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第一章

28.右筆妃3

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 皇宮の書庫への出入り。
 それが、まさかこれほどの威力があるなんて思ってもみなかった。

「この書庫事態が特別なんだよ」

 お茶をすすりながら呆れたように言う青に顔を向ける。

「でも、書庫よ。書庫に自由に出入りできるからってなんで『一番のお気に入り』になるの?」

 これが分からない。
 昼間は皇帝陛下と一緒に仕事をするけど、夜伽は皆無。陛下から宝飾品を貰った訳でもない。なのに「寵妃」扱い。疑問を口にしたら青から余計に呆れられてしまった。

「お前さ、この書庫の意味分かってるか?」

「意味? 書庫に意味なんてあるの?」

「マジかよ……。あのな、杏樹。この書庫が何処にあると思ってんだ。皇帝陛下の宮の敷地にある書庫だ。そんな所に誰が入る事が出来る?皇族でも入れない場所だぞ?」
 
「え……そうなの?」

「そ・う・な・の!」

「で、でも、ちょっと大げさ過ぎない?」

 青は私の顔をまじまじと見て溜息をつくとお茶を飲む。私にも飲む様にすすめる。素直に従って飲めば喉の奥まで熱さが広がった後、爽やかな香が鼻を抜けていった。何だろう?柑橘系の匂い。
 
「杏樹」

 改まった声で名を呼ばれて姿勢を正した。
 何を言われるのか不安になってくる。こんな風に真面目な声で名前を呼ばれた事は数えるほどしかないのだ。大抵ろくでもない事を言われてきた記憶ばかりなので自然と身構えてしまう。
 
「お前、自分の置かれている立場分かっているよな?」

 その質問は何度もされた。青だけでなく姉上からも。勿論、立場は分かっているつもりだ。なので青の質問の意図がよく分からなかった。無言のまま首を傾げるだけの私に青は小さく舌打ちをして続ける。
 
「まぁいいや。つまり、この建物に入れるのは陛下ただ一人なんだ。そして、ここは代々の皇帝達の為だけに用意された場所だ。『炎永王国の英知の結晶』と謳われている書庫だ。文官でさえも入る事は許されない。皇帝陛下の許しなくば、どんな立場の人間だろうと誰も入れない特別な場所。それをお前は陛下に許された。ここまで言えば俺が言いたい事くらい分かるだろう?」

「……うん」

「杏樹、大変なのはこれからだぞ。覚悟しておけ」

 青の言葉にただただ頷くしかなかった。

 皇帝に許可された書庫の書物はどれも貴重な品ばかり。
 珍しいものも多く、異国の蔵書も数多い。知らなかった事を知るのが面白かった。実家でも手に入らない書物の数々に目を輝かせて手あたり次第読みふけった。皇帝陛下の右筆係の仕事を終えると真っ先に向かうのはこの書庫。夢中で周りが見えていなかった事を実感した。陛下が何処まで予想していたのかは知らないけれど、青の言う通り私は今や「皇帝第一の寵妃」だった。


 
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