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82.事件9
しおりを挟む室内は何とも言えない空気だ。
不安そうな顔をする娘にかける言葉がみつからない。何を言えばいいのか……。
「リリアナ王女が知らないと仰るなら私から説明しても良いでしょうか? 王太子殿下」
「理事長……」
「皆が当たり前に知っている事を知らない。それはある意味とても気の毒な事です。何時までも無知なままではいられませんから。そう思いませんか? それに、こういうことは第三者が説明した方が色々と勘違いを生まない元でもあります。どうでしょう?」
「……お願いします」
それ以外に何が言えただろう。
私の許可の元、理事長は嘗ての騒動を語りだした。
長年の婚約者との婚約解消、その過程で起きた諸々の事を――
改めて聞くと酷い内容だ。
丁寧に説明してくれている。文句の付け処もないが……理事長、もう少しオブラートに包んで話してくれないだろうか。いや、その前に詳し過ぎないか? 何故、牢屋行きになった者達の家族のその後の事まで知っているんだ? 私も知らなかった詳細な話を今聞かされている。室内にいる者達も知らなかった話なのだろう。お陰で私達夫婦が極悪人のように見られているのだが……。
理事長が話し終える頃には聞いていた親達や男子生徒達は真っ青な顔だった。そんな目で見ないで欲しい。
「嘘よ!!!」
信じられないと言わんばかりに首を大きく横に振るリリアナのショックは計り知れない。
「全て事実です」
「そんな……だって……今まで聞いた事も言われた事すらないわ! 貴方の言っている事は出鱈目よ!!」
「……貴族の者達もあえて言わなかったのでしょう。知っていて当然の事と言うだけでなく、王女に話して自分達が次の標的になるかもしれないと考えたら、とても言えないでしょう。ましてや、リリアナ王女にも前科がありますからね。高位貴族が関わり合いになりたがらない訳ですよ」
「何よ!私は関係ないわ!お父様とお母様が原因でしょう!? 私のせいじゃないわ!」
理事長はリリアナの見苦しい態度に目を細めると、私の方に顔を向けた。
「王太子殿下、流石は殿下方の御子様でいらっしゃる。下位貴族同士の婚約を悉くダメにして、彼らの家を間接的に潰しただけの事はあります。子供に罪はないと言いますが、自身の欲求を満たすためなら関わった者達がどれほど不幸になろうと構わない気質は容認できるものではありません。そう思いませんか?」
「……娘は未だ子供なのだ」
苦しい言い訳だと自分でも思う。だが、他に言いようがない。リリアナは小さな子供のようなものだ。
「成人間近の王女に使う言葉とは到底思えませんが、リリアナ王女に“分別がある”とは言いにくいのは確かです。目的のためには手段を選ばない処も、そのためなら人を平気で傷付ける事を悪いと考えないのですから。ですが、王太子殿下。我が王立学園は、本能のままに欲望のままに行動する獣を野放しにする事は出来ません。当然、然るべき処置を取らせていただきます。今回の事は既に王宮にも通達されておりますので、御覚悟ください」
内々で処理はしない、と言い切られた。
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