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29.守るもの

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 友達の誕生パーティーに出席していたリリアナが大怪我をして帰ってきた。

 顔中が血だらけで娘だと直ぐには判別できなかった。
 サリーはリリアナの状態に半狂乱だ。

 詳しい話は護衛から聞いた。

 内容からして、リリアナのしたことは殺人に等しかった。
 それでも「王女」という一点において相手の少年が罪人となり死を賜った。まだ八歳。幼過ぎる。箝口令を引いたが王宮の者は皆が知っていた。リリアナに対する視線は冷たいものばかりだ。


 リリアナ自身が子爵令嬢にした仕打ちを「悪い事」と認識していないのが問題だった。

『急に殴りかかってきたのよ!』

『子爵家の兄妹は最低よ!』

『私は何もしていないわ。セシルは勝手に倒れたのよ? 失礼な子よね』

 本気で言っているのだ。
 心の底から「自分は何も悪くない」と思っている。

 そもそも、セシル嬢に危害を加えたのはリリアナ自身でありながら。傷つける積もりも、ましてや殺しかけたという自覚もなかった。それは言葉や態度にも出ていたため、余計に疎まれた。

 リリアナは良くも悪くも子供だ。
 お世辞でも「賢い」と評価する者はいない。ワガママで欲望に忠実だ。感情のコントロールも全くできない。子供だからか、それとも教育していないせいか、自制心が備わっていなかった。

 今回の件もそうだ。

 自分の心の赴くままに行動した。
 王宮でリリアナは好きなように行動している。それを許す母親がいる。許される環境にあった。

 悪意なく人を傷つける。

 今起きている悲劇の元凶だというのに。
 リリアナはまるで他人事のように子爵家の兄妹の死を聞いている。顔は包帯で覆われて表情が分からない。それでも態度や雰囲気で彼らにまるで興味を持っていない事は分かるのだ。

 リリアナはサリー同様に感情を隠さない。
 いや、隠す事ができない。

 王族にとってそれは致命傷であり、同時に異常だった。

 元婚約者が聞けば「両親によく似た王女様ですね」と答えるだろう。

 愚かな娘だが我が子だ。
 たった一人の子供だ。
 可愛くない筈がない。

 私には娘を守る義務がある。

 

 


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