チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

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チートをもらえるけど平安時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

9.人ならざる者

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 夕方になり、2人がふもとの村から帰ってきた。
 金太郎さんは食料品を一抱えも持っている。
 八重さんの薬の代金だろうか。
 この時代、まだ貨幣がそれほど普及していない。
 都である京都近辺でしか使われていないと言っても過言ではない。
 それゆえ地方では物々交換や、米や鉄などが貨幣の代わりとして使われていた。
 以上よくわかる平安時代情報。
 
「おかえりなさい」

「ああ」

「ただいま帰りました。転んだりしなかった?傷は痛まない?」

「起きてて大丈夫なのか?というかお前、その着物はどうした。うちにそんな着物はなかったと思うのだが……」

 八重さんはあまり気にしていないようだったが、金太郎さんは俺が着物を着換えていることにすぐに気が付いた。
 作務衣はこの時代でもそれほど目立たない恰好だが、槍と指輪以外何も持っていなかった俺が着ていればどこから持ってきたと思うだろう。
 俺は神妙な顔を作り、これまでの経緯やスマホの力、収納の指輪のことなどを話す。
 ガチャから出た傷薬によって、今はもう右腕の傷も治っていることも話した。
 八重さんはあまり興味がないのか途中で飲み物を作りにいってしまったが、金太郎さんは真剣な顔で最後まで聞いてくれた。

「はぁ、またとんでもない話があったもんだな。とりあえずその収納の指輪っていうのの力を見せてくれ」

「わかりました」

 俺は収納の指輪から米俵を1つ取り出して見せた。
 60キロくらいありそうな大きな米俵だ。
 俵に入った米などは地元のお祭りのときくらいしか見たことがない。
 あれは中身発泡スチロールだったっけな。
 俺が馬鹿なことを考えている横で、金太郎さんは米俵に触れたり持ち上げたりして本物かどうかを確かめている。
 すごい軽々持ち上げるじゃん。

「本物だな。しかも、いい米だ」

 金太郎さんは編みこまれた藁の隙間から、中の米をひと掬い取り出して感嘆の声を上げている。
 俺にはまだ精米もされていない状態の米の良し悪しなどはわからないけれど、神様のガチャから出てきた米だから粗悪な米ということはないだろう。
 ちょうどいいのでこのお米をお世話になったお礼として渡すこととしよう。

「いいのか?一俵の米といえば半年分の年貢に相当する量だぞ」

「米はまだありますし、命の代金としては安すぎるくらいですよ」

「わかった。ありがたく受け取っておく」

 金太郎さんは米俵を軽々と担ぎ上げて他の食料品共々どこかへ持っていった。
 おそらく隣の倉庫みたいな建物に持っていったのだろう。
 米は低温保存しないと味が落ちるってことくらいは俺でも知っている。
 お隣の倉庫も気温が一定に保たれるように半地下のような構造になっていることだろう。
 野菜なんかも冷蔵庫がないこの時代にはそういうところに保存しているのかもしれない。
 倉庫から戻ってきた金太郎さんと、何か湯気の出る飲み物を持ってきた八重さんが戻ってきたのはほとんど同時だった。

「お話は終わった?私にはよくわからない話だったけど」

「ああ、俺も正直よくはわかってない」

「そうなの。これ麦湯、飲みましょう」

 麦湯、というと麦茶だろうか。
 香ばしい香りのするお茶に癒される。
 しばし3人がお茶を啜る音だけが室内に響き渡った。

「しかし1000年も後の時代から来た、か。俺はまた、お前も人ならざる者の血を引いているのかと思ったんだがな」

「人ならざる者?」

「そうだ。お前が自分の秘密を明かしてくれた礼に教えるが、俺とおかあは人ならざる者の末裔だ」

 ずいぶんファンタジーな話になってきた。
 ここって本当に俺の暮らしていた未来の時代の世界線の1000年前なんだよね。
 世界線移動しちゃってないかな。
 織田信長が大妖怪だった世界線に来ちゃってないよね。

「おかあはこう見えて齢70を超えている」

「こら金太郎。女人の年齢をそんなに簡単に明かしてはだめよ」

「このとおり、寿命が長い以外は何も人間と変わらんがな。俺はまだ20年も生きておらんが、おそらく俺も人より長命だろう。それゆえ、人の世ではつま弾き者となってこんな山の中で暮らしている」

 嫉妬、なんだろうなきっと。
 この時代なら普通の人の寿命は50年くらいだろうか。
 もっと短いかもしれない。
 若い姿のままこれからも長く生きていくであろうこの親子を、人々は妬ましいと思ったのだろう。
 だから除け者にした。
 同じ人間という生き物として認めなければ、嫉妬せずに済むから。
 なるほど人間の抱える闇というのは、いつの時代も胸やけしそうになるものだな。
 俺はきっと今ゲップが出そうになるのを堪えているような顔をしていることだろう。
 
「そのような顔をせんでもいい。今はふもとの村とはいい関係を築けている」

「ここの村の人たちはみんな良い人だもの」

 生まれる時代が違ったらよかったのにな。
 俺が生まれた時代だったら、70歳でもある程度の若さを保った人は存在していた。
 八重さんレベルの美貌だったら奇跡の美魔女と呼ばれ、SNSで人気者になれたことだろう。
 もっと未来の時代だったならば、それが普通になっているかもしれなかった。
 まあ未来なら絶対に美容整形を疑うアンチが大量発生したと思うけど。
 SNSにも人ならざる者たちが住んでいるからね。


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