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殺生喘
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しおりを挟む「あ…!この前の…!」
うめぼし__あのちいさい生き物との再会は思ってたよりも早かった。
でも、ちっちゃい姿のわたしにとって、うめぼしはわたしよりもすごく大きくて"ちいさい生き物"とはとても思えない。やっぱりうめぼしはうめぼしだね。
うめぼしはまた森の中のわたしの場所にいて、そこでぼうっと座り込んでた。となりに座ろうと近づいたら、うめぼしもわたしに気づいたみたい。
「やほ~」
となりに座ってよっかかると、なぜかちょっと体をびくっとされる。
でも、気にせずよっかかる~。
しばらくだまって二人でぼけーっと風をあびてたら、うめぼしが口を開いた。
「…あんまり、一人で森に来ない方がいいよ。危ないから」
「あぶなくないよ」
「危ないよ。…お父さんとお母さんもきっと心配する」
「二人とも、わたしが森にいることなんて知らないからだいじょうぶだよ」
「…そういう話じゃないの」
そんなことをいいながら、うめぼしはわたしの頬っぺたをつんとつつく。
「キミのおうちはどこ?大学の近く?」
「おうちは東の果てにあるよ」
「東の果て?島の中の東の方ってこと?」
「ううん、海の向こうの東の果て。太陽が昇るところ」
魔法を使ってきちゃったからほんとうの距離は知らないけど、でもたぶんここは…すごくすごくおうちから__故郷から遠い場所。
「…ん?この島に住んでるわけじゃないってこと?」
「この島には住んでるけど、おうちはここにはないよ」
「え?」
「いっぱいの知らない人とくらしてる」
この島にお父さまに連れてこられて…4年くらいたったんだっけ?大学にも大学の寮にもそれぐらいいるけど…でも、誰の名前もしらないや。興味ないし。
「いっぱいの知らない人!?」
身を乗り出してくるうめぼしに「うん」と頷くと、うめぼしは目を白黒させはじめる。しばらくたつと、「あー」とか「えー」とかいいながら軽く私の肩にそっと手を置き口を開く。
「その…もしかして、お父さんとかお母さんとは一緒に暮らしてない?」
「うん」
「えっと…お母さんとお父さんはどこに…?」
うめぼし、さっきからなんでわたしのお父さまとお母さまのことばかり聞くんだろう?よくわからないな。でも別に答えたくないわけじゃないからふつーに答える。
「お母さまはお空の上、お父さまはお父さまのおうちにいるよ」
お母さまは私がまだ小さい頃にお空の上にいってしまって、お父さまは今もお父さまのおうちで暮らしてる…んだと思う。便りも来なければ、別にお父さまが訪ねてくることもないからよくわからない。
それにそもそも、お父さまとは一緒にくらした期間の方が短いから、あんまりお父さまという感じがしない。そこまで興味もないし。
「え…あ…えっと…その…ごめん…」
「…?なんでうめぼしが謝るの?」
よくわからない。
なんでうめぼしが謝るのかも、どうしてうめぼしがあわあわしているのかも、どうしてうめぼしがちょっと悲しそうなのかも。
「…つらいこと、思い出させちゃったかもなって」
「ふーん」
つらいことって、もしかしてお母さまのことかな?
たしかにお母さまが空の上にいってしまったことは寂しい。でもお母さまがいないことを忘れたことなんかないから、別にうめぼし相手にお母さまのことを話したかどうかで寂しさなんかかわらない。
やっぱりうめぼしは変なやつだなぁ、と思いながらふと気になることが頭に浮かぶ。
「うめぼしのお母さまとお父さまはどこいにるの?」
「…」
のぞきこんだわたしに、うめぼしは目を伏せる。
肩におかれていたうめぼしの手には、いつの間にか力がこもっていた。
「あのね…」
「うん」
「私のママとパパもおうちにいるよ…」
「そっか。それはいいね」
「でもね、私がおうちに帰れない…帰れないの…」
そう苦しそうに吐き出すと、うめぼしは自分の膝に頭をうずめた。こわいものから自分をまもるみたいに回された腕のせいで、うめぼしの顔はよく見えない。でも、触れ合った部分からその震えだけは伝わってくる。
「なんで?どうして?誰かが引き留めるの?」
「誰も私のことなんか引き留めてくれないよ。私のことなんか誰も必要としてないから。でもね、ただ…本当に帰れないんだ…」
そこから、うめぼしはぽつぽつと自分の話を始めた。
自分が異世界から来た事、その異世界にはエルフもわたしみたいな存在も存在しないこと。魔法も存在しないこと。常識もなにもかもが違うこの世界に馴染めなくて苦しさを感じていること。元の世界のことを思い出すたびに寂しくてたまらなくなること。自分がいわゆる"ばか"でうまく生きられないこと。
わたしにはむずかしくてよく理解できないことも多かったけど、うめぼしが幸せじゃないんだろうなぁっていうのはわかった。
痛みに喘ぐように言葉を吐き出したうめぼしは、最後にようやくわたしのことを思い出したみたいに、わたしへの謝罪を述べた。
うめぼしによると、すごく年下でほぼ初対面のわたしにこんな話をして気をつかわせるのはあんまり"よくないこと"らしい。
「それにたぶん…キミの方が辛い思いしてる。こんなにちっちゃいのに…」
うめぼしが思ってるほど本当のわたしはそんなちいさくないよ、って思ったけど言うのはやめておく。めんどうなことになるだけな気がするし。
「ねぇ、キミは…その…孤児院とか…そういうところで暮らしてるってことなのかな?それとも…
「あのさ」
うめぼしがなにか言ってるけど、わたしも思いついたことがあるから無視して遮る。
「だったら、ぜ~んぶ忘れさせてあげようか?」
「え?」
「元の世界の思い出を。自分が異世界から来たこととか、おうちのこととか、お母さまとかお父さまのこととか、元の世界の常識とか…そういうのを覚えてるから色々つらくなるんじゃない?だったら最初からなかったことにすればいいよ」
異世界?とやらに帰すことはできないけど、それぐらいだったらわたしにでもたぶんできる。
きらきらしたものを頭からひょいって出して、瓶に閉じ込めて飾っておく。わたしも、思い出したくないことはそうやってやってる。結構きれいでいいんだよ。
あ、でも、この世界に来る前の記憶ぜんぶ、ってなると何回にもわけていっぱいやらないといけないかも。
「…どうやって?」
「こうやって」
ちょうど目についたうめぼしの手にそっとわたしの手を重ねて力を流し込む。乾燥のひどいその手はところどころ血が滲んでいるし、なにも塗られてない爪の表面は見たことがないぐらいボロボロだ。
力が流れ込んでいくと同時に、傷が塞がっていってその爪もちょっとだけましになる。おまけで爪もかわいく塗ってあげる。色はわたしの好きな濃い赤。
「わっ…!すごい…!ありがとう…!」
「ううん、大したことじゃないよ」
目をきらきらとさせてお礼を言ううめぼしの顔に、なんだか照れくさくなってそっぽを向く。こんなによろこんでくれると嬉しいな。本当に、すごくかんたんなことなのに。
「こうやってわたしの力をつかえば、うめぼしの思い出も消せる。そうしたらもうつらくならないんじゃない?」
「…そうなのかな。…そうなのかも」
そういうと、うめぼしは口の端をあげて「ありがとうね」とまた言う。
「…でも、今日だけじゃ決められない。だから、その代わり今日は…もしよければ、お互いについてもうちょっと知り合おうよ。実は私たち、お互いの名前もまだ知らないから」
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