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三章
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日が沈みかける頃、町の入口付近の通りで、俺達は再び落ち合った。
潜入方法だが、奇をてらうのはひとまずやめておく。
招待を受けているからには忍び込まずに堂々と入っていく。
そのつもりで、俺と赤毛の少女――アリッサは合流した。
「言っておくが今日は様子見程度だからな」
「わかってる」
ダッタが――何かあった時に頼りになる人間がいない以上、無理なことはできない。
俺一人の力では荒事を乗り切るのは難しい。
今日は事を大きくするつもりはない。大胆に動くならダッタがいるときだ。
「ちなみに俺の言っている条件は本当だぞ。いいんだな?」
再確認する。
彼女には俺が一星宗に黙って教団を作ろうとしていることを告げてある。
「う、うん……でも、そこまで念を押すからには変な教団なんだ」
「まあ、表に出れない怪しい団体ではあるけど、べつに生活を脅かしたりまではしないから大丈夫だ」
たぶん彼女は複雑な心境だろう。
二度も命を救われた恩人が異端の教団の人間で、怪しげな勧誘に承諾すれば姉は助けてやると言ってきている。
どうしても姉を助けたい自分はうなずくしかない。
無理矢理いやらしいことをされるのとどちらが地獄だろう。
俺が言ったことは一星宗を裏切れと言っているのと同義だ。
「でも、えっと」
「エンだ」
「エンくん、私とそんなに歳は違わないはずなのに、なにかいろいろ事情はありそうだよね。自分から教団を作りたいとか、ふつうは考えないよ」
「まあ、そうだな。生きるために、やらざるを得ない」
町中を二人で歩いていると、
「あれ? エンさん?」
フレイバグを連れたエフィと鉢合わせた。
ちょうど夕方の水汲みに来ていたらしい。
「なんだ、エフィか」
エフィは俺と一緒に歩いていたアリッサを見て目を丸くした。
「……え? アリッサさん?」
「知ってるのか?」
「この間いなくなったメルヴィさんの双子の妹さんですよね? メルヴィさんは元気ですか?」
そういえば、修道院に入ったとか言っていたな。
エフィの知り合いだったのか。
アリッサは目をそらしながら、
「あ、えっと、うん……」
曖昧にうなずいた。
首をかしげるエフィ。
「…………」
「帰ってないんですか?」
「!」
図星をつかれて、アリッサは戸惑う。
目を泳がせてごまかそうとしているが、後の祭りだ。
「まさかと思ったんですけど、やっぱり……」
カマをかけたらしい。だが――
「やっぱり?」
エフィはやや伏し目がちになって、言いにくそうに口を開く。
「じつは最近、シスターが何人か行方不明になっていて」
「行方不明?」
「はい。四人くらいなんですが」
「それはけっこうな事件じゃないか?」
「毎年、逃げ出す人はいますよ。このまま死ぬまで慎ましやかな生活するのは耐えられないって、知り合いに愚痴った次の日とかいなくなってたり」
「そうなのか」
摂生と禁欲の生活だろうしな。
健康にはなれそうな気がするが、規則には縛られることになる。
気持ちはわからんでもない。
「でもそういうときって、ルームメイトとかにだいたい書き置きを残していったりするんですが、今年失踪する人たちは、何の前触れもなくいなくなったりして、不審に思っている子も多くて……」
俺は一瞬言葉を失った。
めちゃくちゃ深刻じゃないか。
「どうして昨日はそれを言わなかったんだ」
「言えないですよ、そんなの!」
まあ、そりゃあそうか。
「てことはほかのシスターも犠牲になってるってことか」
一星宗が絡んでいるとなると、少しやりづらいな。
「で、でも大丈夫。手がかりは掴んでるから。心配しないで、エフィさん」
やんわり追い返そうとして発した、アリッサの言葉。
だが――
「今からその手がかりの場所に行こうというのですか」
俺たちの真剣な雰囲気と相まって、エフィは察してしまう。
「なら、私も行きます!」
「だめだ。馬鹿言うな」
胸を上下させながら、息巻くエフィ。
なにがあるかわからない危険な場所に、これ以上誰かを巻き込むわけにはいかない。
ましてや一星宗の人員なんて。
「もしだめだっていうのなら、一星宗にそれを伝えて、騎士様たちに来てもらいます」
「――!」
それはますますまずい。
そんなの、ニクネーヴィン以外も異端者としてまとめて処理されてしまう可能性が高い。
いや、間違いなくそうなる。アリッサのお姉さんのメルヴィも例外じゃないはずだ。
エフィは本気だ。
彼女の正義感は、一星宗の教義に結びついている。
問題はそれがとても純粋だということだし、一星宗ならどうにかうまいことやってくれると根拠もなく信じているということだし、一星宗が武力を行使しているところを見たことがないということだ。
一星宗に報告されるのは都合が悪い。
もう、巻き込まざるをえなくなってしまった。
「……だったらせめてフレイバグを連れて行くのはやめろ。ニクネーヴィンに警戒される。一星宗に目をつけられたと思われたら絶対に家には入れてもらえない。シスターの服装もまずい」
「……わかりました」
エフィは堂々とうなずいた。
潜入方法だが、奇をてらうのはひとまずやめておく。
招待を受けているからには忍び込まずに堂々と入っていく。
そのつもりで、俺と赤毛の少女――アリッサは合流した。
「言っておくが今日は様子見程度だからな」
「わかってる」
ダッタが――何かあった時に頼りになる人間がいない以上、無理なことはできない。
俺一人の力では荒事を乗り切るのは難しい。
今日は事を大きくするつもりはない。大胆に動くならダッタがいるときだ。
「ちなみに俺の言っている条件は本当だぞ。いいんだな?」
再確認する。
彼女には俺が一星宗に黙って教団を作ろうとしていることを告げてある。
「う、うん……でも、そこまで念を押すからには変な教団なんだ」
「まあ、表に出れない怪しい団体ではあるけど、べつに生活を脅かしたりまではしないから大丈夫だ」
たぶん彼女は複雑な心境だろう。
二度も命を救われた恩人が異端の教団の人間で、怪しげな勧誘に承諾すれば姉は助けてやると言ってきている。
どうしても姉を助けたい自分はうなずくしかない。
無理矢理いやらしいことをされるのとどちらが地獄だろう。
俺が言ったことは一星宗を裏切れと言っているのと同義だ。
「でも、えっと」
「エンだ」
「エンくん、私とそんなに歳は違わないはずなのに、なにかいろいろ事情はありそうだよね。自分から教団を作りたいとか、ふつうは考えないよ」
「まあ、そうだな。生きるために、やらざるを得ない」
町中を二人で歩いていると、
「あれ? エンさん?」
フレイバグを連れたエフィと鉢合わせた。
ちょうど夕方の水汲みに来ていたらしい。
「なんだ、エフィか」
エフィは俺と一緒に歩いていたアリッサを見て目を丸くした。
「……え? アリッサさん?」
「知ってるのか?」
「この間いなくなったメルヴィさんの双子の妹さんですよね? メルヴィさんは元気ですか?」
そういえば、修道院に入ったとか言っていたな。
エフィの知り合いだったのか。
アリッサは目をそらしながら、
「あ、えっと、うん……」
曖昧にうなずいた。
首をかしげるエフィ。
「…………」
「帰ってないんですか?」
「!」
図星をつかれて、アリッサは戸惑う。
目を泳がせてごまかそうとしているが、後の祭りだ。
「まさかと思ったんですけど、やっぱり……」
カマをかけたらしい。だが――
「やっぱり?」
エフィはやや伏し目がちになって、言いにくそうに口を開く。
「じつは最近、シスターが何人か行方不明になっていて」
「行方不明?」
「はい。四人くらいなんですが」
「それはけっこうな事件じゃないか?」
「毎年、逃げ出す人はいますよ。このまま死ぬまで慎ましやかな生活するのは耐えられないって、知り合いに愚痴った次の日とかいなくなってたり」
「そうなのか」
摂生と禁欲の生活だろうしな。
健康にはなれそうな気がするが、規則には縛られることになる。
気持ちはわからんでもない。
「でもそういうときって、ルームメイトとかにだいたい書き置きを残していったりするんですが、今年失踪する人たちは、何の前触れもなくいなくなったりして、不審に思っている子も多くて……」
俺は一瞬言葉を失った。
めちゃくちゃ深刻じゃないか。
「どうして昨日はそれを言わなかったんだ」
「言えないですよ、そんなの!」
まあ、そりゃあそうか。
「てことはほかのシスターも犠牲になってるってことか」
一星宗が絡んでいるとなると、少しやりづらいな。
「で、でも大丈夫。手がかりは掴んでるから。心配しないで、エフィさん」
やんわり追い返そうとして発した、アリッサの言葉。
だが――
「今からその手がかりの場所に行こうというのですか」
俺たちの真剣な雰囲気と相まって、エフィは察してしまう。
「なら、私も行きます!」
「だめだ。馬鹿言うな」
胸を上下させながら、息巻くエフィ。
なにがあるかわからない危険な場所に、これ以上誰かを巻き込むわけにはいかない。
ましてや一星宗の人員なんて。
「もしだめだっていうのなら、一星宗にそれを伝えて、騎士様たちに来てもらいます」
「――!」
それはますますまずい。
そんなの、ニクネーヴィン以外も異端者としてまとめて処理されてしまう可能性が高い。
いや、間違いなくそうなる。アリッサのお姉さんのメルヴィも例外じゃないはずだ。
エフィは本気だ。
彼女の正義感は、一星宗の教義に結びついている。
問題はそれがとても純粋だということだし、一星宗ならどうにかうまいことやってくれると根拠もなく信じているということだし、一星宗が武力を行使しているところを見たことがないということだ。
一星宗に報告されるのは都合が悪い。
もう、巻き込まざるをえなくなってしまった。
「……だったらせめてフレイバグを連れて行くのはやめろ。ニクネーヴィンに警戒される。一星宗に目をつけられたと思われたら絶対に家には入れてもらえない。シスターの服装もまずい」
「……わかりました」
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