悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

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20年後

20.閑話2

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「やっぱり見た事がある」

「まだ言ってるんですか。そのうち思い出しますよ」

「いや、この絵のモデルじゃない」

「え?」

「絵の技法だ」

「……絵の技法がなにか?」

「この線の細い独特なタッチ……以前何処かで見た事がると思って……」

 でたよ。
 何処かで見た。
 そりゃあ、長く生きてれば何処かで見た覚えもあるでしょう。見た目は青年でも実年齢は結構なおじいちゃんだ。

「作品のクオリティの高さを考えますとプロの画家じゃありませんか?」

「それは解ってる!誰が描いたのかと聞いているんだ!!」

 いや、言ってないから。
 このじーさん、ボケが始まったのか?

「知りません」

「う~~ん……どこかで見たんだ」

 そこからまた悩みだした。
 あぁぁぁ、こうなると梃子てこでも動かない。
 どうしたものか。
 何時までもこの国に留まる訳にはいかない。
 一先ず、彼に気になる絵を持ち帰る方向で話を付けるしかない。

「あ!思い出した!一度見た事がある!そうか、そうか」

 あれこれと今後の事を考えていると、ビンチ殿が閃いたと言わんばかりに叫ぶ。どうやら漸く思い出したみたいだ。
 
「それで、誰なんですか?」

「これを描いたのはレオーナ・ランジェリオンだ!ランジェリオン公爵夫人!!」

 ……よりにもよってその女性か。
 どうしてそんな面倒な女性を引き当てたんだ!

「いやー、思い出してスッキリした」

 こっちはゲッソリですよ。
 むしろ思い出してほしくなかった。

「よし!思い出した事だし、会いに行こう!」

「ビンチ殿、一つ伺っても宜しいですか?」

「なんだ?」

「何処に行くつもりですか?そして誰に会いに行くんですか?」

「決まってるだろ!レオーナ・ランジェリオン公爵夫人だ!!彼女に会いに行くぞ!!!」

 やっぱり!
 分かってた。
 こうなる事は予想できた。

「さ!支度をして出発するぞ!!」

 さっきと打って変わって身支度を開始するビンチ殿には悪いがそれはできない。というか、かの公爵夫人と会う事は叶わない。無理な相談なのだ。

「無理です」

「何故?」

「レオーナ・ランジェリオン公爵夫人は既に故人です。会うこと自体が不可能です」

 そうなのだ。
 彼女は死んでいる。
 死んだ者に会う事は流石のビンチ殿でも無理というもの。
 それに今、あの国に行くのは止めた方がいい。特にランジェリオン公爵家には。嫌な噂が蔓延している。事実かどうかは別としてもし、万が一、ビンチ殿が介入すれば更にややこしい事になるのは目に見えている。
 
「そうか……死んだのか」

「はい」

「残念だ。あれは良い画家だったのに……」

 珍しく落ち込んでいる。
 まぁ、仕方がないか。

「ならば、尚更会いに行かねば!」

「はっ?!」

「ダンテ!出発の支度をしろ!」

「え?え?」

「ランジェリオン公爵夫人の墓参りに行くぞ!!!」


 え?
 えぇ~~~~っ!!?


 
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