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ハキは、女の子
しおりを挟む「お、俺も洗うか?」
「じゃあ、アソコ。お前がすっぽり入るくらい穴広げとけ」
ハキも体を洗いたくなったのか。臭くないのは良い事だし、使ってない水溜まりを指定して、穴を広げてもらおう。僕は血糊を拭うのに忙しいのだ。
「みっ、水が出た!」
「良かったな。服から先に洗えよー」
僕は固く絞ったタオルで黒く固まった血糊を擦る。鉄を包んだ皮なので、当然水洗いなんて出来ないのだ。後々アルアインさんに整備してもらうとして、下手に傷を付けたりしたら怒られそうだし必死に擦り落とすしかない。
「なあ旦那、コレどーすんだ?」
「コレってど……」
エヴィナに言われて振り向くと、地面から水の柱が生えていた。水魔法の水壁みたいになってる中に誰かいる。ハキだ。脱いだ服で体を擦ってるハキがいた。
「凄いな。貴族様でもそんな豪勢な水浴びしないね」
「それよかこの水どーなるんだ?」
「地面に染みてくとは思うけど…」
「貴方様、私も浴びとうございます」「オレも」
警護しろって事か。エリザベス様の索敵は厳のまま、2人には水浴びしてもらおう。僕は鎧を擦りつつ、周囲の警戒に当たった。
水場まで行って帰って丸一日。それでも十分な成果だ。途中にある魔物の水場を何とかしなきゃいけないし、井戸に水が戻るかを確かめたい。家も建てなきゃ。畑はどうするか。魔物避けも考えなきゃ。やる事は一杯だ。とにかく食事を作って食べる。
「旦那様。俺、体洗ったぜ?」
「臭くなくなって良かったよ。また洗おうな」
馬糞より臭かったハキは唇が紫になる程水洗いされた事で匂いが抑まり、胡座をかいて草束を丸める僕の膝に収まっている。洗った服は乾かないので僕の予備を着ているが、ダボダボで余計に小さく見える。
「抱かねーの?」「致さないので?」
「寝なよ。それにフンマラで剣振り回したくないよ」
テントから顔を出し、ニヤニヤしてる2人は僕が冒険譚の艶話に出て来る馬鹿な大人の真似をするとでも思っているのだろうか。
「まあ、したいけどさ。我慢するのが男なんだ」
「旦那様に飼われて良かったぜ」
「飼うなんて言うなよ。ハキは仲間だ。パーティーで家族なんだぞ?」
「家族、か。…奥さんじゃダメ?」「ダメだ」「なりません」
ダメらしい。めげないハキは僕に体を擦り付け、そのまま寝るらしい。寝るならテントに行ってくれ。
翌日、食事と支度を終えると使わない分の水を井戸に注ぎ、馬に乗って廃村を立つ。場所は分かったので一旦街に戻り、準備を整えるつもりだ。
それから10日を掛けてオーイの町に着く。馬を厩舎に預け、宿を借りるとすぐに向かいの浴場で汗を流した。この地域一番の娯楽は絶対に風呂だ。
「すっかり女の子みたいだ」
「俺もそう思うぜ」
エヴィナとエリザベス様に洗われたのだろう。クチャクチャだった髪は櫛で梳かれてサラサラのフワフワに。垢の残っていた体は石鹸とタオルで磨かれてツヤツヤな体毛になった。服はエヴィナのお下がりで、ズボンも上着もブカブカだが、会った頃より何倍も女の子だ。
身を清めたら次は買い物。以前案内された古着屋に向かう。
「俺、服なんていいよ…」
「馬鹿言うな。今お前ぇが着てんのはオレの服だかんな?」
遠慮するハキを押して参った店内で、彼女は着せ替え人形にされた。僕はタオルと端切れを買う。お尻拭くのに切り刻まれてしまったからだ。女子の買い物は長いので、店員に雑貨屋の場所を聞いて1人古着屋を後にした。
雑貨屋ではスコップに鍬、ランタンと油を購入。店員に食料品店の場所を聞いていると、お客の奥さんに飯屋通りを紹介された。飯屋通りは惣菜等の加工品だけでなく、野菜や肉等の素材も売っているそうで、食料はここで全部賄えると言う。調味料に干し野菜、麦粉、食用脂。欲しかった物が何でもあった。
「どう帰れば良かったっけ…」
僕にこの街の地の利は、無かった。
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