【R18】「真実の愛を引き裂く悪役令嬢」と呼ばれているのに、一途な王太子殿下から執着溺愛されています!?

瀬月 ゆな

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反撃

偽物

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「え……」

 さもミーナが偽りの存在だとでも疑うようなアレクシスの言葉に、セレスティアナは目を瞬かせた。
「ミーナ様は聖女だと認定されたのではありませんか?」
「教会側が勝手にそう言って、王家に認めるよう要求しているだけだよ」

 この国では皆が四大精霊いずれかの加護を受け、魔力に精霊の色が現れる。魔力に乏しいセレスティアナは透き通るほど薄い水色だけれど、ウォルタスタン公爵家なら色濃い青といった具合だ。
 ただし例外があり、一つは直系の王族が持つ金の魔力、そしてもう一つは精霊王の末王女が持っていたという白金の魔力がそれに該当する。王女の魔力と同じものを持つ存在は一人としておらず、教会はその神聖さを語り継ぐ役割も担っていた。

「ですが正統な手続きによって、教会が判断を下されたと父から聞きました」
「あくまでも教会側の言い分だとそういうことになるね。市井への奉仕活動を熱心に行っている伯爵令嬢の魔力反応が通常とは違うと報告を受け、調査の結果、伝説上の聖女様と同じ性質のものと見受けられたが為に聖女と思われる――だったかな。その程度で教会側は王家を信用させられると考えているようだね」

 言葉の端々に苛立ちが滲んでいる。冷静に真実を見極めようとするアレクシスらしくなく、それだけ教会へ不信感を持っていると思わせた。

「アレク様は教会が虚偽の申告をしたとお考えなのですか?」

 声が震える。
 もし事実ならとんでもないことだ。教会とて、何の処罰もなしというわけにはいかないだろう。だけど、リスクを背負ってまで聖女の降臨を捏造したりするだろうか。そもそも王女の魔力を受け継いだ存在が聖女として現れるなど、誰も知らないことだった。この国に危機が訪れた時、救済の為に降臨すると言われているわけでもない。

「そうだね。ミーナ・アルテリアは聖女の素質を持っていない」
「ですが王家と対立したところで教会にメリットは」
「教会にメリットはなくても、アルテリア伯爵令嬢を唆す〝それなりの高位貴族〟にはあるんじゃないのかな」
「アレク様は……何かをご存じなのですか?」

 彼なりに確信があるからこそ、セレスティアナにだけとは言えそこまで断言できるのではないだろうか。完全に同じではないけれど、いちばん近い目線にセレスティアナを置いてくれている。その事実が嬉しかった。

「僕にも分からないことは、まだたくさんあるよ」

 アレクシスはわずかに肩をすくませた。

「でも、知らない部分が何なのかを炙り出す為に、アルテリア伯爵令嬢はできる限り泳がせて情報を引き出したい、そんなところかな。浅慮そうなあの令嬢が、どこまで重要なことを知らされているかは分からないけどね。泳がせたところで何も得られないことだって十分にありうる」
「聖女ではないとご存じの上で式典を開いて任命しては、王家の威光に影が差すのではありませんか?」

 式典の場を設けるということは、もしミーナが聖女ではなかったなら虚偽の報告を王家が真実として一度は受け入れたことになる。いずれ覆すとしても、早い段階で見抜けていたら良かったのではないか。そう囁かれることは想像に難くない。

「王家の失態として、影響は少なからずあると思うよ。でもそれで人心が離れたとしても、再び引き戻すだけの手立ても用意している」
「アレク様や国王陛下は、リスクを承知の上で式典を執り行うことをお決めになられたのですね」
「とは言え、成果もないのに泳がせるにも限度がある。期限は父上の即位二十周年の祝典までかな」
「あ、そういえば……」
「うん?」

 事実のはずがないと分かっていても、気分が良くなくて心の隅に追いやった重要な話をセレスティアナは慌てて引っぱり上げた。

「アレク様が式典に合わせてドレスをお贈りするお手紙をいただいたと、ミーナ様はお話ししていらっしゃいました」
「僕はドレスも手紙もティアナにしか送っていないよ」
「分かっておりますわ。ミーナ様はアレクシス様がお使いになられている蜜蝋が、特殊なものだとはご存じないようでしたから。アレク様からのお手紙だと思わせる為に、印璽の偽物を作られた方がいるのだと思います」
「そうか。重要な情報をありがとう、ティアナ」
「いえ……。もっと早くお伝えするべきでしたのに、お話しできずに申し訳ございません」

 個人のつまらない感情で大切なことを言えなかった罪悪感で、セレスティアナは弱々しい笑みを浮かべる。

「もしかして、ティアナがご機嫌斜めだったのはアルテリア伯爵令嬢にドレスを贈るかもしれないと嫉妬していたせい?」
「……はい」

 素直に認めるとアレクシスは眉を寄せた。
 やっぱり、嫉妬なんて醜い感情を抱いていたことに幻滅されてしまった。伏し目がちの瞳で俯くと顎を掬い上げられた。

「え……、っ、ん……」

 唇を塞がれて吐息がもれる。

「ふぁ……、ぁ」

 いつかと同じように口づけを交わしたまま、なし崩しにソファーに押し倒される。セレスティアナはアレクシスの胸を叩き、見上げた。

「我慢、なさっているって」
「そういう我慢は身体に悪いからしない。それに、ティアナが嫉妬をしたって可愛いことを言うからだよ」
「責任転嫁を、なさらないで下さい……」

 嫉妬は可愛い言動じゃないのに押し倒される理由に使われ、さすがにセレスティアナは不服を唱える。

「ティアナが嫌だって思うなら、我慢するけど」
「いじわる……」

 セレスティアナに言わせようとするのも、いじわるだ。
 アレクシスに触れたいと思うのは、きっと……肌を重ねたい。そういう意味なのに。

「いじわるかな? 僕はいつでもティアナを抱きたいと思ってるけど」
「それはあまりにもムードがありませんわ」
「難しいね」

 アレクシスは困ったように笑い、セレスティアナと額を合わせた。

「ティアナが愛おしいから抱きたい。この理由じゃだめかな?」
「……だめじゃないです」

 セレスティアナが頬を染め、消え入りそうな声で答えると再び唇が重なった。

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