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83.事件10
しおりを挟む王宮に戻ると、私とサリーは謹慎処分を言い渡され、リリアナに関しては「北の塔」行きになった。
「北の塔」は、その昔に罪を犯した王族を幽閉するために作られた高塔だ。王宮の端に位置している。一度入った王族は死ぬまで出られない場所とも伝え聞いていた。
そんな場所に入れられたリリアナは……。
今は考えないようにしよう。
最悪の想像しかできないのだから。
あれから、多くの下位貴族が罪に問われた。
男子生徒達からの証言から芋づる式に「罪人」が捕まったせいだ。謹慎中のため詳しくは誰も話してくれなかったが「薬」の売買はとある男爵家が行っていたらしい。領地が隣国と国境を接しており、流通経路はそこからだと噂されている。違法薬物の元締めはチェスター王国だった。男爵家の領地は何十年もチェスター王国と蜜月の関係だったらしく、一族郎党に至るまでスパイ容疑として地下牢に入れられている。恐らく男爵家の当主夫人が元チェスター王国人である事も大いに関係しているのだろう。
これを元に国境警備隊長が職を辞した。
責任を取る形で辞めていったのだろう。
それだけではない。
高位貴族の間でも急逝が相次いでいるらしい。事故か事件かは定かではないが、不審な動きをした貴族が容疑者として挙げられている。近々、逮捕されるそうだ。
「サリーの調子はどうだい?」
「王太子妃様は未だに起き上がれない状態です」
「そうか……」
「王女様の件がよほどショックだったのでしょう」
侍女の言葉はもっともだった。
あれ以来、サリーは寝込んでいる。謹慎中の今もずっと……。
「父上から何か言ってきていないか?」
「陛下は何も伺っておりません」
「そうか……」
あれから三ヶ月が過ぎようとしていた。
父から私に何も言ってこない。謹慎中ずっとだ。幼い頃からそうだった。可愛がられた記憶もないが、厳しくされた事も邪険にされた事もなかった。
私に対する感情は「無」と言ってもいいだろう。
まるで他人のような目で見るのだ。
何故だろうとずっと思ってきた。
私は父の唯一の子。たった一人の息子だというのに。何故、あのような目で見られるのかと。
『“王”とは孤独と隣り合わせの存在なのです。実の息子であろうとも第三者の目線で観なければならないのでしょう』
『常に“公”を優先せねばならない御立場でいらっしゃるせいでしょう。そう見えてしまうのです』
幼い頃は教育係達の言葉を「そんなものか」と思っていた。
だが、本当にそうなのだろうか。
今は疑問に思えて仕方がない。
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