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誓いの女王
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しおりを挟む私は知っている。
この大学に居る人々は、いや、この島で暮らす人々は皆…父を通して私を見ていることを。
ずっと私は「父の娘」で、ただの「シェバ」になったことなど一度もない。それも仕方ないことだろう。父の存在はこの島にとってあまりにも大きすぎる。
それが嫌だったら、全て投げ捨てさっさとこの島を出て行けばいいだけのことだ。私はもう十分それができる年齢と能力持っている。それなのにそれをしていない。私は既得権益にすがりつく道を選んだ。それだけのことだ。
「父__いや、理事長の命により、今日より君のサポートをすることになったシェバだ。よろしく頼む」
自分の暮らす館を背に、随分下にある頭を見つめながら挨拶の言葉を述べる。
L.クーポーに呼び出されて発見した際には保健室の扉に背を預けて眠っていて、その次会った際は医務室のベッドに座ったままだったので気づかなかったが、彼女は思いのほか小柄な女性だったらしい。
「よ、よろしくお願いします。カガミカヨコ…あ、カヨコ・カガミです」
そう言って頭を下げる彼女に違和感などはなにもない。正直、異世界人というのが信じられないぐらいだ。
しかし、ハチジョウの魔法と言えるのかも怪しい代物以外の翻訳魔法がまともに機能しなかったという特異性。そしてなにより、父の「魂の色が違う」という言葉。
彼女は、おそらく本当に異世界人なのだろう。
「すでにルエか他の教員から聞いているとは思うが、今日から君は私の館で私と共に暮らすことになる。館ではもちろん、大学や外でなにか困ったことがあればなんでも言うように」
「…その…す、すみません。なんというか…私なんかと一緒に暮らすことになっちゃって…ごめんなさい」
「大したことではない。それにこの選択はこちらの事情もあってのことだ。君が頭を下げる必要はない」
「いや…その…でも…申し訳ないので…」
本当のことを言っただけだったが、どうやら余計恐縮させてしまったらしい。亀のように首が縮み、もともと低かった頭の位置がさらに低くなる。
彼女がどう考えているかは知らないが、実際こちらの事情も大いにあるのだ。この共同生活には保護とサポート以外に、監視と観察という意味合いもある。
大学側としても、異世界人にこの大学を自由にふらつかせるのはありとあらゆる意味で怖いのだ。
「…ところで、君はこちらに来てから魔法扉は使ったことがあるか?」
「え?あ、えっと、魔法扉…?」
「そう。使うドアノブによって繋がる場所が変わる扉だ」
「ええと…」
「…その様子だとなさそうだな。使い方を教えるからこちらに来い」
先日急遽二つ目のドアノブが取り付けられた扉の前に彼女を呼び寄せる。
向かって右に取り付けられた褪せたゴールドのサムラッチハンドルを掴んで押せば一階の私の生活フロアに、左に取り付けられた真新しいシルバーのレバーハンドルを掴んで押せば二階のフロア…即ち彼女の生活フロアに繋がる。
"魔法扉"という名称だが実際に魔法仕掛けなのはドアハンドルの方…という説明は不要だろうなど、説明すべきことを整理しつつ待っていたのだが、いつまでも彼女が来ない。
「…Ms.カヨコ?」
振り返ると、いない。
焦って周囲を見回したら、近くの地面にうつ伏せで転がっている彼女らしきものを発見した。
「Ms.カヨコ!?」
速足で近寄ると、彼女が「あは、あはは…」と奇妙な声を上げながらのそりと地面から顔を上げた。
「一体なにがあったんだ」
「転んだだけです、すみません…」
「…そうか。大丈夫か?」
起き上がるのに手を貸しつつ、石畳に傷つけられ痛々しい見た目になっている膝や手の平に速やかに治療魔法をかける。
「…ありがとうございます。すみません…」
深く下げられた頭に「問題ない」と声をかけつつ、頭の中には不安の二文字が浮かんでいた。
その後、部屋の案内や魔法についての説明も行ったが、彼女は「うっかり」とも「不運」ともとれないちょっとした過失で私の不安を加速させた。
彼女は、この世界で生きていけるのだろうか__と。
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