悪女と罵られたので退場させていただきます!

つくも茄子

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~ロクサーヌ王国編~

18.義弟side

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「な、なんだこれは!?」

「見ての通りでございます」

「はぁ!?」

 邪魔な女義姉の罪が明らかになり国外追放となった祝いを王宮で上げた。王太子殿下の好意でそのまま王宮に泊まったのだ。夜中まで祝い酒を仲間たちと飲んでいたせいで寝過ごしてしまったが昼前には公爵家に戻って来た。
 だというのに。
 公爵家の門の前で馬車が止まった。
 門番は馬車が通るのを許さないと言う。

 それだけではない。

 執事と数名の男達が仁王立ちしていたのだ。


「オットー様。本日をもちまして貴方様はヴァレリー公爵家から出て行ってもらいます。今後二度と公爵家の家名を名乗る事は許されません」

「なっ?!」

「こちらに貴方様が公爵家にお越しになった時の荷物が詰め込まております」

 執事の指さす方向には使い古されたトランクが一つ。
 よく見ると僕が公爵家に引き取られた時に持ってきたトランクだと分かった。背筋に冷や汗が流れる。これは冗談ではない。本気だ。本気で僕は公爵家に捨てられようとしている。

「な、なんで……?」

「何故、と?おかしな事を仰います」

「お、おかしいだろ!!」

「何もおかしくはございません。主人の手を噛むどころか、喉元に噛みついてくる犬を公爵家で飼い続けることなど不可能です。かと言って今まで飼ってきた“情”というものもございますので、野に放つことに相成りました」

 彼の言っている事が理解できない。
 犬?
 噛みつく?
 どういうことだ?
 僕を犬に例えて言っているのか?

 何故だ……。
 

「何故、僕が追い出されるんだ?全部、あの女が悪いのに……」

「あの女とは誰の事でしょう?」

「とぼけるな!!あの……あの女だ!ブランシュ・クリスティーネ・ヴァレリーのことに決まっているだろ!!!」

「公爵家のブランシュ様に大して『あの女』などと。まして名指しで呼ぶなど言語道断!ブランシュ様が一体何をなさったというのですか?」

「な、なにって……」

「あんなを信じる者など愚か者以外いないでしょうな」
 
「冤罪じゃない!!全て本当の事だ!!!」

「愚かなことを仰る。たかだか男爵家の庶子如き、ブランシュ様が手を下す価値もございません。虐め?おかしなことを。公爵家の力をもってすれば男爵家なの一族ごと処理できます」

「じゃ、じゃあ誰がやったって言うんだ?」
 
「さぁ? そもそも高位貴族の御令嬢ならばそのような稚拙な虐めなどはなさいません」

「なっ?!」

「伯爵家以上ならば家の力で男爵家を潰す事は訳ありませんので」


 確かに。
 落ち着いて考えれば高位貴族なら男爵家程度の排除など容易くできる。公爵家なら片手間で済む問題だった。

 もしかして僕達はとんでもない事をしたんじゃ……。

 僕達はクロエの訴えで義姉を疑った。
 証拠は見つからなかった。
 それは義姉が巧妙に細工して証拠を残さなかったからだと思ったからだ。
 だから……だから義姉の罪が裁判で認められる必要があった。クロエを守るために。でも、そもそも前提条件が間違っていたとしたら?

 僕達は……僕は…………。

 「考え事は余所でなさってください」

 執事の冷たい言葉にハッとした。
 そして同時に「まずい」と感じた。
 
「し、仕方なかったんだ……命令で……そう、王太子殿下の命令だったんだ。僕だって本当はあんなことしたくなかったんだ……」

 そう、あれは命令だ。
 王族の命令。
 しかも王太子殿下が直接命じたも同然だった。
 僕はただ、その命令に従っただけだ。
 だから……だから僕は悪くない。


「さようですか」

 執事の目はどこまでも冷たい。
 僕の言い訳など取るに足らないと言わんばかりに。

 あ……。
 彼だけじゃない。
 他の皆も冷めきった目で僕を見ている。

 公爵家の子息として。
 この家の息子として今までにない冷ややかな視線にゾッとした。

 何か言わなければ。
 でも一体何を?
 言葉がでてこない。
 足がガクガク震える。
 息苦しい。
 胸の奥から酸っぱいものが込み上げてくるのと共に、自分自身の何かが壊れる音が聞こえた気がした。

「帰りはお気を付けください」

 慇懃な挨拶をしてくる執事の顔を見て理解した。…………終わったのだ、と。膝が崩れ落ちるのと同時に涙が流れ出た。そんな僕をまるで荷物を運ぶかのように使用人達の手で馬車に押し込まれた。

 バタン。
 公爵家の門が閉まる音が聞こえた。もう二度とこの屋敷には戻ってこれないのだと確信した瞬間だった。


 
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