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13.過去10 ~侍女長side~
しおりを挟む最近、頭痛が酷くなる一方です。
王宮の侍女長を務めて早数年。
まさかこんな事態になるなど誰が予想できたでしょう。
頭痛の原因は唯一つ。
王太子妃の存在です。
あの王太子妃は侍女を何だと思っているのでしょう?
都合よく扱える奴隷だとでも?
教育係から出された宿題を侍女にやらせるのは止めてください。
何故、侍女が王太子妃の代わりに刺繍をせねばならないのです。
それは侍女の仕事ではありません。
何度、諫めた事でしょう。
『私は王太子妃よ。私の侍女なんだから私の命令を聞くのは当然じゃない』
当然ではありません。
そもそも、王太子妃の専属侍女というのは実家から連れてくるのが習わし。
それを――
『男爵家の使用人なんて王宮に連れてこれないわ。だって平民よ?平民が王太子妃の侍女なんてなれる訳ないでしょう』
王太子妃は頭が悪いようです。
王宮に勤める侍女の殆どが「平民」だというのに。かくいう私も王太子妃がバカにする平民出身です。もしかして……王太子妃は王宮に勤める者は全員が貴族階級だと思っているのではないでしょうか?
まさかと思いますが……あの王太子妃です。十分にありえる事でしょう。けれど、私はあえて訂正はしません。貴族階級と思っていてあの態度です。これで平民だと分かったら何をしでかすか分かったものではありません。侍女達にも王太子妃の前で決して自分が平民である事を悟らせないように注意喚起を行いました。
このような注意喚起を行わなければならないなど世も末です。
「セーラ様ならこのような事はなかったでしょうに……」
目を閉じれば在りし日のセーラ様の姿が浮かんでまいります。
プラチナブロンドに青い目をした美しい侯爵令嬢。
高貴な美貌は一見冷たい印象を与えますが、気配り上手の御令嬢でした。
どこかの王太子妃のようにムチャクチャな命令をだしてくることもありませんでした。
王族は使用人をこき使うモノと認識する事もありません。
末端の侍女にまで気を配ることが出来たお方でした。
新人が失敗しても「大丈夫よ。失敗は成功の基と言いますもの。今の失敗を次に生かせればそれでいいのよ」と笑って許す懐の深さ。
王宮の侍女に相応しからぬ振る舞いをする者には自ら説教をし、どこが悪かったのか、この時はどう対処すればいいのかを教え諭していらっしゃいました。
「はぁぁぁぁ……本当ならセーラ様を王太子妃として崇めていたはずでしたのに」
一日に何度も溜息をつく日々。
こんな日がずっと続くと思うと憂鬱になってきます。
マクシミリアン殿下にしても――
『サリーは王宮に慣れていない。暖かく見守って欲しい』
これですもの。
後進を育てて早期退職すべきでしょうか?
あぁぁぁ……悩みが付きません。
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