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23.王命の剥奪
しおりを挟む「もう、我慢できないわ!」
今日も妻が吠えている。
「聞いて頂戴!マックス!」
「どうしたんだ?」
「パーティーに招待したのに誰も来ないのよ!」
空耳だろうか?
パーティーと聞こえた気がする。
「王太子妃の私がわざわざ書いてあげたのに!誰もパーティーに来てくれないなんて……あんまりよ。高位貴族の奥方は王太子妃をのけ者にして喜んでいるんだわ!」
どうやら聞き間違いではないようだ。
「サリー、それは違う」
「何が違うって言うの!」
「そもそも、私達は単独でパーティーは開けないんだ」
「どうして!」
「財務大臣から説明されただろう?」
「覚えてないわ!」
「王太子夫妻の経費にも限りがあるからパーティーは開かないようにと言われたじゃないか」
「でもリリアナの茶会は開けたわ!」
「……パーティーと茶会は別物だ。それに、王女のお披露目の『お茶会』はするのが常識だ」
「そんな……」
「落ち込まなくとも……。それに出席する事はできるじゃないか」
「ええ! 全員、下位貴族の誘いばかりよ! 高位貴族からは誰も招待してくれないわ!」
嫌われ者の王太子夫妻を好き好んで招待する高位貴族はいない。
これでサリーが世継ぎを産んでいたらまた違ったかもしれないが……。
高位貴族達は私の次を考えている事だろう。
父上も私同様一人息子だった。
だが、先々代は子沢山だ。
大臣達も同じ考えだろう。
優秀な人物に焦点を当てているはずだ。
私は中継ぎの王と言う訳か。
「王命よ!」
「!?」
「マックス、王命よ!」
「サリー?」
「王命を出して!!」
何やらおかしなことを言い出した。
果たして王命の意味を理解しているのだろうか?
「順を追って話してくれ。何故、急に王命の話になったんだ」
まずはそこからだ。
「王命で高位貴族達に茶会に来るように命じるのよ!勿論、王太子妃主催のお茶会に!」
眩暈がする。
そんなことで『王命』を発する者はこの世にいない。
そもそも、王太子である私に権限はない。
「サリー、“王命”は国王陛下しか発する事が出来ないものだ」
「え~~~っ……。じゃあ、マックスは?」
「王太子だから出来ない」
「……」
「先に言っておくが勝手に“王命”を出す事も許されない。そんな事をすれば誰であろうと死罪は免れない」
「……分かったわ。別の方法を見つける」
見つけなくていい。
大人しくしていてくれ。
そう言えたらどんなにいいか。
王命、か。
私が国王になってもそれを行使する事は出来ない。
許されない。
「王命」での権限は既に剥奪された。そうなった理由が他ならぬ私にあった。
勿論、「王命」で命じる事は出来る。
だが、王命は「拒否」が出来るようになった。
しかも「拒否」したとしても王家、引いては王族は決して相手側を罰してはいけないというものに法改正されていた。
『王命という重さを、王族自らが破ったのです。それも王太子殿下その人が。殿下は国王に即位なさいます。その時、何時、無理難題かつ理不尽な王命を出さないとも限りません。約束事をいとも簡単に反故にする方が常軌を逸しています』
宰相の説明には棘があった。
確かに「王命である婚約」を解消した理由は私にある。
『将来の王による権力の乱用を防ぐために王命の使用を拒否できるようにする』
セーラとの婚約解消とサリーとの婚約に奔走している間、貴族議会で法案が可決され法の名の元に条文が書き加えられたのだった。
私は直ぐに納得した訳ではない。
当然、食い下がった。
『確かに、王命の婚約をダメにしたのはいけなかった。が、これはやり過ぎだろう。そんな私が信用ならないのか?』
『マクシミリアン殿下、それは信頼に足りる行動をした人間がいう言葉です。王命の重さを理解できない殿下が言ってよい言葉ではありません』
言外に「信用ならない」と断言された。
全てがどうにもならないほど手遅れになって、漸く人は過ちだったと気付くのかもしれない。
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