悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

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20年後

21.公爵子息視点1

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 レオーナ・ランジェリオン公爵夫人。

 それが僕の母の名前だ。
 赤い髪に金の目をしたとても美しい人だったらしい。

 僕には母の記憶がない。
 母は僕を産んだ一年後に亡くなってしまったからだ。古参の使用人たちが教えてくれる生前の母の事しか僕は知らない。

 伯爵令嬢の母は他国の女性だ。
 この国から少し離れたロベール王国の出身で、芸術をこの上なく愛する人だったと皆が口を揃えて言う。現に、母が描いたとされる作品が離宮に飾られていた。素人目にも素晴らしいと思える絵画作品。貴族の令嬢ではなく女流画家だと言われた方がしっくりくる。

 実は、僕の国よりも周辺国の方が母を高く評価していた。

 作品の素晴らしさもそうだが、母の絵は何らかの謎かけをしている物が多く、愛好家の間では「彼女の作品は芸術の域を通り越している。まるで推理小説を読んでいるようだ」と言われていたほどだ。
 母の絵を愛する人は多い。
 あらゆる階級に人々が魅せられている。中には、大国の皇帝でさえ母の絵のファンだと聞く。母の絵を切望するあまり従兄との王女との縁談を許可したと噂されるほどだ。

 だから、その人物が母の墓参りをしたいと申し込まれた時もさほど驚きはしなかった。
 神殿関係者でかなりのお偉いさんだと聞いても「あ、またか」としか思わなかった。その人物が母の息子、つまり僕に会いたいと言われた時も「あ、やっぱり」としか感じなかった。
 だって、母の絵を好きになる人は母本人に会えない悲しみを僕に会う事で消化する傾向があったから。母と同じ赤い髪をみて「お母様と同じ色だね」と泣き出す人もいるくらいだし。
 そんなわけで、母の死から十三年経った今でも僕は母についてよく知っている方だと思う。母の絵の価値もよく理解していた。

 なのに……どうしてそんな目で僕を見るの?


 

 神殿の偉い人は僕を不愉快そうに見ている。

「なんだ。このチビ介は。私はレオーナ・ランジェリオン公爵夫人の息子を見たいと言ったのだ。を寄こせとは言っていない。をだせ!」

 え?
 紛い物?
 本物?
 この人は一体何を言っているんだ?
 僕はここにいるじゃないか。

 
「いえ、あの……」
 
「どうした?は今日のパーティーに来れないのか?なら日を改めて会えばいい。わざわざを用意する事もないだろう。そんなこと位で私は機嫌はそこねないぞ?」
 
「いえ……その、そちらの方はビンチ様がお望みのしたレオーナ・ランジェリオン公爵夫人の忘れ形見でございます」
 
「…………は?私をバカにしているのか?」
 
「いえ!決してそのようなことは!!」
 
「ならば何故、レオーナ・ランジェリオン公爵夫人のを目の前に連れてきたのだ!?」
 
「あ、赤い髪は公爵夫人によく似ていると……」
 
「はぁ?! バカか!どこが似ている髪だ!私はレオーナ・ランジェリオン公爵夫人に生前会っている!赤い髪というが、彼女は赤いバラのような髪だったぞ!このチビ介はなんだ?赤というよりはではないか!!」
 
「そ、それでもこの方はランジェリオン公爵子息でございます!子息のレミーオ様です!!」
 
「ふざけるなっ!!こんな茶番に付き合ってられるか!!!私は帰る!!!」
 
「ちょっ!待ってください!!」
 
「うるさい!!!離せっ!!」
 
「お願いします!話を聞いて下さい!」
 
「離さんか!!!」

 国の重鎮達が必死に引き留める中、神殿の偉い人が怒りながらパーティー会場を出て行った。後に残る僕達のことなど全く気にもしないで。

 会場中がざわめく。
 僕は父に促されるまで動けなかった。

 僕は母の子供ではないのか?

 
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