侍さん遊びか?付き合うぜぇ」
男たちは俺を嬲るつもりなのか、刀や槍を置いて各々木の棒を拾い上げる。
なかなか付き合いのいい山賊じゃないか。
いい機会だ、俺も稽古させてもらおう。
俺は目を瞑り、男たちの気配を感じ取る。
隠術には人の気配を感じ取る技能がある。
だが、今の俺に感じ取れるのはせいぜい半径5メートルくらいだ。
もっと広い範囲の気配が感じ取れれば今回のように山賊に気付かず絡まれることも減るだろう。
目を閉じると、男たちの発する音や匂い、さらにはなんらかのエネルギーの脈動のようなものまでもが目を開けていたときよりも強く感じられる。
このエネルギーはおそらく北畠具教が塚原卜伝から教わったという奥義、一之太刀に使われているエネルギーだろう。
気とかオーラとか、そういったものなんだろうか。
隠術の技術だから、なんとなくチャクラというネーミングが合っている気がする。
男たちのチャクラが、俺に居場所を教えてくれる。
「目ぇ瞑ってちゃ危ねえぜっ!!」
不恰好な構えで男が木の棒を振りかぶり、俺の肩のあたりに振り下ろそうとしているのが分かる。
俺は1歩右足を引き、身体をずらすことでその振り下ろしを回避する。
「なっ、こいつ、見えてんのか!?」
「薄目を開けてやがるに決まってる」
「油断させようったってそうはいかねえぞ」
今度は3人。
すり足で近づいてきて、木の棒を振りかぶる。
左の奴が一番腕力が弱そうだ。
俺は右と真ん中の棒を適当に避け、左のやつと切り結ぶ。
木の棒同士がカツンとぶつかり合う。
ぐぐっと押し返される木の棒。
一番弱そうだと思った左の奴でもこれだ。
この腕力不足も俺の弱点といえるだろう。
やっぱり生まれたときから戦国時代で不便な生活をしていた人というのは、根本から身体能力が違う。
北畠さんと打ち合ったときのように、技でいなすしかないだろう。
目の前の男たちと北畠さんとは、剣の腕が天と地ほど違う。
それほど苦労することなく、俺は左の男の棒の勢いを殺した。
そのまま棒を絡めとるようにしてぐっと力を込めると、男の手から棒が飛ぶ。
飛んだ棒はまた棒を振りかぶっていた右の男の頭に当たった。
「くっ、こいつ、強ぇ!おい、お前ら、遊びは終わりだ」
「全員真剣でかかれ!!」
「「「おおぉぉ!!」」」
木の棒を捨て、各々刀や槍に持ち替える山賊たち。
だが俺は刀は抜かない。
先ほどの打ち合いでこいつらの大体の力量はわかった。
倒すのに木の棒以上の武器は必要ない。
「こなくそっ!」
「死ね!」
持ち替えたところで、当たらなければ木の棒と真剣に違いは無い。
むしろ重たい分、真剣のほうが剣速は遅いくらいだ。
刃筋も通っていないブレブレの振り方では巻き藁も切れなさそうだし。
俺は目を瞑ったまま男たちの刀や槍を避けていく。
素人丸出しの刀よりも、槍のほうが厄介だな。
槍と刀、どちらのほうが強いというわけでもないが、素人が持ったら断然槍のほうが厄介だ。
重たい刀の振り下ろしよりも槍の突きのほうが攻撃の間隔が短いし、間合いも広い。
点の攻撃なので横に移動すれば避けられるというのが唯一の救いか。
同じ点の攻撃でも、銃弾を避けるよりは容易い。
槍の突きをかわし、懐に入り込んで当て身で気絶させる。
「ぐへっ」
「ぶはっ」
「ぐべっ」
槍は懐に入り込まれると弱いんだよね。
達人ならそこからの対処法も知っているだろうし、そもそも懐に入らせないのだろうが、この人たちは素人に毛が生えた程度だからね。
槍を持っている人は全部無力化した。
長巻は問題外だ。
素人がそんな重い長物使うんじゃない。
あとは刀のやつか。
リーダー格っぽいやつと取り巻き3人くらいは、どことなく道場剣術を感じさせる構えをしている。
どこぞの武士崩れかな。
この時代、織田信長や豊臣秀吉のように成り上がる武士もいれば落ちぶれる武士も星の数ほど存在している。
北畠具教さんがいい例だ。
あの人のように家が残って、当主も隠居程度で済む武家というのは良い方なんだ。
多くの武士が夢破れて家を潰される。
たしか殿の実家もそんな感じだったな。
潰したのは織田信長。
殿は苦渋を飲んで実家を滅ぼした織田に仕えて家を存続させた。
それができなければ、こうして野に堕ちて山賊をすることになる。
哀れな武士の末路だ。
「武士は食わねど高楊枝、か……」
「何をわけのわからねえことを言ってやがる!!」
「いや、武士も農民も、堕ちれば一緒なんだなって思って……」
「一緒にすんじゃねえ!!」
「俺達は家の再興のために戦っている!!」
「てめえのような裕福そうな侍には分からねえだろうがな!!」
まあ分からないね。
山賊に身をやつして、どうやって家を再興するのか分からない。
「いつか必ず、俺達は家を再興して織田を打倒する!!」
「織田信長の妻も子供も、皆殺しにしてやるんだ!!」
おおかた、織田信長に滅ぼされた木っ端武士の生き残りといったところか。
俺も別に織田信長が好きなわけじゃないけどね、妻も子供も殺すのはやりすぎじゃないかと思うんだ。
ちょっと小一時間ばかり、説教をしてやらないと。
どちらかと言えば山賊という意味合いのほうが強いだろうか。
目の前のこの人たちは野伏せりの中の野伏せり。
バリバリの山賊だ。
今までの俺の倫理感では悪。
人道に外れる悪党だ。
だけど人から奪って生き延びることが当たり前のこの時代、明確な悪など存在しない。
織田信長が悪で無かったらなにが悪なんだって話だ。
そもそも善だ悪だという感覚をまず捨てるべきなのかもしれない。
じゃあ新しい価値観としては、敵か味方か?それとも自分とそれ以外?
自分以外が敵だったら殿や雪さんも敵になってしまう。
戦国時代の価値観というのはまったく俺にはついていけない。
「ビビッて声も出ねえか?」
「ぎゃははっ、腰の刀が泣いてるぜえ」
まったく、小物臭のする山賊だ。
でもおかげで戦国の価値観というものにあたりがついた。
とりあえず目の前の敵をぶん殴る。
俺の中の価値観はそれで十分だ。
殺すか殺さないかは、後から考えたり殿や雪さんに聞いたりすればいい。
俺は腰の刀は抜かずに落ちていた棒を拾い上げる。
「ぶあっはははっ、こいつ、木の棒で何するつもりなんだよ」
「お侍さん遊びか?付き合うぜぇ」
男たちは俺を嬲るつもりなのか、刀や槍を置いて各々木の棒を拾い上げる。
なかなか付き合いのいい山賊じゃないか。
いい機会だ、俺も稽古させてもらおう。
俺は目を瞑り、男たちの気配を感じ取る。
隠術には人の気配を感じ取る技能がある。
だが、今の俺に感じ取れるのはせいぜい半径5メートルくらいだ。
もっと広い範囲の気配が感じ取れれば今回のように山賊に気付かず絡まれることも減るだろう。
目を閉じると、男たちの発する音や匂い、さらにはなんらかのエネルギーの脈動のようなものまでもが目を開けていたときよりも強く感じられる。
このエネルギーはおそらく北畠具教が塚原卜伝から教わったという奥義、一之太刀に使われているエネルギーだろう。
気とかオーラとか、そういったものなんだろうか。
隠術の技術だから、なんとなくチャクラというネーミングが合っている気がする。
男たちのチャクラが、俺に居場所を教えてくれる。
「目ぇ瞑ってちゃ危ねえぜっ!!」
不恰好な構えで男が木の棒を振りかぶり、俺の肩のあたりに振り下ろそうとしているのが分かる。
俺は1歩右足を引き、身体をずらすことでその振り下ろしを回避する。
「なっ、こいつ、見えてんのか!?」
「薄目を開けてやがるに決まってる」
「油断させようったってそうはいかねえぞ」
今度は3人。
すり足で近づいてきて、木の棒を振りかぶる。
左の奴が一番腕力が弱そうだ。
俺は右と真ん中の棒を適当に避け、左のやつと切り結ぶ。
木の棒同士がカツンとぶつかり合う。
ぐぐっと押し返される木の棒。
一番弱そうだと思った左の奴でもこれだ。
この腕力不足も俺の弱点といえるだろう。
やっぱり生まれたときから戦国時代で不便な生活をしていた人というのは、根本から身体能力が違う。
北畠さんと打ち合ったときのように、技でいなすしかないだろう。
目の前の男たちと北畠さんとは、剣の腕が天と地ほど違う。
それほど苦労することなく、俺は左の男の棒の勢いを殺した。
そのまま棒を絡めとるようにしてぐっと力を込めると、男の手から棒が飛ぶ。
飛んだ棒はまた棒を振りかぶっていた右の男の頭に当たった。
「くっ、こいつ、強ぇ!おい、お前ら、遊びは終わりだ」
「全員真剣でかかれ!!」
「「「おおぉぉ!!」」」
木の棒を捨て、各々刀や槍に持ち替える山賊たち。
だが俺は刀は抜かない。
先ほどの打ち合いでこいつらの大体の力量はわかった。
倒すのに木の棒以上の武器は必要ない。
「こなくそっ!」
「死ね!」
持ち替えたところで、当たらなければ木の棒と真剣に違いは無い。
むしろ重たい分、真剣のほうが剣速は遅いくらいだ。
刃筋も通っていないブレブレの振り方では巻き藁も切れなさそうだし。
俺は目を瞑ったまま男たちの刀や槍を避けていく。
素人丸出しの刀よりも、槍のほうが厄介だな。
槍と刀、どちらのほうが強いというわけでもないが、素人が持ったら断然槍のほうが厄介だ。
重たい刀の振り下ろしよりも槍の突きのほうが攻撃の間隔が短いし、間合いも広い。
点の攻撃なので横に移動すれば避けられるというのが唯一の救いか。
同じ点の攻撃でも、銃弾を避けるよりは容易い。
槍の突きをかわし、懐に入り込んで当て身で気絶させる。
「ぐへっ」
「ぶはっ」
「ぐべっ」
槍は懐に入り込まれると弱いんだよね。
達人ならそこからの対処法も知っているだろうし、そもそも懐に入らせないのだろうが、この人たちは素人に毛が生えた程度だからね。
槍を持っている人は全部無力化した。
長巻は問題外だ。
素人がそんな重い長物使うんじゃない。
あとは刀のやつか。
リーダー格っぽいやつと取り巻き3人くらいは、どことなく道場剣術を感じさせる構えをしている。
どこぞの武士崩れかな。
この時代、織田信長や豊臣秀吉のように成り上がる武士もいれば落ちぶれる武士も星の数ほど存在している。
北畠具教さんがいい例だ。
あの人のように家が残って、当主も隠居程度で済む武家というのは良い方なんだ。
多くの武士が夢破れて家を潰される。
たしか殿の実家もそんな感じだったな。
潰したのは織田信長。
殿は苦渋を飲んで実家を滅ぼした織田に仕えて家を存続させた。
それができなければ、こうして野に堕ちて山賊をすることになる。
哀れな武士の末路だ。
「武士は食わねど高楊枝、か……」
「何をわけのわからねえことを言ってやがる!!」
「いや、武士も農民も、堕ちれば一緒なんだなって思って……」
「一緒にすんじゃねえ!!」
「俺達は家の再興のために戦っている!!」
「てめえのような裕福そうな侍には分からねえだろうがな!!」
まあ分からないね。
山賊に身をやつして、どうやって家を再興するのか分からない。
「いつか必ず、俺達は家を再興して織田を打倒する!!」
「織田信長の妻も子供も、皆殺しにしてやるんだ!!」
おおかた、織田信長に滅ぼされた木っ端武士の生き残りといったところか。
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さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
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