上手に生きたい。

平亜美

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中学時代②

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私は転入した時が人生で1番のモテ期だったかもしれない。

私は私立からの転入で制服がブレザーだったこともあり、フィルターがかかっていたのだろう。

私がいる教室には休み時間の度に学校中の男子が集まった。

ドアから覗けないからと肩車して教室の上の窓から見る人もいた。

だけどすぐにそれは終わる。


私は心が腐り始めていた。
人を信用したくなかった。

せっかく話しかけてくれた優しそうなクラスメイトも先輩も、私は振り払って学年一の不良の女の子とつるむようになった。


今考えると何がしたかったのかは分からない。
でももう良い子にするのは疲れたのだ。

空けたかったピアスを空けて、髪を染め、トイレでタバコを吸った。

悪口を言われたと耳にしたら何人相手でも先輩でも文句を言いに行った。

面白半分で教室の窓を割ったり、3階から校庭に使ったこともないコンドームをバラまいたりした。

すぐに私の机とイスは先生に没収され、指導室で寝てるか友達と悪いことをしているかになった。

もちろん帰宅部だし門限なんて関係ない。

好きな時間に学校に行って、親が寝た後に家に帰った。
近い他の中学の不良とも絡むようになり、万引きしたお酒をみんなで飲んだ。


それでもお母さんは欠かさずご飯を作ってくれたし、クラスメイトは毎朝私を起こしに家に来てくれた。

私から信じたら裏切られたのに、突き放した子達はみんな私を思って行動してくれた。

ここで気づくべきだったのに私は弱い自分を隠すために強がる生き方を覚えてしまった。

気づけば周りは不良だらけになり、後輩もできた。
中学3年だった。
私に歯向かう人はいなくなった。


その日も私はお昼から学校へ行き、部活もないので早々と帰宅していた。

私の住んでいた団地には小さな公園があった。
そこで同い年の男の子が一人でブランコに乗っていた。

その子は「げんちゃん」というあだ名で、いわゆる障害者学級の子だった。
同じ団地なのでもちろん知っていた。

でも私はこの子が話しているところを見たことがない。

学年の男の子に帰り道に馬鹿にされてたところを見たことがあったけど、げんちゃんは何も喋ってなかった。

クラスも離れているし、言葉が喋れない子なのだと思っていた。



「何してんの?」


自分でも分からないけど私はげんちゃんに話しかけていた。


げんちゃんは驚いたように私を見て、暫くしたら私を睨みつけ始めた。

何だか久しぶりに敵意を向けられて、私は笑ってしまった。

「なんで怒るのよ、一緒に遊ぼうよ」

そう言って隣のブランコに乗るとげんちゃんはまた驚いた顔をした後に今度は照れて下を向いた。

なんでかまったのかは分からない。
気まぐれだったと思う。

「一人なの?」

私が聞くとげんちゃんは「うん」とだけ呟いた。

「なんだ!話せるんじゃん!話してよ!」

そう言うとげんちゃんは照れくさそうにポツリ、ポツリと話し始めた。

「ここはね!いつも遊んでてね!」
「うんうん」
「後輩とかとも来るんだよ!」
「へー、知らなかった」
「砂場が好きなんだよ!」

その公園の入り口付近には砂場があった。

「砂場で遊ばないの?ブランコの気分なの?」

私が聞くとげんちゃんは少し黙ってから
「痛かったから」
とだけ呟いた。

何のことか分からなかったけど私は「ふーん」と言ってげんちゃんとブランコで1時間くらい話していた。


「やべ、友達と遊ぶ約束してんだわ!」

私は思い出してその場を後にした。
そしてその日も親が寝た深夜に帰る。

だけどその日はお母さんが起きて待っていた。
しばらく話もしてないから何があったのかと思った。


「亜美、あのね」

そしてお母さんがお菓子を持ってきた。

「げんちゃんのお母さんが家に来てね」

えっ、いじめたりしてないけど!と思い慌てたがお母さんは続ける

「いつもはね、お母さんと公園で遊んでるんだって。でもね、今日は一人で遊ぶって言うからげんちゃんのところのお母さん窓から心配で見てたんだって。そしたら砂場で遊んでるげんちゃんに石を投げてる子がいてね」

「私投げてないけど!」

「うん。それでね、げんちゃん悲しそうにブランコに行ったんだって。げんちゃんのお母さんが公園に行こうと思った時に亜美が来たんだって。またいじめられるかもってげんちゃんのお母さんが見てたら亜美がげんちゃんに普通に話しかけて笑いかけてくれて一緒に遊んでくれたって」

「え」

「こっそりいじめられたり、からかわれたりしてるのは何度も見てたけど、げんちゃん上手く話せないから障害者学級の子としか話さなくてね、普通の子と、ましてや女の子が話しかけて遊んでくれるのなんて初めて見たって。げんちゃん帰ってからも亜美と話したこと楽しそうに話してたって。生まれて初めて自分の息子が普通の男の子なんだと思えたって、ありがとうって泣きながらお菓子持ってきてくれたの」

「…そう。」

私が気まぐれでしたことをげんちゃんのお母さんはこっそり見ていて、泣きながらお菓子まで持ってきてくれた。
別に良い人になりたくてしたことでも何でもないのに。

「亜美がね、不良になったでしょ。だからそんなこと感謝してくれるなんて思わなかったってお母さん伝えたの。そしたらげんちゃんのママがね。“不良はいつか治るじゃない!うちの子は治らないのよ!亜美ちゃんは良い子よ、育て方が良かったのね、本当にありがとう”って…」

そう言いながらお母さんは泣き崩れた。


こんな暖かい気持ちになったのは初めてだった。
恥ずかしくて照れくさくて、でも嬉しくて、それと同時に申し訳なくて。

学校行かなきゃ。

私はそう思って夜遊びをやめた。

そこからは意外とうまくいくもので、不良の友達も誰も私を責めなかった。
みんな人に興味が無かったのだろう。
会える時会えればいいよというスタンスだった。

不良の子ともそれとなく仲良くしながらクラスの子達とも仲良くした。

毎日交代で誰かが一緒に学校行こう!と迎えに来てくれて、みんな私を受け入れてくれた。

勉強も教えてくれたし、元々好きだったアイドルの番組をみんなと見てキャーキャー言った。

先生に目をつけられていた私のこともクラスのみんなが庇ってくれた。
私は中学の友達と大人になっても仲良くすることになる。

合唱コンクールがあった。
柄じゃないけど練習も出た。

でも合唱コンクールの当日、会場に着いた私に学年の先生が近寄ってきてこう言った。


「お前なんで来てる?俺はお前みたいな奴を見ると虫唾が走る。俺の半径5メートル以内に次入ったら殺すからな」


みんなフィクションだと思うと思う。
でも本当に言われた。

でも言われても仕方がない、私は荒れていた時にこの先生にかなり迷惑をかけた。
転入したての時の担任の先生だった。

この先生は私を本当に嫌っていて、社会の先生だったが私のクラスだけ社会の先生が違う人だった。
大人しくなったから言えると思ったのだろう。


「うるせえな、卒業式楽しみにしてろよ。逆に殺してやるよ」

そう言い放ってしまった。
言われたら黙ってられない性格になってしまっていたんだと思う。

先生はそそくさと逃げていった。
後にこの先生は私に怯えて、卒業式の日に私に謝罪をしに来る。


合唱コンクールには障害者学級の子達の発表もある。
ベルを使って音楽を奏でるのだ。
もちろんげんちゃんもいる。

私はそのあまりにも綺麗な音と、頑張って発表しているげんちゃんの姿、そしてそれを見て笑顔を浮かべているげんちゃんのお母さんに心を打たれてしまい、元不良だったこともあり、照れくさくて会場を出たところでこっそりと泣いてしまっていた。

そこに学年一怖いと言われていた女の先生が来た。
サボってるのかと思ったみたいだが理由を話すと先生はとても優しい笑顔になった。

「ほんと不器用ね」

その先生と関わることはほとんど無かったが、卒業式の時に“とある優しい生徒がいた。みんなこの子のようになってほしい”と、この時泣いていたことを学年中にバラされることになる。


でも今思えばとてもいい中学校生活だった。

担任の先生にはクラスみんなで考えたプレゼントを送って、泣きながらみんなで写真を撮った。

私は都内の私立高校に合格していた。

そこまで偏差値が高いところでは無いが普通の高校に入学ができた。
私立なのはお母さんからのお願いだった。

きっとリベンジしたいという気持ちだったのだろう。
見栄もあるのかもしれない。

私は新たなスタートに心を踊らせていた。



だけど私はまた過ちを繰り返すことになる。
私はこの後、逮捕されるのだ。
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