悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

文字の大きさ
14 / 82
本編

14.商人の息子視点2

しおりを挟む
 婚約者に初めて会った時は父親同士が友人だという事で紹介された。
 
 男爵曰く「卒業後に顔のまったく知らない男性の元に嫁ぐのは不安だろう」とのこと。

 なら、普通に婚約者として紹介しろと言いたかった。
 こんな面倒な事をする必要はないからだ。
 
 そんな俺の疑問に答えたのが男爵夫人。
 俺の婚約者の母親で男爵の後妻。

「娘には私達夫婦のように愛し合った素晴らしい家庭を築いて欲しいの」

 頭が湧いているのか?
 そう思ったのは俺だけじゃない。
 この男爵夫妻以外は全員思った筈だ。
 特に嫡男の顔をみろ!
 絶対零度の微笑みが恐ろしい。
 
 因みに父さんは絶句して口を開けてアホ面を曝していた。有能な商人でもこのイカレタ夫婦には表面上だけでも取り繕えなかったようだ。

 この時点で婚約をなかったことにすればよかったのだが、残念ながらそれはできなかった。
 それというのも業務提携をしていたためだ。
 うちとしては新規参入の絶好の機会。
 これを逃す手はない。

「父さん、もしかして売られたのは俺の方か?」

 そう聞いてしまったのは仕方ないことだ。
 だってそうだろ?
 事業提携の契約はうちの店が有利だ。いや、有利なんて話じゃない。うちにとってメリットしかない内容だった。これは新手の詐欺か、はたまた裏取引なのかと疑ったっておかしくない。

 父さんの返答は―――

「結婚は多少の妥協が必要だ」

 ふざけんなよ、クソ親父!! 何が「多少の妥協が必要」だよ! てめぇ!
  
 俺はキレた。
 そりゃあもう
 ブチ切れたね。

 店の拡大のために一人息子を男爵家の生贄にしたと言っているのも同じだ。
 ふざけんじゃねぇーー!! 

 盛大に切れ散らかした俺だが男って言うのは美人に弱いどうしようもない生き物だと痛感させられた。
 何故なら、彼らが絶賛するだけあって婚約者は大変な美少女だったからだ。
 男爵家の娘といっても所詮は元愛人の娘。あの男爵夫人を見た後だったから美人は美人だろうが、そこまで期待していなかったのだ。
 なのに実物を見てみれば超が付くほどの美少女。
 しかも豊満な胸に細い腰回り。そして形の良いお尻ときている。

 初めて会った時にあまりの可愛さに思わず見惚れてしまった程である。
 言っておくが俺は断じてロリコンじゃない。彼女が可愛らし過ぎるのがいけないと思う。少女と大人の間の魅力っていうのか?そういう妙な色気まであった。
 これが世にいう一目惚れという奴だろうか? 確かに外見は文句なしに良い女だと思う。


 家族以外の男とはあまり交流がないようで、初めはおずおずとした受け答えしかしてこなかった。
 市井で暮らしていたわりには世間なれしていなかった。
 彼女は俺という存在に慣れてくると段々と饒舌になっていった。
 
 そこで分かった事がある。
 
 確かに、彼女とその母親は平民だ。市井で暮らしていた事も間違いなかった。
 ただし男爵領内でそこそこ小綺麗な館で使用人付きで暮らしていたらしい。
 つまり、貴族待遇だったという訳だ。
 どうりで擦れてない筈だと妙に納得した。

 正直なところエバは精神年齢が幼い。
 夢見がちなところが目立つし、話す内容も貧相だ。
 これでは商人の妻の役割は期待できないと思った。相手を楽しませる会話術ができない。なら婦人会などのサロンに出入りしてもらい上流階級の顧客獲得ができるかというと難しいだろう。知的な会話自体ができないのだから。
 それでも俺はこの結婚には前向きだった。
 何もできないエバだがそれを補ってあまりある可愛らしさだ。一緒にいると癒された。

 エバとなら幸せな家庭を築くことができるのではないか。そう思ったのだ。
 しかし、その淡い期待は打ち砕かれた。
 
 彼女がよりにもよって王太子殿下と一部の貴族子弟を誑かしたからだ。
 俺との結婚は当然ご破算。


しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄は喜んで

nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」 他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。 え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...