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20年後
24.公爵子息視点4
しおりを挟むその日、僕に珍しい客人が訪れた。
「なんだ、お前の事だ。てっきり泣いてふて寝しているのかと思ったぞ」
開口一番に失礼な事を言うのは従兄の王太子殿下だった。
「なんだ?髪を切ったのか。随分とばっさりと……」
そう、大泣きした次の日に僕は腰まであった長い髪を耳元まで短く切った。従兄が驚くのも無理ない。
「俺が似合ってないぞ、と言っても頑なに切らなかったのにな」
「母に似てもいない髪を伸ばしていても意味がないでしょう」
「それもそうだな」
あっさりと肯定する。
僕の気持ちなんてこの人には理解できないのだろうな。
「レミーオ、一言忠告しておいてやる」
「なんですか?」
「お前は自分で思っている以上に考えていることが顔にでやすい。気を付けろ」
「なっ!?」
本当に失礼だな!
人が密かに気にしている事を!!
「そうやって顔に出やすいのは母親似だな」
「え?」
「言っておくが、レオーナ様じゃない。お前の本当の母親の方が」
「……分かってます」
「驚いたな」
「なにがです?」
「お前、実母の事を知ったのか?」
「……家令が教えてくれました」
「はっ!だろうな!あの叔父上が自分の不利になるような事を喋る訳がない!家令に聴いたのは正解だ」
嘲るような従兄の様子に、そういえば彼は父を嫌っていたと思い出した。
子供の頃から従兄は僕と父に冷たい態度だった。よくよく思い出してみれば国王陛下にも辛辣な態度だった。伯父の国王陛下は僕に優しかった。だからこそ何故、従兄は伯父にあんな態度なのか当時は分からなかった。
「母を……御存知だったんですか?」
「本人には会った事はない。そんなに驚くな。当たり前だろう。俺を幾つだと思っているんだ。会っていたとしても物心つかない頃だ。記憶に残っている訳ないだろ」
「あ……」
従兄は今年で二十歳。
両親が結婚した時は二歳の幼児だ。
覚えている筈がない。
「レオーナ様の場合は諸外国の外交官の間ではちょっとした有名人だったからな。亡くなった今でも墓参りにくる者達は多いだろう?」
「はい」
「お前が、レオーナ様のファン達の言葉を真に受けて髪を伸ばし始めた時はどうしようかと思ったぞ」
「……すみません」
「いや、謝るな。お前に何一つ話していなかった叔父上たちが悪い。お前の顔は生みの母親に瓜二つだ。周囲が気付き始めた時にでも話しておくのが筋ってものだ。それを怠るから最悪の形で暴露されるんだ」
「あの……」
「なんだ?」
「神殿の方は……」
「ああ、帰ったぞ」
「そ、そうですか」
「怒っていたというよりは呆れ果てていたな。一目でお前がレオーナ様の子供じゃないと言い当てるとは流石は枢機卿だ」
え?
従兄は何て言った?
枢機卿?
あの青年が!?
「ははっ。驚くだろう。見た目と実年齢は全く違うそうだ。『祝福を受けし者』の中でも彼は特別さろうな。何百年と生きているらしい。そのお偉い枢機卿が我が国を去る前に忠告してきた」
「何をですか?」
「逃げるなら今だ、とな」
「は?」
「はははっ。言うに事を欠いて、この俺に『逃げろ』だと。冗談かと思ったが……あの様子では冗談で済まされないだろうな」
苦笑する従兄が何故か小さく見えた。
枢機卿は一体なにから逃げろと言ったんだ。
分からない。
だけど、とんでもない事が起ころうとしているのだけは理解できた。
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