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~第一章~
25.とある外交官side
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サビオ・パッツィーニ。
彼は『天才』だ。
数百年に一度の『神童』とさえ言われていた。
わずか五歳で既に最高学府を受験するだけの頭脳を持ち、その知識量も半端ではない。
王太子殿下が秘かに彼に劣等感を感じていたとしても不思議ではない。
実際に彼と比べられて、嫌な思いをしていたようだ。
あれは数年前。
彼がまだ六歳の子供だった頃。
王宮で行われた茶会。
そこに彼も来ていた。
茶会と言う名目の交流会。
王太子の側近候補を選ぶためのものだった。
最有力候補は、サバス・パッツィーニ。
そう、サビオ殿の兄上だ。
側近候補は王太子と歳の近い男児が選ばれる。『学友』となり共に切磋琢磨し合い、将来は側近として仕える事になる。
彼の兄は王太子より二歳下の九歳。
将来は筆頭魔術師としての頭角を現し始めていた。
また、同年代の中では群を抜いて優秀で、勉学でも剣術でもトップクラスの成績を修めていた。
もっとも、サビオ殿の方がずっと優秀だった。
『パッツィーニ侯爵家の次男、サビオ・パッツィーニと申します。以後お見知りおき下さいませ』
丁寧な挨拶をされ、誰もが好印象を抱いた。
礼儀正しく聡明で利発そうな男の子。
幼児とは思えないしっかりとした受け答えに、誰もが驚いたものだ。
天才と言われるだけの事はある。それが第一印象だった。
『僕はアルヴァーンだ!よろしく!』
サビオ殿を睨みながら握手を求める王太子。
とてもじゃないが、仲良くしたといった態度では無かった。
会場の注目が自分からサビオ殿に向いた事に苛立っているようだった。
サビオ殿は一瞬だけ不快そうにしたのだが、すぐに笑顔を浮かべて対応された。
『はい、よろしくお願いします。アルヴァーン様』
王太子の手を握り返す。
王太子は満足げに笑っていた。
サビオ殿は笑顔のままだったが、その目は笑っていなかった。
まるでゴミを見るかのような目だった。
誰も気付かなかったが、私は気付いた。
あの時の衝撃は今でも忘れられない。サビオ殿は、本当に賢く、そして何よりも聡い方なのだと実感した瞬間でもあった。
王太子が私情で彼を追放したのだと知った時、心底呆れた。
あれだけ尻拭いさせておいて、よくそんな事が出来たものだと怒りを通り越して感心してしまったほどだ。優秀なサビオ殿の才能に嫉妬していたのだろう。王太子がもう少し強かな性格なら、あんな事態には陥らなかったはずだ。
自分より遥かに優秀な側近。
王太子である事を理由に彼を下に見ていた。
そうする事でプライドを保っていたのだろう。
自信を高めるための努力を一切せずに、相手を無意識に否定し続ける。
周囲がそれに気付かない筈がなかった。
優秀だが王太子に軽んじられる存在は、徐々に周囲からも同じ対応をされるようになった。
結果、王女からの婚約破棄と国外追放の宣言だ。
周囲の大人たちが唖然としている間に、全てが終わっていた。あっという間だった。口を出すタイミングを逸していた。
事前の打ち合わせがされていた事は明らかだ。
こういう事には抜け目がない。
悪知恵が働くと言うべきだろうか。
彼がいなくなった事で仕事に支障が出た事を知り、国王陛下が慌てて「連れ戻せ」と命じてきたが、正直言ってもう遅いと思った。
国王の命令とはいえ、連れ戻すなど無理がある。
そもそも隣国に行った理由が理由だ。王太子と王女が勝手に国外追放の命令を出したからだ。
国王は、自分が許可を出した訳ではないので大丈夫だと言うが、そんな筈がないだろう。
あまりにも身勝手すぎる命令だ。
国王命令を出したとしても、彼が素直に従う訳がない。
むしろ、全力で逃げるだろう。
私なら逃げる。全速力で。
彼は『天才』だ。
数百年に一度の『神童』とさえ言われていた。
わずか五歳で既に最高学府を受験するだけの頭脳を持ち、その知識量も半端ではない。
王太子殿下が秘かに彼に劣等感を感じていたとしても不思議ではない。
実際に彼と比べられて、嫌な思いをしていたようだ。
あれは数年前。
彼がまだ六歳の子供だった頃。
王宮で行われた茶会。
そこに彼も来ていた。
茶会と言う名目の交流会。
王太子の側近候補を選ぶためのものだった。
最有力候補は、サバス・パッツィーニ。
そう、サビオ殿の兄上だ。
側近候補は王太子と歳の近い男児が選ばれる。『学友』となり共に切磋琢磨し合い、将来は側近として仕える事になる。
彼の兄は王太子より二歳下の九歳。
将来は筆頭魔術師としての頭角を現し始めていた。
また、同年代の中では群を抜いて優秀で、勉学でも剣術でもトップクラスの成績を修めていた。
もっとも、サビオ殿の方がずっと優秀だった。
『パッツィーニ侯爵家の次男、サビオ・パッツィーニと申します。以後お見知りおき下さいませ』
丁寧な挨拶をされ、誰もが好印象を抱いた。
礼儀正しく聡明で利発そうな男の子。
幼児とは思えないしっかりとした受け答えに、誰もが驚いたものだ。
天才と言われるだけの事はある。それが第一印象だった。
『僕はアルヴァーンだ!よろしく!』
サビオ殿を睨みながら握手を求める王太子。
とてもじゃないが、仲良くしたといった態度では無かった。
会場の注目が自分からサビオ殿に向いた事に苛立っているようだった。
サビオ殿は一瞬だけ不快そうにしたのだが、すぐに笑顔を浮かべて対応された。
『はい、よろしくお願いします。アルヴァーン様』
王太子の手を握り返す。
王太子は満足げに笑っていた。
サビオ殿は笑顔のままだったが、その目は笑っていなかった。
まるでゴミを見るかのような目だった。
誰も気付かなかったが、私は気付いた。
あの時の衝撃は今でも忘れられない。サビオ殿は、本当に賢く、そして何よりも聡い方なのだと実感した瞬間でもあった。
王太子が私情で彼を追放したのだと知った時、心底呆れた。
あれだけ尻拭いさせておいて、よくそんな事が出来たものだと怒りを通り越して感心してしまったほどだ。優秀なサビオ殿の才能に嫉妬していたのだろう。王太子がもう少し強かな性格なら、あんな事態には陥らなかったはずだ。
自分より遥かに優秀な側近。
王太子である事を理由に彼を下に見ていた。
そうする事でプライドを保っていたのだろう。
自信を高めるための努力を一切せずに、相手を無意識に否定し続ける。
周囲がそれに気付かない筈がなかった。
優秀だが王太子に軽んじられる存在は、徐々に周囲からも同じ対応をされるようになった。
結果、王女からの婚約破棄と国外追放の宣言だ。
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事前の打ち合わせがされていた事は明らかだ。
こういう事には抜け目がない。
悪知恵が働くと言うべきだろうか。
彼がいなくなった事で仕事に支障が出た事を知り、国王陛下が慌てて「連れ戻せ」と命じてきたが、正直言ってもう遅いと思った。
国王の命令とはいえ、連れ戻すなど無理がある。
そもそも隣国に行った理由が理由だ。王太子と王女が勝手に国外追放の命令を出したからだ。
国王は、自分が許可を出した訳ではないので大丈夫だと言うが、そんな筈がないだろう。
あまりにも身勝手すぎる命令だ。
国王命令を出したとしても、彼が素直に従う訳がない。
むしろ、全力で逃げるだろう。
私なら逃げる。全速力で。
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