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87.廃嫡1

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 その日の夜会は盛大だった。

 この国の貴族だけでなく、諸外国の使節団を始めとした各国のお偉方が招待されていた。周囲を見渡すだけでも早々たる顔ぶれだ。その中でチェスター王国の関係者だけが排除されていた。自国の王女が嫁ぎ先で罪人となったのだ。招待されても針の筵だろう。今の私のように。

 廃妃とされた母の罪は他国でも知れ渡っている。

 不義密通の罪。
 国王以外の子を儲け「王太子」にした罪。

 それらはティレーヌ王国の乗っ取りと見做された。
 黒幕はチェスター王家だと噂される。チェスター王国は必死に潔白を訴えているが信じる国はいないようだ。確かな証拠はないが限りなく黒に近いと信じられている。かの国の名は地に堕ちた。

 特に、一夫一妻を尊ぶ聖ミカエル帝国は激怒して国交を断絶され苦しい状況にあるらしい。

 母の結婚に際して、ティレーヌ王国の側妃制度の廃止に巻き込んだせいだろう。帝国の顔に泥を塗ったのだから当然の結果だ。ただ、これには私も深く関係している。娘を戒める事もせず庇い立ててきた事が帝国の怒りを更に買った。帝国の時期、皇子妃を傷物にしようとしたリリアナに対して恩赦を願い出た事がいつの間にか帝国に知られていた。
 親として守ってやりたいと思った。
 だが、私はリリアナを見捨てるべきだった。
 私の行為に諸外国は呆れ果てたらしい。今も外交官達からの侮蔑の目を向けられている。帝国はティレーヌ王国を責めなかった。被害者側と見做している。その怒りの矛先がチェスター王国に向かったのは言うまでもないだろう。私と母の罪はそれほどまでに重い。

 



「マックス? どうしたの顔色が悪いわよ?」

「サリー……」

 横にいる妻は出会った頃と変わらず少女めいている。
 愛らしい容貌は色あせる事がない。

 結局、サリーに本当の事を言えないままでいる。
 今日の夜会までずっと謹慎の身だった。サリーの耳には噂は入ってきていない。私も「今日の夜会で謹慎は解ける」としか言わなかった。

「今日は陛下から重要な発表があるのよね?」

「ああ、そうだよ」

「私達に関する事って本当?」

「……サリー……何処で聞いたんだ?」

「ドレスの支度をしていた時に侍女が言ってたわ。なんでも『今日の夜会は王国にとってがなされる日です』って」

「……他に」

「ん?」

「他のも何か言ってなかったかい?」

「他? ん~~そう言えば……『にとっても喜ばしい日になります。これでのですから』って言ってたわね」

 屈託なく笑うサリーは幸せだ。
 侍女の嫌味も理解していない。

 今の生活がずっと続くと信じて疑っていない。
 そんなはずは無いのに。
 
 サリーは、リリアナの事件など無かったかのように普通に振る舞う。

 
 

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